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鈴木君たちのシュールな一日
信井柚木
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2002年09月09日(月)
山本クン、バイト中

 ――カランカラーン

「いらっしゃいま・・・あー鈴木クンと佐藤クンだー!」
「よう、労働中だな」
「・・・客を指差すんじゃねぇ」
 土曜日の午後。
 たまたま予定の空いた鈴木と佐藤は、そういえば近くだっけ、と二人連れ立って
山本のバイト先に来ていた。
 いつもは得体の知れないバイトが多い山本だが、今回は喫茶店のウェイターである。
「珍しく普通の仕事だな」
「えーっ鈴木クンなにそれー珍しくってなんだよーっ!ボクいっつも普通の仕事してるじゃんかー」
「宇宙人相手のツアコンは、普通とは言わねぇんだ」
「あーっそれ差別なんだーっ」
 ぶいぶい言いながらも二人を席に案内し、水を運ぶ。
 コップを運ぶところを見る限りでは、なかなか手馴れている様子だ。無駄にバイトを重ねているわけではないということか。
「あ、別のテーブルで呼んでるなー。悪いけどメニューそっちにあるから見ててくれるー?また来るしー」
「おう、客は待たせるなよ」
「ふーんだ」
 笑いながら山本を見送った佐藤は、一足先にメニューを開いていた鈴木の「むぅ」という唸り声にひとつ瞬いた。
「・・・どしたんだ」
「いや・・・見るか?」
「? ああ」
 メニューを受け取り、ペラリとめくった佐藤は――思わず突っ伏す。
「お待たせー二人ともオーダー決まったー?」
「・・・・・・」
「あれー佐藤クンどーしたの」
「佐藤、何をしているんだ」
「・・・どうしたもこうしたもねぇ」
 佐藤が机の上に開いたメニューには――



・軽食
『フレンチトースト パワーボム風味』
『レモンパスタのハラペーニョソース』
『メロンとブルーチーズサンドの三色盛』

・ドリンク&甘味
『アイスコーヒー(レインボー・フラワー)』
『アイスティ(黒・白・煉瓦)』
『抹茶クリームソーダのカラメルソース』
『黒蜜豆と練乳のトロピカル風』
  etc・・・



「・・・ゲテモノ屋かここは」
「しっつれいなこと言うんだもんなー佐藤クン」
「山本」
「なにー鈴木クン」
「俺、マンドラゴラ風フレンチサラダ」
「食う気かお前は!」



2002年09月11日(水)
昔のこと そのに

『おのれ、悪のニクキュウ星人め! もう逃げられないぞ、観念しろ!』
『がはははは・・・! それはこっちのセリフ。
 カニサラダン、今日こそキサマとの決着をつけてやるわ』
 怪獣の高笑いに、対峙する影はくっと奥歯をかみしめる。
『いくぞ! とぉ!』
 人間のものとしてはいびつなシルエットが宙を飛んだ。
 ボコンという音を立てて顔面に命中した蹴りによろめき、怪獣は「ぐぅ・・・!」と唸った。
『やるな・・・だが!』
 カッと口を開き咆哮する。

  GAOOOOOO・・・!

 衝撃波がカニサラダンを襲った!
『しまった!』
 左腕が半ばから外れ、コトンと足下に落ちる。
 深刻なダメージを負いながら、彼は諦めなかった。
『くっ、まだだ・・・・・・まだ戦える!
 私は決して悪に屈しない! この命に代えても!』
 キッと目を上げ、最後の力を振り絞る。
『正義の力思い知れ! くらえ! カニサラダン、スーパーファイナルアタック!
 叫ぶと同時に、残った右腕を高く掲げ怪獣に突きつけた。

 ――BEEEEEM!!

 腕の先から、光線が迸る!
『ぐわあぁぁぁぁぁぁ・・・!! オノレ・・・・・』
 断末魔を残し、怪獣は炎上した。
『はぁはぁ…ふっ、よかった。正義は・・・守られ、た――』
 炎上を見届けたカニサラダンもその言葉が最後だった。
 片腕を失った身体は、ゴトンと音を立てて倒れこみ、それきりピクリとも動かなかった。

 そして残ったものは――。



「センセー、佐藤くんの貯金箱が燃えちゃいましたー」
「うわあぁぁぁ! おれの自由研究がー!!」
 謎の炎上を遂げた佐藤(小五)の夏休みの宿題――牛乳パックで作った怪獣型貯金箱と、同じく謎の損傷が見られる鈴木の作品、フィルムケースなどでかたどられた人形「鈴木二号」の姿だった。



2002年09月16日(月)
= 設定 改訂版? =

毎度、信井です。

「適当」「行き当たってバッタリ」がテーマの創作帳・・・なのですが。
なにやら、随分と気に入っていただけた気配がありますね(笑)
ありがとうございます。

ですが。
「鈴木君のシュールな一日」
(もしくは「佐藤君とシュールな友達」?!)
・・・これの、信井に与える影響は大したものでして(笑)

これ書こうとすると、脳内から「VC」が吹っ飛びます。

いや、冗談抜きに。
ぼちぼち新作を書かねば、なのですが・・・のっとられるんですよね。
くらくら。

ということで今回は、当初思いついたままに書き連ねていたモノ以降に変化した部分、そして追加?されたコトについて。



◎鈴木君
 身長:180くらい?
 両親とも元々は田中安田市の出身。市外で結婚し、後に田中安田市内にマンション購入。鈴木君は幼少期・・・おそらく幼稚園入園直前に引っ越してきた。
 ・・・のではないかと推察(笑)

◎佐藤君
 身長:167.7。
 引っ越してきた鈴木と知り合い、それ以降・・・切っても切れない関係。
 『天然マイペース』でなければ鈴木と付き合い続けることなど出来ないだろう、という指摘があり(笑)、それじゃあそうなんだろうということで人物像確定。
 『突っ込み屋さん』と評判が高いですね(笑)
 ・・・最初は傍観に徹するはずだったのに、思い切り『巻き込まれ型』になってるし。いつのまにか『方向音痴』のスキルが付いてるし。
 おまけに、脇役筆頭からW主人公扱いになってるし!(驚)
 熱烈なファンがいるということは、彼にとっての幸か不幸か。
 ちなみに、なぜ彼だけ身長の値が明確(しかも小数点以下まで)なのか、理由は信井に個人的に訊いてください。ここで書くには・・・(笑)

◎山本君
 身長:170前半?
 いつのまにやら弟がいる山本君、バイトを続けているのは・・・はて?<オイ
 どこかしらの「なり茶」で『人助けみたいで楽しい』などと言っていたので、趣味の範疇かもしれません。
 とりあえず、まともなバイトは数えるにも足りないほど。
 一度、ある後輩に「鈴木君」を読み聞かせ(笑)したところ、彼のセリフで息が上がったのはある意味予想通り。

◎小林君
 予想外キャラ。
 ある茶室で「小林は(でないの)?」とリクエスト(?!)があり、突然誕生。
 ちなみに大方の予想通り、正体は『地球人外』(笑)
 それでも、時折主人公より常識的、もしくは人類らしく見えるあたり・・・鈴木の人間人類としての存在意義がピンチ。
 というか、ヤツにあるのかそんなもの(笑)

◎高橋女史
 予想通りキャラ(笑)
 信井がメインで書いている(はずの)「VC」シリーズの某お姉さんキャラと似ていることについては、
『非常識キャラの中で叱り役ともなれば、この程度のこと仕方あんめぇ』
 と店長からのコメント。ていうか、店長あんた何者。

◎学校
 変り種教師陣を放し飼いしてるは、卒業制作とはいえ『グ○コ』もどきを校内に放置しているわ、小林が転入しても何の問題はないわ・・・。
 以上の点からして、私立高校と推察。
 男子の制服は学ラン。
 というよりも、ヤツらにブレザー・ネクタイのイメージがなく(笑)

◎遠藤先輩
 いまだ未登場(笑)
 佐藤の先輩。
 いや、正確には鈴木の先輩でもあるんですが。
 家が近いらしいので小学校からの。
 ちなみに道場の息子。の予定。



今のところは、こういう感じで。
今後もまだまだ変わったり増えたりするでしょうが、そのときはそのときということで(笑)



2002年09月20日(金)
『他力本願』なのです(笑)

えーとですね。
今現在、信井の創作活動のメイン「ウィルトゥース・クロニクル」の新作にかかっております。
「鈴木君と佐藤君」は、あくまでも合間を見て書くモノ扱いです。
・・・最近、一番集客力がありそうだ、というのはさておき(笑)

ま、あまり放りっぱなしというのもなんなので。
ここはひとつ・・・That's『他力本願』!(笑)

ということで、皆様おなじみ「いきなり次回予告」さん利用です。
どうなるやら。

−−−−−−−−−−

 佐藤「臨兵闘者皆陣列在前!」
 取り壊し前のアパートで怪現象がという依頼を受け調査に出向いた佐藤。
 そこに憑いていた地縛霊・山本は、これまでにない強い怨念を持っていた!
 佐藤に乗り移った山本が語る鈴木の隠された悪事とは!?
 次回「除霊ディティクティブ 佐藤」、
   「恨みつらみの山本」に…「怨霊、退散!」


・・・・・・佐藤君、霊能者でしたか?!(笑)
鈴木の隠された悪事って、考えるだけで膝から力が抜けそうです。
違う意味でロクなことしてなさそうだ・・・。

−−−−−−−−−−

 恋人の復讐に生きる男佐藤……
 エイリアンの死体から再生された巨人鈴木……
 鈴木と唯一対話出来る少女山本……
 彼らの見る未来は………
 アルジェント佐藤リリース開始

エ・・・?!
鈴木の正体って、そうだったのか!(笑)<もちろん冗談です

−−−−−−−−−−

 佐藤に振られた鈴木は毎晩泣き続けていた。
 そんなある日、枕から新種のキノコ山本が生えてきて・・・?
 部屋の中のモノを取り込み、日に日に成長を続ける山本。
 ついに鈴木にも危険が!
 次回『合法ドラッグ山本!?幻覚が鈴木を襲う!?』

鈴木、ついに佐藤に見捨てられましたか(笑)
ていうか、山本・・・(遠い目)

−−−−−−−−−−

 「許してお母ちゃあんっおねしょしたオレが悪かったよォォ!」
 ぺこぺこと土下座しながら謝り続ける勇者山本。
 「いやぁぁぁっ!アフロが・・・っアフロの大群が来るゥ!!」
 頭を抱えながら泣き叫ぶ聖戦士佐藤。
 二人に術をかけた魔術師鈴木は嘲笑を浮かべた。
 次回「きゅうり鈴木襲来!!」
 きゅうりの着ぐるみを着た鈴木のニヒルな笑みの真意やいかに!?

・・・・・・。
『きゅうりの着ぐるみを着た』『魔術師』鈴木・・・。
妙に説得力あるのはなぜ?

−−−−−−−−−−

 やあ!僕は山本。アイドルグループ、ミラクル・ボイスのメンバーさ。
 けど僕たちの本当の正体は、正義の味方ボイスレンジャー!!
 佐藤と鈴木と一緒に悪いやつらをこらしめてやるぜ。
 新番組「ボイスレンジャー」僕らの『声』が悪を裁く!!

・・・違和感なさ過ぎ(笑)
さて、佐藤君一言どうぞ!
佐藤「俺を巻き込むんじゃねぇっつったろーが!」



今回はこのあたりで。
・・・ってまたやる気?(笑)
ちなみに「いきなり次回予告」さんは、信井のリンクページから行けます。
興味ある方はどうぞ〜。



2002年09月26日(木)
『いつもと違う』(笑)同窓会

 時期は高1の冬です。
 えー。
 今日はいつもと違ったテイスト。
 違いすぎるので、読みたくない人は読まないほうが良いかも。
 というか、リク?ですし(笑)

−−−−−−−−−−

 田中安田市立 田中安田第三中学校、三年一組の第一回目同窓会が開かれたのは、中学を卒業して九ヵ月後 ―― 卒業と同年の年末、という実に気の早い話であった。

「お前どうするんだ?」
「ああ、その日はどうしても外せない用件があるからな。後から行く」
「へぇ・・・そうか。じゃ先に行っとくぞ」
「そうしてくれ」

 という会話を交わしたのが前日のこと。
 用件を済ませ、元級友の親が経営する喫茶店へと向かった鈴木が目にしたのは ――

「おそいぞ、すずきー!」
「・・・・・・」

 佐藤を取り囲み、なぜかきゃあきゃあと盛り上がっている女子たちと、上機嫌ですっかりできあがっている佐藤であった。
 幼馴染の前には、空になったワンカップが三本。そして今もその手に一本。
「・・・」
 どうやら、誰かがアルコールを持ち込んだらしい。なにをしている未成年ども。
 しかも、

「なぜフリル・・・」

 びらびらのブラウスとスカートを装備させられている佐藤少年。そしてたった今、リボンが追加装備された模様。
 本人素面なら、このような格好に仕立てさせるなど到底許すものではない。

「あ、鈴木君ー! 見て見て、似合うでしょー!」
 という女子からの問いかけに、
「―― そうだな」
 としか言いようがないというのは、どうしたものか。

「あははははは、すずきへんなかおー!」
 ピンクのリボンで髪を結われたまま、大笑いして鈴木を指差す佐藤。
 いつもの突っ込み屋?な姿は影も形もない。
「佐藤、お前酔ってるな」
「そうかー? あーうま・・・しちゅーおかわりー」
 ニコニコと空になった皿を差し出す佐藤。
 それこそ、何かのタガが外れたように笑顔全開である。
 鈴木はこっそり息を吐いて、机の上に並んだ空のカップをもう一度確認する。
 空は三本。
 そして、手の中にはカップに残り三分の一。
 長年の付き合いから佐藤の酒量を把握している鈴木 ―― だからお前ら未成年じゃ・・・―― は、シチュー皿を抱え込み黙々とスプーンを動かす幼馴染へ控え目に声をかける。
「佐藤、お前そろそろ ―― 眠くないか?」
「・・・しちゅー、ぜんぶたべたらねる」
「いや、ここでは寝るなよ?」
「・・・うごくのめんどくさい」
「・・・・・・・・・・・連れて帰ってやるから」
「ん、わかった」
 天井を仰いだ末の鈴木に、スプーンをくわえたままで佐藤がコックリ頷いた。
 すっかり退行している佐藤に遭遇するのは、年に一回程度とはいえ ―― 毎度手間がかかる。大弱りするようなだだをこねないだけ、助かるかもしれない。
 慣れもあるが、いつも色々巻き込んでしまう・・・らしいことへの礼もある。
 一応。
 ・・・よくわからないのだが。

 そうして、ほとんど意識のない佐藤を背負う鈴木に、元クラスメートの一人がしみじみと頷いた。
「お前らって、卒業しても変わんねぇよな。相変わらず名物コンビだぜ」
「そうか?」
「ああ。お前らの面倒って、やっぱお前ら同士にしか見れねぇよな」
「・・・俺たちはそこまで問題児か?」
「いや、問題児じゃねぇよ。ほらあれだ・・・一歩違う世界の人間ってやつだな」
「・・・・・・」
「おっ、気をつけて帰れよ」
「ああ、またな」
 軽く手を上げて店を出て行く二人を見送った少年が、ふと呟く。

「で・・・鈴木(あいつ)何しに来たんだ? ていうか、そういや佐藤あのまま帰ったな・・・まいいか」



2002年10月01日(火)
徒競走見学中?

 パン、パパパーン・・・!
 わあぁぁ――っ

 設営されたテントの下で、二年五組の四人がそれぞれの表情でグラウンドを眺めている。
 学校の体育祭は明後日・・・のはずだが、大きな用具の設営が終了しているグラウンドでは、今まさに『リレー競争』の本番真っ最中であった――。

「おお、盛り上がってるな」
「なんかさーこういうノリのいい曲聴いてたら自分まで走りたくなったりしない?!うわーなんかウズウズしてくるなー!」
「み・・・皆も楽しそうだよね。・・・わぁ、デットヒートだ」
「行けーそこだまくれー!!」
「や、山本くん・・・それなに?」
「えーっ、競争とかで盛り上がってるの見てたら言いたくならない?!」
「へ、へぇーっ。そういう時の掛け声なんだ・・・そっか」
「・・・・・・」

 納得している小林に、接着剤を片手にして佐藤が溜め息をついた。

「・・・小林、それ違う」
「え、え?え? そ、そうなの、佐藤くん」
「山本も間違った知識教えるんじゃねぇ」
「なんでだよー、競馬競輪競艇、全部競争じゃんかー」
「そりゃそうかもしれねぇが、徒競走とは違うだろ!!
 つか、お前それ全部出入りしてやがるのか?!」
「えーまさかーあははははははは」

 けろっと笑う山本の隣で、
「あ。またこけた」
 鈴木がポツリと呟いた。
 と、ほぼ時を同じくして・・・


 ――ガシャガシャガシャ、バリン!


 派手に破壊音が響き渡る。
「くっそ、またか!!」
 佐藤が毒づく目の前で、四人のいるテントまでわらわらと何かが運び込まれてくる。それと同時に、四人は運び込まれた大きな陶片にせっせと接着剤を塗りたくっていく。
「おっしごっと、おっしごっとー♪」
「・・・楽しそうだなオイ」
「えーっだってさー、こーなんか立体のジグソーパズルやってる気になんない?」
「ふむ、言われてみればそうだな」
「でしょでしょー!」
「お前ら・・・」
 作業する手を止めて、佐藤は深く深く溜め息をついた。
「ジクソーパズルは勝手に動かねぇ。ていうか、徒競走してる最中にこけたりもしねぇ」
「仕方ないだろう。体が大きい上に足(コンパス)が短いから、突発的な事態に対応しきれないんだ」
「問題はそこじゃねぇ」
 とだけ言って、佐藤は現在修復中の等身大土偶を憂鬱そうに眺めた。


 そう、普通の土偶は歩いたり走ったりしないものだ。
 ましてや、集団で徒競走など――。


「ていうか、なんで俺たちこんなことやってんだ」
 『保健委員』として借り出されてしまった我が身を嘆きながら、佐藤は今回最後の陶片に接着剤を塗りたくり空いている穴にはめ込むと、ドライヤーの電源を入れた。

 ゴーッ・・・

「ほら、乾いた。終わりだ終わり」
 スイッチを切ると、やや疲れたように脇の机に道具を投げ出す。
『%#△*◎□△vvv』
「はいはい、もうこけるなよ・・・」
 感謝の言葉を述べてくれているらしい相手に、なげやり気味に手を振って、佐藤はぐったりと椅子に伸びる。
「ったく・・・誰がこんな面倒ごとを・・・」
 そんな佐藤の呟きに反応した人間がひとり。

「えへ?」

「・・・お前か。やっぱりお前か山本ーーー!!!
「まぁいいじゃんかーこれバイト代出るしー」
「金さえ出れば何でもいいお前と一緒にするなー!」
「お金だけじゃないよー、だってすっごい困ってたみたいでさー運動会やりたいのに場所がないってー。ほら、ちょうどボクらのトコ運動会近かったしさーだからリジチョーに話ししたらレンタルしてくれるってー。で、ついでに救急隊もいるだろーからってボクらが雇われることになったんだよー。えっへん」
「へ、へぇ・・・人助けなんだね」
「そうなんだよねー!」
「・・・」

 えっへん、てのはなんだ山本。
 そもそも・・・『人』助け?
 いや、そんなことより。

「・・・レンタル?
 こいつらから金とってやがるのか。
「ほほう、さすが理事長。転んでもただでは起きないな」
「感心してる場合か鈴木」
「しかし、これで今年の単位はバッチリだ。不測の事態が発生して一時行方不明になったとしても間違いなく進級できる」
「お前、いつの間にそんな取引してやがる。
 ていうか、そういう事態が起きること前提に話を進めるんじゃねぇ! 大体そういう時には俺が巻き込まれてるだろうが!」
「心配するな、四人分まとめての話だ」
「俺が巻き込まれること前提に話してんじゃねぇ、ってことだ!」

 ガシャガシャン――!

「・・・」
「おお、今の大声に驚いたようだな」
 すぐそばで起きた土偶の将棋倒しを眺めて、鈴木が淡々と原因を指摘する。
 嗚呼、魔の連鎖反応。
 再び陶片にせっせと接着剤を塗りたくりながら、佐藤は手元の破片を目の前の患者の頭に前衛的角度でくっつけたくなる衝動と必死に戦っていた。



2002年10月07日(月)
行く川の流れは絶えずして・・・

「? 鈴木、何見てんだ?」

 一緒に歩いていた幼馴染が、川べりでふと足を止めたのに気付いた佐藤は、訝しげな顔で鈴木に歩み寄った。
 鈴木はちらりと佐藤に目をやり、
「あれなんだが・・・」
 川面を指差した。
 ぷかぷかと漂いながら川面を流れていくそれは――、

「・・・枕?」
「ああ、枕だな」

 白いカバーのついた長方形の物体。
 ちょうど旅館などで使われるそれと、寸分たがわぬサイズ。
 紛れもなく枕である。
 上流・・・流れてきた方向を眺めた佐藤は、視線の先に旅館街があるのを見てとり、やや納得の表情を浮かべた。
「そっか、多分枕投げの残骸だろうな」
「ああ。多分それは、な」
「・・・」

 多分、それは?

 嫌な響きの一言に、佐藤は鈴木を問いただすべきか、聞かなかったふりをしてその場を立ち去るか一瞬躊躇する。
 ――少年よ、その一瞬が命取りだ。
「ほら、あれ」
 佐藤少年は、つい鈴木の指し示す方向を眺めて――激しく後悔した。
「・・・や、やっぱり見るんじゃなかった」
 枕の後を追うように角を曲がって流れてきたのは、

「手足がついているな。一見、枕っぽいがよく似た姿の異世界人・・・だろうか?
 おお、溺れている
「冷静に溺れてるとこ眺めてんじゃねぇ!」

 じたばたと、もがくように水面を浮き沈みしている似非枕。
 川に入るべきか、とガードレールに手をかけた佐藤は、

「うわーっお客さーん!!」

 ひどく聞き覚えのある声に、再び動きを止めた。
「お客さん大丈夫ですかー?!」
「・・・山本?」
「あーっ鈴木クンと佐藤クンだーよかったー手伝ってよー!!」
 ダッシュで駆け寄ってくる勤労少年の笑顔に、佐藤はつい身をを翻して逃げたい衝動に駆られる。
 今までの経験に裏打ちされた予感と、それに基づく反射を、いったい誰が責められようか。
「山本。一体どうしたんだ」
「鈴木クーン!これ使ってお客さん拾ってよー!」
 そう言うなり、山本は手にしていた魚とりの網を、槍投げの要領で鈴木に向かって放り投げた。
「ふむ。よしわかった」
 カラコーンと足下に落ちてきた網を取り上げると、鈴木は川下に向かって走る。
 ・・・意外と早い。
「あーよかったー!ボクひとりだったら間にあわないかと思っちゃったよー!」
「・・・で」
「佐藤クンなにー?」
「今度は、何のバイト中なんだ?」
「えーツアコンだよー!」
「またか」
「ツアコンは何回もやってるんだけどねー、今度のはさー『学生の枕投げに混ざってみよう』体験ツアーなんだー!」
「・・・」

 そんなものに混ざってどうするというのだ。
 しかも・・・あの姿。

「混ざるっつっても、あれじゃ投げられる側だろうが?!」
「うん、あたりまえじゃないかー、あれじゃあ投げる側には入れないよー?」
 至極当たり前の口調で、それがどうしたと不思議そうに尋ねてくる山本。

 それで楽しいのか?!

「このツアーさぁすーごい人気なんだよー、でも参加資格が保険に入ってることっていうくらいスリリングでさー、それも人気の理由なんだよねーあはははは」
 ケロリとして笑う山本から視線を外すと、網を持って意気揚揚と帰ってくる幼馴染の姿が嫌でも目に入る。
「・・・なんでアイツと街を歩くと、こういうのに当たるんだ・・・」
 長年の謎は、未だに解けそうにもない。