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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(Netlix)
水浴をする若い牧童たち。牧童は入浴せず水浴するものだと、師匠のブロンコ・ヘンリーに言われたと語るフィル。屈強な若い男性たちの裸を映す画面は、ゲイテイストに満ちている。一人フィルは秘密の自分だけの場所に移動。下着から古いスカーフを出し、身体にまとわりつかせ、自慰に耽るフィル。スカーフにはBHのイニシャルが。ブロンコ・ヘンリーです。偶然散歩中のピーターが、ブロンコ・ヘンリーのヌード写真集を見つけます。隠していたのでしょう。その近くにいたフィルに見つかり、追い出されるピーター。

何故かその後、ピーターに近づくフィル。仲良くしようと申し出る。私は自分ゲイである事をピーターに嗅ぎつけられて、懐柔しようとしているのかと思いました。違う?

しかしピーターは、フィルの手ほどきで、乗馬やカウボーイの日常にすぐ馴染んで行きます。その事に苛立ちを見せるローズ。牛の皮で編んだロープをピーターにプレゼントすると言うフィル。自分の大切なブロンコ・ヘンリーから受け継いだ鞍も、ピーターに座らせます。

最初はゲイである事を隠すためと思っていましたが、この頃になると、本気でフィルはピーターを気に入っているように見えました。亡くなった父からお前は強すぎると言われたと語るピーター。強い人はいないと答えるフィル。これは自分の事を指している。父親は首吊りで死に、自分が遺体を下したと言うピーター。ここで冒頭のピーターの独白が蘇ります。

父親は息子が原因で自殺したのじゃないかな?自殺前はアル中でした。父は息子のサイコパス気質を知っていたのだと思います。もちろんローズも知っている。知っていても、彼女には愛する息子である事に、変わりはないのでしょう。だから責任を感じて、ピーターは母だけの幸せを願ったのじゃないのかなぁ。

乗馬の上手くなったピーターは遠出して、病気で死んだ牛の皮を剥ぐ。これが重要な意味を持っていました。

牧場から見える丘は、何に見えるか?とピーターに問うフィル。犬が吠えていると答えるピーター。感嘆するフィル。それはブロンコ・ヘンリーの答えだからです。自分たちの絆を確信するフィル。この時、ピーターもゲイであると確信したのじゃないかしら?

フィルは牛の皮は売るくらいなら、焼いていました。それを知ったローズは、腹いせに皮を所望する先住民族に売ってしまいます。それを知り、激怒するフィル。今まではオタオタしたであろうジョージも、毅然と妻を庇います。
そこへ、自分で取った皮を差し出すピーター。

ピーターのためのロープを編みながら、ブロンコ・ヘンリーの思い出話をするフィル。煙草をくゆらし、自分の吸った煙草の吸い口を、フィルに吸わせるピーター。妖しい瞳、薔薇色の唇が艶めかしく、ぞっとするような美しさ。恍惚の表情を浮かべ、フィルはピーターに翻弄されているのが解る。フィルはブロンコ・ヘンリーと自分の間柄を、ピーターに当てはめていたのでしょうが、kの時から立場は逆転したのでしょう。

翌日、高熱を出し病院に駆け込むフィル。しかしあっけなく亡くなってしまいます。病名は炭疽症。病気の動物から移るのです。病気の牛には用心して、フィルは決して触らなかったと言うジョージですが、それ以上は追及しません。

綺麗に湯灌して、髭をそり落としたフィルの死に顔は穏やかで、本当は繊細であったであろう、彼の内面を映したような美しさでした。野蛮で豪放磊落、それが男らしさに繋がると考えるフィルは、無理をしていたと言う事です。さぞ辛かったろうと思うと、自然に涙が出ました。

葬儀の日、ローズに指輪を渡す兄弟の母(姑)。何か謂れはあるのでしょうか、多分嫁と認めるみたいな意味だと思います。でも、葬儀の日にする事ではない。両親も牧場の収入で生計を立てていのでしょう。牧場はフィルの持ち物です。ジョージも含め、他の家族はフィルがゲイだと知っていたのでは?自分の殻に閉じこもり、本音も本来の自分も見せないフィルを、家族は持て余していたのではないか?これはフィルの死を、家族が「安堵」と捉えているのかと感じました。


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03月17日(木)
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