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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ヨコハマメリー」
ガンの進行が進むメリーさんは、故郷の老人ホームに住むメリーさんを探し当て、慰問の訪れます。元次郎さんの歌う姿に、心が震えるほど聞き入る私の目に飛び込んだのは、白塗りを止めたメリーさんの姿でした。穏やか微笑を浮かべる美しい老婦人は、確かに公家のような涼しげな顔立ちで、とてもとても長年娼婦をしていた人には見えません。汚れのない魂の美しささえ感じさせます。白塗りの影に隠された、この気高さや純粋さを、彼女を愛した横浜の人々は、見抜いていたのですね。メリーさんの素顔を見た途端、登場したお年寄りたちの語る戦後の横浜の様子も、一層の真実味を帯び、輝きが増すように感じられました。

昨今の昭和ブームを見るに付け、その真ん中の36年生まれの私は尊い時代に生まれ多感な頃を過ごしたことに、感謝したい気持ちになります。昭和のような、人として誠を生きる時代はもう来ないのか?と思いきや、この作品の監督の中村高寛はまだ30歳。メリーさんを初め、この作品の老いた語り部たちに対し敬いの気持ちと労いの眼差しが感じられます。山崎洋子は自著の中で、無縁墓地の捨てられたハーフの子達を、「メリーさんの子供達」と呼んでいます。その子たちが子供なら、中村監督はメリーさんの孫。歯を食いしばり、風雪に耐えて日本を復興させた、生き残ったメリーさんの子供たちが育てた、大事な孫です。監督の異形の人を見つめる目の温かさに、昭和の誠実さを感じた私でした。中村監督には、是非「淀川長治物語」を撮って欲しいなと思います。

05月27日(土)
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