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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「くちづけ」


昨年惜しまれつつ解散した、東京セレソンデラックスの舞台を映画化した作品です。成人した知的障害者の自立支援目的のグループホーム「ひまわり荘」が舞台。演劇をそのまま持ち込んだ演出の、良さ悪さ両方を感じますし、他にも色々思うところはありますが、私なりにこの作品の真意は汲み取れたと感じ、気持ちよく涙を流す事が出来ました。今回冒頭で、事の顛末は明かしているので、そこだけネタバレです。

知的障害者の自立支援目的のグループホーム「ひまわり荘」。うーやん(宅間孝行)を始め、三人の成人した知的障害者たち(嶋田久作・谷川功・屋良学)は、ホームを運命する国村先生(平田満)と、その妻の真理子先生(麻生祐未)や娘のはるか(橋本愛)、賄い婦の袴田さん(岡本麗)にお世話してもらいながら、楽しく暮らしています。そのひまわり荘に、かつて人気漫画家だった愛情いっぽん(竹中尚人)が、やはり知的障害者の一人娘マコ(貫地谷しほり)を連れて、住み込みで働く事に。いっぽん以外の男性はダメで、男性恐怖症だったはずのマコですが、何故かうーやんには心を開き、二人は結婚すると言い出します。

舞台をそのまま持ってきたのでしょう、劇中ずっと、ひまわり荘の中でお話は進みます。でも二階・玄関・台所に庭、上手く空間を使って、映画ならではの演出が楽しめます。宅間演じるうーやんのハイテンションぶりは、些か観客を疲れさせるはず。しかしね、私が帰宅の電車で、本当にうーやんそっくりの人によく遭遇するんです。多分作業所の帰りなんでしょうね。なのでリアルな事はリアルなのですが、舞台なら映えるはずのオーバーアクトは、映画ではちょっとしんどいかな?観客にどっぷり映画に浸かってもらうには、もう少し引き算の演技が良かったかも?

それは始終喜怒哀楽を爆発させていた、橋本愛にも言えることです。いつもの彼女らしからぬ演技は、監督の指導でしょうか?あんなにいつもテンション高かったら、いくら若くても疲れちゃって、お手伝い出来ませんからね。他にはうーやんの個性が突出しており、他の三人の描き分けが出来ていない事。10人いれば10人とも個性が違い、知的障害者だからと言って、皆同じではありません。この辺はちょっとマイナスです。

私が秀逸だと思ったのは、普段福祉に関心を持たないと知りえない情報を、作品に描き込んでいる事です。ホームの運営は住人の障害者年金を充てている事(生活保護なら保護費)、その年金を詐取する家族もいる事、刑務所に服役中の人の1/5は、知的障害者及びボーダーの人であること、しかしきちんと受け答えが出来ないため、冤罪の人も多いと言う事などです。理由のあるなしに関わらず、放浪してしまう癖のある人もいて、その事も描き、犯罪に巻き込まれてしまう事例も織り込んでいました。

そしてうーやんに毎週面会に来る妹・智ちゃん(田畑智子)は、うーやんの存在のため、結婚が破談になります。障害者のお話は、どうしても美談仕立て、お涙頂戴の筋書きにりがちです。そこを毒舌家の袴田さんに「はるかちゃんの友達が、あいつらを気持ち悪いって言ったろ?それはあの子が悪いのか?智ちゃんの破談は、相手や家族を責められるのか?」と語らせ、冷静に観客に見つめて欲しいと、ひと呼吸置いていると感じました。

私は仕事柄、知的障害者の人と接する機会が多いのですが、幸いにも気持ち悪いと思った事はなく、むしろ可愛いと感じることが多いです。顔を見ると、こちらが元気の出る患者さんも居る程です。しかし私がお相手するのは、ほんの数分。これが毎日続くと疲れ果てるはず。なのに真理子先生は、
無念な形でホームを卒業していく人を抱きしめて、号泣するのです。医師夫人とは思えぬ質素さで、明るく彼らのお母さん代わりをする真理子先生。彼らの世話がどんなに大変だったかと想像がつくだけに、心からの涙に私も同調しました。


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05月30日(木)
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