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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(Netlix)


本年度オスカーの大本命作。昨年限定公開していましたが、間に合わず、オスカー発表前に、ギリギリで配信で鑑賞しました。心理戦が盛りだくさんの、面白いサスペンスだったと、鑑賞後はそれだけ思いましたが、一日経つととにかく自分なりに考察したくて、堪らなくまりました。なので今回は大ネタバレ大会です。監督はジェーン・カンピオン。

1925年のアメリカのモンタナ。牧場を経営しているフィル(ベネディクト・カンバーバッチ)とジョージ(ジェシー・プレスモン)兄弟。仕事のため、牧童たちを連れて、ローズ(キルスティン・ダンスト)が営むレストラン兼宿屋に泊まります。ローズは未亡人で、一人息子のピーター(コディ・スミット=マクフィー)と二人暮らし。これが縁で、ジョージとローズは結ばれ、ローズはモンタナの牧場まで嫁ぎます。しかしローズを認めないフィルは、彼女に嫌がらせばかり。追い詰められたローズの元に、ピーターが夏休みで帰省してきます。

とにかく徹頭徹尾、不穏な空気と緊張感に包まれ、あのセリフこの演出、全てが思わせぶりで頭に残ります。冒頭、ピーターの独白で「父が死んだあと、僕は母の幸せだけを願った」と流れます。ここから既に違和感が。このセリフは、母親が息子に向けて言うセリフです。そこには、ただ母親思い以上の何かを感じます。

大きなお屋敷に住むのに、フィルとジョージは同じ部屋で寝ます。大の大人がこれも何なの?予備知識は極力シャットダウンして臨みましたが、フィルがゲイであるのは、何となく想像がつきました。でも弟とはそういう関係はないでしょうし、これは弟への束縛と依存を示していたと思います。

ピーターは今で言うフェミニン男子。彼が作った美しい造花を、バカにして燃やしてしまうフィル。フィルの率いるカウボーイのホモソーシャルは、彼を投影しているのか、ミソジニーでもあります。辱めを受けて涙するピーター。

ジョージは地味ですが温厚で、牧場の経営面を一手に引き受けています。パっとしない容姿に引け目もあったでしょう。美しいけれど所帯やつれをした、子持ちの未亡人のローズは、気後れせずに付き合えたのでしょう。ローズも子供の学費や、これからの人生を一人で生きるのは心もとなく、女気がなく婚期を逸したジョージなら、自分と釣り合うと考えたのかも。しかし理由はどうあれ、お互い誠実に向き合う姿は微笑ましく、私は良い夫婦になると思えました。それを描いていた、モンタナへの二人の道行は、この作品で唯一心が和む風景です。

しかし、ローズを義妹とは認めず、憎悪を露にするフィル。彼女が客に披露するため、「ラデツキー行進曲」を懸命に練習するも、上手く行かない。そこへ無言で軽々バンジョーで弾いてみせるフィル。重圧と焦りで我を無くすローズが、とても痛々しい。この辺り、本当にフィルは嫌な野郎で、彼がローズを憎悪する以上に、私がフィルを憎悪しましたよ、全く。

市長夫婦や両親の前で、ローズに恥をかかすフィル。それ以上に、息子であるフィルに会っても、あまり嬉しそうではない兄弟の親が不思議です。そしてエール大学出身だと言うフィルは、その優秀さとかけ離れた日常を送っており、何かかが彼をそうさしていると感じます。

やがて夏休みが来て、高校に通うピーターがローズの元へ。その頃には、フィルに追い詰められたローズは、アルコール依存になっていました。中世的な匂いを漂わすピーターを、相変わらず侮蔑しながら冷やかすフィルや牧童たち。ローズの慰めにと、野兎を捕まえ、母に渡すピーターでしたが、彼はその兎を解剖してしまいます。

えっ?ちょっと待って。ローズのために捕まえたんだよね?いくら医者志望だからって、その兎を解剖するか?そしてローズも「家で解剖しては駄目」って、外では良いのか?そういう問題か?あまりびっくりしていない母の様子に、これは以前にもあったのだと思いました。もしかして、ピーターはサイコパス気質を持っているのかと感じます。


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03月17日(木)
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