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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「母性」
この作品、ルミ子の出自である「お嬢様育ち」と言うのも、キーワードかと思います。夫はルミ子がお嬢様育ちで世間知らずなので、離婚出来ないと言う。いやいや言い訳だね。自分の嫌いな実家に戻り、家族三人の家さえ借り無い夫。これもルミ子がお嬢様育ちで働けないからと言いたいのか?それはお前が妻子を養う気概も甲斐性もない、卑小な男だからだろうが。

お嬢様育ち=世間知らずだから、ルミ子はあの鬱陶しく鬼のような姑、ろくでなしの夫でも我慢できたのでしょう。昔はこうやって、お嬢様でもないのに、「お嬢様育ち」の美名の元、女を閉じ込め、賃金の要らない家政婦のようにこき使ってきたんだよ。だから清佳は、「ママにお金を払って!」と、母を想い当然の抗議をしたのだと思う。その気持ちも踏みにじるルミ子に、私は同じ母親として、腹が立つより哀れを感じました。

もう一つ、ルミ子が我慢しなければならなかった背景は、実家が無くなってしまったから。実家のない嫁、疎遠な嫁には、庇いだてせず、蔑ろにする夫が多くいるんだよ。これ私の実体験だからね。夫は否定するけど、無自覚なだけなので、いっそ始末が悪い。ルミ子の夫は、自覚していたと思います。

ラスト近くに、姑が「ありがとう、ルミ子さん」と言うと、ルミ子が薄ら笑いを浮かべる。自分の息子は判らないのに、世話してくれる嫁は判る。近しい昔は、この光景を「嫁が報われた」と表現され、美談になりました。この作品の流れでは、悪い冗談だと思いますが。私はそう取りました。私なら優しかった姑が認知症で暴力的になった方が、絶対にましだわ。ルミ子の微笑みは愛想笑いの薄ら笑いで、心が無かったです(戸田恵梨香、上手いぞ!)。とっても不気味でした。このシーンが美談に見える人は、要注意。感覚のアップデートが必要だと思います。

戸田恵梨香は深窓のお嬢様は、やや苦しかったです。でもやつれて、魔界に住むような妖気を漂わせる毒母の様子が素晴らしく、怒涛の挽回でした。11歳しか違わないのに、きちんと永野芽郁の母に見えたのも立派です。

愛を乞う娘を演じる永野芽郁も、彼女の陽性の持ち味が、辛くて健気な清佳を救ってくれました。大地真央の比類なき美しさ、高畑淳子の怪演も好対照で出色の出来。ぐっと作品に華やぎや賑やかさをもたらしています。山下リオは、どの作品でも地味ながら爪痕を残します。もっと売れていい人だと思う。三浦誠己を、ボコボコにしばきたくなったから、それは彼の演技が上手かったからでしょう(笑)。

清佳の名前は、やっと最後で出てきます。それなのに作中ずっと違和感なし。あー!と、その事に溜息が出ました。ルミ子の名前もずっと忘れていました。女の人生、まだまだ下の名前が必要ない人生を送る人が多い、との表現だと思います。〇〇の娘、〇〇の妻だけで人生が終わってしまうのです。恐ろしい。その中で義妹=リツ子、りっちゃんだけは、ずっと名前がありました。彼女から学ぶことがたくさんありそう。清佳も、それに続くと思います。

作中、母性は生まれ持っているのか、それとも育つのか?と言う会話がありました。私は元々、母性は女性に備わっているものだと思います。上手く育てられなかったら、開花させる手助けをするのは誰か?実母でも姑でもなく、夫です。実母も姑である私も、そこを自警しなければ。娘から母へと育つのを、見守るのです。 

母親は、滋養と毒が、程々に共存するのが良いようですね。

11月26日(土)
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