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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「冷たい熱帯魚」
面白い!本当に面白い!バイオレンス、セックス、スプラッタを、超過激描写でこれでもかこれでもかと見せながら、内容は意外なほど真っ当な、人生についての教訓や苦悩です。ミニシアター系で上映されているのでね、エログロをモチーフにしたアート系作品と思われるかもですが、全然全く。極上で過激な娯楽作です。監督は園子温。恥ずかしながら、この監督初体験です。

静岡で小さな熱帯魚店を営んでいる社本(吹越満)。妻妙子(神楽坂恵)は年若い後妻で、思春期の娘美津子(梶原めぐみ)とは折り合いが悪いです。ある夜自宅に電話がかかり、美津子が万引きしたとスーパーから電話が入り、駆け付ける社本夫妻。全く反省の色のない美津子の態度に、事態が大きくなろうとした時、助け船を出したのが地元で社本とは比べ物にならないほど大きな店を営んでいる村田(でんでん)。それが縁で付き合いの始まった社本ですが、人の良さそうな村田は、実は裏では詐欺を働き、被害者を殺害。その遺体はバラバラにして跡形もなくするという、とんでもない顔がありました。

冒頭味気なく冷たい社本家の夕食風景が描かれます。ご飯は全部冷凍食品。会話もなく娘は携帯をいじりながら食べ、食事の最中でも呼び出しがかかれば出ていきます。なんだこの亭主は?と、びっくり。妻にも娘にも全く躾が出来ていません。妻の服装は常にボディぴったりで、大きな胸を強調するミニ。きっとあれもこれも不満なんだなぁ。「わらの犬」のスーザン・ジョージみたい。しかし以降作中で描かれるこの妻は、決して性悪ではありません。年の違わない娘に虐げられ、守ってくれない夫に愛想尽かし気味ですが、夫への愛情も感じるし、娘とは表面だけでも上手くやっていきたいのです。多分素人女性がする稼業ではなかったでしょう、男も騙したり騙されたりして、やっと手にいれた平凡な妻の座を守りたいという風に感じました。耐える姿が哀れを誘います。

ハイテンションで馴れ馴れしく、厚かましい村田に困惑気味の社本。恩人なので申し出も無下に断れず。居心地の悪さを感じるも、年若く妖艶な村田の妻愛子(黒沢あすか)が、常識的で夫の欠点をフォローするので、ますます相手のペース。この様子が圧巻でね。私は常々詐欺に遭うのは、同情は出来ても被害者にも隙があるからと思っていました。でもこれ観てたら違うのね。隙なんか与えない。とにかく押せ押せのイケイケドンドン、こちらの思考は停止させられます。普通の人は断るのは無理。隙と言えば娘の万引きですが(これは些細じゃないけど)、日常の些細な隙は誰にでもあるもの。詐欺師ってそれを見逃さないのですね。獲物として目をつけられたら最後なんだわ。実に勉強になりました。

畳み掛けるように自分の人生観を社本に吹き込む村田。「お前に愛はあるか?みんなで幸せになるんだよ!」と、恫喝に近く喋りまくる村田。甚だ自己中なんですが、「お前は妙子や美津子が死んだら泣くか?!」「はい・・・(社本)」「吉田(被害者)が死んだら泣くか!?」消え入りそうに「いいえ」と答える社本。「そうだ、それでいいんだ」と破顔一笑の村田。おいおいおい!でもそれはそうだと納得してしまう私がいるわけ。

世の中には後世に残る偉人がたくさんいますが、押し並べて家庭は二の次三の次。世の中のためという大義名分のため、家族は犠牲を強いられるのは、私はこの年になっても懐疑的です。だったら結婚しなければいいじゃない。そういう視点から観ると、村田という男は他人には鬼畜でも、家族には最愛の人になり得るわけです。事実共犯だけではなく、村田は妻愛子を人生の大事なパートナーとして、彼なりの論理で、がっちり守っています。


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02月12日(土)
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