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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「焼肉ドラゴン」


監督は在日からは非難囂々の映画「血と骨 感想1」「血と骨 感想2」の脚本を書いた、鄭義信。「血と骨」は、親族・在日の知人で、マジな話、褒めた人がいない作品でした。私なんか腹立ち紛れに、罵詈雑言の感想を前後編で書いたくらい。しかし今回鄭義信はメガホンも取り、それをチャラにして倍に返してくれたような出来です。作品の完成度云々ではなく、ハートで観る作品。今回は日本の方にわかり辛い部分もあるでしょうし、解釈&感想のネタバレです。長文になると思うので、読んでいただく方は、好きな所だけお読み下さい(笑)。

大阪万博開催が程近い、兵庫県の伊丹市。その路地裏の一角に、韓国人一世夫婦の営む焼肉屋「焼肉ドラゴン」がありました。父龍吉(キム・サンホ)は、第二次大戦で日本兵として出征。片腕腕を失っています。再婚同士の妻英順(イ・ジョンウン)は、寡黙な夫に対して、常に声を張り上げる喜怒哀楽の激しい性格ながら、根は善良で情の濃い妻。長女静花(真木よう子)、次女梨花(井上真央)は父の連れ子で、三女美花(桜庭ななみ)は、母の連れ子。私立中学に通う末っ子の長男・時生(大江晋平)は、二人の間の子供です。賑やかに暮らす家族ですが、問題は山積み。今住んでいる土地は、国有地なので返却せよと国から言われ、時生は学校でいじめに遭い、梨花の夫となった哲男(大泉洋)は、静花に恋心を残したまま。この家族の昭和44年から47年が描かれます。

国有地を違法に占拠していると言う理由で、今にも潰れそうな家ばかりの集落には、ライフラインは完備されておらず、陳情でやっと共同の水道がついただけ。私は昭和36年大阪市生まれの在日。当時小学校二年生。下水道は完備しており、ガスはプロパンではなく都市ガスでした。周囲にはバラックの家もちらほらありましたが、この作品のように、ガスや水道が通っていない区域は記憶になく(プロパンはあり)、大阪市から近い伊丹で、このような場所が当時あったことに、少々びっくりでした。

立ち退きを要請する国に対して、父は断固拒否。理由は「醤油屋の佐藤さんから買うた」。多分騙されたのですね。登記簿や領収書の必要など、知らなかったのでしょう。寡黙で実直な父の口から、幾度となく繰り返される、「醤油屋の佐藤さんから買うた」の台詞には、胸が締め付けられます。

余談ですが、昨年親から譲り受けた実家の借地権を売却したのですが、地主である不動産屋さんからは、古い借地権で、こんなにきちんとした登記簿は珍しいと言われました。龍吉がこの土地を「醤油屋の佐藤さんから買うた」のは、終戦直後のはず。在日だけではなく、このような事柄は、日本の人にもたくさんあったのでしょう。

静花は哲男の気持ちを知っており、哲男からの求婚を断っています。事故が元で足を引きずっており、それには幼馴染の哲男が関わっているのですが、それが断った理由でしょう。哲男に負い目を追わせたくなかったのでしょう。彼女も哲男が好きなのですね。梨花もその事は知っているのですが、それでも哲男が好きだったのですね。哲男は例え義弟と言う形になっても、静花のために出来る事があれば、と思っての結婚だったかも。そんな結婚が上手く行くはずはありません。

梨花は仕事が続かず、ふらふらしている哲男を詰る。自分は勤めているのですから、妻として当たり前の事です。哲男は言い訳しませんが、彼は大卒。あの時代は、誰でもが大学へ行く時代ではなく、貧しいながら大学を出た人は、それなりに優秀であったろうと思います。しかし仕事には恵まれず不遇。そこには差別があったはずです。彼のプライドは満たされません。

しかし梨花はそんな夫を、「あんたは他の韓国人を見下してるんや!自分は違うて。そやから、仕事が続かへんねん!」と、俗っぽい言葉で夫を看破。当時の在日のたくさんの妻たちは、職場の差別から逃避しようとする夫を、首根っこ捕まえて説教していたはずです。多分優しく諭した人は、少ないと思います(笑)。


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07月04日(水)
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