ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927298hit]
■「火口のふたり」

すごく良かった、素晴らしい!観る前はもっとドロドロしたお話だと思っていましたが、良い意味で裏切られました。肌の合う男女の性を通じて、普遍的な男女の情愛を描いた秀作。監督・脚本は荒井晴彦。今回ネタバレです。
東京に住む賢治(柄本祐)は、故郷秋田の父親から、従妹の直子(瀧内公美)の結婚式があるので、帰って来いと連絡があります。実は数年前、二人は男女の関係でした。久しぶりに会う賢治に、直子は「今日一日だけ、あの日に戻ってみない?」と、賢治を誘います。
冒頭は、以前関係があった男女とは、微塵も感じさせない、仲の良い従兄妹同士の二人が描かれます。取り留めなく、遠慮のない会話は、以降ずっと続きます。何気ない会話から、次第に二人の過去の様子、当時や今の心模様が浮かぶ描き方が秀逸です。
直子が母を子供の頃に亡くしたため、普通の従兄妹より距離が近かった二人。
東京に就職した賢治を追って、直子も東京の保育士専門学校に通います。
若かりし頃の二年くらいでしょうか?きっと濃密な関係だったと思います。「私の体のこと、思い出さなかった?」と聞く直子に、「ない」と答える賢治ですが、後々の展開を鑑みると、これは真っ赤な噓。自分の傍に来ない賢治に、おいでと言う代わりに、ソファを叩きまくる直子。あー、気持ちがわかるなぁ。賢治が意気地なしに思えたのでしょう。たくさんセックスシーンは出てきますが、直子は終始とても攻撃的でした。「抱かれる」という感じはせず、対等でした。
直子を「怖れて」いたはずの賢治。一度関係が復活すると、箍が外れてしまい、結婚式までの五日間、二人は昔に戻って暮らします。セックスシーンのあれこれですが、煽情的な描き方もあれば、ユーモラスだったり不恰好なもの、果ては変態的なものまで多種多様。これはリアルでした。だってAVみたいな事ばっかり、やってませんて。同じ相手と始終セックスしていて、いつも同じなんて事、ないもん。あれこれやるから、続くんですよ。思わずこのシチュエーションは、身に覚えがあるなぁと思ったり。いやいや、バスと路地裏の事ではございません(笑)。
と言うか、あれこれやれる相手だから、続くとも言える。例えば変態的な行為も、片方が望んでも片方が嫌なら出来ない。私は変態には寛容で、その人たちが良ければ、警察に捕まる行為、暴力的な行為以外は、何でもいいと思っています。あー、でもうっかり見せられたら、迷惑ですね。男女の肌が合うというのは、単に快感だけじゃないんだなぁと目から鱗でした。そして「あれこれする」には、信頼関係が絶対です。
じゃあ、この二人は、セックスだけの結びつきなのか?と言うと、然に非ず。
直子が酷い下痢になった時、賢治は甲斐甲斐しく看病します。「北野さん(婚約者)には、看病して貰えない。恥ずかしいから。」あー、これも凄くわかる。私も下痢になって看病して貰える男性は、夫だけです(息子は別枠)。結婚していたって、これは当分は難しいよ。恥ずかしくって言えません。このシーンを観た時、私には改めて夫は特別な「男性」なのだと感じました。普段は夫なのか子供なのか、もうわからないもん。
年季の入った夫婦でもないのに、そんな事が言えるのは、直子はその理由を、従兄妹だから解り合えるのだと言います。そうなのか?そうなんでしょう。でも、その従兄妹だという事が、二人の間に深くて暗い影を落としている。
直子は賢治に「捨てられた」と言い、賢治は「そうじゃない」と強く反論します。恋愛の先には結婚がある。その先には子供。二人はお互いに溺れながら、血が濃い事に対して、子供を得る事に強く不安があったのでしょう。最初結ばれた時から、何時かは直子との関係は終るのだと思っていたと吐露する賢治。その辛い思いこそ、彼も直子を愛していた証拠ではないかしら?
[5]続きを読む
09月15日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る