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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「サンキュー・スモーキング」
タバコ業界を舞台に、情報操作を盛り込んで、現代のアメリカを風刺するコメディ仕立てにしていると聞いて、とても楽しみにしていた作品です。私自身は吸いませんが、私くらいタバコに囲まれた人間はいないはず。夫は日に2箱は軽く吸い、子供の頃、父親を臭い臭いと毛嫌いしていた22歳と20歳の息子達は、今じゃ立派なヤニ吸いです。実家を見渡せば、老いた78の父は「体に悪いから」と、今はセブンスター2箱くらいですが(おい!)、昔はショートホープ日に100本でした。

亡くなった母も吸っていて、死因は何と肺がんとしゃれになりません。妹は母がタバコを吸うのをとてもいやがり、子供の頃は見つけると泣きじゃくったもんですが、今じゃ子供に隠れて自分が吸ってます。あっちもこっちも煙草タバコたばこ!

で、私が嫌煙運動の旗を振っているかというと、さにあらず。マナーを守って人様に迷惑かけなければ、動脈硬化になろうが、母のように肺がんになろうが、あくまで本人が納得していれば良いと思うからです。ヤニ吸いに寛容な私が観るとどう観えるのか、興味津々でした。傑作コメディかと期待して観たので、若干物足りないですが、ライトな風刺コメディとしては出来は上々。面白かったです。監督は「ゴースト・バスターズ」などのアイヴァン・ライトマンの息子、ジェイソン・ライトマンの初監督作品です。

タバコ研究アカデミーの広報担当部長のニック・ネイラー(アーロン・エッカットー)は、猛烈なタバコに対する圧力を、持ち前の回転の速い喋りで、日々タバコのイメージアップに奮闘中の、バツイチ・やり手ロビイストです
。アルコール業界のポリー(マリア・ベロ)、銃業界のボビー(デヴィット・コークナー)との週イチの飲み会では、如何に鬼っ子の自分たちの商品をイメージアップするか、鍛錬も怠りません。そんな旺盛に仕事に精を出す彼ですが、思わぬ落とし穴が待っていました。

この作品でもタバコにドクロマークを!という上院議員(ウィリアム・H・メイシー)が出てくるなど、すっかり有害物質扱いのタバコですが、どういう風に情報操作してイメージアップするのか期待していましたが、その辺の扱いは、私が年がいっているからか映画を観すぎているからか、想定の範囲内で、別に隠し玉的演出はありません。ちょっと期待はずれですが、その代わりテレビや聴聞会などでタバコについてディベートする様子が面白いです。

言葉尻を掴んでちょっとづつずらし、自分のテリトリーに持ち込んでしまうのです。その中には嘘は一片もなし。ほぉ〜、おみごと〜と思わず感心してしまいました。でもこれってちょっと観たことあるなぁ。ネットで荒れたりするのは、全部この手合い。そうか、こういう風に持っていくと言い負かせるんだ、ふんふんと思いつつ、ネットの荒しとニックが違うのは、決して相手個人を貶めたり中傷しないこと。そしてユーモアもある。弁舌爽やかで押し出しもきき、何だかわからないうちに、まさに煙に巻かれてしまい、ニックがとても素敵に思えます。

頭の良さというより回転の速さが信条のニック、墓穴を掘ったのは女がらみです。こんなやり手が女なんぞで失敗するかなぁと思ったのですが、離婚も女がらみを匂わせたり、彼を観ているとそれもご愛嬌かなと思い直します。それに喫煙組と反喫煙組を比べてみると、断然男としての魅力は喫煙組に。頂点にいるロバート・デュパルや肺がんになったマルボロマン(サム・エリオット)からアーロンに至るまで、濃〜い♂のセックス・アピールがいっぱいです。

失意の底に沈むニックを奮起させるのが、「離婚しても僕のパパはパパだけ。あんな男(母の再婚相手)はパパじゃない」と、「やり手」の父を尊敬する息子です。アメリカの離婚した家庭の子は、平日母親、週末父親と過ごすパターンが多く見受けられ、何か中途半端だな、子供も環境がコロコロ変わりよくないんじゃないかと思っていましたが、この作品では、夫婦として別れてしまっても、子供の父と母としては良好な間柄でいたいという描写がかいま観れ、かつての感情に流されずちゃんと締める所は締めているのだと、感心しました。


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10月28日(土)
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