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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「八日目の蝉」
人とは全く違った環境で育った恵理菜。誰も自分を愛してくれず、母の心の中に棲む鬼は、自分のせいだと思い込んでいます。そんな彼女が、不器用で同じように心に傷を持つ千草の後押しで、希和子に愛された日々を思い出す過程で挿入される、過去の日々。一つ一つが美しく印象的です。住民票も保険証もなく、やがてこの素晴らしい日々が終わりを告げるのは、希和子自身が一番よくわかっていたはず。その日が来た時、娘のために最後にした事は、刑事たちに「この子は晩御飯を食べていません。よろしくお願いします」でした。

母親と言うのは、子供が幼い頃一番気にするのは、食事と睡眠です。希和子はもう二度と娘には会えない、刑務所に入る、世間の罵声が待っている。そんな絶望より貴和子が心配したのは、娘の食事でした。この思いは母親だけが持つ感情です。彼女が立派に「母親になった」証しだと思いました。

とにかく泣いて泣いて泣きまくりました。女優陣が本当に素晴らしい!彼女たちが泣く度、私も泣きました。誰も彼もが私の心に入ってくるのです。永作博美は多分今年の主演女優賞候補に挙がるでしょう。小池栄子は、後姿に卑屈さがいっぱい。妙な馴れ馴れしさも彼女の素性が明かされると納得で、愛おしくなります。本当にどんな役でもこなせるようになったね。井上真央は元気いっぱいの彼女しか知らなかったので、こんな内面に陰りのある役がこなせるなんてと、びっくりしました。特筆すべきは、森口瑤子。子供の前で形相しか見せられない母の不幸を、ありったけの力で表現していたと思います。彼女の好演なくば、恵津子はただの敵役だったと思います。

赤ちゃんと渡辺このみちゃんの素晴らしい演技は、どうして引き出したんでしょう?監督の苦労が忍ばれます。前作の「孤高のメス」も観ていますが、医療や母性を題材に、人生の喜びと哀しみを真摯に切り取る様子は熱く、とても真心のある監督さんだと感じています。

ラスト、涙ながらに自分の人生を選択した恵理菜は、きっとこれから二人の母の自分への愛が、理解出来る事だと思います。恵津子も失われた日々を取り戻せるでしょう。そして出来れば恵理菜の選択を、誰か希和子に伝えて欲しいと思いました。それは恵理菜からの赦しだと思うから。

05月05日(木)
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