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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ダラス・バイヤーズクラブ」


先週木曜日、そぼ降る雨の中テアトル梅田で観てきました。上映10分前に到着。オスカー主要部門にノミネートされている映画好きは外せない作品ゆえ、席は前の方でも空いていたらラッキーかと思っていましたが、何と整理番号は13番!大阪では名の知れたミニシアターですらこの有様ですから。自分の好みと一般的な好みは、大きく隔たりがあると痛感する瞬間です。映画好きだけが観るには、勿体無い作品です。生臭い語り口の中、人間として再生していく主人公に、心の底から魅せられました。監督はジャン=マルク・バレ。今回もちょいネタバレです。

1985年のダラス。電気技師のロン(マシュー・マコノヒー)は、酒と女とドラッグにまみれた生活を送っていました。仕事の最中の感電で病院に運ばれた彼は、血液検査からエイズを発症している事がわかります。エイズは同性愛者が発症する病気と認識のあった彼は、余命30日を宣告されても、意に介しません。しかし体調不良に本を読みあさった彼は、自分がエイズだと認めざる負えません。彼は特効薬を求めてメキシコに渡り、そこで政府が無認可の薬を手にいれます。トランスジェンダーのレイヨン(ジャレット・レト)の協力により、薬を売りさばくロン。そして「ダラス・バイヤーズクラブ」を名乗り、世界各国を股にして、エイズに苦しむ人々のため、無認可の薬を手に入れるロンでしたが。

噂には聞いていましたが、20kg減量してこの役に臨んだマコノヒーの変貌ぶりに、まず仰天。タフガイでハンサムな彼が、痩せただけではなく、下卑たチンピラに成り下がっていました。まずここで大ショック。マコノヒーの並々ならぬ、この役に対する意気込みが伝わってきます。

「ロック・ハドソンもエイズで死んだ。タフガイを演じていたけど、ゲイだったんだ」と、小馬鹿にするようなロン。しかし出演作を問われ、「北北西に進路を取れ」と答える様子は、ハドソンについて表面的なイメージしか知らないのだとわかります。この作品に出演していたのは、ケーリー・グラント。これはエイズだけではなく、世間に蔓延る間違った認識と無知さを暗喩しいているのだと思いました。

友人だと思っていた連中はロンをまるでばい菌扱い。ゲイだったのかと囃したて、血を浴びるとエイズが感染ると、誰も寄り付きません。死を宣告され、ボロの車の中で一人号泣するロンの姿に、壮絶な孤独を感じ、その痛みに私も共に泣きました。

メキシコで米国では未承認の薬を手に入れ、病院で知り合ったレイヨンを相棒にします。「彼女」の導きで、当時エイズ罹患の中心だった、ゲイの人々に薬を売りさばくロン。職を失った彼に、生きる道はこれしかありません。しかし嫌々ながらゲイの人々と付き合っているうちに、彼らの本当の姿を知ります。それはストレートの自分と変わらない、普通の人だと言う事。レイヨンに無礼を働くかつての友人を、羽交い絞めにして謝罪させるロンは、最高にカッコよかったです。

熱演はマコノヒーだけではありません。ジャレット・レトが本当に上手い。とにかく可愛い女性にしか見えないのです。ケバケバしい装いでも、どこか少女っぽく可憐な雰囲気は、本物の女性が持つものでした。同性愛者の友人を多数持つ「彼女」もまた、深い孤独に苛まれています。その孤独の根源にも深くため息をつき、誰も悪くはないのに、この哀しさ辛さは何なのだろう?と、また考え込んでしまいました。一度だけスーツ姿で「男装」するレイヨンですが、これがまるでコスプレですか?と言うくらい、似合わない。爪の先までトランスジェンダーを表現するのかと、監督とレトに脱帽でした。

ビジネスマンよろしく、ありとあらゆる手を尽くして、世界中で認可されているエイズの特効薬を仕入れるロン。彼自身も小康を取り戻して行きます。しかし無認可の薬の販売を国が黙っているはずがなく、ロンは当局の取締に合います。製薬会社と医師の癒着で、効果が薄く副作用の強い薬が、アメリカでは広く処方されているのが実情でしたが、取り締まり事態は不合理ですが、理解できるものでした。裁判の結果も妥当なものです。


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03月01日(土)
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