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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ドント・ウォーリー・ダーリン」

初監督作の「ブックスマート」が大評判だった女優のオリビア・ワイルド。残念ながら評判を聞いた頃には、上映時間が合わず見逃しています。二作目の今回は打って変わりミステリーです。「ステップフォード・ワイフ」を彷彿させるプロットは既視感のある内容でで、オチは予想が付くのですが、見せ方・盛り上げ方が非常に上手く、監督としても非凡な人なのだと、今作を観て感じています。
アメリカのとある美しい街に住む若妻アリス(フローレンス・ピュー)。アリスの夫ジャック(ハリー・スタイルズ)と含む夫たちは皆、フランク(クリス・パイン)が経営するビクトリー社に勤めています。夫は仕事に励み妻子を養い、妻は家事育児をこなし、常に美しく装い、古風な価値観に包まれた町。そして女性たちは、この町から一歩も出る事が許されません。一見完璧なこの暮らしに、アリスは徐々に違和感を持ちます。
「ステップフォードワイフ」は2004年制作で、私も観ています。実はこちらはリメイクで、元作は日本では未公開ですが1975年に作られています(主演はあのキャサリン・ロス)。今は2022年。女性の解放がテーマの作品が、長期に渡って繰り返し作られるのは、何だかやるせないなぁと思う。しかしお話しが進む中、女性の憂いを男性にだけではなく、女性にも認識を改めるように作ってある点を継承している所に、私は監督の葛藤を感じます。
フランクは社内のパーティーで妻たちに対して、「夫が仕事に励めるよう、家庭を完璧に整えて支えて欲しい。とても困難な事だが、頑張って欲しい」そして自分の妻であるシェリー(ジェンマ・チェン)に向かい、「ありがとう、感謝している。君無しの人生は、考えられない」と、熱いキスを交わします。
何が問題なの?妻に感謝してるじゃん、良い夫じゃんと思う人、ここだけ切り取るなら、いると思うよ。でもそれまでのシーンで、セクハラまがいのホームパーティーの様子、家事を懸命にこなす様子や、夫の帰宅前に化粧を直し、美しく着飾る様子等、ずっと丹念に画面は映します。従順で美しく夫を支える妻たち。しかしそこには、華やかさはあっても、生活感は少ない。少しずつ、この世界の歪を、観客が感じるように出来ています。
そこへフランクのセリフ。私には、こう聞こえました。妻は夫の事を大切にするだけの人生でいいんだと。感謝してやっているんだから、満足しておけと、見下げられているわけです。要するに妻には感情も人権もなく、一人の人間としての人生は考えちゃいない。それを疑問に思わぬよう、女性たちは仕事にも着かず、この地に閉じ込められている。
アリスは違和感を覚えると、例え自分に危害があろうが、突き進む事を止めません。思えば、切欠になった飛行機事故は、彼女の背景を思えば、あれは伏線だったんですね。命が係っていたから。人の記憶は美化されたり曲げられたりしますが、記憶が逃げ去る事はないんだね。
しかし、フランクの言葉を引き出すため、操る女性もいるわけで。彼女が古風な男女感に固執するのは、幸不幸、どちらの経験からなのか?私は不幸な気がする。ハリウッドと言う、男尊女卑が大手を振って闊歩する世界で働く監督は、男性だけではなく、男の蔭に女あり、を感じる事が多いのでは?
アリスが真相を突き詰めるラストスパートが、怒涛の展開です。かなり猛スピードですが、ちゃんと理解出来る作りです。カーチェイス場面など、さながらアクション映画のようでした。その期待はなかったので、得した気分です。
真相が明かされるまで、フランクのスピーチの意味が解らない人は、男女を問わずいるでしょう。フランクのスピーチは、私が結婚した頃、今から40年前の価値観がそうでした。亡き姑は良き人でしたが、私に伝えた妻の心得は、「女は泣いて泣いて、初めて幸せになれる」でした。妻は夫と家に尽くし、自由がなくて当たり前。モラでもDVでも逃げる事なかれ。自分がそうして数十年後、幸せになったからだと思います。フランクのセリフは、そういう事ですよ。
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11月15日(火)
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