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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「罪の声」
阿久津は難役です。熱演すると嘘臭くなり、飄々と演じると、すっぱ抜きに疲弊して、記者としての自分を見失っている阿久津が伝わってこない。それをびっくりするほど、小栗旬は好演でした。曽根に「阿久津さんて、ええ人ですよね」と言われ、照れ隠しに怒る阿久津に、曽根がからかい、ええ人を連呼する場面が好きです。弱者に寄り添い、共に哀しみ怒れる新聞記者でした。
星野源も、実直で生真面目。面白味のない人であるのも伝わるのに、とにかく好人物に映りました。はんなり演じているのに、突出した存在感があり、彼の心の痛みや罪悪感こそが、正義なのだと思います。あの懐深い妻が、信頼するのも納得でした。
そして宇野祥平の惣一郎。とにかく痛ましい彼の半生を描く場面では、涙が出て仕方なかったです。魂の抜けた彼が、阿久津と曽根に出合い、再び生きる意義を見出すまでを演じ抜き、多くの場面をさらって行きます。こんな良い俳優だったなんて、びっくり。賞レースに必ず食い込むはずです。
映画の翻訳家になりたかった望。父親が娘に与えたのは、私の記憶が正しければ、サンローランのペンでした。サンローランはファッションブランドで、文具のブランドではありません。同じ高級品なら、モンブランではないかしら?そこに高ければ良い、高いものだと人に自慢できれば良い、そういう父親の思考が透けて見えるのです。その後の家族の顛末の象徴のように感じました。
私を含めて、大人は正しい価値観を身につけなくてはいけないです。
惣一郎の一世一代の場面に自慢の腕を奮い、上等なスーツを送る曽根。「私」が「彼ら」に出来る事も、きっとあるのだろうと思います。食堂の夫婦のように。
今年屈指の秀作です。コロナの第3波が来ている今、お勧めするのは恐縮ですが、是非劇場でご覧下さい。
11月15日(日)
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