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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「罪の声」

とても良かった、素晴らしい!サスペンスだと思い鑑賞しましたが、観終わった後の感想は、時空を超えて、普遍的な人の良心を描いた、秀逸な人間ドラマでした。監督は土井祐泰。
大日新聞記者の阿久津(小栗旬)。東京での社会部記者から故郷の大阪に戻り、今は文化部の記者です。35年前の未解決の「ギン萬事件」を追う特別班に選ばれ、事件の概要を洗いなおしていました。一方、京都でテーラーを営む曽根(星野源)は、妻(市川実日子)と保育園児の娘と平穏で幸せな家庭を営んでいます。しかしある日、自分が「ギン萬事件」の脅迫テープに使われたのが、幼い頃の自分の声だったと知り、愕然。曽根もまた、過去に遡り、何故自分の声が使われたのか、事件を追います。
作品の組み立てが先ず上手い。阿久津と曽根、それぞれが聞き込みに回り、回想シーンも盛沢山にあります。二重に聞き込む場合もあり、登場人物は膨大です。そこでちょっとだけの配役も、名の知れた顔の売れた俳優を起用。適材適所の起用がズバズバはまり、全く混乱することなく作品についていけます。関西で起こった事件なので、関西出身の俳優を大量に起用。あの顔この顔懐かしく、お元気で何よりと観客に思わせる、作り手の敬意が嬉しい。特に桜木健一が柔道の師範役なのは、思わず顔がほころんでしまいました。
この作品は、実際にあったグリコ森永事件がモチーフ。キツネ目の男の登場など、上手く作品に生かしています。フィクションの犯人の造形が秀逸。確かにこれでは思惑が違いすぎ、仲違いも致し方なし。澱みなく進む展開に、本当にこれが真実ではないかと、錯覚しそうでした。
映画のメッセージは、事件の真犯人を暴く事ではなく、事件に翻弄された子供たちの、その後の人生を描く事でした。脅迫テープは、他に中学生の少女と小学生の弟の声が使われていました。曽根は阿久津に協力する代わり、その二人を探して欲しいと頼みます。自分と同じく、知らぬ間に犯罪に巻き込まれた二人のその後を、気遣っての事です。
探し出した弟の惣一郎(宇野祥平)の人生は、悲惨でした。今まで何も知らず、平穏に幸せに暮らしてきた自分との落差に、曽根は罪悪感に苛まれます。阿久津は「曽根さんの幸せは、あなたが頑張って掴み取ってきたものです」と励ましますが、それだけでしょうか?当時の環境、周りに居た大人の違いなど、当人の努力だけでは、どうにもならない事があります。惣一郎の姉で、やはり声を使われた望は、事件発覚当初、「私はこんな事で、自分の夢をあきらめたないねん!」と、心の底から叫びます。
私はこの作品を観るまで、ジャーナリズムとは、社会正義だとアバウトに思っていました。それだけじゃないのですね。望のような弱い立場、環境に翻弄される人に心を寄せ、夢を捨てさせない、それがジャーナリズムじゃないのかしら?事件を追い真相を究明するのは、何故この事件が起こったか、どうすれば防げるのかを紐解くためで、決して他人の下半身を追うのが仕事じゃないはず。
ジャーナリズムが希望を捨てさせないのが仕事なら、その希望を叶えるのが政治家じゃないのか?と思いました。この作品に出てくる元学生運動の活動家。彼は「化石」と称されます。学生運動の大物である重信房子が逮捕された時、不敵な笑顔を報道陣に向け、拳を振り上げる姿を、私は苦々しく痛々しく感じました。それは彼女の主義主張のため、多くの罪のない人々を傷つけてきた事を知っていたからです。そして時代は移り変わっているのに、それを見ようとしない。「化石」と表現されて、腑に落ちました。
その眼差しを、筆に変えて訴えていたら、と思いました。そしてジャーナリズム→社会正義とは、暴走する権力に対し、筆で対抗する抑止力なんだと、思い至りました。
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11月15日(日)
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