あまおと、あまあし
あまおと、あまあし
緑の揺籠 2005年03月30日(水)

緑ちゃんは本当は、青い色が好きなのです。
それは夏休み、遠い所にあるお婆ちゃんの家へ行って見る、海の色です。もう一人のお婆ちゃんの家から見える、山の色です。
濃い青も、薄い青も、どんな青でも緑ちゃんは大好きです。だから、絵の具箱の青色のチューブは、真っ先になくなります。当然なのです。
だけれど緑ちゃんのママは、緑ちゃんの名前を「みどり」と付けたほど、緑色が好きなのでした。

いいえ、たぶんママが好きなのは緑色ではなくて、と、考えたところで緑ちゃんは止めました。その先を考えても、ちゃんとした答えは出ないのです。だって緑ちゃんはママではないし、ママは緑ちゃんではないのですから。

緑ちゃんの部屋は、緑ちゃんのおうちのたった二坪の庭に面しています。東南の角のお部屋ですから、一番日当たりの良い場所のはずなのですけれど、そうはいきません。
南向きの窓から見えるのは、空を覆うヒルガオやヘチマの天蓋と、その下に所狭しと植えられたリュウオウノヒゲやムラサキシキブや、名前も知らない草花です。どんなに激しく夏の日が照りつける日でも、緑ちゃんの部屋に差し込むのは、緑色の葉を透かした沼のそこのような光なのです。
ここに越してきたとき、たった一本の梅の木だけが家族を迎えてくれました。いっそ寂しいほどの庭で、白い花を懸命に香らせていた梅の周りを、ママが沢山の植物で埋めるようになったのは、いつからだったでしょう。
緑ちゃんがどうしてもピアノのレッスンを続けられなくて、泣いて止めさせてもらったあの日からでしょうか。それとも、タンシンフニンしているパパが送ってくれた空色のワンピースを、三日もの間脱がないで、ママを怒らせた誕生日の日以来でしょうか。

小さい頃の事は、はっきり思い出せません。緑ちゃんに解るのは、いま目の前にある庭が、緑色で埋め尽くされているその事だけです。
白い服の似合う隣のお姉さんが、時々ひょいと顔を出して緑ちゃんに笑いかけた、フェンスの隙間もテッセンで塞がれてしまいました。
庭にある隙間という隙間、地面という地面をぜんぶ塞いだら、ママはどうするつもりでしょう。

(今度はあたしのお部屋を、森にしてしまうかもしれないわ)

その手始めがきっと、緑ちゃんの着ている緑色の服なのでしょう。
蓬の若芽の色をした靴下に、葵の葉っぱのワンピース、露草の色のリボン。クローゼットの中は既に、緑色で溢れています。

(もう、種はまかれているんだもの)

今は土の色をしている絨毯の上に、緑ちゃんは寝転がります。日の差さない部屋の中はひんやりしていて、本当に土の上に寝ているような気がします。
忍び寄ってくる夢は、きっと緑色をしているでしょう。

(苗床はあたし)
緑ちゃんは目を閉じました。
するんと眠りが、芽を伸ばします。

/ぎゃー 2005年03月26日(土)


ここ二日ほど、自分の中でどうも違和感があって、もやもやしていたんですが、今日ありったけ少ない脳みそを使ってみた所、自分がやった失敗に思い至りました。
まんま。あり得ない。
自分の記憶力の無さにも落ち込みますが、面識も無い方を相手に失礼をしてしまった事とか、いや、一番やったらいけない事だろう、という点に関して言い訳のしようも無い事態に愕然としております。
気づいている方も気づいていない方も、あの場に居合わせた皆様には深く謝罪をいたします。
ネットに書いたものはまあ、削除できますけど。
やってしまった事は取り消せないのですよね。

ああああ。
とりあえず、ごめんなさいとしか言えません。

orz

(M,m,えむ) 2005年03月25日(金)


緑ちゃんは小さな女の子で、口癖は「あたし絶対〔 〕になるの」
だけれど口が回らないので〔 〕が繭なのかマムなのか全く別の
何かなのか、聞き取れたためしがないのです。
いつも緑色の服を着せられている緑ちゃんの家の、二坪ほどの
小さな庭には梅の木があって、その下にはムラサキシキブやドクダミ
やリュウオウノヒゲやフウセンカズラがみっしり植えられていて、
その上にヒルガオとヒョウタンの棚がふたをしているのですけれど、
緑ちゃんに緑色の服を着せる緑ちゃんのママは、まだまだ植える気なのでした。
緑色のジャングルの中で緑ちゃんは小さな蛙のようで、
うっかり見失ってしまわないかいつも不安になるのでした。

雨がわんさか降って町中が熱帯雨林のようになったその年、
緑ちゃんのママが新しく植えたスイカズラの匂いに酔ったきり
私は緑ちゃんを見てはいません。


水玉記念日(春の獣) 2005年03月20日(日)

許しているような顔をしながら
水を集めているあなた
春は冷たいものだ
空は、ましてや

草いきれのことや
木陰のことや
量りにかけなければならないたくさんの
事があったはずなのだけれど
いっときだけ陽がさす、その景色を
どうしても分かちあいたかった
灰色ばかりではない、と
雨のしずくであっても

ふりかえり、あなたは落として
向こう側の人になる
泉は溢れなかった
私のひづめには苔が生えた
ただ、それだけの事だった

さしのべて、再び水を集めるあなたの
許している顔を雨は撃ち抜いている
私はうなだれ
水の色など考えながら草を食んでいる
名づけることは、ないだろう



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 著者 : 和禾  Home : 雨渡宮  図案 : maybe