デイドリーム ビリーバー
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2003年01月20日(月) プレゼント

お互いへのクリスマスのプレゼント。
予定していたジャケットが、のきなみ予算オーバーで
年明けのバーゲンで買うことになった。

とは言え、二人とも人ごみは苦手なので、
年末から健康に気を使い、その日は、万全の体制でのぞむことにした。


当日は、テンションあげないと、ということで、戦争ごっこ。

「中尉!この階のやつらめ、なかなか粘るようですな!
 先に男物にしかけますか!」
「いや、コムサに隙が見えるぞ。たたくなら今だな。」
「よし、突撃〜!」

て。そこまでやる必要は、なかったのかもしれないけれど。
何とか予算内に、満足のいくジャケットを買うことができた。


ただ、気になるのは、予想通りとはいえ
彼の支払額が私の支払額を、大幅に上回っている点。
そりゃ、男たるもの、そうありたいのだろうけど
私としては、他にも何かあげたいなあと思っていた。

そこで私から提案。
「せっかくだから、あとで交換しようよ」
「いいねー!いいねー!プレゼント交換やな!じゃあ、映画みたいに
 晩ごはんの後に、テーブルで交換しちゃったりする?おれ、トムな」

なんだか、かっこつけた映画っぽい格好をするので、
てっきり、トム=ハンクスだと思ったら
「ちゃうわ!トム=クルーズや!」って言ってました。
私はトムハンクスの方が好みですが。

ていうか、今日の夕食は、トンカツでしょうが。ごはんおかわり自由の。
トンカツ屋にトム=クルーズはいないって。トム=ハンクスもいないけど。
「そうやった!トンカツは譲れへんしなあ。じゃあ、後であそこ行こう、久々に」
って、夜景のきれいなビルの名前をあげる。

今日の彼は、なんだかとっても上機嫌だ。いや、デートの日はたいてい
機嫌がいいのだけれど、その中でも今日は格別。

そういう私も、上機嫌だった。
歩きながら、ふと気を抜くと、ニヤッと含み笑いをしてしまう。
交換をすぐにしなかったのには、それなりのわけがあって。


しばらくして、トイレに行った私は、化粧コーナーで
そっと包みを開いた。

実は私、この日のために、手帳を作っていたんです。

彼は以前から、新しい手帳を欲しがっていた。
デートのたびに探したけど「これ」っていうものは、なかなか見つからない。
忙しさを増す仕事のスケジュールと、独立のためのたくさんの活動。
毎日の細かなスケジュールと、週単位、月単位、3か月単位と、
すべての流れも、わかりやすく書きたい。
理想が高すぎるっていうのはわかってんねん、2冊もちかなーなんて
彼も、ほとんどあきらめていた。

その彼のリクエストを、ほぼ完璧に満たす、オーダーメイド手帳。

手作りって、馬鹿にしちゃいけません。
私はこう見えても、職人のはしくれだったので
見た目には、手作りとはわからないような、なかなかの出来。
皮も、いいの使ったしねえ。ちょっと高かったけど。

それを、こっそり入れて、包みを元に戻しておいた。




家に帰って、鏡の前でジャケットを着て、マフラーと合わせたりしながら
そろそろかな、と思っていたら
「ギョエー!」というメールがきて
いろいろ打つのが面倒くさかったらしく、すぐに電話がかかってきた。

「なにこれ、なにこれ!え、売ってた!?まさか」
「作ったんだよーん」
「そうやんな!?そうやんな!?でも、こんな…いや、宙ちゃんなら
 作れるんか。でも、すごいで、これ!売れるで!」

いや、売れないって。売るにしたって、すごい値段になるって。
だてに文具メーカーの人も、頑張ってないよ。

「それよりどう?いいかんじ?」
「いいかんじどころか、完璧やん!」
「差し替えできるようになってるけど、金属のリングじゃないでしょ?」
「うんうん!」(指をつめそうな感じが、イヤらしい)
「高速の領収書も、もうなくさないよね?挟むだけだし」
「うんうん!」
「好きなペンもついてたでしょ?取り外ししやすいし、直しやすいでしょ?」
「うんうん!」
「電卓も、使いやすいようになってたでしょ?」
「うんうん!」
「でも、そのわりにかさばってないでしょ?」
「うんうん!」

どう?私ってすごい?て、おどけて聞いたら
「宙ちゃん天才や!最高!すげー!もう数年は何もいらん!ずっと使う!」
と、予想をはるかに上回る喜びようで
ああ、プレゼントっていいものだったんだなあ、って思った。



思えば私、プレゼントって、ずっと苦手だった。

長く使えるようなものは、それを使い続ける間ずっと
縛り付けられているような気持ちになりそうで、いやだった。

どうしてもって言うなら、食べ物か、切花がいいって、思っていた。
すぐになくなるから。

だから手帳って、勇気がいった。だって最低でも一年は使うわけで。

ケンカしたら。彼に他に好きな人ができたら。
別れてしまったら。もし私が死んだりしたら。
この手帳の存在が、負担になるんじゃないだろうか。そういうことを。

考えてみれば、私はずっと、そういう風に生きてきた。
何かの責任をとる自信が、なかったからなのかもしれない。

だけど、今回のジャケットは、長く使えそうなものを選んだ。
手帳をプレゼントしたのも、これはわたしなりの、覚悟。
最低あと一年はつきあうぞという。…一年かよ。



ありがと、ありがとって繰り返す彼に、はいはいどういたしまして、おやすみって
電話をきってから、もう一度鏡の前
ジャケットの前身ごろを、キュッとひっぱって直したら、
右ポケットに異物感があった。
かえのボタンだなと思って、でも
あれ、さっきタグと一緒にはずしたけど、と思って
手を差し込んだら

リップが一つ、入っていた。

実は私、リップマニアで。
これは確かに、今年一番のお気に入りリップ。
あ、と思って、左のポケットに手を差し込んだら
季節外れの、クリスマスカードが入っていた。



“本当はクリスマスに渡そうと思っていたけど、宙ちゃんが
 バーゲンで買おうと、色気のないことを言い出したので”

…ごめんなさい。

“宙ちゃんといると、毎日が楽しくて、一年があっというまに”

“これからも、ずっとずっとずっと、二人で楽しく頑張っていきましょう”



こんなことなら、私もカードぐらい書けばよかった。

手帳とか、最低一年とか、そんなレベルの覚悟じゃなくて
ずっとずっとって、「ずっと」を百万回ぐらい書けばよかった。

慌てて電話をかけ直したけど、彼は出なかった。お風呂らしい。
とりあえず、メールで
「ぬりぬり。ぬりぬり」って送ってみた。




本当は、職人の仕事をやめてからは、革売場なんて近づけなかった。
どうしても捨てることができなかった道具も、もう一生
出すことはないだろうと、押入れの奥で埃をかぶっていた。

だけどこの計画を思いついたとき、出そうって、自然と思った。
もう決して仕事に使われることのない、かわいそうな道具たちだけど
久しぶりに握ったら、なんだかじんわりとあたたかい気がした。

自分の中で、決着がついていたっていうことに、やっと気付いた。




しばらくして、お風呂からあがったらしい彼から
「キャー!間接キッス!」ってメールがきたから、笑ってしまった。
この男、ぬったのか。この、うるおいつやつやリップを。

あらためて電話して、
部屋で一人でリップをぬる姿がヘンタイっぽいよとか、二人でゲラゲラ笑って

「ありがとう」って言ったら、彼が
「宙ちゃんには負けるよなあ。俺ももっとすごいのにすればよかった。
 せっかく驚かそうと思ったのに」
と言うから
「そういうんじゃないの!そういう問題じゃないの!」って言って

もう一回「ほんとにありがと」って言ったら
彼の嬉しそうな笑い声が、受話器の向こうから聞こえた。

今日の昼間、私の隣で、ずっと聞こえていた声だった。



そうか。
彼も今日一日、ずっとニヤニヤしていたんだ。
私と同じで。相手がびっくりするだろうなって
その顔を思い浮かべて。一日中、ニヤニヤがとまらなかったんだ。

同じだったんだ、私と。
同じ気持ちだったんだ。

あの高揚感も。自然と笑ってしまう感じも。
計画を思いついたときの、あのワクワクした気持ちも。


手帳を作っているとき、
彼の喜ぶ姿を思い浮かべては、ドキドキがピークになって、叫びだしたくなって
作業が手につかなくて、何度も中断した。

仰向けに倒れて、さすがに叫ぶわけにもいかないから
両手で口をおさえて笑いながら、足をじたばたじたばたさせてた。

作ってる間、彼のことばかり考えてた。
いとしくて、いとしくて、たまらなかった。




彼も同じだったらいい。

ポケットに何かを隠そうって思いついた時
カードを選ぶ時、メッセージを書いている時
リップを選んだ時、リップをこっそりぬってた時
そして、多分あのトイレで、包みをこっそり開けてた時

私と同じように
嬉しくて楽しくてワクワクして

そして私をいとしいと

いとしくて、いとしくて、たまらないと

そんな風に思っていてくれていたなら、いい。


2003年01月04日(土) おもいださないで

大人になって、別々の道を歩き始めた友人達は、みんな
日々の生活や夢にせいいっぱいで
昔をなつかしがって会うなんて、今はまだできない。
年に一度の年賀状だけが、唯一目に見える、つながりのしるしだったりもする。

彼にもそういう友人は何人かいて、その一人から年賀状が届いたらしい。
「こどもがうまれました」と。

嬉しそうに、私に電話で報告。

「写真、めっちゃかわいいねん。めっちゃかわいいねん。」って
私と彼の子供だったら、多分私に似てお腹がまるいだろうとか(ムカッ)
そんなことばかり
でもなんだかすごく楽しそうなので、私も楽しくって、つい

「○○君って、確か前に、結婚式に出席した人だよねえ?」って
いらないことを、きいてしまった。


彼は
「んあっ!?うん、そうそう…」と微妙な返事。

あれ?去年の春に結婚した人じゃなかったっけ?
高校の同級生じゃなかったっけ?
式が神戸だったから
式の翌日、私が新幹線で大阪に行って、そのまま二人でUSJに行った

「神戸の…」と言いかけたら
「いや、あの、横浜の…」
彼の言葉が言いよどんだ。


横浜。結婚式。
頭の中、がちゃがちゃと嫌な音をたてて、パズルが組み合わさる。

一度だけ彼に見せてもらった、写真の中。
春。
ラズベリーピンクのワンピース。
ワインで赤くなった彼の顔。
彼と彼女のくもりのない笑顔。

前の彼女と、一緒に出席した結婚式。

二人の共通の友達じゃない。「彼の」友達の結婚式。
そこに二人で出席した、そういう結婚式。

「いつかきっとこの人と」と、きっと彼が思った日。




彼は、以前なら、こういうとき
「大丈夫やからな。俺が今好きなのは、宙ちゃんやからな」って
何度も何度も言った。

今はもうそんなことは言わない。
ただ「よしよし、よしよし」って。

「彼が今一番好きなのは私」
それは、私もよくわかっていて。
私がそれをわかっているっていうことも、彼はよく知っている。

考えてもしかたがないことを考えて、落ち込むのだということも
つきあって1年経った今、彼はよく知っている。
だから、ただ「よしよし、よしよし」。

そんな彼をやさしいと思う。愛されていると思う。
私は多分、とんでもなく欲張りなのだ。


だって例えば、いくら彼が今一番私を好きでも。

彼女といた8年の間で、彼女を愛しいと思ったその量と
この1年で、私を思った量とでは。
彼女を一番愛しいと感じた、その時の思いの深さと
私を愛しいと感じた、その時の思いの深さとでは。
どちらが。

そんなことを、繰り返し繰り返し。




お願い。
思い出さないで。
彼女のこと、一瞬も思い出さないで。
私のことだけ考えて。私のことだけ好きでいて。


…なんて、嘘。
そんな、醒めたら消える夢のような
にせものみたいな、あやふやな気持ちじゃなくて。
彼女のこと思い出しても、たとえ偶然再会しても
決して揺らぐことのないような、ほんものの気持ちで、クリアな頭で
それでも私を好きでいて。




…だけどやっぱり。

やっぱり、思い出さないで。
あなたが夢を見ているのなら、醒めなくていい。
思い出もすべて消してしまって。
熱にうかされたような、恋のままでいいから
真実の愛になんてならなくてもいいから
ずっと私のそばにいて。

私だけを、好きでいて。


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