ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927270hit]

■「82年生まれ、キム・ジヨン」


韓国でベストセラーになった作品の映画化。私のような姑世代から現在の若いお嫁さんたち迄を網羅して、女性たちの悲哀の数々を、慈しみを持って描いています。キム・ジヨンとは、1982年生まれの韓国の女の子で、一番たくさん付けられた名前。何故このタイトルになったのか、私が思い至った時、暖かい感情が胸いっぱいに広がりました。監督はキム・ドヨン。

ソウルに住む主婦のキム・ジヨン(チョン・ユミ)。娘が生まれ現在は専業主婦。多忙な毎日に忙殺され、時々他人が憑依したような言動を取り、夫のデヒョン(コン・ユ)を困惑させます。ドヨンがその時の記憶を無くしていることもあり、心配したデヒョンは妻に内緒で、精神科医の元を訪れます。

とにかく老若の女性たちがたくさん出てきますが、どの立場に居る人も、とにかく葛藤が絶えません。私が感嘆したのは、その描き方のリアリティと繊細さです。

ジヨンの日常は、子育てと家事に忙殺され、優秀な社会人であった彼女は、その能力を家庭以外には発揮できません。娘を愛しているのとは、別の次元で有る事なのは、懸命に子育てする彼女から滲み出ている。夫は家庭を持ち子が出来ても、いつまでもパリッとスマートな様子なのに、美しかった妻は所帯やつれし、いつも同じようなスウェット姿。ジヨンが悪いのか?しょっちゅう子供を抱きあやし、飲み物を溢し散らかった家を片付け、外出時にも場所探ししておむつを替える。子育ては、特に乳幼児期は格闘です。この作品でも、年配女性にお洒落しろと窘めまれますが、自分だってそうだったはず。どうして労ってやれないのか?

ジヨンの元の会社には、鉄の女と呼ばれる女性主任がいました。彼女は子供を産んで一か月で仕事復帰。実母に同居して貰って子育てをしています。しかし傍の男性たちは、彼女の夫を「姑との同居を我慢して、妻に仕事をさせるのを許して偉い」と誉めそやす。産後の身体を厭う暇もなく家庭と仕事を両立させている彼女を、誰も褒めないのです。見過ごしてしまうような日常の中、女性たちは冷たい風にさらされています。主任は好きで「鉄の女」になったのでは、ありません。

それぞれのジヨンの周囲の女性たちの描き方も秀逸。子供の頃から男尊女卑の韓国の価値観を嫌うジヨンの姉は、教師の職を得て独身。仲の良かった同僚は、今も独身で有るのが決め手で、昇進。会社のトイレに盗撮器が見つかり、それは警備員が取り付けたものでしたが、これだけでも言語道断ですが、それを男性社員数人が知っているのに、回して観ていたとは、茫然としました。表向きは男性の育休もあり、昔から格段に整備されている女性の立場ですが、実情が伴っていないのは、どの国も変わらないのです。

私が一番心を寄せたのは、ジヨンの母です。五人兄弟で一番勉強が出来たのに、弟たちを大学に行かせるため、進学せず工員として働き、結婚しては口煩い姑、古い価値で当たり前の夫に仕え、家庭には味方はいなかったでしょう。しかしジヨンの弟を産み(ここ最大ポイント)、脱サラして食堂を開いた夫と共に店を盛り立て、今では昔のままの価値観の夫に怒る事も出来るようになっています。立場も境遇も違うのに、私と同じなのです。私は結婚して38年、ジヨンの母程ではないにしろ、それなりの苦労も乗り越え、対等になったのは、結婚30年くらいから。それでもうちの夫も、ジヨンの父のように、今でもぼんくら発言が多々あります。本当にどうしてなんだろうか?男なんてそんなもの、と諦める人も多いでしょうが、うちにも息子が三人、見習われると困る。見過ごせないので、私もジヨンの母と同じく、戦い中です。

何故タイトルが「キム・ジヨン」なのか?ジヨンは現在の韓国社会では、恵まれている方だと思います。エリートらしき夫は、妻の言動に憂い哀しみ、俺のせいなのか?と自分を責めます。自分の実家から妻を庇い、何とか元の妻に戻って貰うよう、奮闘します。息子ばかりの夫の姉は、ジヨンの娘を可愛がり、「私たちの配慮が足らなかった」と、弟に謝罪。


[5]続きを読む

10月14日(水)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る