ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927232hit]

■「コーダ あいのうた」
母のジャッキーはルビーが生れて耳が聞こえたので落胆したと言います。自分の母は耳が聞こえて、母娘関係が希薄だったからが理由。ならその真逆の状態の娘の気持ちは、何故考えないのか?私はこのお母さんが全く受け付けない。なんだ、あの真っ赤なミニのワンピースは。あんたの娘は、もっと素朴で愛らしいファッションが似合うんだよ。どうして自分の趣味を押し付ける?

色んな作品で書いていますが、私はバカな人は嫌いじゃないですが、バカな母親は大嫌いです。「ママがポンコツなのは、聾唖のせいじゃないよ」と、ルビーが明るく答えますが、今までどれほど葛藤があったか、聞き逃さないで欲しいです。反抗するルビーに「私たちのベイビーが」と言う母に、「あの子は子供の頃から大人だ」と答える父は、まだまだましです。

そんな私の両親に対する怒りが収まったのは、ルビーの発表会。素晴らしい歌声が、突然無音になる。私たち観客も、両親や兄と同じ音のない世界に放り込まれます。それは静寂ではなく、孤独と孤立でした。周囲を見回す父。笑顔が溢れ、喧騒を感じさせる様子に、ルビーの生きる世界を痛感したのだと思います。寂しさを隠さない厳しい顔つき。親として決断した様子に、胸がいっぱいになる。どんなに辛くとも、子供の幸せを一番に願う、それが親の全てです。

ルビーを演じるエミリア・ジョーンズですが、歌手ではなく子役からの女優さんだとか。手話と歌を同時にレッスンするのは、さぞかし大変だったと思います。この子、私が大好きなリンダ・ロンシュタットの若い頃にそっくりなんです。愛らしいタヌキ顔から発せられる、温かみがある伸びやかな歌声も似ている。心の内を隠しながら、表面は明朗に振舞うルビーにすっかり情が移ってしまいました。私的にはオスカーにノミネートされても良かったと思います。

コッツァーの受賞には全く文句ないですが(役柄のフランクとは別人の紳士で、ダンディで素敵でした。もちろんマトリンも)彼の受賞は、キャスト全員を代表して、ですかね?何たってお父さんだもん!。

ラスト、セックス関係以外で声を発しなかった父が、ルビーに「GO」と促します。これは、これからは音に溢れた世界で生きて行くんだぞと言う、父としての餞だと、私は思いました。子供に合わせて、親もずっと成長しなくちゃいけないなと、私も感じ入りました。

オスカー受賞のお陰で、見逃さずに済み、本当に有難かったです。オスカー効果で再度ロードショー中なので、どうぞご覧下さい。この一家に幸あれ。

04月09日(土)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る