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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「マネーボール」

子供の頃野球を観るのが大好きでした。小学校の四年生頃からです。その頃テレビ中継と行ったら巨人一辺倒で、中継は時間が来たら終わり。でも関西地方のUHF局にサンテレビと言う局があって、阪神主催の試合は全試合完全放送を謳っていたわけ。事実「死のロード」と言われた夏の甲子園が開催されている時は、西京極球場の試合も中継しました。我が家のテレビにアンテナをつけ、家族でそれを観ているうちに、わ〜、野球って面白いなぁと、女の子なのにのめり込みます。阪神にまだ江夏や田淵がいた時代です。どうも私はオタク体質なもんで、その頃から「週間ベースボール」を毎週買い、巨人は嫌いなのに「ミユキ野球教室」を日曜日は楽しみに観るという生活が始まります。当然阪神の試合は全部観る。土曜日は近鉄や阪急の試合も観る。実家はスポニチなんぞも取っており、オタク気質に拍車をかける毎日が高校くらいまで続きました。当時はすごかったですよ、12球団全てのスタメンが言えちゃったりしたもん。この作品は、2000年代初頭の大リーグが舞台なのに、意外とその当時の日本のプロ野球にリンクする部分があり、何だか郷愁を感じながらの鑑賞でした。内容も味わい深く、知的なスリルに満ちた展開の秀作でした。監督はベネット・ミラー。
2000年初頭の大リーグのアスレチックスは、長らく低迷している弱小球団。経済的にも困窮しており、補強にお金は使えません。GMに就任したビリー・ビーン(ブラッド・ピット)は元大リーガーでしたが、大成せずに引退した過去を持ちます。球団の改革を考えるビリーは、独自の理論を持つイェール大で経済学を学んだピーター(ジョナ・ヒル)を、インディアンズから引き抜き、自分の片腕とします。ピーターの理論とは分析を重ねた独自の統計による確率。こんなものは野球ではないと、スカウトや監督(フィリップ・シーモア・ホフマン)に却下されますが、自分を貫くビリーは、GMの名において、独善的とも思えるチーム作りをしていきます。
ピーターの理論である確率を元にする野球は、大昔の阪急ブレーブスの野球に似ています。強いけど華やかさに欠け、観ていて面白くない。そして名選手はいても、突出したスタープレーヤーがいない。巨人が王のホームランのなら、阪急は福本の盗塁ですから。選手の年俸も少なかったはずです。安く外人を取るのも上手くてね、3Aの選手を連れてきてモノにする。マルカーノなんか、長く働いたいい選手でした。当時の阪急は、そりゃ強かったもんですが、それでも全然人気がなくてね。それを大リーグでやるんですから、負ければバッシング必死。で、当初アスレチックスはフロントと現場が噛み合わず、負けばっかり。選手の編成はビリーが強硬にしましたが、試合ではビリーの指示を無視して、監督は自分の采配をします。監督は監督なりに、自分の信じた野球があるわけで、ビリーの言う確率野球なんて、ふざけた話なんですね。
高額な契約金で、「5拍子揃った(打つ守る走る、容姿に性格)期待の選手」と鳴り物入での入団だったのに、ビリーは大成しませんでした。今も昔も短気で激情型の男で、打てなくてダグアウトで物に当たり、三振してはバッドをへし折り。しかしかつての回想場面で、酒や女に溺れる姿は、一度も出てきません。彼なりに必死で頑張っても大成しなかったと言う意味だと、私は取りました。ピーターに「かつての自分を君が評価したら?」と問うビリー。ピーターは「ドラフトで9位指名、契約金はなし」と答えます。身をもって素質や素養・背景のあやふやさを実感しているビリーが、ピーターを信じたのは、ドライで優れたビジネスマンであるとの立証だと思いました。
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11月17日(木)
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