2006年02月28日(火)  カレー食い放題。
 
休日の正午前、彼女が突然「カレーバイキング行こうよ」と言いだすのでキレイな顔して何を言っているのだこのコは。カレーバイキングって何だ。カレー食い放題ってことか。カレー食い放題って。カレーなんて一皿食ったら腹一杯になるではないか。バイキングまでして食うものなのか。よほど腹が減っていたとしてもニ杯が関の山だよ。
ニ杯食おうと思ったら何もバイキングじゃなくて普通のカレー屋でニ杯食ったらいいじゃないか。何だカレーバイキングって。そんな腹減ってねぇよ。
 
でも君が行きたいというのなら例え火の中水の中。本場のカレーが食いたけりゃ、インドの山奥まで行ってみせようぞ。みせようぞえ。みせようぞなもし。あー。行きたくねー。せっかくの休みだしさー。今日そんな動いてないしさー。パンでいいよパンで。お昼は菓子パン1個でいいよと言っていた1時間後。
 
「あなたこれでもう最後にしてっ!」
 
カレーバイキングで2杯続けて平らげて、ナーンを4枚食べて、サラダ1皿食べた後、3杯目のライスを取りに行こうとしたときに彼女にマジ顔で止められるほどカレーバイキング最高。ちょーうめぇ。バイキングだけあって何種類ものカレーが並んでる! あれも食いたいしこれも食いたい。
 
チャイなんていうミルクティのような飲み物をガブガブ飲みながら汗ダラダラ流して食えば食うほどインドの秘境のスパイスが食欲を刺激して何杯食っても食い足りないぜ。グッジョブ我が恋人。こんな素晴らしい店を知ってるなんて。よーし最後の締めはキーマカレーだ! あ、カレーは最後だけど、フルーツポンチは食べるってことだからね。勘違いしないでよ。今度の休みもカレーバイキングだぁ!
 
「もう絶対連れてこない。この大食漢。お腹出たら別れるからね」
 
玩具を買って貰えない子供のように、未練がましくカレー屋の看板を何度も振り返りながら彼女に手を引かれて強制帰宅。午睡してビーフ。
 
2006年02月27日(月)  功名と焦り。
 
まぁ大衆ってのは毎日の生活が大変でテレビのニュースなんて2・3週間もしたら忘れちまうに決まっているので永田議員の入院はまさに大衆心理を突いた上手い作戦だと思うわけがなく、
 
「せんせーい。その問題の答え間違ってますよ!」と、授業中に威風堂々と教師に間違いを指摘し、「……? ……合ってるじゃない」と、教師に冷静に切り返された中学の友、杉山クンを思い出さずにはいられないこのニュース。
 
永田議員と杉山クンが違うところは、担任を「お母さん」と呼ぶ級の赤っ恥をかいた杉山クンは精神的に極めて不安定な状況で、クラスの前に出ても混乱を招くだけ。しばらく休養させ、彼自身で正しい判断ができる状況になるのを待ちたいという親の意向で入院することなんてなかったということで、
 
永田議員は判断能力が回復した段階でしっかり話をするとは言っているが、杉山クンは判断能力が回復する間もなくその数年後に悪い友達を作ってシンナーやら窃盗やらで病院に入院どころか更正施設に強制収容される羽目になってしまったのだが、永田議員と杉山クンの唯一の共通点といえば、あの嫌味たらしい二重まぶたというところでありました。
 
2006年02月26日(日)  よーくわかるよー。
 
『当時はポピュラー5〜高松みづきさん(29才、新婦)』という演劇を観に行く新宿に雨に打たれて。彼女の友人が出演しているという。どの人だろうどの人だろうと思いながら、まぁ舞台に出てきたら彼女が耳元で教えてくれるんだろうなと思って観ていたら舞台が終了。
 
帰りの新宿駅で「君の友達っていったいどの役の人だったの?」と聞いたら「あぁ、あのロングヘアのギター持った可愛い子」と言う。結構いっぱい出てたのに。どうして教えてくれなかったのだろうこの子はと思うけれども、彼女はこういう人間で必要なこと以外はあまり話をしない。というか教えてくれなきゃわかるわけがないから教えて欲しかったと思うけれども、訊ねなかった僕も悪いわけだしね。
 
と、なぜ上演中に僕が訊ねなかったかというと、舞台に集中していたからであって、なぜ舞台に集中していたかというと舞台が面白かったからであって、特にオアシズの大久保佳代子。光浦靖子の相方の。めちゃイケであんまり面白くないあの人。すごく面白かった。あの人は演劇で光る人なんだなぁと思った。間とか表情とか本当にプロだった。
 
ストーリーはとある夫婦の披露宴前に起こる様々な人間模様を背景にしたドタバタコメディという書いている僕自身でさえびっくりするようなおおまかな説明だが、役者さん全てが「間で笑わせる」という非常に高度なテクニックを持っており、その微妙な間が新たな微妙な間を生み、結果的にパイプ椅子に座布団がついていたのが心憎い演出で、2時間尻を痛めることなく笑えたということかしら。
 
2006年02月25日(土)  不条理バトン。
 
■今日は何ですか?
□休み。
■どうして?
□どうしてってそりゃあ婦長さんが決めたシフトだから。
 
■今日は休みですか?
□なんだよ。仕事でいいよ。
■どうして?
□じゃあ休みでいいよ。つか休みです。
 
■お休みの日は何して仕事?
□わけわかりません。まぁ休みの日も原稿書いたりするんで仕事といえば仕事。
■血液型は何座ですか?
□獅子型です。
 
■ブログ以前にあなたの再構築が必要なのでは?
□余計なお世話です。
■ブログを始めてよかった。
□だ、誰が?
 
■ポストに不在連絡票届いてますよ。
□嘘つくなよ。
■小人が、
□洗濯物たたんでくれましたよ。
 
■そのジャンルで好きなアーティストは?(3個くらい)
□げぇ。どのジャンルか聞いてなかった。つか言ったっけ。
■通勤手段と通勤時間を教えて下さい。電車の方は路線もお願いします。
□自転車で10分。マンション出てしばらくすると職場見えてきて陰。
 
■何人目の彼女ですか。
□数えると途中で混乱してきていつもやめる。
■そのジャンルで好きなアーティストは?(3個くらい)
□どのジャンルなんだろう……。
 
■バトンをまわしてくれた人にお礼。
□ほんとありがとうございます。
■次に回す人に会釈。
□ほんとよろしくお願いします。
 
2006年02月24日(金)  そして奇跡。
 
現在は仕事以外はほとんど彼女の部屋で生活していて、自分の部屋には洗濯と原稿を書く時に帰るくらいでもうすげー汚い。ゴミの日の朝も彼女の部屋にいたりするものだからゴミとかすごい溜まっている。のは嘘でした。ここで生活していないのでゴミも必然的に出ないのでした。
 
まぁ彼女の部屋でからくりTVみながらケラケラ笑ってばかりいるのも申し訳ないので、彼女が仕事の日で僕が夜勤明けもしくは休日の夜は手料理を作ってあげることにしました。僕が。もう4・5年料理を作っていない僕が。
 
付き合って間もないので彼女の好みもあまりわからない状態でさて何を作ろう。冷蔵庫には何があるのだろう。と、白菜とネギと人参と豚肉。食器棚を空けるとカレー粉。よし、スープカレーにしよう。
 
と、1時間後、全然美味しくないスープカレーが完成して愕然。捨てようか迷っていると彼女から今から帰ると電話。どうしよう。オリジン弁当で何か買ってきてもらおうかしら。彼女が帰ってきてスープカレー指してコレナニって言われたら残り物集めて大家のペットのエサ作ってましたとでも言おう。
 
と思いながらも捨てるのが惜しくて、もうちょっと料理の場数を踏んでいれば応用が利くものの、付け焼刃で料理なんて始めてしまったからスープにコクも旨味も全くない。「スープカレー」というよりは「カレー風味の汁」みたいなものになっている。なぜ味が出ないんだ。
 
と、食器棚を漁っていたらコンソメスープの素が出てきて、煮汁でスープの素を溶かして投入。片栗粉も出てきたので大さじ1杯投入。そして奇跡。彼女帰宅後舌鼓。僕大喜び。世の中コンソメスープの素があったら大抵なんでもできると思った。
 
2006年02月23日(木)  粉雪。

「こなぁぁぁゆきぃぃぃねぇ、こころへふーふふーん、はらはらはらはぁー、あっあーああー」
「知らないんだったら歌わなければいいのに」
「だって好きなんだもんこの歌」
「好きだったら歌詞覚えればいいのに」
「覚えるほど好きではないんだなぁ」
「あなたそういうのばっかり。何にだって真剣に取り組もうとしない」
 
「でもこの歌手の歌ってこれしか知らない。ロミオレメンだっけ」
「ちょっと違う。ロメオメロンよ」
「うそ? メロン? ロミオメロン?」
「ロミオじゃなくてロメオ」
「なんか違うような気がする。スピッツが曲名だと思ってた感覚」
「なにそれ」
「ロビンソンがグループ名だと思ってたんだよ」
 
「で、結局正解は? ミレオメロン?」
「降り積もる雪雪雪またゆきぃぃぃよぉぉぉ」
「わ。曲変わってる」
「津軽には七つの雪が降るぅとかぁぁ」
「それ知ってる。『津軽恋女』でしょ」
 
「こな雪、つぶ雪、わた雪、ざらめ雪、みず雪、かた雪、春待つ氷雪。あ、わかったレミオロメンだ」
「どこでわかったのよ」
 
2006年02月22日(水)  独り占め。
 
彼女の部屋ではタバコが吸えないので毎日ベランダで吸っているのだが、ベランダは寒くてしょうがないので、よっぽどタバコが吸いたい時じゃないと吸わないようにしている。でもこうやって暮らしていると「よっぽどタバコが吸いたい時」なんてあまり訪れなくて、毎日僕がタバコを吸っているのは「軽くタバコが吸いたい時」なんだなぁと思ったところで禁煙できるわけでもなく、日々は無情に流れていき、肺は目も当てられぬほど黒く染まっていくのである。
 
で、早朝のベランダ。僕はタバコを吸っていて、彼女は鏡に向かって化粧をしている。起床する時間も仕事に出る時間も彼女と同じだが、僕は化粧をしなくていいので、彼女の化粧の時間の分だけ喫煙できる余裕が生じることに彼女は毎日怒っている。小言を言いながら化粧をしている。マンションの下の通りには通学途中の中学生が何十人も列をなして歩いている。
 
「ねぇ。ここに立ってさ、下を見下ろしてさ、制服姿の中学生が通っているのを眺めてるのってさ」
「何よ。忙しいのに。わぁ。今日間に合うかしら」
「こうやってさ、直立不動でさ、下の中学生を見下ろしてるとさ」
「何よ同じことばっかり。何? 何が言いたいの?」
「大行進を見下ろしている金正日みたいな気分になっているんだよ俺は」
「知らないわよ。あーもう真剣に聴いて損した!」
 
朝陽が注ぐベランダで、マイルドセブンの紫煙が揺れる。
一重まぶたの独裁者、階下の行進眺めつつ、君の怒りを独り占め。
 
2006年02月21日(火)  撤退。
 
彼女と自転車で二人乗りしながら近所の商店街を疾走していたら、パトカーに「コラァ。そこの自転車降りなさい」と注意を受けて、うへぇ警察だ。なんでチャラチャラした高校生を注意しないで日頃真面目に働いている者を注意するのだ。あの警官は二人乗りをしている僕しか見たことないかもしらんが、日頃は白衣を着て人の命を救ったりしてるんだぞ。なのになんだ。二人乗りしてるってことだけをクローズアップしやがって。僕のバックボーンを理解せずに二人乗りが悪いってことだけに焦点を当ててパトカー越しに僕を叱っている。けしからん。国家公務員だからっていい気になりやがって。お前だって制服脱げばツタヤでアダルトDVDレンタルしたりするんだろうが。白衣を脱いで二人乗りして何が悪い。ムカツク。ちょーゴメンなさい。すぐ降ります。と、ペコペコしながら商店街から撤退。
 
2006年02月20日(月)  百聞も一聞も。
 
僕は耳が悪いわけでもないのに人の話を1度で聞き取れないことが多い。聞き取れない時は「は?」と訊ねて、言い直したことも聞き取れないときは相手の話の語尾のニュアンスだけを抽出して、「へぇー」とか「なるほどねぇ」とか「そうなんですか」と、曖昧な表現でその場を乗り切ろうとする。だいたい人生なんてものは、聞き逃してはいけない言葉なんてそんな多くないのだ。
 
僕は仕事上でもそのような態度を取ってしまうので、聞き取れずに曖昧な返事でその場を乗り切ったあと、「あの看護婦さんは一体僕になんて言ったんだろうなぁ」なんて思いながら仕事を続けていると、先程の看護婦さんが「さっき頼んだことやってくれた?」なんて言うので、さっき頼んだことを聞き取れなかった僕は「あ、やってません。って何をするんでしたっけ?」なんて間抜けな発言をしたのち、看護婦さんに怒られて涙を流したりする。だいたい人生なんてものは、聞き逃してはいけない言葉が溢れているものだ。
 
2006年02月19日(日)  ここの意味。
 
現在「月刊男心」のアクセスが1日1000〜1500であるのに対して、この「歪み冷奴」は一日150〜250と、実に心細い。「月刊男心」は連載を初めて1年足らずで、「歪み冷奴」は5年である。5年も書き続けているのである。だのに。だのになぜ歯を食いしばり、君は行くのか今日も職場に。
 
と、アクセスが伸びない原因は、「月刊男心」が恋愛がテーマになっているのに対し、「歪み冷奴」の日記は彼女との出来事も書いたりもするが、仕事で感じたことなども書くのであって、仕事のことなんて書かれても面白くもなんともない。恋人のことを書いたり仕事のことを書いたり、時には一貫して訳のわからない文章を書いたりしている。
 
このように「歪み冷奴」には明確なテーマがないだけに、読者が定着せずに5年間も迷走を続け、今日に至るまで真偽が定かではないプライバシーの垂れ長しサイトになっている。今ではもう書き続けている意味すら見失っている。しんどいと思うことも多いが、書き続ければいつかいいことがあると思い続け、今日遂に身長が2センチ伸びていることに気付いた。ほらまた嘘。
 
2006年02月18日(土)  ドコモダケ。
 
どうもドコモダケが好きになれない。もちろんあの歌もムカつく要因の一つだが、キャラクターの顔も加藤あいの起用法もなんだかおかしい。ということを彼女に話すと、「キャラクターの顔よりも、加藤あいの顔がなんだかおかしなことになっている」と、またクールに過激な分析を始めるので、一体それはどういうことだと問うと、「絶対彼女、最近整形したのよ」と、冷静に考えた割には女性週刊誌に書いてあるような結論を述べる。
 
まぁ加藤あいに関しては別にどうでもいいが、あのドコモダケの中途半端に若年層を意識したイメージがなんとも痛々しく、家族みんなでドコモに加入して我々の計上利益プラスに貢献して欲しいというNTTドコモの販売戦略に則って、ドコモダケには子供からお爺さんお婆さんまでのキャラがいて、ドコモダケファミリーみんなで右を向く場面でお爺さんだけ左を向いて慌てて反対に向きなおすという高齢者を馬鹿にしつつ、その高齢者への偏見が無自覚に行われているという製作サイドの無知っぷりにヨシミは憤慨。
 
2006年02月17日(金)  イケフクロウ前。
 
池袋。とある原稿の打ち合わせ。待ち合わせは池袋駅東口のイケフクロウ前。イケフクロウとは、池袋駅東口に設置してあるフクロウのことで、池袋とフクロウをかけてイケフクロウという、ドコモダケのような安易なネーミングの像であるが、池袋駅での待ち合わせといったら大抵この場所で、おそらく出会い系やテレクラの待ち合わせ場所に使っているのだろうと思わせる連中もこの中に混ざっているのであって、
 
初顔合わせの編集者と「あ、はじめまして」「あ、はじめましてヨシミです」なんて他人行儀に挨拶をしている辺り、僕たちのことをきっと出会い系のそれと勘違いしている奴もいるだろうと思うけど、誰がそう思っているのかわからない。そんな猜疑心に満ちた街、池袋。外は雨、原稿の〆切は明日。編集者さんの唇と瞳がキレイ。お茶にでも誘おうと思ったら、打ち合わせが喫茶店で東京には安らげる場所が一つもないとヨシミは憤慨。
 
2006年02月16日(木)  オレッテバカ!
 
職場で使っている歯磨き粉が1週間ほど前に切れて、昼休みの歯磨きが終わったあと、「今日絶対帰りに歯磨き粉買いに行こう」と強く心に誓うのだけど、職場を一歩出ると、できるだけ職場のことは考えたくないという生来僕に備わっている機能が発揮されて歯磨き粉のこともすっかり忘れてしまって、
 
翌日の昼休みに泣きの1回のチューブを捻り出しながら「今日こそ絶対買いに行く。ハミガキコハミガキコハミガキコ」と、昼休みが終わってもコンスタントに脳内で「ハミガキコ」と唱えて忘れないようにしているのだが、午後2時くらいに仕事の忙しさによって「ハミガキコ」と唱えることすら忘れてしまって、
 
そのまま仕事が終わるものだから帰り道にも思い出すことはなく、ただただ一刻も早く部屋に戻って体を休めたいということばかり考えているので、やっぱり翌日の昼休みに、もう泣きの1回すら絶望的なクシャクシャになった歯磨き粉を握り締め、「オレッテバカ! バカバカ!」と心の中で連呼するのである。
 
こういう言葉は部屋に戻ってからも何度も思い出したりする。
 
2006年02月15日(水)  荒れ放題。
 
看護師という職業は、何か一つの仕事をする度に手を洗うような仕事なので手が荒れやすい。荒れやすい僕の右手。この季節はもうボロボロである。彼女が僕の右手を優しく持って、「かわいそう……」と、涙を浮かべて言ったけれど、愛情でこの手荒れが治るのなら僕は今すぐ結婚するよ。
 
白衣のポケットには薬局で買った新ユースキンAという塗り薬と、サカムケアという液体ばんそうこうと、ロートジーファイニューという目薬。目薬は手荒れには関係ない。ただ仕事中の眠気覚ましに使っているだけである。夜勤してると午前4時くらいにすごい眠くなるから。
 
液体ばんそうこうのサカムケア。これがまた痛い。ひびやあかぎれの部分に液体をハケに塗り、それが乾いたら薄い膜が形成されて水や小毒液や彼女の憐れみから守るというものであるが、これってただの接着剤じゃんと思うくらい臭いし染みる。
 
たしかにあかぎれ部分にこれを塗布することによって痛みから守られるが、塗らないことによって感じる痛みより、塗った瞬間感じる痛みの方が遥かに勝っていて、まさに本末転倒のような塗り薬である。だからあんまり使ってない。新ユースキンAも塗ったら手がベタベタして気持ち悪いし、ドアノブにベタベタが付着して、次ドアノブを触った看護婦さんから「なんかベタベタしてる!」って文句を言われるのでこれも使ってない。もうこの冬、心も体も荒れ放題。
  
2006年02月14日(火)  そんなバレンタイン。
 
「ただいま」
「あ、おかえり」
 
と、最近は自分の部屋に戻らずに、仕事帰りに直接彼女のマンションに向かうことが多い。そのまま風呂に入って一緒に眠って仕事に行くという半同棲生活。パソコンのない彼女の部屋は、僕を縛るものが何もなくて居心地が良い。
 
「あなたはどうせLOOKチョコレートしか食べないでしょ」
 
LOOKチョコレート。あの口の中でとろける安チョコレート。いろんなフルーツの味が入っていて、一人で全部食べると具合が悪くなるチョコレート。そんなバレンタイン。LOOKチョコレートが好きなことを知っている彼女からのバレンタインは決まっている。LOOKチョコレート10個パック。
 
「そんなわけないでしょ」
 
彼女は夕食の準備をしながら小さく笑う。鍋の中でグツグツと赤いスープが湯気を立てている。前の彼女もそうだったが、今の彼女も僕が将来太ることを過剰に心配している。そんな僕にLOOKチョコレートを与えるなど言語道断。私の手料理で我慢してね。と、ニコリと笑う彼女を抱きしめる。
 
「こんな美味しそうな手料理を毎日食っていたらLOOKチョコレート毎日食べるよりも早く太っちゃうよ」
「毎日は作んないわよ」
 
クールに呟く彼女の温かい手料理。そんなバレンタイン。
 
2006年02月13日(月)  オレ20点。
 
「昨日の夜はさすがに殺してしまおうと思ったわ」
 
彼女は面白いと思ったときしか笑わず、悲しいと感じたときしか泣かず、殺そうと決めたときしか殺さない正直な女性である。そんな正直な女性が僕を殺すことを躊躇したのは、シーツに血痕がついて洗濯が面倒臭いからと、意外とそういった小さな理由だったのかもしれない。
 
「ねぇ、どうすればいいの」
「そうだね。体位を変えてくれよ」
「いやよ。面倒臭いし、力使いたくないもん」
「そういうときは一回起こしてよ」
「いやよ。せっかく寝てるのに可哀想」
 
「じゃあ殺してくれよ」
「いやよ。シーツ汚れるもん」
「ほらやっぱり」
「何が?」
「なんでもないよ」
 
この問題は、一生僕についてまわるだろう。問題を生んでいる張本人なのに、問題の重大性が全く実感できないという厄介な問題。
 
「イビキさえかかなければ彼氏として100点に近いんだけどね」
「じゃあイビキで何点減点されてるの?」
「80点よ」
「オレ20点かよ」
 
2006年02月12日(日)  小旅行。
 
7時起床。朝から露天風呂に浸り、部屋に戻ると朝食が準備されている。2泊3日の小旅行も今日で終わり。11時にチェックアウトしてレンタカー。東京生活約10年、生粋のペーパードライバーの彼女の運転で東京へ帰る。一度、有料道路との合流路線でダンプカーに残り幅5センチ寄せという大胆なドライビングテクニックを見せて彼女は生き続けて欲しいと思いつつ僕は死ぬかと思った。
 
東京に近付くにつれ、道路は複雑になっていく。途中で運転を交代して助手席で浅い眠りに就く彼女。よほど疲れたのだろう。ハンドルを持っていない僕の左手を強く握り、「パスタ……。カレーでもいいわ……」と、目を閉じたまま寝言のように腹が減ったことをしきりに伝えている。
 
「あーあ。東京に着いちゃった」残念そうに息を吐く彼女の手を引いて、夕暮れの池袋でパスタを食べた2泊3日の小旅行。これから二人で大きな大きな旅行に出るために。
2006年02月11日(土)  足柄の土肥。
 
「ほら、朝ごはんきたよ」
 
という彼女の声で目が覚めた午前8時半。起き上がると同時に部屋の襖が開き、仲居が朝食の準備を始めた。宿をとるなら部屋食である。滅多に朝食を摂らない僕も朝からおかわり2杯である。目が点になっている彼女に3杯目のおかわりを要求したらお腹をつねられて朝から悶絶。
 
彼女はというといつの間にか朝風呂に入っていて朝からえらい色っぽい。腹をつねられて悶絶しながら悶々とした気分になりつつ、露天風呂に赴き1時間近く浸かったあとマッサージチェアに腰掛けたまま30分ほど就寝。部屋に帰ると彼女は再び布団の中に入っている。予定は何もない。強いて言うならば、こうやって好きな時に好きな事をすることが目的だといえよう。
 
正午過ぎ、腹が減ったので外に出ようと浴衣から洋服に着替えて日曜日なのに人っこ一人歩いていない湯河原の小さな温泉街を歩きながら不動滝という落差15メートルの滝を見上げて、滝の右側に何やら奉られているものがあって賽銭でも投げようかしらと名を読むと出世大黒尊と書いてあり、これ以上出世を望んでいない僕は、5円玉を投げ込んだがために危うく4月の勤務異動から看護師長に昇格するところであった。
 
不動滝近くの茶屋で味噌おでんを食べながら、彼女はおしるこ、僕は甘酒を飲んで暖を取ったあと、再び温泉街を歩き出し、やはりすれ違う人が一人もいないので、この町はもう死んでいるのではないかしら。万葉の時代から愛されてきたこの名湯の地も、平成という混沌の時代に負けてしまったのではないか。でも、この静けさはどこまでも僕たちの体を心を癒してくれるのではないか。
 
ホテルに戻る途中の土産屋で試食という試食をつまんでいたら彼女に腹をつねられた。
 
2006年02月10日(金)  湯河原。
 
神奈川県の湯河原に来ている。熱海でも箱根でもなく湯河原なのは、彼女は過去に熱海にも箱根にも旅行に行ったことがあり、まだ行ったことのない湯河原に行きたいと希望したためで、熱海と箱根は静岡県で湯河原は神奈川県だということすら知らなかった僕は、彼女に言われるがままパンツ、靴下、Tシャツを各2枚ずつ、洗面道具とカメラを準備して午前9時、池袋の日産レンタカーで車を拝借して東名高速で3時間にも及ぶ渋滞に耐え、2時間も露天風呂に悠々と浸かっていたため彼女は不機嫌。先に寝てしまった。
 
僕はホテルの自動販売機でビスケットにバニラアイスがはさんであるちっとも美味しくないアイスを食べながら、何という名の川だかわからないが、ホテルの下に流れる川のせせらぎを聞きながら午前0時。この日記を書いている。
 
ホテルの案内を読むと、島崎藤村、夏目漱石、芥川龍之介、安井曽太郎など多くの文人墨客がこの地を訪れていると書いてあり、物書きのはしくれである僕も何かしら文学的な思いに耽りたいところだが、先程購入したアイスが200円、缶コーヒーが150円、彼女が目覚めた時に飲ませようと思って購入したペットボトルのお茶が200円と、法外な値段に憤慨するばかりでちっとも平静を保つことができない。ビールなんて700円もする。
 
彼女が寝返りをうった。テレビではトリノオリンピックが流れている。寝てるかと思って先程テレビを消したら、「ちょっと見てるんだから」と言ってまた寝てしまった。可愛いと思う。美しいと思う。早くお風呂に入ってくれと思う。
 
このホテルには2泊滞在する予定である。他の予定は何もない。
 
2006年02月09日(木)  こんな関係。
 
僕は夜な夜な何かしらの文章を書いている。それは原稿だったりただの日記だったりブログであったり。ギャラが発生するものもあればただの自己満足で書いているものもある。
 
僕は文章を書いている。理由はよくわからない。原稿よりセックスの方が好きだし、表現より傾聴の方が気が軽い。
 
彼女は僕が文章を書いているということに全く興味を表さない。時々この日記は読んでいるようであるが、原稿の内容やライターという仕事そのものにさえもまるっきり関心がない。「今度の原稿、読んでみて」と勧めてみても、「うーん……あとで」と、まるで素っ気ない。そして結局読まない。
 
「あなたは結局、何の仕事してるの?」
「だからモノを書いてるんだって」
「なんで?」
「なんでって、人生が退屈だからさ」
「私がいるのに?」
「だから君がいない時に文章を書いてるんだ」
「私がずっとそばにいたら?」
「そりゃ書かないさ」
「嘘」
「まぁ嘘だけど」
 
僕は文章を書いている。彼女はそれに関心を示さない。
僕は言葉を紡いでいる。彼女はそれに興味を持たない。
 
よくわからないけれど、こんな関係は意外と心地よかったりするのである。
 
2006年02月08日(水)  オーラの泉。
 
僕は度々彼女との会話のなかで、心理学の知識を用いるのであるが、彼女は心理学を「当たり前のことを難しく言ってるだけ」と、鼻から否定する。その割には細木数子やオーラの泉の江原啓之を崇拝していたりして、しかも彼等の言っていることを鵜呑みにするような洗脳状態に陥っているのではなく、非常にクールに受け止めつつ肯定するというモーグルのコークスクリュー720のような高度な技を披露しながら僕を魅了しているということについて。
 
2006年02月07日(火)  被暗示性。
 
彼女は料理なんてできないしたくない面倒臭いとか言ってるクセに、しっかりと夕食を作って僕の帰りを待ってたりする。しかも全然美味しくないゴメンね失敗しちゃったもう作らないなんて言ってるクセに本当に美味しかったりする。
 
またこの作りたくない美味しくないと言っている彼女はちっとも嫌味っぽくなく、本当に作りたくないんだな自信ないんだなと感じさせるところが上手いというかそういう上手い下手を感じさせることなく、彼女はただ自己評価が低いだけで、ちっとも自分の能力を認めようとしない。
 
でも結果的に自分を否定しながら良い方向に持っていくという、こういう傾向の人間は自分に自信を持つととてつもない力を発揮すると以前読んだ心理学の本に書いてあり、こういうことを「被暗示性が高い」というのであるが、「キミの料理は美味しくないよ」と僕が言うときっと彼女は「そうよね」と言う。
 
しかし逆に考えれば「私って料理が上手い!」「すっぴんでも全然キレイ!」なんてポジティブな暗示にもかかりやすいということで、僕は物事をとにかくポジティブに考えるよう常日頃から彼女に説いているのである。今夜はクリームシチューでした。
 
2006年02月06日(月)  ケラケラ。
 
テレビを見ながら阿呆のようにケラケラ笑うのは、一人で住んでいると結構気付かずに第三者から指摘されてようやく気付くものだったりする。というわけで僕はテレビを見ながら大声でケラケラ笑うことを彼女に指摘されて自分の笑いのレベルの低さに辟易しているのである。ケラケラ。
 
「しかしあなたってホントに悩みがなさそうな笑いかたするわよね」
「ケラケラ。そんなことないよ。つかテレビの面白さと人生の悩みは無関係だろう。ケラケラ」
「悩みがないから下らないことも面白く感じるのよ」
「ケラケラ。そんなことないよ。僕だって悩み事の一つや二つ。三つ未来の大物だ。ケラケラ」
 
彼女が風呂に入っている間、結構真顔で我が身を振り返っていたりする。
 
2006年02月05日(日)  荒廃セレクション。

最近は公私共に多忙を極め、ゴミを出すのも洗濯物を干すのも忘れがちで生活が荒廃しきっているが、荒廃しながらも美容院に行ってカットとカラーをする余裕があるということは意外と暇な時間もあるということで、そういう時間を利用してゴミを出したり洗濯物を干したりすればいいのだが、ゴミを出したり洗濯物を干したりしていると美容院に行く時間がなくなるのであって、部屋は綺麗だが髪はボサボサ。髪はサッパリだが部屋が荒廃。どっちを取るかと言われれば、僕は迷わず君を取る。
 
2006年02月04日(土)  乾燥注意報。
 
1月30日に国家試験が終わって1月31日から2月の4日まで6日間休みがない。今日は夜勤なので2月5日の朝まで合計7日間働き通しである。体ボロボロである。仕事終わって彼女の部屋で気を失ったように眠って朝起きてまた仕事である。体がしんどいばかりにろくに愛も語れない。こんなに好きなのに飯食って寝るだけだから彼女からヒモだと言われる。悔しい。
 
国家試験終了後初めての休日である2月6日月曜日は、とある媒介からのインタビューがあって、顔写真も撮るということなので午前中のうちに美容院に行かなくてはならない。髪の毛で年齢とか哀愁とかをごまかさなければならない。ということではなくて、たまの休日もゆっくり休めない。ゆっくり体を休めたい。
 
でもそのインタビューは結構重要なものなので気が抜けない。気が抜けないということは気が張るということで、気が張るということはたまの休日に精神の安定すら望めないということである。臨めないということである。どっちが適した漢字なのかわからないほど僕は疲れている。洗濯物は部屋干しした方がなぜか早く乾くということを昨日発見した。僕の部屋も心も乾いているのである。
 
2006年02月03日(金)  はこーぶ はこーぶ は・こ・ぶ! ちからこぶ!
 
駅から近くて信じられないくらい収納が多くて広くてキレイな彼女の部屋に転がりこんでもう数十日経つが、こういう部屋に住んでいると1Kの小さな僕の部屋がもっと小さく見えて、たまに自分の部屋に帰るたびに小さな溜息が出るので、この部屋に住んで1年と半年。そろそろ引越ししようかなぁなんて考え始めたのである。今。たった今。この部屋に久々に帰ってきたから。
 
でも引越しで消費するエネルギーの膨大さを骨の髄まで理解している僕は、そうそう簡単に引越しを計画しようという気にはなれない。気力体力経済力。この3つの力が同時に備わってこそ引越しを実行できるのであって、今は国家試験が終了して間もないので気力があんまりない。体力も自信ない。経済力はちゃんと働いて節制してればなんとかなるけど家のローンもあることはあるしね。
 
というわけで昨年田舎に購入した一軒家。僕はまだ購入してから一度も行っていない。母親に電話するたびにそれはそれは快適に暮らしているようで、部屋が余っているのでお前も田舎に帰ってくればいいと母親は言うけれど、田舎に帰れば給料が下がっちまうのでローンが払えなくなる。だから帰りたくても帰れないと母親に言っているけれど、その気になれば田舎でも働いて稼いでいけるのであって、田舎に帰りたくない理由は、やはり引越しで消費する膨大なエネルギーをなかなか充填できないからである。
 
2006年02月02日(木)  うどんのムチ。
 
彼女の名前を呼び間違えてしまう。これは由々しき事態であって、今までそのような愚行など1度もないのに、今回2度も3度も4度も5度も言い間違えてしまうのは、今の彼女と昔々の彼女の名前が一文字違いであって、今の彼女がエミだったら、エミと呼ばなければならないところでエリと読んでしまう。
 
「あ、そういえばさエリ」
「……」
「あ、また言い間違えちゃった。……ゴメンね」
「……」
「あちっ!」
 
という具合に二人で鍋を囲んでいるときに、彼女はうどんをムチのように使い静かに鍋のスープを僕に飛ばすのである。何も間違えようと思って間違えているのではない。何も今の彼女に昔の彼女の面影を重ねているわけではない。ただ単に1文字違うというだけである。ということを説明すればするほど、
 
「言い訳はよして」
 
と、彼女は自らの殻に篭ってしまう。由々しき事態である。こんなに愛しているのに。お鍋まだ半分残っているのに。それにしても彼女がお鍋を作る手際の良さといったら特筆すべきものがある。というのに。褒めてるのに。褒め殺してるのに。このまま言い間違え続けてたら僕はホントに殺される。ホントごめんなさい。
 
2006年02月01日(水)  ヒモでもいい。
 
二月である。一月は行く。二月は逃げる。三月は去る。四月になっても死なないぞ。でも国家試験の合格発表が3月31日で場合によっては四月に死ぬ可能性もある。あんなに勉強して不合格になるなんてありえない。
 
でも何だってありえるのが人生であって、実際の話、精神保健福祉士の国家試験が不合格になったとしても仕事に支障が出ることはないのだが、つーかこの資格取ったら仕事が増えることは明白であんまりいいことないのだが、人生は1度しかないわけだしね。リセットできるかもしれんがセーブはできないわけだしね。取れる資格は取っておきたい。資格いっぱい取って自分で自分の首を締めてそれでも虚勢を張って生きていきたい。
 
というわけで二月である。二月。これといって何も予定がない。試験勉強が終わって燃えつき症候群である。何をやっても無気力無関心である。ぽかーんと口開けて彼女がゴハンを入れてくれるの待っている。雛鳥のように。テレビに向かってピーチクパーチク言っている。それを彼女はヒモだという。ヒモでもいい。君がいるなら。
 

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