ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927693hit]

■「新しき世界」


前評判が良いので、すごく楽しみにしていました。個人的には潜入捜査官ものの金字塔「インファナル・アフェア」に迫る出来だと思います。深い人間ドラマが描かれる中、民族性を掘り下げた部分もあり、社会派でもあると感じます。今回感じるところありで、ネタバレです。監督はパク・フンジョン。

韓国最大の犯罪組織「ゴールドムーン」のNO2の華僑出身のチョン・チョン(ファン・ジョンミン)。チョンの片腕として敏腕をふるうイ・ジャソン(イ・ジョンジェ)ですが、彼の真の姿は、潜入捜査官です。ゴールドムーン会長が謎の事故死をし、組織は跡目争いが勃発します。有力候補はNO3のイ・ジュング(パク・ソンウン)。この跡目争いに目をつけたジャソンの上司カン・チョンヒル課長(チェ・ミンシク)は、「新世界」と名付けた新たなプロジェクトを立案。8年間の潜入捜査で疲弊するジャソンに、新たな任務を課します。

冒頭血まみれの組員が映されます。警察に組織を売ったと言う疑念を抱かれたからです。やっぱり韓国映画だわと、クスクスしましたが、この作品、血まみれの描写は多々あるのですが、いつもは過剰に演出する韓国映画にしては、引きが上手い。冒頭のシーンも、ハンマーで脚を砕くのは直接見せません。後半で女性が陵辱・リンチされたとされる場面も、ドラム缶に血みどろの息も絶え絶えの女性が映りますが、直接の描写はなし。なのに恐怖を想像させるのです。貯めていた分、大量流血場面は引き立ちます。どんな場面もやり過ぎて、食傷するのがオチだった韓国映画の芸風としたら、垢抜けていると思いました。

虫が好かないジュングでも、サツには絶対売ろうとしないチョンの義侠心。如何にもな出で立ちの構成員。酸いも甘いも苦味も表現するタバコの使い方。薄汚い底辺の殺し屋。そして「出入り」には拳銃より、ドスを振り回す様子など、どこか往年の日本のヤクザ映画を観ているようで、この辺懐かしく感じました。

そして本題のドラマ。ジャソンの、ひりつき焼けていく様な潜入捜査官としての辛さや哀しみが、とても伝わってきます。最初登場したチョンの様子が、あまりに軽薄でバカっぽいので、これは二代目のアホボンなのか?と思っていたら、実はチョンは華僑のハンデを覆し、二人は苦楽を共にした仲であるとわかります。

チョンは義侠心に富み、自分の配下の者は非常に大切にします。そして無闇に争いも好まず、人しての愛嬌も持ち合わせています。しかし自分に牙を剥く者には、容赦なく制裁を加えます。懐深い情の濃さと残忍さが混濁する様子は、観ていてとても蠱惑的です。その情けと恐怖を一番間近で知っているのは、ジャソン。彼がそっけなく無作法にチョンに対応するのは、これ以上親愛を感じたくないのと、素性がバレる恐怖の両方だったのでしょう。そう思うと、とても切ない。バレるかバレないかの、本当にドキドキする出色のシーンもありです。

チラシでは上司のカンを父、チョンを兄に例え、その狭間で苦悶するジャソンと言うキャッチコピーですが、う〜ん、それはどうかなぁ?チョンは合っていますが、私の目にはカンは父ではなく、あくまで上司でした。それも冷徹な。そしてジャソンには、冷徹ではなく冷酷に映っていたはずです。これは「インファナル・アフェア」を意識しての事かな?しかし冷酷ははずのカンは、いつも相手から罵声を浴びせられるような役を引き受け、警察官としてどちらを向いても、矢面に立っている。自分は悪役に徹して、仕事を進めようとする彼も、実は心を疲弊していて、この作品で一番陰影に富んだキャラでした。演ずるミンシクは、いつもの怪演どこへやら、今回は受けの静かな演技で、それもまた彼の実力を感じさせるものでした。


「新世界」の全容が明るみに出た時の驚き。その「汚さ」はヤクザ以上だと感じました。それを察したジュングですが、「毒を飲まなければいけない」と言う台詞には、少々しびれるもんが有り。出入りの場面は凄惨で、盛り上がります。特にエレベーターでのチャンの大立ち回りにまたしびれ。かつての日本のヤクザ映画は、この手法で男性観客の心を掴んだんでしょうね。


[5]続きを読む

02月21日(金)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る