ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[928154hit]
■「それでもボクはやってない」
「Shall We ダンス?」から11年、周防正行監督の作品は、社会派”ホラー”でした。痴漢犯罪の冤罪事件がテーマなので、男性だけが恐怖に晒されている感じがしますが、実は訴える側の女性に取っても、とても重要なことをはらんでいるのだと、実感させる作りです。「愛ルケ」の法廷シーンがいかに茶番か、あの「ゆれる」の法廷シーンだって、この作品に比べれば、やっぱり映画的フィクションが満載だったのだとしみじみ感じます(それ自体は全然問題なし)。掛け値なしの傑作ですが、作り手が汗や唾を飛ばしながら主張するのではなく、しかしわかりやすく観客に訴えているところがこの手の作品では珍しく、周防監督の並外れた力量を、改めて感じました。
金子徹平(加瀬亮)は26歳のフリーター。今朝は仕事の面接に行くため、久しぶりに満員電車に乗りました。目的地で降りた徹平に中学生の俊子(柳生みゆ)が、「あなた痴漢したでしょう・・・」と消え入りそうな声で、徹平のスーツの袖を引っ張ります。ぬれ衣なので話せばわかると駅事務室に入った徹平は、話を聞かれることも無く、すぐ警察に引き渡されます。無実だと主張する徹平ですが、当番弁護士(田中哲司)から、「痴漢の場合裁判で争っても、99.9%が有罪。罰金5万円払って示談にした方が良い」と勧められます。しかしこの勧めを蹴った徹平は、こののち、刑事や検事などから恫喝めいた取調べを受けますが、一貫して無罪を主張。話は裁判所まで持ち込まれるのですが・・・。
以前痴漢冤罪事件の被告人のドキュメントをテレビで見ていたのですが、無罪判決まで4年を要したと記憶しています。会社は解雇され、街頭に立ち目撃者を探したり演説したり、この作品の冤罪事件と戦う佐田(光石研)とそっくり。妻が夫の潔白を信じているのが支えというところもいっしょでした。その時も痴漢の冤罪は相当大変だとは認識していましたが、何故そんなに大変なのかが、そのドキュメントより、この映画の方が深く掘り下げてあります。
警察の取調べの横暴さはちょっと想像を超えていたくらいで、あんなもんかと思いましたが、言ったことを書いてくれない、調書は取り調べ云々ではなく、刑事の作文であるというのにはびっくり。映画やドラマでは検事は冷静に被疑者と対応しますが、そんなことは全くなく、主観一辺倒で取り調べます。「疑わしきは被告人の利益」なんて、どうも嘘っぱちなようです。
毎日毎日同じことを聞かれ、頭が変になりそうになりながら、必死で自分を持ちこたえる徹平。無実でも自白なら5万円で釈放、否認し続け在宅起訴なら、保釈金が200万!?名のある人ならともかく、徹平のように失う物がない若い子が、こんなに大金を積んでも戦う様子は、観客にはそれだけで充分潔白の証明のなると思うのですが、国家権力とは、そんなに甘いもんじゃない模様。日本は民主主義の法治国家だと思っていたのですが、この作品を観ると、とてもそうとは思えません。
私が一番びっくりしたのは、裁判官の描き方です。公判が終わっていないのに、途中で交替するのです。無罪にした被告が、控訴で有罪になった時は左遷もありなんだとか。警察・検察が犯人だと思い捕まえた人間を無罪にするのは、国家に反旗を翻すことなのだとか(高橋長英扮する訳ありの裁判オタクの談)。裁判官にも出世がある以上、寄らば大樹の陰になる人が多いのだそう。
裁判オタクの人の手記を読んだことがありますが、私たちには画一的に思える裁判官ですが、かなりその人の個性で裁判の判決が決まることも多いようで、誰が当たるか運が作用するなんてのもびっくり。人が人を裁く難しさも深く認識出来ます。台詞にも出てきますが、真実が明るみに出るのではなく、有罪が無罪かを決めるのが裁判なのです。
[5]続きを読む
02月08日(木)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る