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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ / 宿命」
「ブルーバレンタイン」のデレク・シアンフランス監督の二作目と言う事で、とても楽しみにしていました。三部構成に分かれていて、血の因果が面々と受け継がれる様子が描かれます。それぞれ内容に目新しさはないのですが、とにかく一瞬一瞬の場面に浮かぶ、繊細な登場人物の心模様の演出が素晴らしく、そこにとても感じ入りました。私はこの作品、大いに買います。
移動動物園で天才的なバイクの曲芸を見せるルーク(ライアン・ゴズリング)。かつての恋人ロミーナ(エヴァ・メンデス)と再会したルークは、ロミーナが彼の息子ジェイソンを生んでいたと知ります。浮き草稼業から足を洗い、ロミーナと息子のために、この街に住むことにしたルークですが、ロミーナにはパートナーのコフィ(マハーシャラ・アリ)がいました。自動車修理工場主のロビン(べん・メンデルスゾーン)に拾われたルークですが、それは彼の卓抜したバイクの腕を見込んでの事。裏では銀行強盗をしており、ルークを引き込みます。しかしルークは単独行動でヘマをし、警官のエイヴリー(ブラッドリー・クーパー)に追い詰められます。しかしエイヴリーはルークが拳銃を引く前に発砲。ルークは死亡。この重大なミスを誰にも言えないまま、皮肉にも彼は正義のヒーローとして、出世していきます。
冒頭長回しで、ルークの体中の無数のタトゥーを映します。彼の左目尻にもナイフの刺青。それは彼の人生が、いつも涙と共にあったように感じました。Tシャツを裏返しに着ても頓着なく、敗れたジーンズはおしゃれのためではありません。そんな育ちの悪さを感じるルークが、自分の息子が祝福されて洗礼式を受ける様子を、涙ながらに観る姿が切ない。この時ルークは、息子の為に生きようと決心したのだと思いました。彼にはなかったはずの、父親の愛を与えたかったのかと思います。
ロミーナがルークと再会時の服装は、タンクトップにショートパンツ。ノーブラの胸元は、くっきり乳房が浮かんでいます。しかしこのシーン以外、彼女はきりっと髪をまとめて、肌の露出の少ない地味な服装なのです。子供を産む前の、ルークとお似合いだった時の格好なのでしょう。ルークに捨てられたような形なのにジェイソンを生んだのは、ルークは彼女の人生で一番大切な想い出だったのだと感じました。コフィに対しての思いは、同じ大切であっても、恩人のような気持ちが大きかったと思います。ルークとジェイソンと三人で写真を撮る時のロミーナの涙は、女としての哀しみの深さと、人としての誠実さの狭間に揺れる涙です。
ルークのした事は横暴で、結果的にはろくでなしです。しかし智慧や教養のない彼なりの、精一杯の男の責任と誠意を感じるのです。幸せにまっとうに暮らしたいと願いながら、少しずつ歯車が狂ってくる底辺の人々。このパートが一番好きです。
続いてのパートはエイヴリーが主役。出世のために手段を選ばなかった裁判官の父を嫌い、警官を選んだのは、彼なりの正義です。それがルークの一件を秘密にする事で、皮肉な事に彼の正義も飲み込まれ、父と同じ保身のために手段を選ばぬ人間になっていきます。この辺の描き方も、エイヴリーの葛藤が細やかにこちらに伝わるので、真実を告白できない不実より、重大な秘密を抱える人生の辛い重さの方に感情が向きます。
エイヴリーは最終的には嫌っていた父を頼り、逮捕を覚悟したルークは、俺の事は絶対息子には告げるなとロミーナに電話する。それぞれ「父」と言う存在は、違う重さを放つのです。
最後はジェイソン(デイン・デハーン)とエイヴリーの息子AJ(エモリー・コーエン)のパート。エイヴリーは秘密の代償のように出世とは反対に家庭は崩壊。妻は変貌して行く夫を嫌ったのでしょう。息子は甘ちゃんの不良息子となっています。ジェイソンは家庭にも学校にも居場所がない浮遊感を漂わせています。同級生となった二人は、親しくなります。
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06月01日(土)
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