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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「魂萌え!」
2週間ぶりにやっと映画館に行けました。急死した夫には、妻の知らない愛人が!という設定は知っていたので、「あなたの妻でいて、幸せでした。今、私のもうひとつの人生が、始まります。」というコピーから、てっきり紆余曲折を経て、しっかり夫の愛を確認してから変身するのかと思っていたら、作品の意図はコピーの後半にありました。おとなしかった熟年女性の冒険と飛躍を、きめ細やかに爽快に描いていて、大変共感出来る作品です。

専業主婦の関口敏子(風吹ジュン)は59歳。63歳の夫隆之(寺尾聡)が心臓麻痺で急死し、生活が一変します。そんな時夫の携帯が鳴り、10年来夫の愛人だった伊藤昭子(三田佳子)の存在が明るみにでます。8年ぶりでアメリカから妻子を連れて帰ってきた長男彰之(田中哲司)は、同居してやるだの、遺産のことばかり話し、恋人と同棲中の長女美保(常盤貴子)はそんな兄を批判するばかりで、子供達は敏子の悲しみに寄り添ってはくれません。友人達(藤田弓子、由紀さおり、今陽子)らに励ましてもらいますが、ついに彰之と衝突した敏子は、カプセルホテルにプチ家出します。このことが契機になり、新たな敏子の人生が幕開けとなります。

今回ネタバレです。ネタバレでも大丈夫だと思います。
主演の風吹ジュンは、黒木瞳が40代に突入する前は、「憧れの40代女性」として、同年代の憧れを一心に集めていた人なので、この年齢の役は可哀想なんじゃないの?と思っていましたが、これがこれが、ちゃんと60前のご婦人に見える。実年齢は50半ばなので気持ち若いですが、服装も野暮ったくもなく、さりとてセンス良いわけでもなく、お色気なんてものもなく、外観を含め実に等身大の善良な主婦を具現化しおり、とても好演です。
まだまだ若い頃の自分を捨てがたく、美貌と若さの維持に必死な同年代の女優も多い中、「美しく」よりも「自然に豊かに」年を取ることを選んでいる風吹ジュンを主役にしたことが、この作品の一番の長所だと感じました。

年齢と言えば、夫の愛人昭子が見るからに自分より年上だというのは、正直面食らったはず。そして自分より年上の女性を愛人にした夫に猛烈に腹がたったと思います。この年代の女性は、一つでも若い方が女は勝ちだという認識が強いはずですから、同時に敗北感も感じたでしょう。それを初対決時、敏子には老けた似合わないオレンジ色の口紅をつけさせて、白髪混じりの髪の昭子には、黒のストッキングに浮き出る艶めかしい赤いペディキュアで表現するなんて、へぇ〜阪本監督やるもんだと、ちょっとニンマリ。これは原作もなのかな?

子供達の遺産相続に絡んでの自分ばっかりの様子にも、うちの息子たちはこんなことはしないよ、と誰が言えよう。付く者が付くと、子供が親のことは二の次三の次なんて当たり前ですから。わかっちゃいるけど寂しいもんですよ。でも寂しさよりも、戸惑いと腹立ちが先に来る敏子にも強く共感。絶対私だってそうだから。序盤は不安定でか弱い敏子の精神状態を表すため、時々急にキレてしまう様子を挿入するのが、後々の彼女の変貌との対比になっています。

カプセルホテルで自由を満喫してい彼女の様子を、とても上手く描いています。一人で映画を観て自分だけのコンビニ弁当を持って帰るなんて、もの凄く羨ましい。家族にコンビニ弁当を食べさせるなんて主婦の恥ですから、敏子だって私だって、朝昼晩毎日せっせと食事を作っていますが、自分だけならインスタントラーメンだろうがパンの耳だろうが、へっちゃらだからね。家事もしないで一日好きにほっつき歩いて、たった一人で手足を伸ばせる空間があるなんて最高ですよ。これが鄙びた温泉にでも敏子を行かせたら、私は羨ましくもなんともなかったはず。だってお金がもったいないじゃん。誰も世話せず自分のしたいように出来るなら、カプセルホテルで充分です。主婦をわかってるなぁ。


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02月03日(土)
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