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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「愛さえあれば」

いつも骨太の社会派作品や秀逸なメロドラマを描くデンマークの名匠スサンネ・ビア監督。彼女が大人のラブコメを作ったと言うので、狂喜乱舞していたら、何と主役は私の大好きなピアース・ブロスナン!(あちこちで書いているけど、私が好きな男優は知的でスマートでエレガントな人。現在TOHO系で流れている「イノセント・ガーデン」の予告編が流れる度、マシュー・グードにも萌え萌えである)。ビアの作風からしたら、ちょっと違和感のあるキャスティングですが、これが絶妙にマッチしていました。ライトにユーモラスに描きながらも、もしあなただったら?と観客に問う作家性は健在で、私は大好きな作品です。
乳がんを治療中のイーダ(トリーヌ・ディルホム)。自宅に帰宅すると癌を乗り越え絆を深めていたと思っていた夫ライフ(キム・ボドゥニア)は、会社の社員を引っ張り込んで、エッチの真っ最中。一方的に家を出ていきます。折しも娘アストリッド(モリー・ブリギスト・エゲリンド)の結婚式のため、イタリアに渡る直前です。悲嘆にくれ、一人で空港に向かう途中、自動車事故を起こしてしまうイーダ。相手は何と新郎パトリック(セバスチャン・イエセン)の父フィリップ(ピアース・ブロスナン)。最悪の出会いをする二人でしたが、イーダの身の上を知るうち、段々と距離を深める二人でしたが・・・。
イーダの夫&不倫相手の若い女がもう、二人共バカ物丸出しで、超俗物です。家に浮気相手を連れ込むなんて、サイテーですよ。浮気でも一番やってはいけない事です。ビアにしたら、いやにあっさり断罪するなぁと思っていましたが、多分これは夫婦の気持ちのすれ違いを描いているのですね。冒頭乳房再建手術を医師に勧められたイーダは、「夫は私の内面を見てくれているので、必要ありません」と笑顔で答えています。しかし夫の言い訳はと言うと、妻を支えて自分も辛かった(だから仕方ない)ですと。多分セックスもお預けだったでしょうね。この夫婦は二人の子をなし、多分結婚25年前後くらいでしょう。その夫婦にして、妻のガン、娘の結婚など、家庭の一大事を前にして、これほど気持ちがすれ違っているのです。夫婦に慢心は禁物と言う事ですね。
登場人物たちは、傷心のイーダ以外は幸せに満ちているように見えますが、実は問題がいっぱい。マリッジ・ブルー、シングルファーザーとその息子の孤独、軍隊や戦場、同性愛、メンヘラなどなど、癌と離婚や不倫以外にも、各々問題がいっぱい。それがすすっと、とても滑らかに進み、全部が並行して描かれながらも、全然無理がない。行間を読まなくっても、きちんとその哀感が心に残るのです。完成度と言う点でも、非常に優れていると感じました。
私がイーダに感心したのは、父親の不貞に激昂する子供たちを前に、決して夫を詰らず諌めている事です。これは夫に未練があるのではなく、子供を思っての事です。自分の父親を憎むのは、子供にとって不幸であるとわかっているのですね。これはなかなか出来る事ではありません。一見平凡な主婦である彼女ですが、母・妻・女、その時々で何を優先させるべきか、しっかり認識出来る聡明な人である証明です。この母に育てられた子供たちは、二人共とても良い子で、主軸ではないはずの、傷心の母を思う場面がとても印象的でした。私が一番好きなシーンは、夜明けの海辺で、男女の足が映るシーン。カメラが上がっていくと、そこは恋人同士ではなくイーダと息子でした。きっとこの数日間の事だけではなく、生まれた時からの事も語り合ったのでしょう。親の思うようには育ってくれない子供ですが、大人になると、いざという時は頼りになるもの。私も実感しているので、とても心に染みました。
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05月29日(水)
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