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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「マネーボール」
観ていて私が痛感したのは、大リーグは本当にビジネスなんだなと言うこと。花形選手で活躍していても、「トレードだ」と言われれば、呆気に取られても口答え一つせず、荷物をまとめます。降格させられる選手も同様。懇願したりしない。その事を危惧するピーターのシーンも出てくるので、彼らがこれほど自分を「商品」だと認識しているとは、一般のアメリカ人も知らないのかも?見事なプロ意識です。その他高額なお荷物選手は年俸の半分をつけて放出、そうすればお金の損益は半分で済み、どうしても欲しい選手はトレードにお金を付けて獲得、来シーズンは利益を付けて「売ろうと」する。大リーガーは日本の選手よりトレード歴が多いですが、なるほど、こうなっていたのか。いやはや、本当にシビアです。
最終手段で監督を追い込んだビリーの作戦が功を奏して、投打が徐々に噛み合ってきたアスレチックスは、快進撃を驀進します。ここにトレードが入り試合の場面が入り、コンバートされた選手の心情などが挿入され、個人的にはサスペンスを観ているくらい、心臓が鳴ります。実際に試合を見ている時の感覚に似ていました。
もう一つ当時の日本球界を彷彿とさせたのは、怪我や高齢で他球団でポンコツ扱いされた選手の再生で、これは当時南海でプレイングマネージャーだった、あの野村克也がやっていた事です。見事再生された選手の代表が江本孟紀。私は野村は嫌いですが、今頃彼のやっていた事を目の当たりにして、先見のあった人なんだと感心しました。
勝てば官軍、統計野球の快進撃に世論も付いていきますが、「この好調には、幸運も混じっている」と言うアナウンサーの言葉が印象的。それを象徴するような出来事に、再生選手・ハッテバーグの意外な働きを持ってきたのには、人情も感じます。野球はやはり意外性のあるスポーツで、市井の人々の心に夢を運ぶものだと感じました。
苦い過去を常に振り返り続けるビリー。その姿は自警とも心の疵とも取れます。短気で自我が強く、でも人に対して必要不可欠な礼節は保つ彼。「商品」としての辛さは、彼が一番知っているのです。大リーグの持つ華やかな夢と冷徹なビジネスの溝に、一番葛藤があったのが彼自身だと伝わります。
ビリーはドライでシビア、しかし生身の人間の温かみを感じさせます。離婚していて、今なお元妻や娘と友好な交流があります。生き甲斐や妻子を守るのではなく、心の支えにしている様子は、過度にホームドラマ的なウェットさに流れず、スパイス程度でグッド。この男に家庭の匂いは似つかわしくないです。実際のブラピは6人の父親となり、円熟味を感じさせる演技が今回素晴らしいです。幸せそうな妻子の様子は、彼の男としての格も上げています。
忘れちゃならないのが、ピーター役のジョナ・ヒル。おデブちゃんで人の良い彼のクレバーな姿は、きっと文系のオタク系男子の評価アップに繋がるかも?野球は良く知るものの、やった事のない人間の意見が的を得ていたというのは、何だか痛快じゃないですか。見事は片腕ぶりでした。他にはホフマンが登場のシーンから、どこから見ても大リーグの監督@オッサン系に仕上がっているのを観て、びっくり。彼の持つ優れた演技力を発揮する場面は少なかったですが、やっぱり抜群の存在感でした。
ラスト、ビリーの選択は、「このGMとしての最高額の契約金こそ、あなたの結果だ」と言う助言とも意見とも取れる、ピーターの一言が決めたと思います。思えばあんなに強かった阪急の監督だった西本幸雄は、一度も日本シリーズで優勝したことがありませんでした。阪急を辞めてすぐ、近鉄の監督になったときは、本当にびっくりしたけど、監督は監督の夢を追い続けたのでしょう。ビリーはビリーで、ビジネス哲学としての夢を追った選択は、ファンからも浪花節的に感じられて両方満たされるものです。やっぱり野球には夢が必要不可欠と言うことです。このラスト、本当に素敵です。
野球は私より知っているはずの夫の感想は、意外や「ようわからん、眠かった」そうで、なら別に野球が好きじゃなくても面白いかな?と思います。逆説的過ぎるかしら?私には今年ベスト10入りする作品になりそうです。
11月17日(木)
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