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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「コール・ジェーン ‐女性たちの秘密の電話‐ 」


重い題材の中絶を主軸に据えながら、これだけ明るくバイタリティーのある作品に仕上げた事に、喝采したくなる作品。監督はフィリス・ナジー。実話が元の作品です。

1968年のシカゴ。弁護士のウィル(クリス・メッシーナ)を夫とする裕福な専業主婦のジョイ(エリザベス・バンクス)。15歳の娘がおり、ただいま二人目を妊娠中。しかしこの妊娠のせいで、心臓の持病が悪化。中絶を申し出るも、時代は中絶禁止の時。病院の責任者は全員男性で、ジョイの申し出を却下します。途方にくれたジョイですが、バスの停留所の貼り紙に記されていた「妊娠で困っていたら、電話して。コール・ジェーン」が目に留まり、意を決して電話します。そこにはバージニア(シガ二―・ウィーバー)をリーダーとする、五人の女性たちがいました。

アメリカでは女性の身元不明遺体を、「ジェーン・ドゥ」と表現するので、「コール・ジェーン」の「ジェーン」は、特定できない女性を、表現する時に使われる名前なのかも。日本でいうと花子かな?全ての女性に向けての意味があるのでしょう。

私がこの作品に期待したのは、妊娠を継続すれば自分の命に関わるので、中絶を決意した女性が主人公な事。兼がね同じ立場の妊婦が、「自分の命は要らないので、子供を助けて!」式が美談に語られることを、苦々しく思っていました。いやいや、それで子供産んで自分が死んでいたら、誰が子供を育てるのか?それこそ無責任というもんです。自分が産むわけでもなく、妻でも娘でもないジョイの命を、どうしてこのオッサンたちが決めるのか?

女性にとって心身に思い傷痕を残す中絶。女性たちが恐怖や罪悪感で恐れおののく様子。手術の後の深い哀しみも描いています。「ジェーン」の女性たちは、限りある財源や時間の為、中絶する女性たちを選別しますが、これが喧々諤々、なかなか意見がまとまらない。彼女たちも中絶経験者です。貧しい黒人を優先しろという黒人女性や、レイプされた15歳だと!と譲らぬ人も。みんな自分の過去に、痛ましい傷を抱えているのが透けてみえる。中絶といっても、一言では語れぬ事情があるという事です。

人たらしのバージニアの目に留まり、強引に仲間に入れられたジョイ。しかし、「ジェーン」で女性たちの支援をしていくうちに、裕福で明朗な専業主婦だった彼女は、目を見張る変貌を遂げます。冒頭、ベトナム戦争反対のデモを繰り広げる広場を目前に、ガラスの扉一枚の中に「押し込められた」パーティー会場の、ゴージャスで美しいジョイが描かれていました。中絶したことで、見えなかった、知らなかった世界を見つめる事で、女性としての尊厳に目覚めたのだと思います。

まぁ猪突猛進過ぎて、聊か引いてしまうのですが(笑)。それでも、一人でも多くの中絶したい女性たちを救いたい、ジョイの熱い思いに、グイグイのど輪をかまされ、すっかり彼女に情が移ってしまいました。それはバージニアも同じだったみたい。

そのバージニアを演じるウィーバーですが、作中で、息子くらいの年の男性に色仕掛けで値段交渉する場面があるんですが、全然違和感ないの。今年75歳ですよ。「美老女」界隈は、お洒落でチャーミングなダイアン・キートンと、姉御肌で気風の良いヘレン・ミレンが二大巨頭ですが、クレバーでハンサムなウィーバーが、彗星の如く現れたって感じです。このシーンは無くても成立するので、もしかしたら女性の値打ちは、若だけではないと表現したかったのかしら?

妻・親友の変貌に、それぞれ戸惑う夫と、ジョイの親友ラナ(ケイト・マーラ)の心の交差も慈愛深い。特にラナは早くに夫と死別しており、自分が求めても得られない「良妻賢母」から、脱皮しようとするジョイの気持ちが理解出来ないのですね。大切な人であるジョイの成長に、付いて行けない二人。しかし、理解したいと思っているのも感じました。脚本も監督。この辺の肌理の細かさは、さすが「キャロル」の脚本家さんだなと思いました。


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03月24日(日)
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