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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「コーダ あいのうた」


オスカー作品賞受賞と言う事で、遅まきながら観てきました。うん、如何にもアメリカ映画が好きな、ユーモアと温かい人間愛に溢れた良い作品でした。文句はないです、一点を除けば。監督・脚色はシアン・ヘダー。父親のフランク役、トロイ・コッツァーも助演男優賞、脚色賞を受賞しています。

マサチューセッツ州の港町に家族と暮らす高校生のルビー(エミリア・ジョーンズ)。父フランク、母ジャッキー(マーリー・マトリン)、兄レオ(フランク・マイルズ)は三人とも聾啞者で、ルビーが漁の仕事や社会生活の通訳を一手に引き受けています。家族のためだと割り切っていたルビーですが、高校の単位でコーラスを選び、歌唱の才能を音楽教師ベルナド(エウヘニオ・デルベス)に見込まれた事から、新たな未来が開けていきます。

「コーダ」とは、聾唖の家庭に生まれた健聴の子供を指す言葉で、観る前は主人公の名前だと思っていました。冒頭父、兄、ルビーで漁を取る場面は活気に溢れて、家族仲も良い様子が描かれています。しかしその実、ルビーは三時起きで漁に駆り出され、その後に学校に行くので、授業中は爆睡。放課後は両親の病院に付き添うので、つぶれてしまう。とても青春を謳歌しているとは、言い難い。その健気さは昨今日本でも取り沙汰されているヤングケアラーで、観ていてとても切なくなります。

ルビーを救ったのは、歌。元々歌が好きだった事もありますが、気になる同級生のマイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)が、合唱のクラスを取った事もあり、ルビーも選ぶ。そこで彼女にとって運命の人、教師のベルナド(エウヘニオ・デルベス)に出合います。ルビーに才能を感じたベルナドは、彼女に名門校バークリーを受験するように勧め、個人レッスンも申し出てくれます。

今まで家族のために生きる事が当たり前だったルビーに、やっと自分だけの希望が訪れます。「バークリーは知っているか?」と問うベルナドに、「名前くらいは」と答えるルビー。「そうだろう、メキシコで育った僕だって入学したんだから」と言うベルナド。知っているも何も、日本のその辺に転がっているオバサンの私だって、知っている有名校です。

私はこの先生が大好き。バークリーに入学したのなら、演奏家として身を立てたかったんじゃないかな?それが自分の才能に限界を感じたのか、今は音楽教師。少々変わり者だけど、生徒たちへの情熱的な指導は、都落ちかもしれない今の境遇でも屈する事のない、音楽への情熱を感じます。そして自分の時間を削り、受験のためルビーやマイルズに指導する姿は、理想的な教師そのもの。ベルナド先生とルビーの出会いは偶然だけど、ルビーの今までの人生の頑張りが、彼に引き合わせた必然なんだと感じます。

もう一人好きなキャラが、兄のレオ。両親が何かにつけてルビーを頼るのを、戒めます。両親と同じく聾唖のレオは、この家庭から逃れられないと理解している。だから、健聴の妹は自分の可能性を見出して、ここから旅立たせてやりたいのです。「バカ娘」とからかいながら、随所に妹への愛情が溢れるレオにも、とても心打たれました。踏ん切りがつかないルビーに、「お前が生れるまで、平和だった」と告げるのは、お前がいなくても大丈夫だ、との意味ですね。

さて文句ですが、両親の造形があまりに破天荒過ぎです。仕事や社会生活で、健聴のルビーを頼るのは仕方ないです。「本当は音痴なんじゃないのか?」と訝しむのも、実際にルビーの歌声を聞けないのだから、許容範囲(本当は素直に喜ぶのがベスト)。当たり前のように、娘は自分たち世話して当たり前と考えていることに、憤慨しました。親の矜持に障害のあるなしは関係ありません。一生家族に括り付けるの?

放課後ルビーが帰宅する時間と判っているのに、病気で禁じられてもいるセックスをするか?私的に無理だわ。親としての品格が無さ過ぎる。それからの展開に繋げるためなのは判りますが、私は全然笑えなかった。


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04月09日(土)
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