2005年03月31日(木)  転倒。
 
僕の彼女はよく転ぶ。いや、転んだところなんて見たことないけど、「転んだ」というメールをよく送信する。彼女にとって「転ぶ」とは一体何なんだろうか。実際に激しく転倒しているのだろうか。それとも何かしらの物事の成り行きが他の方向へ変わったことを暗に伝えようとしているのだろうか。何かの事態がある方向に向かっているのだろうか。
 
>こけた。痛い。
 
たった5文字のメールを僕に送ってくるのである。そりゃ返信にだって困るのである。「大丈夫? 怪我しなかった?」という返信で精一杯である。
 
そして何分待っても返信は来ない。僕は彼女がこけたことにたいして大丈夫だったか怪我はなかったかすらわからない。彼女は「転ぶ」ことによって、そしてそれを報告することによって、彼女の中で何かが解決、もしくは終結しているのだ。
 
>階段で、転んだ。
 
たった6文字のメールを僕に送ってくるのである。このメールは場所が特定してあるので、暗喩的な「転ぶ」ではなく、実際に転んでいるのかと思われるが、このようなメールを受け取った以上、やはり怪我の有無は気になるわけで、「大丈夫? 怪我しなかった?」と、いつもの返信。
 
そして何分待っても返信は来ない。僕は彼女が階段で転倒したという情報しか入ってきていない。彼女はどこへ向かおうとしていたのか、それから立ち上がってどこへ向かったのか僕には全く知る術がない。
 
彼女は今日も転ぶ。
そして立ち上がる度に携帯片手に彼氏にメールする。
 
2005年03月30日(水)  東京働女100。
  
先日、「東京働女100」というフリーペーパーの創刊号が発行されて、巻末に短編を掲載してもらっているので、店頭や駅で見かけた時はタダなので、是非みんな手に取って読んでいただきたい。しかし、このフリーペーパーは、どこの店頭やどの駅に置いてるかは知らん。知らんので、運とか気力とかそういう抽象的なやつを駆使して探してもらいたいと思うよ。
 
僕は発行前に、編集長から何部欲しいですかと訊ねられ、こういう時って何部くらい欲しいって言えばいいのかな。10部くらい欲しいけど。図々しいかしら。んじゃあ5部で。いやこれはちと消極的だな。んと、8部で。こりゃ中途半端だ。えーい思い切って10部にしちゃえ! と、甚だ小心的な決意によって10部頂戴して、彼女が1部持ってったので残り9部。1部は僕が保存したいので残り8部。あと残り8部あるので、運や気力を駆使しても手に入らない人は、更なる運と気力を駆使して、うちまで取りにくればタダのフリーペーパーをタダで贈呈する上にお茶とか出しますので。
 
何度も言うけど、フリーペーパーの名前は「東京働女100」でございます。真っ赤な表紙には女性のイラストが描かれております。「東京働女」というくらいなので、大阪には置いてないと思うけど、都内であれば入手できるはずでございます。雑誌のスタンスは、僕は短編を書いてるだけなのでよくわからないけど、リクルートが発行してるフリーペーパー「R25」の女性版みたいな感じだと思います。そういえば「R25」って湿気に弱いよね。湿気が多いとこだと表紙がクルンてなるよね。その分、「東京働女100」は湿気には強いと思います。そんなとこ強くてもどうってことないけど。
 
で、皆さんが気になってることは、これ何て読むんだ? ってことでしょうが、僕も何て読むかわかりません。わかりませんので「トウキョウドウジョヒャク」と読んでます。編集後記にも同様の問いが書かれていましたが、編集長曰く、「自由に読んでもらっても構いません」という、歪さんは「ゆがみ」さんですか「わい」さんですか? という問いに、「どっちでもいいです。それよりも有給くれよ」と常日頃応えている僕の姿勢と一致。このポリシーがありそでなさそでありそでなさそな姿勢って何だか楽でいいなぁと感じる次第。
 
2005年03月29日(火)  怒りの唐辛子。
 
唐辛子って腸で消化されなくてそのまま排泄物として出てくるから、辛いもの食べたら肛門がヒリヒリするのよ。って彼女は言うけど、そりゃ嘘だ。嘘だと思う。でもよく考えてみるとそうかも知れぬ。第一、辛いもの食べてウンコすると肛門がヒリヒリするって体験はしたことあるけど、どうしてヒリヒリするのかということは考えたことがなかった。辛い物→肛門ヒリヒリという構図に疑いを持つことなく僕等は毎日ヒリヒリしてた。いけない兆候だと思う。人間、何に対しても疑問を持たなかったらおしまいだと思う。
 
まぁ唐辛子は消化されないって話は嘘だと思うが、彼女はヒリヒリする肛門を撫でながら、どうしてヒリヒリするのかなケンカをするとするのかな。なんて稚拙的な発想から、思考の紆余曲折を経て、唐辛子は消化されない! という発想まで発展させたのだろう。たいしたものだと思う。まぁ嘘だと思うけどね。
 
「嘘じゃないもーん!」
 
と、彼女は今日も怒っている。お前はどうしていつもそう怒ってばかりいるのだ。もうすぐ大地震がくるんだからさ、もっと穏やかに生きましょうよ。ほら、ピザまん買ってきたよ。と、僕は常々彼女に説いているんだけど、「ピザまん買ってきたのは私でしょー!」と、僕の会話によって彼女の怒りは次々に連結されて、「あぁ、ゴメンゴメン。ピザまん買ってきたのは君だったね。どうせ買ってくるんだったらお茶まで買ってこいよ」なんて言うと、「折角あなたがお腹空かせてると思って買ってきたのにー!」と、怒りアンド涙の応酬。やがて収拾がつかない事態に陥ってしまう。
 
彼女がそういう情緒不安定な状況というか、僕が故意に情緒をコントロールしているのだが、彼女を怒らせてばかり、泣かせてばかりいるのもちょっと可哀想なので、「なるほどね。きっとそうだね。唐辛子は吸収されないんだよ。だから肛門ヒリヒリするんだよ。お前って頭いいなー」と、彼女の頭を撫でると、「バカニシナイデヨー!」と、彼女の怒りは烈火の如く。
 
2005年03月28日(月)  絶対負けられない。
  
雨の新宿歌舞伎町。先程から彼女が一言も口を聞いてくれないのは自業自得であって俺の所為じゃねぇ。
 
「ねぇ、次どこ行く?」
「……」
「ねぇ、ゲーセンにでも行こうか」
「……」
「お茶する?」
「……」
「もう帰る?」
「帰る」
「あそ、じゃあ駅に行こう」
 
と、言うと立ち止まって駅へ向かおうとしない。駄々をこねる子供のように立ち止まっている。雨の新宿歌舞伎町。僕が傘を持っていないので、彼女が立ち止まると僕も立ち止まらないわけにはいかない。
 
「ビリヤード行こうよ」
 
2時間程前、そう言い出したのは彼女なのだ。外は雨。東京のいたる所に存在するデートスポットにも、買い物にも行きたくない。なんとなく東京駅で待ち合わせて、なんとなく新宿に来てしまった。「今度は私が絶対勝つんだから!」目を輝かせてビリヤードのキューを持つ仕草をする彼女。面白いじゃないか。やってやろうじゃないかと歌舞伎町のビルの4階にあるきったねぇビリヤード場。
 
そこのビリヤード場はダーツをする場所もあったので、「ビリヤード終わったらダーツもしようね」と、彼女は意気揚揚と。1回戦、ナインボールで勝負し圧勝。「フマー!」と、肩に噛みついてくる彼女を後目に2回戦。やはりナインボールにて圧勝。そうだね。その辺りからだろうね。彼女の口数が少なくなっていったのは。
 
3回戦もナインボール。彼女のプライドを尊重して、わざと負けようと思って、「次はわざと負けるからね」とわざわざ彼女に口頭で伝えると、彼女の自尊心はひどく傷つき、表情が硬くなり、わざと負けようと思って、手を抜いたにも関わらず僕の方が勝ってしまい、彼女の表情から優しさとか意思とか親孝行とかボランティアの精神とか座右の銘とか納税の義務とか、ありとあらゆるものが失われ、彼女はただの素の彼女になってしまった。
 
「私はね、今まで指で数えるくらいしかビリヤードやったことないのよ。それをなによ。今まで何年もやってきた人がムキになっちゃって馬鹿じゃないの。あなたが勝つのって決まってるじゃない阿呆。短足。次勝ったら絶対別れる」
 
と、怒りをあらわにして申す。可愛いなァ。自分からビリヤードして高らかに勝利を宣言したというのに。それをば今の状況は何なんだ。僕がボールを入れようとしたら、ビリヤードのキューで尻をつついたり叩いたりと妨害ばかりして、勝つためには手段を選ばない悪魔将軍のような勝負の姿勢。キン肉マンのね。
 
最後の勝負はローテーションというルールで。彼女曰く、ナインボールというルールは自分に適さないらしい。硬い表情と格好でキューを持ち、もはや一言も話さなくなった彼女の悲壮感漂う背中には、「絶対負けられない戦いが、そこにはある」というどっかで聞いたようなフレーズが書いてあったよ。
 
2005年03月27日(日)  パ・リーグ開幕もじぴったん。
 
野球に興味のない人はどうでもいい話かもしれんが、本日パ・リーグの開幕を迎えた。今シーズンの目玉は、50年振りの新球団楽天イーグルス。リーグ消滅、球界再編の危機を乗り越えて誕生したこの新球団に俄然注目が高まるので、プレステの「もじぴったん」を楽しんでいた彼女を説き伏せて、歴史的な開幕ロッテ戦を鑑賞することにした。
 
先発は岩隈。彼女は岩隈のピッチング評ではなく、「細っそー! モデルみたーい!」と、スタイル評を一通り述べて真っ昼間であるというのに就寝。歴史的1勝を目指し、ロッテの開幕投手清水をいかに打ち砕くかが焦点となっているというのに、放送は7回で終了し、いきなり巨人−横浜のオープン戦が始まった。
 
ふざけんなよー! パ・リーグの開幕よりセ・リーグのオープン戦の方が大切なのかよー! んだよー! 開幕戦見せろやー! と、一応憤慨してみたが、僕は大の阪神ファンであるので、別にパ・リーグのこと、もとい新球団のことは、どうでもいいといえばいいのであって、相手にされないが故に、昼間からベッドに潜り込んでしまった彼女を引きずり出し、二人で仲良くもじぴったん。ビリヤードでは1勝もできないくせに、もじぴったんは鬼神のような強さを発揮。
 
2005年03月26日(土)  毎日のお食膳に。
 
先日、池袋の書店で町田康の新刊「告白」が発売されており、躊躇せずに購入したが、現在、重松清の短編集を読んでおり、その後も彼女が貸してくれた宮本輝の小説、シェイクスピアの短編、あと「金正日入門」という妙なタッチで描かれたマンガ、あと途中で読むのを放棄している「グランドフィナーレ」など、遅読の僕は、この新刊を読むのはいつになることだろうと思いながら、少しでも読んだ気持ちになろうと、本日の朝日新聞に掲載されていた、この新刊「告白」の書評を読んで愕然。
 
「つまり『告白』とは、(中略)換言すれば、これは言文一致体を作りだし、新しい精神に形をあたえた日本近代文学史の陰画ともいえる物語だ」
 
何を言っているのかさっぱりわからない。こんな書評を読んで「然り!」と、感銘を覚える人なんているのだろうか。こんな書評って、俺ってすげぇ難しい言葉使ってこの作品を分析してる偉い人です。どうぞ私の書評を読んで、作家を誉めるのではなく、この難しい言葉で書かれた書評を誉めて下さい。俺ってちょー偉い人だから。書こうと思ったらこんな作品すぐにでも書けるような人物であるから。と、言ってるようなものではないか。全然意味がわからんよ。2回読んだけど。
 
たまにネットの日記やブログなどで書評を書いている人を見かけるが、ああいう書評の方がすごくわかりやすくて、おまけにアマゾンへリンクまで丁寧にしてあって、あ、買っちゃおうかな。なんて思ってしまうが、こんな朝日新聞の漢文のような難解な書評を読んでも買う気にはなれない。あと、この日の朝日新聞の1面に掲載されているキューピーマヨネーズの小さな広告に描かれているキューピーちゃんの格好と顔が、夢に出てきそうなほど怖かった。
 
2005年03月25日(金)  春の大掃除。
 
彼女に部屋が汚いと言われ、ちゃんと掃除もしてるし別に汚くないと思う僕は、ちゃんと掃除もしてるし別に汚くないと言うと、男の部屋を10のランキングで分けると、あなたは6位くらいだからという何とも意味のわからない理由で言いくるめられ、本日二人で大掃除。
 
「収納は、立体的に!」と、呪文のように繰り返す彼女を連れて100円ショップに行き、立体的に収納するために棚をいくつか購入。せっかくの休みなのに掃除なんて面倒くせぇ。ちっ。やってらんねぇよ。僕はちょっとパチンコにでも行ってくるよという僕の横面に彼女の張り手。基本的に彼女は真面目な性格、言葉を悪くすると糞真面目な性格、その表現をちょっと柔らかくするとウンコ真面目な性格であるので、いざ掃除が始まったら冗談も通じない。「あちきこっちの棚整理するから、あんたフローリング拭いといて!」と、ビシバシ指示を飛ばしてくる。
 
「はい。フローリングの拭き掃除終わりました」と、15分後、彼女に報告に行くと、既に棚の整理を終え、新たな作業に取り掛かっていた彼女は、すくっと立ち上がり、僕が拭いていたフローリングを仔細に点検したのち張り手。端っこに埃が溜まっているからやり直せと御立腹。ちょー怖ぇー。
 
そんなこんなでその後、布団を干したりカバーを洗ったり衣類を整理したり本棚を並び替えたりトイレを掃除したりの双方無言の時を経て、お昼の休憩の時に、彼女が作ってきてくれた手作りの弁当を広げ、洋間6畳ピクニック。桜のつぼみも開き始め、春はそこまで来ているけれど、綺麗好きの彼女の笑顔は、一足先にこの部屋に春を呼んでくれたと思うよ。
 
2005年03月24日(木)  アニメじゃない。
 
最近テレビで首都直下型の大地震対策の特別番組ばかりやっているので気が滅入る。僕だけなのかわからないけど、そういう番組でやっている「〜が危ない!」などの設定に住宅環境や交通手段、その他諸々を当てはめると、僕は必ず死ぬことになっている。なんだかなぁと思いつつ缶ビール2本目。
 
しかしあんなに特別番組ばかりやって、やたら市民の不安ばかりあおいで何の意味があるのだろうか。東京はこんなに危険だから充分用心しなさいとでも伝えたいのだろうか。死ぬじゃないか。僕なんて確実に死ぬ環境に住んでるじゃないか。確実に死ぬからお前は田舎に帰れとでも伝えてるのだろうか。だったら田舎に帰ろかな。
 
しかし田舎に帰ると、周囲の友人は皆結婚しており、独身の僕は遊ぶ相手もおらず、親からも孫の顔が見たいなどと言われ、肩身の狭い思いをするのは明確であり、来月再来月と2回に渡り帰郷するが、これも全て友人の結婚式の為に帰郷するのであり、まぁ結婚式に行くたびに思うのだけど、結婚っていいなぁ。羨ましいなぁ。結婚したいなぁという「結婚したいモード」に突入。
 
しかし僕は知っている。結婚が素晴らしいのではなく「結婚式」が素晴らしいと思っていることを。嫁さんのお色直しとか、でっかいケーキとか、友人代表スピーチとか、両親に花束贈呈とか、なんかそういう演出を見て結婚素晴らしいと目をキラキラさせている。実際の結婚生活なんて演出も何もないと思われ。「〜と思われ」という僕の嫌いな表現を書いてしまったのはもうすぐ地震に見舞われ死んじまうから。
 
2005年03月23日(水)  あたしナツコ。
 
以前から演劇に興味があって、観に行きてぇなぁ。でも周りに演劇好きっていないしなぁ。でも観に行きてぇなぁ。でもちょっぴり面倒臭いなぁ。あ、いいです。と、コンビニのレジで弁当の温めを断りつつ考えていたのだが、先日「高円寺の女」という素晴らしき文学作品を出版したいざまんさんから「ぜひ観に行きましょう」というお誘いが来て、僕は「高円寺の女」のブログだってお気に入りに入っているし、本だって発売日に購入した。よって僕は読者で貴女は作者。作者から読者を誘うってことはないだろう。大人をからかっちゃいけねぇなんて思っていたのだが、「歪み冷奴は以前から存じておりました。で、演劇の日時ですが」と、このサイトを知っててくれたってことに感激だが、観劇の日程が具体的なものまで進んでるっていうことに驚愕。ほんとに連れてってくれるんかなぁと半信半疑で中央線。待ち合わせの駅にいざまんさんは立っていた。
 
東京デスロックというイカス名前の劇団が公演する「社会」という演劇を観劇。演劇自体が始めてなので、役者の間の取り方とか、ちょっとした動作とか、全てのことにいちいち感動する。で、僕は一人で行くのがちょっと恥ずかしいというか面倒臭いというか、そんな理由で演劇を敬遠していたのだが、いざまんさん曰く、「一人で来る人も結構多い」らしく、実際一人で来る人も何人かいたのだが、客の帽子、それもベースボールキャップではないちょっとオシャレ帽子をかぶっている率も高いということに気付き、気付いた僕もハンチングをかぶっており、この因果関係についても考えようと思ったけれど腹が減ったので演劇の帰りに、いざまんさんと飯を食う。
 
僕は「高円寺の女」について聞きたいことがいっぱいあったので、あれも聞こうこれも聞こうって質問攻め。酒の力も借りてこういうことも聞いちゃおうなんて卑屈な根性。酒を飲むと、あまりつまみを食べない僕は、自分で注文した料理そっちのけでもう話ばっかり。いざまんさんはゆっくり食う暇あったのだろうかと思う。「あ、これ言うの忘れてた」と、帰り際、印税対策について教えてもらう。なんか世の中うまくできてんなぁと思った外は雨。新宿駅で傘を忘れて帰宅。
 
2005年03月22日(火)  デート前夜、当日悶絶。
  
デート前夜、彼女が「明日どこ行くか決めててね」と言って電話を切った後、30分置きに「決めた?」「もう決めた?」と、デートの予定を催促する電話が鳴り続け、「そんな決めた決めた言う時間あったら、ちったぁ自分で考えろよ」と、ちょっと不機嫌スパイスを混入して言ったら、「私だって考えてるもーん!」と言って電話を切って、それっきりぱったりと電話がこなくなり、ようやくゆっくりと明日のデートの予定を考える時間ができた。
 
インターネットを駆使して小一時間ほど、デートスポットを検索していて、横浜ランドマークタワー。ここいいね。横浜いいね。まだ行ったことないし。ショッピングモールもあるし公園もあるし、近くに中華街もあるし、明日はここでデートしよう。小一時間も悩んだんだ。彼女だって文句は言わないだろう。と、彼女に電話。「やっぱり明日はあなたの部屋でゆっくりしたい」などと瓢々と述べる彼女の口調に、プチプチと脳血管がいくつか切断される音が聞こえたがそれはきっと愛の音。
 
デート当日、彼女はいくつか電車を乗り継いで来るわけだから、ただ部屋で待ってて、合鍵で入ってきた彼女に気付いて「あぁ、おはよう」なんて起きるようでは彼氏失格であると思う僕は、例えデートの場所が僕の部屋であったとしても、朝早く起きて、煙草の臭いを嫌う彼女の為に部屋を換気して、いずれ二人で入るであろうベッドにファブリーズして、それから小倉優子のDVDを本棚に裏返しにして隠して、歯磨きしてヒゲ剃って顔洗って部屋を出て、東京駅まで迎えに行くと前日に言ったにも関わらず寝坊。
 
「今どこにいるの!」という明らかに怒っているメールが届き、まだ池袋にさえ着いていないにも関わらず、「今、御茶ノ水」なんて返信で御茶を濁して、早く着いておくんなましー。早く着いておくんなましー。と、どこの言葉かわからない口調で、電車の速度が上がることを心の中で願いつつ、電車の中で貧乏揺すりしつつ、東京駅に到着したのは待ち合わせ時刻の30分後。彼女が立っている場所まで50メートルはあると思うが、50メートル先からでも彼女の頬は明らかに膨れており、あぁこのまま通り過ぎてぇなぁ。見なかったことにしてぇなぁ。そもそもデートなんてなかったことにしてぇなぁ。なんて思いつつ、うつむき加減で彼女に近付いて行った僕は、彼女は決して怒りで頬を膨らましていたのではなく、口を前に出して、僕にキスを求めていたのだったと思いたかっただけで、現実は思い切り尻を蹴られて悶絶。
 
2005年03月21日(月)  トラブル発生。
 
最近はデートの時、喫茶店などで「国語力常識問題」という本を取り出して、二人で国語力を養うという可愛いというかオヤジ臭い遊びに耽っているのだが、これが結構面白く、彼女が解けない問題を解けるという爽快さ、彼女が解けて僕がわからないという屈辱感を交互に味わいながら切磋琢磨。
 
問 フランス語がもとにしてできた動詞はどれですか。
1、アジる 2、トラブる 3、サボる
 
彼女はティーカップを置いて、僕はコーヒーカップを置いてしばし思案に耽る。「アジる」という言葉は「アジテーション」からきてるし、「トラブる」は「トラブル」、「サボる」は確か「サボタージュ」って言葉からきてるんだよなぁ。しかしどれがフランス語なのかわからん。さすがに「トラブル」は英語だから間違いだと思うけど……。
 
「トラブル!」
 
彼女が自信満々に大声で。しかしここは池袋の喫茶店。池袋の喫茶店で大声で「トラブル!」と宣言。「トラブルトラブル!」とその後2回宣言。周囲の客はいきなり何なんだと怪訝な表情を浮かべたが、彼女はお構いなくその後、「トラブルトラブルトラブル!」と、3回宣言、と、ここまで書くと嘘。
 
「いやぁ、トラブルじゃないでしょ。だってそれ英語じゃん」
「絶対トラブル!」
「むしろ『サボる』が怪しいと思うんだがね僕は」
「トラブルトラブル!」
 
と、もはやトラブルメーカーと化してしまった彼女を前にしばし考える。トラブルかもしれないと。という推察に至った理由は、10年ほど前、シャンプーという外人の二人組の女性が「トラブル」という曲を歌っていて、これが日本でもヒットして当時看護学生だった僕は彼女とこの曲を車の中でよく聴いていたのだが、この「シャンプー」という二人組の歌手と、「t.A.T.u」がシンクロして、t.A.T.uは「トラブル」は歌ってないけどロシア出身で、女の子二人組で、ということは「シャンプー」にも通じることがあって、シャンプーはトラブルを歌っていて、ロシア出身のt.A.T.uとシンクロするからトラブルはロシア語? 問題は「フランス語がもとにしてできた動詞」と書いてあるけど、ロシア語とフランス語ってよく聞き取れないという意味では一緒じゃん?
 
という馬鹿みたいな過程を経て、実際馬鹿な過程だが、主に試験中などに襲われるこのような「馬鹿な過程」はなかなか侮ることができず、相変わらず「トラブル! トラブル!」と連呼し続ける彼女の声を聞きながら、本当に「トラブル」かもしれないという結論に持って行ってしまったという僕の馬鹿っぷり。そして最初から大声で「トラブル!」と宣言していた彼女の更なる馬鹿っぷり。こういう状況を見て人々は往々にバカップルと呼ぶのであろう。答えはサボタージュ。
 
2005年03月20日(日)  口癖を遠く。
 
彼女から度々、お前ムカつくから早急に改善するよう求むと言われている口癖が二つあって、直そうとは思っているんだけれど、口癖というものは癖のようにいつも言うこと。また、その言葉であると辞書にも書いてあるくらいなので、そう簡単には直せない。治せない。口癖を「なおす」という漢字はどっちが適切なのだろうね。
 
「なるほどね」
 
これは以前からいろいろな人から、お前「なるほどねなるほどね」なんっつってるけど全然納得してないだろと注意され続けている口癖であって、この口癖の厄介なところは、全然納得してないっていうか何言ってんのかわかんねーけどとにかくこの話切り上げようぜという時にも「なるほどね」と使っているが、本当に相手の話を納得しているときにも「なるほどね」と言っているところであって、じゃあこれから本当に相手の言葉を納得しているときは「なるへそね」という言葉を使おうと考えたりもしたが、まぁこれは毎度のことなんだが、いつも考えたりするだけで次の行動に移っている。
 
「あ、そう」
 
自分に対してあまり興味がない事柄、もしくは全然話を聞いていない時に度々発せられる言葉で、「なるほどね」にも通じるところがあるが、冷酷性はこちらの方が上回る。しかしこれは一般の人に発することは少なく、主に彼女に対して発せられる言葉で、
 
「えとねー、昨日オレンジレンジのCD買ったんだー」
「あ、そう」
「んでねー、4曲目がすごい良くって」
「あ、そう」
「って全然私の話聞いてないでしょ!」
「なるほどね」
「なるほどねじゃないわよ! いつも私の話聞いてないじゃない!」
「あ、そう」
「もー! 別れちゃうよ!」
「なるほどね」
 
と、いつも彼女は一人で御立腹。
 
2005年03月19日(土)  いびき対策。

朝起きると、隣の彼女はすでに起きていてなぜか不機嫌。
 
という経験はこれまでに何度も経験していることであって、どういうことかというと、歴代の彼女が寝起きの僕の横で浮かべている憮然とした表情が語っていることは、お前のいびきがうるさくて私一睡もできなかった。殺してやろうと思ったけど犯罪者になるのは嫌だし、何よりもお前のせいで人生を棒に振るのも口惜しい。かといって別れてやろうと思っても、あなたは時々すごく優しいところがあるので、その優しさといびきを天秤にかけると、どうしても優しさが上回ってしまう。そういうとこがまた悔しいけれど、好きなものはしょうがない。でも私は今怒っている。というようなことで、今まで付き合ってきた十数名の彼女が皆寝起きに、「お前のいびきせいで眠れなかった」というのは、本当に僕のいびきってうるさいんだろうな。って今更ながら反省する振りして、歯磨きしてパソコン起動して休日の朝っぱらからインターネット。
 
「朝飯なんか食いに行くー?」なんてパソコンのモニタを見ながら彼女に話し掛けても返事の一つもないのは、彼女はまだベッドの上で頬を膨らまして怒っているのであって、自分のいびきをまだ一度も聞いたことのない僕は、いまいち実感が掴めないのであって、お前、だって、そんな、いびきくらいで、そんな怒んなよ。と、言ってみたくもなるけれど、彼女の怒りレベルから推察すると、僕のいびきのでかさは半端じゃないことは明らかで、じゃあどうすればいいんだよーと投げ遣りな口調で呟いた僕の手を取って、彼女は一路、マツキヨへ。
 
「はい、これ」と、彼女が渡したのは、鼻の真中あたりに貼るカットバンのようないびき防止のテープで、あぁ、そういえば前の彼女んときもこれ使ってたなァ。と、ふと思い出ポロリ。早速その日の夜、寝る前にいびき防止テープを鼻に貼って就寝。彼女はその日の夕方に家に帰ったので、いびきが相変わらずでかかったか軽減されたかは知らん。
 
2005年03月18日(金)  ほんとにほんとにオバカさん。

さすがに店頭で購入するのは恥ずかしいので、アマゾンでとあるDVDを購入。とあるDVDなんてもったいぶったような書き方をしてしまったが、本日我が家に届いたのは、小倉優子の新作DVDである。
 
なぜ僕がこんなにもゆうこりんに現を抜かしているのかというと、性格はゆうこりんの方が100倍可愛いが、顔は僕の彼女にそっくりであって、遠距離恋愛という現状、好きなときに彼女の姿を自由に見ることができないというハンデを補うために買ったのだよ君。これも君が好きだからこそだよ。という口実を並べ立て、以前よりゆうこりんと同化されることを何より嫌っている彼女は、相変わらず突然僕の肩を、「フマー!」と噛みつき続け、「そんなこと言うんだったらゆうこりんと付き合えばいいじゃない!」と怒っていて、僕だって突然意味もなく肩に噛みつく彼女よりゆうこりんと付き合いたいけれど、ゆうこりんはアイドルという偶像化された存在であって、実際付き合ってみると波長がイマイチ合わないかもしれない。でも君はゆうこりんじゃなくて、突然肩に噛みついてきたりするけれど、波長が合ってるからこうやって今も付き合っている。それでいいじゃないか。ね、DVD買っていいでしょ。
 
という荒唐無稽で無謀な説得を経て、本日小倉優子の新作DVDが届いた。はやる気持ちを押さえられず、引き裂くようにDVDのパッケージを開け、我が家のゲーム機兼DVDプレイヤーとなっているプレステ2にゆうこりんDVDを挿入。購入してからもうすぐ5年が経つであろうプレステ2は、最近DVDを挿入する度に吐くセリフを今回も吐いて号泣。真っ黒な画面。真ん中に白い文字で「ディスクが読み取れません」
 
2005年03月17日(木)  規制緩和。
 
「君と付き合えるのなら、タバコだってやめてやる!」
 
なんて言ったか言わぬか。確かに宣言したと彼女は言うのだけど、僕はさっぱり覚えていない。さっぱりというのは嘘で、おぼろげながら覚えているというのも嘘で、実はしっかり覚えている。
 
だが時は経ち、今じゃ雑誌のカヴァー。もう付き合って1年。日本国憲法だって普遍のものではなく細かく再編されるもので、付き合い前の宣言も、やはり普遍ではなく、というのは、「ずっと君を幸せにするよ」なんつってプロポーズして1年後には離婚というのはよくある話で、まぁあの時は確かに「タバコやめる」なんて言ったけれど、あれはまぁなんつうの、恋のテンション? みたいな。恋してるときって阿呆みたいにテンションあがるでしょ。あのテンションで喋っちまったから、ほら、もう今すげぇ辛い。
 
完全な禁煙は無理だから、せめて私といる時だけでも禁煙して頂戴。好きよ愛してる。ずっと一緒にいてね。なんてあの時は彼女が天使に見えたけど、やっぱり彼女は悪魔だった。なんつうとちょっと悪い表現になっちまうから、やっぱり彼女は人間だった。まぁ元から人間なんだろうけど、要するに一年前は彼女と付き合えるってだけで嬉しくて、喫煙など微小な問題。禁煙して彼女が手に入るのなら、喜んで僕はマイルドセブンを捨てるという意気込み。しかし人間の欲望とは果てなきもの。彼女が手に入ると、やっぱり随意な時間にニコチンも手に入れたい。よってデートの時、せめて食後だけでいいから喫煙許可を出してくれないだろうか。
 
「うーん……。いいよ」
 
なんて、一言で書いてしまったが、「うーん……」と「いいよ」の間は、実に1週間にも及ぶ説得があったからで、その説得の間もご飯を御馳走したり、洋服をプレゼントしたり、ベッドの中でサービスしたりと、血もにじむような努力をしたのであって、この食後1本OKという規制緩和に辿りついた僕は、ようやく彼女とのランチの後、堂々とマイルドセブンを取り出すことに、失敗した。
 
「食後というのは食後10分までの間ですので、今はもう食後ではない。よって食後の喫煙は許可できない。断腸の思いで」
 
などと訳のわからぬ理屈を並べ、僕の手からマイルドセブンを取り上げてしまった。「なにすんだよー」と文句を言いながら口を尖らす僕に彼女はウィンク・アンド・投げキッス。まったくもって訳がわからないけど好きなんだからしょうがない。
 
2005年03月16日(水)  さあどっち?
 
今頃書くなって感じだが、すっかり忘れてたので今頃書きますホワイトデー。なんて3つ、彼女のキャラメル、自称生チョコを合わせて4つくらいしか貰えなかったので何も書くことがないのだが、義理と人情を昔から軽んじている僕もホワイトデーくらいはお返しせなあかんと池袋。
 
あー、えーと、これとこれとこれ。なんて自分で食うもんじゃないものだから値段も見ずに好い加減に選んで、相変わらず僕の肩を噛み続けている彼女に、お前はどれが食いたいのかと問うと、「私はあなたとずっと一緒にいればいいの!」なんて頬を赤らめて言うので、あ、そうと、言わずもがな僕はこれからも彼女と一緒にいる予定だから、彼女へのホワイトデーのお返し的意味合いを込めたお返し的お返し? 今「きなこチョコスナック」という菓子を食べながら日記を書いているので、右手の指できなこチョコスナックをつかんで口に入れて、きなこが付着した右手の指をティッシュで拭いて、再びキーボードを打って、きなこチョコを食べてティッシュで拭いてという作業を繰り返しているので、中途半端な行動などせずに、食うなら食う日記書くなら書く、さあどっち? と、三宅裕司の口調で。
 
2005年03月15日(火)  フンマー!
 
僕は昔の恥ずかしいことを思い出した時に、「フファア!」「馬鹿! お馬鹿!」「違うって!」などと大声で独り言を叫ぶ奇行を持っているが、僕の彼女の奇行は、二人で歩いている時に突然、「フマー!」ってな感じで僕の肩に噛み付いてくることで、これに結構困っている。
 
この噛み付き方が半端ではなく、どれだけ往来の人間が多かろうが、店の中だろうが、店員と話をしている途中だろうがお構いなく、思いついた時に「フマー!」と肩を噛んでくるからたまらない。しかも軽く噛んでフマフマするならまだしも、「フマー!」という勢いそのままに全力で噛み付くものだから、部屋に帰ってシャワーを浴びる時に、くっきりと彼女の歯型が残っていてビックリする。
 
デート中に何らかのストレスを感じたか突然憎くなったのかわからないが、どうしてお前はそうやって僕の肩を噛みたがるんだと彼女に幾度も訊ねるのだけど、彼女はキョトンと目を丸くして、「え? 私あなたの肩なんて噛んだことある?」といった表情を浮かべるだけで話にならない。
 
今日も僕の右肩には彼女の歯型がタトゥーのようにくっきりと残っている。そしてその歯型は時々思い出したようにズキリと痛む。と、この痛みを味わってようやく気付く。彼女は僕の肩に歯型を残し、部屋で一人になってからもその痛みを喚起することによって、彼女の存在を思い出して欲しいという願望をこめているのではないだろうかってそんなことあるかい。
 
2005年03月14日(月)  新しい風。
 
我が職場では4月より勤務異動があり、勤務異動の前は誰がどこの病棟に異動になるという噂が立ち、噂が噂を呼び、確固たる情報がないものだから、やがて噂が妙な真実味を増してきて、何が噂で何が真実だか。って全部噂なんだけど、その真実味を帯びた噂が、看護婦さんそれぞれの肩に重くのしかかり、落ち込んだり、浮かれたりと、どこの病院だって同じだと思うが、勤務異動の顛末にはいろんなドラマが発生するのである。
 
と、他人事のように書いている僕だって勤務異動の噂は立っており、まぁ僕はお調子者だから、今の病棟だって大好きだし、もし異動になったとしても、異動先の病棟だって大好きになるはずである。よって勤務異動を楽観視。来るなら来なさい。来ないのならそっとしといて。でもどっちでもいいやというスタンスで、日々看護婦さん達の間で交わされる噂話に耳を傾けながら、本日、勤務異動発表の日を迎えた。
 
驚嘆の声を挙げたのち溜息。4月より主任昇格。ってかまたかよー! と、心の中で叫ぶ。というのも以前勤めていた病院でも6年目くらいから主任を勤めていたが、主任ってやつは上に婦長がいて、下には看護師さん達がいて、婦長の圧力と看護師の不満、その間の潤滑油的な役割をするのが主任というやつで、まぁまぁ婦長さん、そう言わずにと言った3分後に、まぁまぁ看護師さん、そう言わずにと油汗を流しながら右往左往。かなり損な役まわりをされる地位であって、やれと言われればやるけれど、やんなくていいと言われたら喜んでやんないというような、ストレスフルな立場である。
 
そんな貧乏くじを引いたような役まわりを、この病院でもすることになるとは、薄々勘付いてはいたけれど、溜息が出るのは当然であって、しかも僕はこの病棟ではまだ新人である。まだ1年と半年くらいしか経っていないのである。そんな僕をなぜ主任になぞ昇格させるのですかと総婦長に伺ったところ、「新しい風を取り入れたいから」という、実に抽象的な理由を言われ、アゴ髭かつウルフカットならびに本職の他、フリーライターなんていかがわしい副職を持っている不良看護師のどこを見て新しい風など形容するのか。けしからん。頑張ります。と、昔から権威に従順な僕は看護師さん達の前で声を出して「頑張ります」と誓いの言葉。家に帰って小さな溜息。
 
2005年03月13日(日)  新しい悪癖。
 
先日、幼少から悩まされた爪を噛むという悪癖を爪を磨くことによって、遂に克服したという日記を書いたが、現在悩んでいることは、爪を磨くという悪癖が始まったということである。
 
今まで、コンビニなどでレシートなどをもらう際、いらねーよ。こんな紙切れ必要ねーよと、すぐさまレジ近くに設置してある小さなゴミ箱に破棄していたが、先日、レシートで爪を磨くとピカピカになるということをテレビで見て、コンビニでレシートをもらう際、もっと長いやつくれよ。1枚じゃ足んねーんだよ。もっと頂戴よ。お願いですから。と、今までこんな便利なものを何の葛藤もなく破棄していたと思うと、悔しくて夜も眠れない。
 
よって現在は、時間さえあればレシートで爪を磨く毎日。しかし人間の欲望とは果てなきもの。爪がピカピカになると、今度は爪の甘皮が気になり始める。つか何なんだよこの甘皮っつー存在はよー。この爪と皮膚の中間のような物質はよー。しかも甘皮って言葉が気にくわねぇ。甘い皮って何なんだ。何が甘いんだ。バーカ。くっそームカつく。指によって甘皮ってやつは硬かったり柔らかかったりする。甘皮勢力の強い指があるかと思うと、甘皮? 何それ? 食えんの? そんなもの私の爪に付着したことなんてございませんわよ。ってな感じの甘皮が全く存在しな指まである。一体どうなってんだ。こうなったら撲滅だ。撲滅するには甘皮取りが必要だ。ちょうど甘皮取りがこのコンビニで売ってるし。つーか甘皮取りなんて道具があることすら知らなかった。今の世の中何でもあるんだね。500円だしね。ワンコインで買えちゃうね。ワンコインでこの悩みともオサラバだね。よしこれ買おう。
 
と、手に取った瞬間、「ダメ!」と、彼女に手をはたかれる。手をはたいた理由は、お前は男の癖にカリカリと爪を噛んでいて、私は以前からムカついていたが、私も爪を噛むという癖を持っている以上、そう強くは注意できなかった。しかし、爪を噛むという癖を克服して私もやっと心からお前を愛することができると思った矢先、今度は爪をチマチマと磨くことに快感を覚えてやがる。このオカマ。山崎トオル。漫画も描けないくせに爪ばかり磨きやがって。この山崎トオルのできそこない。殺すぞコラ。というようなことで、爪の甘皮を気にするような男は彼氏失格という以前に、生物学的観点からしてもオスとして失格の阿呆の三杯汁であるということである。
 
まぁ彼女にそこまで言われてしまっては、僕にだってプライドというものがあるので、ここは潔く甘皮取りの購入を断念し、彼女と手を繋ぎながら、「早く帰れー。早くうちに帰れー」と念じ続け、池袋駅で彼女と手を振って別れて、人ごみで姿が消えるのを確認し、小走りで先ほどのコンビニに駆け込み、罪悪感に苛まれながら甘皮取りを購入。彼女には内緒。
 
2005年03月12日(土)  爪ピカチュー。
 
爪を噛むという悪癖については以前から、というか幼少の頃から僕の中で問題となっていて、特に極度のストレスに見舞われた時、カリカリカリカリと随意の指の爪をリスのように噛み、「また爪噛んでる!」と、彼女の声にようやく我に返り、あぁ、ほんとだ。爪噛んでたね。極度のストレスに見舞われていたね君が横にいるから。と、彼女が僕に与える何らかのストレッサーを考えたけれど、彼女は僕に癒し効果しか与えず、ストレスなんて与えるはずがない! という独りよがりが度々恋愛を駄目にするのである。
 
でもそんな悪癖ともオサラバできて僕の心は実に晴れやかである。彼女に感謝感激である。というのも彼女も僕と同様、爪を噛むという悪癖を持っていて、おい、爪噛んでるよ。と、僕が注意すると、「違うもん! 爪の横の皮膚を噛んでたんだもん!」と、苦しい弁明をしていたが、ある日パッタリと爪を噛まなくなり、どうして貴殿は近頃爪を噛まなくなったのかと訊ねると、わたくしめいつぞやから爪ピカッシュを使用しているので御座います。と、我が爪を眺めながら話し、爪ピカッシュとは何ぞ? と訊ねると、シート1枚でツルツルピカピカになるのです。はいどうぞ1枚。
 
と、爪ピカッシュという脂取り紙のような薄いシートを渡し、彼女の言う通りに磨いてみるとちょーピッカピカ☆ 自分の爪が、そんなものあるかわからんが生まれたての桜貝のようになった。うほー! ほぇー! ピッカァァチュゥー☆ と、ワケのわからぬフレーズを呟きながら電車の中だろうと喫茶店の中だろうと彼女そっちのけで爪を磨き続ける僕の姿に彼女は辟易。
 
そんなに嬉しいのならアレも買ってみてはどうか、と、マツキヨに連れて行かれ、爪の形を整える爪ヤスリを購入。僕は以前から爪切りの後のヤスリタイムを「人生にとって無駄な行為」と定めており、磨いたことなど一度もなかったが、彼女がちょっと指貸してと言うので、僕の生まれたての桜貝のような爪を彼女に差し出すと、彼女はその買ったばかりの爪ヤスリで綺麗に僕の爪を整え始めるではないか! ちょー流線型! カッコイイ! ピッカピカーで流線型! もったいない。こんな爪を噛むなんて勿体無い。勿体無いヨネーと、彼女と夜の居酒屋。つい飲み過ぎて食い過ぎて2人で8800円。ウワー。きっつい値段やなーと、レジの前で爪を噛む二人。
 
2005年03月11日(金)  面倒臭くない。
 
ウェンツ瑛士ってあれは何なんだ。誰なんだ。いつから、いつのまにか、テレビに出てるんだ。何なんだあれは。バラエティ専門の滝沢英明みたいな面構えは。おっかしーなー。印鑑どこやったかなぁ。
 
と、もう部屋の中で1時間近く、印鑑を探しているのであって、この印鑑の管理は、以前から僕の中で問題となっていて、例えば、テーブルの上で何らかの申し込み用紙に印鑑を押した後、所定の棚の中に戻せばいいものの、まぁいいやっつってテーブルの上に置きっぱなしにしたり、外出先で何らかの申し込み用紙に印鑑を押した後、バッグに戻し、うちに帰ってから所定の棚の中に戻せばいいものの、まぁいいやっつってバッグの中に入れっぱなしにしたりという杜撰な管理方法によって、度々紛失騒動が勃発するのである。
 
そんな紛失騒動の最中、ウェンツ瑛士というニセタッキーのような青年がバラエティ番組で糞生意気なコメントを述べている最中、旧友から電話があり、まぁ昨日着信があった時点で薄々勘付いてはいたが、結婚するという。
 
わぁ! オメデトウ! と、約3年振りの会話を頭の中1/3で楽しみつつ、残り1/3は糞生意気なウェンツ瑛士のこと、1/3は紛失した印鑑のことで、なかなか一つのことに集中できない。5月3日に式を挙げるというので、じゃあ5月2日頃帰ってくるよっつって電話を切ってカレンダーを見ると、僕は4月23日にも友人の結婚式の予定が入っていて鹿児島に帰らなければならない。ということは1週間ちょっと間が空くだけで2度も帰郷しなければならず、ちょっと面倒臭いけど、こういうことを口に出して言うと失礼に値するので、心の中でおめでたいけど面倒臭いなぁ。でも面倒臭くない。なぜなら他人の幸福に対して面倒臭いという感想を述べていたら神様から罰が当たって印鑑が見つからない恐れがあるから。と、一人で四つんばいになって部屋の中、印鑑を探し続ける独身28歳。
 
2005年03月10日(木)  転落の人生。
 
どうも日本人というものは、「転落の人生」というものがお好きなようで。
 
例えば、先日強制わいせつの疑いで現行犯逮捕された自民党の中西一善衆院議員。お前国会議員のくせに何やってんだよ。ちょー面白ぇじゃねぇかと腹を抱えて笑い、議員辞職の即日表明という自民党のスピード決着っぷりに、ちょー早ぇー! お前法律に従順な国会議員のくせにリビドーに従順になってどうすんだよ。ちょー受けるんだけどマジで。と、再び笑う。
 
例えば、証券取引法違反容疑で逮捕されたコクド前会長、堤義明容疑者。やっぱ金持ちはろくな者がいねぇや。株偽装とか名義偽装とか、具体的に何がどのくらい悪いのかサッパリわからんが、貧乏人が逮捕されるより金持ちが逮捕される方がなんだか気持ちいいね。片腹痛いね。「社員の責任ではなく、全て私の責任です」って当たり前じゃん。今更何言ってんの? みたいな。ちょー受けるんだけどマジで。と、大笑い。
 
例えば、治療の為と偽り、女性患者の全裸の写真を撮っていた心臓外科医、例えば、喫煙しながらパチンコ行ってた高校生ダルビッシュ。ある程度の地位と名誉を得た人物が、犯罪を犯して人生の坂道を転がっていく様は、なんて痛快なんだろう。と、思う僕たち私たちは、努力をしない、もしくは努力してるのに認められない立場での観点から眺めているのであって、努力してる人、もしくは努力して認められた人を、ただひがんでいるだけである。ハッハッハー捕まったーハッハッハーちょー受けるんだけどマジで。と、一通り笑って、次の日上司から怒られてションボリの毎日。
 
2005年03月09日(水)  いろんな趣旨がずれていて。
 
2月に喫煙が発覚し無期限謹慎処分を受けていた日本ハムのドラフト1巡目・ダルビッシュ有投手(18)が、おわびの会見を行う為、車から降りて球団事務所に入ろうとしたときに、押し寄せる報道陣の一人がダルビッシュに投げ掛けた質問。
 
「どうしてタバコを吸おうと思ったんですか?」
 
な、な、なんて馬鹿な質問なんだろうと思った。じゃあお前は今朝どうしてウンコしに行こうと思ったのか質問したい。まぁ未成年で喫煙したのは悪いことだが、僕が言いたいのは質問の趣旨が本件と微妙にずれているということ。
 
ある殺人犯が逮捕された時、ワイドショーではこぞって学生時代の作文や卒業文集などを公表するが、これもまた本件とは微妙にずれているのであって、例えば僕が連続殺人を犯して、テレビ的に大きく取り上げられる立場になったらきっとワイドショーは、この5年にわたる日記を取り上げるだろうし、「殺人に至るに当たる」日記を抜粋するだろう。
 
少ない情報で、さもその人物像を把握したというようなマスコミのその姿勢にはいつも辟易されるもので、ライブドア社長堀江貴文が、ニッポン放送を買収し、フジテレビを支配すると言っており、やっちゃえやっちゃえ、そして殺人犯の卒業文集などを公表する本件との趣旨がずれた報道を改めてもらいたいと思いますと思いますのだけど、毎日のように報道されているフジテレビとライブドアの闘争が、全くといっていいほど意味がわからず、ホリエモンはとにかく奇抜なことばっかり言って、よくわからんが何か調子こいてるっぽいが、学生時代はどんな奴だったんだろう。卒業文集でも公表しないかなと思いながらブラウン管にくいついているという矛盾。
 
2005年03月08日(火)  あなたと一緒にいたいだけ。
 
彼女はAB型だからなのか蟹座なのかそれとも女だからなのかわからんが、先週、現在上映中の邦画「MAKOTO」を観に行こうと誘ったところ、「いやー! 観たくなーい! それよりもあなたと一緒にいたいの」と、彼女特有の、「それよりもあなたと一緒にいたいの」という言い回しを発動させ、映画の誘いを断られたが、昨日になって突然「絶対MAKOTO観にいこうね!」なんて興奮しながら電話を掛けてきて、まぁこれはきっとあれだ、テレビで予告編なんぞをやっていて、つい見入ってしまったのだろうと容易に推測ができ、その推測を彼女に言ってみたところ、「そんなんじゃないもーん! 私はあなたと一緒にいたいだけだもーん!」と、また例の言い回し。
 
僕の彼女はまだ学生で、僕がATMで金をおろそうとしていると平気で脇からそれを覗こうとするという社会性に未だ未熟な点があるものの、成績の方はかなり優秀で、先日見せてもらった学年末の成績表は、全ての評価がA判定だった。綺麗にA判定だった。素直にスゲェなと思う。こんな成績でよく恋愛と両立できるなと感心することしきりであり、僕なんて彼女と会っている間は仕事のことなんてスッカリ忘れてしまうのだけど、彼女はきっと僕と会っている間も常に脳の30%くらいは勉強のことを考えていると思う。まぁしかし残り70%のうちの20%くらいは僕のことを考えてくれてるのだろうと思うのは、「MAKOTO」を観ながら、まだ1時間くらいしか経っていないというのに号泣しだした僕にそっとティッシュを渡してくれるあたり、なんてできた彼女なんだろう! と、映画と彼女の優しい行為のダブルパンチでもはや僕の涙腺は決壊。とめどない涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら映画館を出て、屋外に浮遊するスギ花粉によって花粉症まで発動するというトリプルパンチ。
 
2005年03月07日(月)  そんな六本木。
 
お世話になってる編集者さんからのお誘いで、とある本の出版記念パーティに行ってきました六本木。僕はその本の作家さんとは面識がなくて、なんだか他人の結婚披露宴に参加してるような感じがしてばつが悪かったが、出版記念パーティというものはそういうもので、適当に酒を飲んで料理を食って名刺を渡して渡されて御茶ノ水で丸の内線に乗り換えて帰宅。
 
考えてみると外で酒を飲むのは実に数ヶ月振りで、飲みに行くといっても居酒屋や屋台という実に楽なスタンスで酔えるという場所だったのだが、パーティとなるとそれなりにお洒落しなければならず、慣れないスーツを着て、慣れないネクタイが締められず、もーいい大人なんだからネクタイくらいちゃんと締めなさいよーと、彼女に締めてもらい、と、ここで思い出したのだが、ネクタイを「絞める」と「締める」正解は「締める」であると、最近読んだ「問題な日本語」という本に書いてあり、この本はかなり勉強になるので皆も買えばいいと思う。と、違う本の宣伝になってしまったが、折角パーティにまで参加させてもらったんだから、記念にパーティ入口で売ってる、作家さんの本でも買おうかなと思ったけれど、酒がまわり天井がまわり六本木の地下クラブに押し寄せる約250名もの参加者に辟易し、こんなとこで地震が起きたらどうすんだとまたもや地震恐怖症が発症し、屋外で深呼吸。そのまま帰宅。
 
2005年03月06日(日)  午後11時からの物語。
 
午後11時からは読書の時間でございます。これはもう決まっているのです。僕ルールなんです。11時までには歯磨きを済ませてベッドに入って、傍らにビールを置いて、ってこれがまた歯磨き後のビールって美味しくないんですよ。フッ化ナトリウムと麦芽が妙な化学反応を起こして、ガムを噛みながらチョコを食ったときのような妙な違和感を感じながら本を開く。
 
現在読んでいる本は芥川賞受賞作の阿部和重著「グランドフィナーレ」これ芥川賞受賞作っていうよりもジャケット買いしてしまったんですけどね。物語の方はまだ昨日読み始めたばかりなのでよくわかんない。僕は読書が趣味だけど、読むのが滅茶苦茶遅いのであります。何度も同じ行を読んで納得いかないと次のページに進めなかったりするのです。
 
しかし僕の彼女の速読っぷりといったらもう。先日、これ面白いよっつって重松清著の「流星ワゴン」という長編小説を彼女に貸したら、翌日のデートの朝にはもう読み終わっている。結構厚い本だったのに。お前読んでねぇんじゃねぇのか。読んだとしても斜め読み、もしくはこんな読み方あるとは思わんが1ページずつ飛ばして読んでんじゃねぇのか。じゃあこの本のあらすじと好きな場面を3つくらい言ってみろよ。
 
と、猜疑心丸出しで彼女に言及したら、仔細なるあらすじと僕も強く心に残った場面を3つも4つも言い出すではないか。こいつ本当にちゃんと読んでる。僕なんてこれ読了するの1週間もかかったのに。いいな速読。これって集中力の問題かな。ビール飲みながら読書するっていうライフスタイルがいかんのかな。と、午後11時。ベッドの中、傍らには缶ビール。しばし思案に暮れて、よし、と小さな掛け声と共に缶ビールを冷蔵庫に戻し、電気コンロで湯を沸かし、ビールの代わりに焼酎のお湯割りを飲みながら読書。僕は読書よりもアルコールが好きなんだと思うよ。
 
2005年03月05日(土)  一大スペクトラ。
 
「はてなダイアリー」を使っている人は、自分の日記を本にすることができるという「はてなダイアリーブック」というサービスがあって、この日記もはてなダイアリーに移植してそれを本にするという作業がちょー面倒臭い。
 
今まで書いた日記が本になるというのは格別なものがあるが、まぁ売り物じゃないし、誤字脱字もいっぱいあるけどこれ全て自己満足自己完結。この日記は2000年の7月に始まってるから、まず2000年7月から2001年12月までの分を第1巻として、2002年の日記は2巻、2003年は3巻という具合に、1年に1冊の割合で製作していて、誰に見せるわけでもなく、昔の日記のページをめくるという行動は、ウェブでは不可能であって、ややもすればウェブなんてのは長文読んでると目がチカチカしてきて視力の低下、思考力の鈍化を招き、いずれはネットゲームばかりやっている廃人になる恐れがあり、こうやって書き留めた日記を紙の媒介に変化されるとちょー健康的。ソファーに座りながら好きな音楽を聴きながら自らが書いた昔の恥ずかしい文章をゆっくりと堪能できるのである。
 
しかし昔の文章なんてのは恥ずかしいことこの上なく、現在も尚、ウェブで公開しているこの好色一代男は、昔の文章をワンクリックで閲覧することができるが、実際昔の日記はもう消去してしまいたい。みんなあんまり読まないで頂きたい。しかし昔の文章があるからこそ今の文章があると思うので、この好色一代男は2000年から現在の2005年まで、壮大なスケールで描かれている一大スペクトラル。あれ? 一大スペクトラ。ん? ちょっと違う。一大スペトラル。むー。これもしっくりこない。えーと、あれだ。一大スペクタル! 一大スペクタル! 意味わからんけど一大スペクタルなのである。
 
しかし一大スペクタルってのはなんつー意味なんだろうなぁ。それよりも一大スペクトラルなんていい間違えしてる人って絶対いるはずだよなぁと、「一大スペクトラル」で検索。ほら、4件ヒットした。僕は一大スペクタルという正しい言葉に気付いたけれど、この4件の人たちはこのままそれぞれの脳内辞書の中に「一大スペクトラル」と記し続けられるのだろうか。ちょっと可愛そうな気がする。興奮して、「あの映画って一大スペクトラルだよね!」なんか言ったりして、「おい、それって一大スペクタルだよ」って友人知人に訂正されて穴があったら入りたい気分になるんだろうか。
 
ついでに「一大スペクトラ」で検索。2件ヒット。憐れ。
 
2005年03月04日(金)  夢と希望と勇気のゲップ。
 
というわけで昨日は東京ディズニーシーで思う存分、冒険とイマジネーションの海を体感してきて、それに値する代価を支払い、結局夢も希望も地獄の沙汰も金次第なんだなぁと考えながら帰りの地下鉄の窓に映るやつれた顔から目を逸らす。
 
ディズニーシーの開園時間は9時からで、僕たちは8時50分に到着して、開園と同時に人気のアトラクションの方向へ全速力で走り始める彼女の後を追って、ワー! キャー! ウワー! 面白かったね。うん面白かった。次アレ乗ろー! うん、アレ乗ろう。ワー! キャー! ウワー! はぁ、はぁ、怖かったね。うん、迫力あったね。次アレ乗ろー! ちょっと待って。はぁ、はぁ、ちょっと休憩させて。もー! オヤジなんだからー!
 
と、こういうやりとりもまぁカップルらしいといえばカップルらしい。現に彼女の顔はハッピー感に溢れているし、僕も既に疲労感を感じているものの、未だハッピー感を感じている。しかし彼女の場合は10ハッピー感であって、やることなすこと全てハッピー。偉大なる将軍様ミッキー万歳。と、ディズニーリゾートのマーケティング戦略に体の髄まで洗脳されているが、僕は6ハッピー感。残りは3疲労感であって、1帰宅願望感である。というわけで自らの6ハッピー感に惑わされず、勇気を振り絞って1帰宅願望感を吐露。
 
「ねぇ、今日何時に帰るの?」
「10時! だって10時にここ閉まっちゃうんだもん!」
 
まるで10時に閉まらなかったら明日の朝までいる所存だけど、10時に閉まるから嫌々私は帰宅するというような口調で話す彼女を人目もはばからずガッと抱き締め、「お願いだから、8時には帰ろう」と耳元で囁いたのはまだ午前11時。
 
平日ということもあってアトラクションはそんなに混雑しておらず、スムーズに楽しめることができたが、このスムーズっぷりが彼女の夢と希望と勇気とお徳感に拍車を掛け、同じアトラクションに2回も3回も乗り続け、夢と希望と勇気を吸い込みすぎて出たゲップさえも夢と希望と勇気の香りがするような状態に陥り、もう何時でもいいですよー。君と一緒なら全てオッケーですよー。ずっと一緒にいようね。もう離さないからね。とフラフラしながら話す僕をよそに、午後9時になってもお目当てのアトラクションめがけて僕の手を離し小走りで疾走する彼女。
 
2005年03月03日(木)  冒険とイマジネーションの海。
 
休日。午前6時起床。寝ぼけ面で歯を磨き、寝ぼけ面でヒゲ剃って、寝ぼけ面でお洒落して、寝ぼけ面で平日の満員電車に揺られて待ち合わせの駅に到着したがやっぱり彼女来ていない。絶対寝坊すんなっつったのオメェじゃんかジャンカジャンカジャンカジャンカー。とアンガールズのポーズを決めながら寒さに震える千葉県浦安市舞浜駅改札口。
 
約20分遅れで到着した彼女は謝るどころが異様にハイテンション。僕を置いて小走りで、東京ディズニーリゾートを1周するモノレール、ディズニーリゾートラインの方角へ走っていく。彼女そんなにディズニー好きだったけなぁと頭を傾げながら白い息を吐きながら彼女を追いかけるキング・オブ・デートの朝。
 
「冒険とイマジネーションの海へようこそ!」なんて書いてあるが、ただの埋立地にでっかいため池と奇抜な建物があるだけじゃねぇか、と思っているのは僕だけで、彼女含め周囲の客はもう夢と希望と冒険とイマジネーションと馴れ馴れしさでいっぱい。「写真撮ってくださぁい」なんて砕けた口調で話し掛けられること数十回、「写真撮ってあげましょうか」なんていらぬ善意を降り掛けられること数十回。なんなんだこのファミリー感は。
 
と、漠然としているのはやはり僕だけで、株式会社オリエンタルランドの事業の中軸である東京ディズニーリゾートのアルバイト募集によって雇用契約を結んだどこぞかのお兄ちゃんがかぶっているディズニーキャラの着ぐるみにホリエモンを取り囲む報道陣のように群がっている。
 
彼女なんて何の原作のキャラなんだと思わせるような気色の悪いネコだかタヌキだかの着ぐるみに記念写真を要求し、そのネコタヌキにジェスチャーで椅子をそこの椅子を持ってこいと命令され、彼女が素直なのは僕が一番知っているのであって、はーい♪ なんつって小さな椅子を持ってきて、そのネコタヌキにそこに座れと命令され、彼女が従順なのは僕が一番知っているのであって、はーい♪ なんつって小さな椅子に座ると、彼女の上にそのネコタヌキが座るではないか。
 
馬鹿だ。彼女もネコタヌキも馬鹿だ。埋立地から発生した妙な感じの夢や希望や冒険に侵されてしまっている。彼女なんて何のキャラかわからないネコタヌキに膝の上に座らされても尚、キャッキャキャッキャ、ハヤク、ハヤクシャシントッテーなどとはしゃいでいる。この調子だとミッキーマウスに刃渡り30センチの出刃包丁で腹を割かれても大声で笑い続けるのではないだろうか。
 
そんな僕は慣れない早起きがたたって、とあるアトラクションの途中で眠ってしまい、彼女にこっぴどく怒られた。でもいつものこっぴどさレベルより若干弱めの怒りだったのは、ここが冒険とイマジネーションの海だから。
 
2005年03月02日(水)  キング・オブ・デート前夜。
 
「ディズニーランドとディズニーシー、どっち行きたい?」「どっちでもいいよ」「もー真剣に考えてよー」「どっちも似たようなものだろ」「全然違うよー。アトラクションとかぜんっぜん違う」「でもどっちでもいいよ。君が行きたい方でいいよ」「もー! 一緒に考えてよー! もしかして行きたくないの?」「そんなことないって。ただあんまり区別がつかないから意志の決定を君に委ねてるだけだよ。どっちでもいいよ」「どっちでもいいどっちでもいいって私のこと嫌いにナッタンデショー!」
 
というやりとりをしているカップルがこの世に百組以上はいるなと痛感した夜、「じゃあ、まぁ、ディズニー、シーの方でいいよ」「ほうでいいよってどうしてそんな好い加減に答えるの?」と、喧嘩は泥沼化するばかりで、僕は本当にどっちでもいいと思ってるのに、どうもその気持ちがすんなりと彼女の心に入っていかない。
 
まぁディズニーリゾートといえば「キング・オブ・デート」であって、遠足の前日の、300円を握り締めたおやつの買い物から既に遠足が始まっているように、ディズニーリゾートのデートの前夜の予定を立てるところから既にキング・オブ・デートは始まっているのだ。
 
「じゃあディズニーシーに、しよう」「どうして?」「どうしてって、まぁ、ほら、海あるし」「なにそれ?」「ミッキーの水着姿見れるし」「見れないわよ。あなたミッキーを馬鹿にしてんの? それとも私を馬鹿にしてんの?」と、彼女はキング・オブ・デートをしたいのではなくて単に僕と喧嘩をしたいだけじゃないのかと思わせるやりとりを繰り返した後、明日のことを考えてキスして就寝。
 
2005年03月01日(火)  甥が1歳になりました。
 
去る2月25日、甥が1歳の誕生日を迎えました。わーオメデトー! わーわーわーもう1歳なんだねー! 子供の成長って早いもんダネー! と、ハイテンションで妹に電話を掛けたのは、すっかり甥の1歳の誕生日を忘れてしまっていて、今普通に電話すると、「もー! 1歳になったのに電話もくれないなんてー!」と妹に怒られてしまう恐れがあり、それを回避する為に妹の怒りが入り込む余地がないようなハイテンション。受話器を持ってわーわーわーとはしゃぐどっちかっつーと僕が1歳児なんじゃないかというリアクション。
 
まぁ思い出したから忘れたわけではないのだよという不合理な言い訳をハイテンションで話しつつ、そろそろ甥も人見知りをするようになるんだなぁと少し残念な面持ち。まぁ人見知りなんてのは、人を見分ける力がついてきたということであり、悪いことではないのだが、人を見分ける力がついてきたが為に僕まで「他人」として見分けられた時のショックを受け止められるかどうかが今後の課題。
 
よって配送する予定であった甥の誕生日プレゼントを、来月の帰郷の際に手渡しで贈る対抗策。僕は決して他人ではなく君の叔父にあたる人物だし、他人のようにカワイイネーナンサイデスカーハイソウデスカーなんて赤子に対して一通りの賛辞を述べた後、すぐに消えてしまうような人でもない。僕は君の叔父で誕生日だって全力で祝いたい。よってプレゼントを購入してきた。手渡しで受け取ってちょー喜べばいいと思うという大人の計画。
 
妹は「子供の指しゃぶりが始まった。私の愛情不足なのだろうか。癖にならないか心配でたまらない」など嘆いていたが、指しゃぶりは愛情不足などではなく、指を吸うことで自分を安心させるセルフコントロールの力が出てきたということであってそんなに杞憂することではないと受話器越しに煙草を吸いながら自分自身をセルフコントロール。
 

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