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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ある男」

チラシを手に取ってから、とても楽しみにしていた作品。何故妻夫木聡の弁護士・城戸が在日三世の設定?と、訝しく思って観ていたら、過去を追う「ある男」に、自分を重ねる城戸の心情が、私の心に染み入ってくるのです。社会派ミステリーの秀作です。監督は石川慶。
離婚をして息子の悠人(坂本愛登)を連れて、実家に帰ってきた里枝(安藤サクラ)。親の営む文房具店の手伝いをしています。常連客となった谷口大祐(窪田正孝)と親しくなり、やがて結婚。二人の間に娘も生まれ、平凡ながら幸せに暮らしていましたが、仕事中の事故で、大祐があっけなく死去。一周忌に、疎遠だった兄(真島秀和)を呼びます。しかし、仏壇に向かった兄は、この男は弟ではないと言い切ります。半信半疑の里枝は、離婚の時に世話になった弁護士の城戸(妻夫木聡)に、自分の夫が何者だったのか?その足跡を追って貰う事にします。
前半は、丹念に里枝と谷口の馴れ初めから、幸せな家庭生活を送るようになる様子を描きます。後々の感動的な里枝のセリフのため、とても重要なプロットだったと、鑑賞後に思いました。
離婚直後の里枝の情緒不安定な様子を演じる、安藤サクラが素晴らしい。私は元々この人、とても綺麗な人だと思っています。なのにそうじゃない役の方が多いでしょう?しかし今回は、純粋で豊かな母性を持つ里枝の内面を映す表情は、とてもとても美しかったです。寡黙で自信無げな様子が、雨宿りしている濡れた犬みたいだった、寂しげな谷口。それが里枝と言う善き伴侶を得て、笑顔が増えてくる。
人権派弁護士として、名を馳せる城戸は、帰化済みの在日三世です。私も帰化した在日二世。在日を描く作品は数ありますが、内面の葛藤を描いて、これ程共感出来た事は、かつてありません。娘婿の前で、平気で在日をヘイトする義両親。「あなたは違うわよ。三世ともなれば、日本人と同じだもの」。曖昧な笑顔で切り抜ける城戸。三世であれ、四世であれ、帰化して日本国籍を取得しなければ、日本人と同じではなく、在日韓国人です。そして日本に来て数年でも、国籍を取得すれば、それは日本人です。
妻(真木よう子)の母は、褒め言葉として、「日本人と同じ」と言ったつもりでしょう。名誉白人的な褒め言葉で喜ぶほど、城戸も私も落ちぶれちゃいない。私も良く在日に見えないと言われましたが、相手は褒めているつもりです。在日”なのに”きちんとしていると言うのです。無自覚な差別程、たちの悪いものはない。だって抗議も出来ない。
さて、どうするか?好意だけ受け取り、差別心は窘めず、やり過ごすのです。議論になって時間を取られるのが面倒臭い、煩わしい。何故なら、多分自分の気持ちは、解って貰えないと言う、あきらめが先に立つから。私や城戸のような「賢明な在日」が抱える葛藤です。
その城戸の気持ちが爆発する、受刑者の小見浦(柄本明)との面会場面。「あんた、在日やな?」の第一声は、城戸にとっては不快だったはず。その後のやり取りで、こんな犯罪者にまで、どうして自分の出自を侮辱されるのか?今は日本人であるのに。城戸など、弁護士と言うステイタスの高い職業についているので、尚更のはず。
安藤サクラ、窪田正孝の演技も素晴らしかったですが、妻夫木聡の渾身の演技が本当に凄くて。あの曖昧な、相手には好意的に見える笑顔の内心、皮肉な笑顔からの憎悪剥き出しの形相など、城戸の気持ちが届きすぎて、本当に辛い。
妻からも諫められるほど、谷口の過去を探る事にのめり込む城戸。そこには、自分と似て非なる、だけど同じ「出自」に捕らわれた谷口に対しての、シンパシーがあったと思います。城戸も谷口も、誠実に真面目に生きているだけです。
印象的だったシーンは、鏡に映る自分の顔を観て、発狂したようになる谷口。
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12月04日(日)
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