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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ナイトメア・アリー」

大好きなデル・トロが監督で、オスカーの作品賞候補。見世物小屋が背景で、面子がこの四人。期待しない方が無理ってものです。う〜ん、期待が大きすぎたかなぁ、楽しめはしましたが、めでたさも中くらいでした。監督はギレルモ・デル・トロ。
1939年のアメリカ。故郷を捨てたスタン(ブラッドリー・クーパー)は、クレム(ウィレム・デフォー)率いる、怪しげな見世物小屋に雇われます。読心術を操るピート(デヴィッド・ストラザーン)とジーン(トニ・コレット)夫妻の下で、助手となります。やがて電流ショーをしていたモリー(ルーニー・マーラ)と恋仲になり、一座から抜けた二人は、ホテルで読心術のショーを演じて好評を博していました。そこへ心理学者のリリス(ケイト・ブランシェット)が現れます。
異形の人たちをこよなく愛するデル・トロですもの、どんなに魅惑的な見世物小屋だろうとワクワクしていました。レイティングの加減もあるのでしょうが、これが平凡。確かに美術は凝っていました。しかし、観客の俗っぽい好奇心を煽りながら、異形の人たちに心からの共感や理解を寄せる、慈愛に満ちたいつものデル・トロはありませんでした。これが一番の減点ポイントです。
この作品はタイロン・パワー主演の「悪魔の往く道」のリメイク。「獣人=ギーク」と呼ばれる人が見世物に出てきます。どこから観ても普通の男性ですが、泥だらけで服も着ていません。そして絶望的な顔をして、生きた鶏の首をへし折り生き血を吸います。このギークが、最後まで重要なファクターとして存在します。
監督が力を入れていたのは、スタンと言う男の生き様を描くドラマ部分。ここは、そこそこ成功していました。スタンと亡き父親には理由は描かれませんが、確執がありました。スタンは当初、一切アルコールを口にしませんが、もしかしたら、アルコールが原因で父は身を持ち崩したのかも。
スタンに読心術を教えるピートも、アルコール依存です。彼はジーンを相棒に、ホテルのショーで盛況を収めるも、人の心を操る事で、神にでもなった気がする恐ろしさに身がすくみ、見世物小屋に流れてきました。アルコール依存は、その時の恐ろしさから逃避する手段だったのかと、想像しました。
何故恐ろしいのか?それはピートに良心があったからだと思う。読心術は表情やしぐさから相手の心を読み取りますが、そこには相手の答えを引き出す手練手管があります。しかし相手はそれを知らず、霊能者と崇めてしまう。切羽詰まった藁をも縋りたい人にそれを施せば、金儲けは出来るが、詐欺になります。ピートはそれが出来なかったのですね。親子ほども違う年齢のジーンが、酒浸りの夫を甲斐甲斐しく世話するのは、夫の善良さ故と理解しているからだと思います。
ショーマンとして成功するスタン。自信に満ち溢れている。「あなたは華があるわ」とジーンが言った通りです。しかし、ピートが持つ善き心を持たぬスタンに、モリーは段々と神経が疲弊します。そこにリリスが登場します。
しかしこのリリスがなぁ。心理学の博士である彼女は、「金には興味がない」と言う。なら、スタンをそそのかすのは、何のため?思わせぶりな傷を見せ、エズラ(リチャード・ジェンキンス)に復讐したかったから?その割にはお金に執着しているように感じるし、登場場面が多い割には、描き込みが足りず個々の内が見えないのが、痛恨でした。これはミステリアスではなく、ミステイクだと思う。
ただねー、リリスを演じるブランシェットが、とにかく魅力的なんだなぁ。大きくカールしたブロンド、深紅の口紅と、元々クラシックな世界観が似合う人ですが、むせ返る様な色香なのです。もう50を幾つも過ぎているのが、信じられない。そりゃ酒断ちしていたスタンも、彼女に勧められれば、飲んでしまうでしょうて。お酒を口にした時が、スタンの地獄行きのサインだったと思います。本物の心理士にかかれば、詐欺師まがいの読心術士など、赤子の手をひねるようなものです。
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03月29日(火)
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