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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「16ブロック」
ブルース・ウィリス主演の刑事もの。ブルース主演の割には地味に公開ですが、公開後評判はうなぎ上り。それも70年代テイストの熱いものを感じさせる作品だとか。ということで、今日夫と観て来ました。取り合えず押さえておこう程度だったのに、これがクリーンヒット!ラストは思わず目頭が熱くなりました。お腹も出てヒゲも白くなって、もう希望なんて言葉は遥か彼方に忘れ去ったという、中年の御貴兄に是非ご覧いただきたい作品です。監督は希望どころか棺桶さえ射的距離のリチャード・ドナー76歳。年だなんて愚痴ったら、きっと監督に怒られますね。

ニューヨーク市警のジャック・モーズリー(ブルース・ウィリス)は、捜査中の事故のため足を負傷、酒浸りの冴えない刑事です。夜勤明けのある日、もう帰宅しても良いのに、上司から証人のエディ(モス・デフ)を16ブロック先の裁判所まで護送するよう命じられ、渋々引き受けます。しかし何者かに襲われ、二人は逃亡するはめに。エディの証言には元相棒のニュージェント(デビッド・モース)や同僚刑事たちが関係する、汚職事件が絡んでいたのでした。

最初登場した時のブルースの老けっぷりにまずびっくり。お腹は出て体は弛みまくってるは、頭も髭もごま塩だは、仕事中だというのに酒はかっくらうは、もう終わってしまった刑事なのだとわかります。やる気なさそうにエディを護送する彼ですが、瞬時の判断で的確に相手を撃つ姿との落差は、かつてはやり手の刑事だったと思わすのに充分です。しょっぱなから気分が盛り上がり、この語り口の上手さはさすがです。

逃げ込んだバーでのニュージェンとの会話で、ジャックもやっぱりわけありだと匂わせますが、方や出世した勝ち組(ニュージェント)、方や落ちぶれの負け犬風情とくりゃ、観客はどうしたって負け犬の肩を持ちたいもの。その負け犬が善良なチンピラを連れ、勝って知ったるNYのチャイナタウンを、縦横無尽にあの手この手で逃げ回る様子がハラハラドキドキしつつ爽快です。追う方も追われる方も刑事なので、お互いの手の内は知り尽くしています。裏を掻く方法もほぉ〜なるほど〜と感心したり、これがラストまで展開されるんですから、たまりません。きっとどこかで観た演出なんですけど、こんなに面白いんだから構うもんか。

「人は生まれ変われる」「良い兆し」という言葉が、何度も繰り返して出てきます。中年を越え初老になって、順風満帆な人生だったなんて言える人は少ないはず。ジャックもしかり。誰かを傷つけ償えるほどの勇気もなく、自分が落ちぶれることでしか贖罪できません。そんな彼が、貧しく頭も軽そう、でも愛嬌たっぷりでお喋りなエディによって変わるのです。接する内に、段々とエディの前向きな明るさと純粋さに引き寄せられていくジャック。そしてエディもまた、人としての強さをジャックから学ぶのです。

少し難点はドラマの「24」ばりに、時間の経過と映画の経過が同時進行なのですが、ちょっとあれこれつめ過ぎで、時間との兼ね合いに無理があります。他はジャックの妹の扱い。ここで助けてもらえるなら、もっと早くに助けてもらえたんじゃないの?と、ちょっと疑問ですが、落ちぶれ中年もので、こんなに熱くさせてもらえるなんてメッタにないので、不問にします。

ブルースは素敵でした。今の落ちぶれ感と昔はイケてた感のブレンドが絶妙で、長年アクションをやってきた人ならではの安定感と重なり、とっても渋い。こんな役を上手にこなすなんて、多分死ぬまで人気俳優でいられると思います。モス・デフは最初お調子者のお喋りで鬱陶しい奴だなと思わせておいて、段々観客が彼を好きになっていく仕掛けになっているのですが、これもデフの好演あってこそ。警察の腐敗という社会性を織り込みながら、一人の男の再生を、女の愛ではなく、昔の自分だったかも知れない若い男に感化されたというところも良かったです。


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10月23日(月)
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