2003年05月31日(土)  本当に駄目な男の日記。
もう普通に恋愛は無理だなと思った。僕には無理だ。多分もうできない。本当に珍しく素で思ってます。結局いつも同じことを繰り返しているばかりで、学習をしない。学習をする気がない。「アナタのここがいけないのよ」と忠告されても聞く耳持たない。みんなここんとこどうしてんだろう。僕は変わるンダ キミの為に! と躍起になって変化しようとするんだろうか。どうなんだい本当に。
 
皆、騙されちゃいけない。僕も騙してるつもりはないんだけど、結局相手を騙していたという結果に。騙すつもりはないし、そんなの自覚してないけど、なんだか騙されましたわ。と。現実に引き戻されましたわ。と。双方痛々しい傷跡を残して終わるのです。つ、次こそは! と頑張ってみても、何を頑張ればよいのやら。もうホント同じことばっかり。ばっかりがっかり。午前4時にメロンパンを食いながら、どうすればいいのか思慮に耽る。
 
普通のことさえままならないというこの辛さ。自分で好きだと言っときながら自分で訝るこの矛盾。好きだと言ったならば、その言葉の責任みたいなやつを見せて頂戴よ。と。もうその辺から何をしていいのかわからない。好きとは言ってみたものの。はて。
 
「アナタが持っている唯一の強さは、呆れるくらいのマイペースを持っているってことだけよ」
 
という言葉が身に突き刺さりました。僕は無意識なる鈍感さを持っています。自慢に、ならない。彼女が「好きよ」と言った次の言葉は「ちょっとトイレ行ってくる」と。別に好きよという言葉が照れ臭かったわけでも拒絶してるわけでもなくて、ただホントに僕はトイレに行きたかっただけで、その辺りのタイミングというか、場の雰囲気というか、そういうものを僕は読めない。トイレに行きたくなったらトイレに行きたいと思う。相手のことを全然考えていない。
 
もうすぐ27になるというのにね!
2003年05月30日(金)  腐る前に。
もう腐れないように。腐れてしまわないようにと毎日そればかりを考えていて、何かしなければ。なにかししかば。ししかばぶと我が身を危惧致して、毎晩ビールばかり飲んでいるので、腹がししかば。ししかばぶと我が腹を撫でながら、思案を巡らし、よし、運動をするよ僕は。と、昼過ぎに電話がきた彼女に僕の決意を逐一報告し、彼女がうんざりし始めたところで、愛はししかば。ししかばぶと我が心を労わりつつ電話を切って近所のスポーツクラブへと、行きました入会しました。
 
入会するときにフィットネスチェックと書かれた紙を渡され、記入して下さいと言われましたが、僕はこの通り少し屈託しているので、なかなか書く気になれぬ。「当スポーツクラブに入会しようとしたきっかけは?」など野暮な質問が、いっぱい。まったく野暮なししかば。ししかばぶと人知れず立腹しながら、記入しようとするも、何も思い浮かばぬ。だいたいね、マックに行きますよ僕は。はいマックに行きました。てりやきバーガーセット1つ。とオーダーしますよ店員に。で、店員が「申し訳御座いません。このオーダーチェックシートにご記入下さいませ」と紙を渡され、内容を見ると「当マクドナルドでてりやきバーガーを食べようとしたきっかけは?」と、それと一緒。野暮なししかば。ししかばぶと地団駄を踏む。わーわーわー。食いたいから食う! 運動したいから運動する! 違うのか! 怒ってばかりいると、いいこともあるもので、受付のお姉ちゃんがペンを落とし、大きく開いたポロシャツから胸の谷間が見えました。怒り半減。性欲還元。
 
結局入会致しまして、プールで泳ぎました。久々のプール。すぐに息切れ。入会とか、しなければよかったと思う。駄目だ。もう昔みたいに泳げない。腐る前に運動しなければいけないと思ったが、もう実際腐ってた。腕が上がらない脚が痛い。泳ぎながらタバコ吸いたい。ビール飲みたい。馬鹿みたい。月会費5000円で、泳ぎ放題、その他、ジム、スカッシュなど使いたい放題。などと、甘い言葉に騙された。泳ぎ放題使いたい放題に身体がついていかない。どうしよう。と。2時間泳いで虫の息でスポーツクラブを後にする。2日に1回2時間泳ぐという当初の目標を3日に1回1時間泳ぐに自分の中の設定を変更した弱い自分が。
2003年05月29日(木)  わびさび。
「はい」
 
窓を開け、パソコンの前に座る。パソコンはベランダの窓際に置いてあり、心地良い風が入ってくる。毎日のように向かいの建物から邦楽が聞こえる。おそらく有線なんだろうけど、朝から晩まで気が滅入るくらいジャパニーズでポップなサウンドが流れ続けている。
 
「はい」
 
ベランダから聞こえる声に振り返ると、隣の部屋の女性がベランダの壁越しに僕を呼んでいる。僕たちは今日みたいに涼しくて風が気持ちいい夕方はベランダの手すりに寄り掛かり、壁を隔てて話をする。時々彼女が持って来た本に書いてある難しい漢字にふり仮名を書いたり、意味を教えたり、その言葉の意味の意味を教えたり、ベランダで過ごす時間はあっという間に過ぎる。彼女は時々僕の部屋にも遊びに来るけど、こうやってベランダで外の風に当たりながら会話する方が僕は楽しい。
 
「どうして花枯れますか?」
 
彼女はベランダに置いてある鉢を僕に見せる。青色の小さな花と細い淡緑色の葉が、少し枯れかけていた。
 
「んー。毎日水をやったら元に戻るよきっと」
「毎日水はいらないです」
「そう。じゃあ部屋に置いてみなよ。毎日陽が当たるところに置いてるから疲れてるんだよきっと」
「そうかもしれませんね」
 
強い風がベランダを吹き抜ける。
 
「どうして口大きく開けてますか?」
「あ、あぁ、風を食べてたの」
「ご飯食べてないの?」
「いや、そういうわけじゃなくて、ほら気持ちいいでしょ」
「気持ちいいけど私は風は食べません」
「関係のないことに意味を付けたり、なんでもないことにこだわってみたり、見えもしないものを食べたりするのを日本ではわびさびって言うのです」
「わさび?」
「いや、わびさび」
「どういう意味ですか?」
「例えば風を食べること」
「難しいですね」
 
今日も二人で笑いながらいい加減な日本語講座をしながら何でもない1日が暮れていく。
2003年05月28日(水)  晴れた日に。
夕食に魚を焼いたら部屋が臭くなったような気がしたので、夕食を食べながら御香を焚いたら魚がちっとも美味しくなく、これからは夕食が終わってから御香を焚こうと思う。くちゃい。毎日何をして何が楽しくて生きているのだろうと訝る人がいるかもしれないが、僕はすることも楽しみもそれなりにあって、そういうことはあまり気にしないで下さいと強がってみた。晴れた日に。部屋に閉じこもり。
 
懐かしい人からメールが届いたので、懐古に耽り返信。もはや僕は鹿児島にいないということは秘密のまま。晴れた日に。部屋に閉じこもり。
 
先月、大学のスクーリングで電車賃200円を拝借した挙句、夕食までご馳走になった女性からメール。
 
>ヨシミkunはやさしぃね(^-^)
>スクーリングで話してたときからそう思ってたけど♪
  
この1行に1時間悩む。このメールが謂わんとしていることを考察する。これはきっと、また一緒に食事に行きましょうという意味がこもっている! とそんなわけではなく、普通に返信。人生なるようになってならないときはならない。人間の考察なんて殆どあてにならない。本心も下心もあったものじゃない。いつの間にか好きになって、いつの間にか疎遠になる。これが自然の摂理というもので。晴れた日に。部屋に閉じこもり。
 
最近携帯電話を変えて、カメラ付き携帯にしたのだけど、まだ一度もカメラを起動させていない。古い友人や前の職場の後輩に「元気ダヨー!」と自分の顔が写った画像を添付する必然性が感じられない。その他の用途も考えつかない。顔以外に何を撮ればいいというのだ。今夜の夕食? 魚を? くちゃいよ。あれはくちゃい。
 
さて。夜も更けて参った。窓を開け、ベランダにて喫煙。星が見えても見えなくても、心境の変化を及ぼすには至らず、環境が人間の内部と密接に関係しているというが、あれは嘘だ。星が見えても見えなくとも。僕は僕。明日も僕で、明後日はキミのもの。安心しましょう。キミのもの。安心しましょう。晴れた日に。部屋に閉じこもり、受話器を握る。
2003年05月27日(火)  感染。
昨夜からどうも喉の調子が悪く、皆は喉の調子が悪いときに「喉がイガイガする」と言うが、僕は昔からイガイガとはどのような状態なのかいまいち理解できず、もしかしたら僕の今の喉の状態はイガイガなのかもしれない。しかし全然僕的にイガイガっぽくない。とイガイガの真実を探求しているうちに眠ってしまい、午後1時起床。喉の痛みは一層激しくなり、オハヨウなどと独り言を呟いてみるやいなや、ごっちゃんです。などと関取のような声になっており吃驚。これは重症急性呼吸器症候群ではあるまいか。巷で、有名の。ああとうとう隔離だぜ。洗濯物も取り込んでいないのに、ベランダには出ても構わないのだろうか。
 
厚生労働省に電話。
「日本に旅行中の台湾の医師と松屋で一緒に牛めし食ってからどうもイガイガするっぽい」
「今すぐ! バファリンを!」
と、厚生労働省の電話係が関西空港の検疫所職員のようないい加減な対応をしたので、バファリンで喉のイガイガが治まるとはとても思えず、僕だって元看護師なのだからそれぐらい理解できるし、商品名シマターゼなどの消炎鎮痛剤などが手元にあればすぐさまそれを服用し、再び就寝するのであるが、生憎手元にはコンドームしかなく。賃貸アパート独居生活の26歳無職青年の部屋にコンドームなど置いてあっても意味が無く、仕方無く、炊飯ジャーの上に乗ってあったレーズンシナモンドーナツを食して就寝。
 
目覚めるとマンションの入口に黄色いビニールテープが張り巡らされており、訳がわからずテレビをつけると僕が住んでいるマンションが生中継されている。わぁ。殺しでもあったんだろうか。このマンションで。多分、1階のコインランドリーの乾燥機が故障しているのに腹を立てての犯行であろう。馬鹿が。乾燥機など使わず晴れた日にベランダに干せばいいものを。と、そういうわけでもなく、テレビの左上を凝視すると「日本人初のSARS感染者を埼玉で発見!!」と、テロップが。発見!!と!マーク2つ。発見発見。埼玉で日本発とは快挙じゃないか。うほー。多分僕のことだぜ。空ではバラバラバラバラとうっとおしい音を立ててヘリコプターが何台も飛んでいる。カーテンを閉めて再びテレビを見ると、厚生労働省へ場面が変わっている。
 
「本日の午後、ある男性より松屋で牛めしを食ってからイガイガすると厚生労働省へ電話があったようですが、この情報を受けた厚生労働省職員は通報を放置していました。『そういう趣旨の電話を受けたという記憶のある職員はいましたが、詳細な記憶はないとのことです』と厚生労働省役員は会見でこう述べております」
 
ほれみろ。あのときバファリンなど勧めたからこんな事態になってしまったんだ。あのときシマターゼを服用しておけば日本初の感染者を埼玉で発見されずに済んだんだ。おそらくボーナス減給であろう。役員も大幅カットであろう。ボーナス払いを宛てにしていた住宅ローンも全額払えずに家族崩壊。あの鈴木さんちのご主人、厚生労働省にお勤めだったらしいのに、どうして突然夜逃げなんてことをしたんでございましょ。と田園調布。僕は金持ちが嫌いなので、ベランダから逃げ出して、今から田園調布に言ってバイキンをいっぱい蒔いてこようと思う。
2003年05月26日(月)  就労意志。
前の職場から離職票が届いたのでハローワークに失業認定を受けに行った。地図には川越駅から徒歩18分と書いていたので、地図通りに進みたいが、まず駅を出てすぐ右側にある交番がない。倒産しちゃったのかしら。と特に気にせず適当な方角に進むが、現実の世界は全く地図に伴っていない。コンビニがあるべきところに吉野屋があって線路があるべき場所にホームレスが横たわっている。それでも、おそらくこっちの方角であろう。と何の根拠もない意志に従って歩き続けるが、ガソリンスタンドがあるべき場所にセブンイレブンがあったり、噴水があるべきばしょに女子高生が小便をしていたりしてもうわけがわからない。
 
腐れ地図が。馬鹿が。と憤り公園のベンチに腰掛けクシャクシャになった地図を今一度確認すると「川越駅」から徒歩18分ではなく「川越市駅」から徒歩18分と記してあり、僕は「川越市駅」という駅など知らず、僕が駅員であればこんな紛らわしい名前などつけず、もう面倒臭いから川越駅から徒歩18分のところにハローワークを作るのに。と後悔先に立たず。来た道を引き返し、駅の路面図を見上げると、「川越駅」の1駅先に「川越市駅」と銘打ってある。紛らわしいのでやめてくれませんかこういう名前という怨念をこめた視線を駅員に投げかけたが効力など期待できず、怒ってばかりいてもしょうがないので切符代140円を支払い、川越市駅へ向かい、徒歩18分かけてハローワークに行った。
 
ハローワークはあらゆる年代のあらゆるファッションの人達でごった返し、さしずめ失業者のお祭りのような有様になっていた。祭りと決定的に違うことは皆、曇天模様な表情をしていて少しも楽しそうじゃない。それはいくら働きたい! と思ってもウチは人手足りてるから。と失業者の受容と雇用側の供給が一致しないからであり、意外と深刻なのである。
 
僕は午後は多分混むだろうから、朝イチで行ったら円滑に手続きが行えるだろうという打算の元、昨夜は午後11時に就寝して、午後8時30分に我が家を出ようと換算していたが、午後11時に就寝し、午後1時に目覚めるといういかにも失業者らしい睡眠時間を取ってしまい、いかにも失業者らしい人々が動き出す午後3時にハローワークへ到着し、受付に並び散々待たなければいけないという事態に陥ってしまった。
 
やっとあと一人で僕の順番が来るという時、僕の前に順番を待っていた人がなにやら受付嬢、受付嬢とか言っても50代半ばの母性は感じないこともないが、約3年前ほどに閉経してしまったかのような女性だが、その受付嬢と揉めていた。
 
「あのですね「失業」という状態はですね、就職をしようとする意志があって、いつでも就職ができる能力があって、積極的に仕事を探しているにも関わらず仕事に就けないという状態なんです」
「はぁ、そうなんですか。でも僕、あんまり働きたくないんだよなぁ」
「それは就職しようとする意志がないとみなして失業認定はできません」
「はぁ、そうなんですか。それじゃあ失業手当ももらえないんですか」
「そういうことです」
「困ったなぁ。うーん。あまり働きたくないんですけど……」
「だから就労する意志が意志がないと駄目なんです」
「そうですか……。わかりました……」
 
と、ウィンドブレーカーにスウェットという格好の30代前半の男は肩を落として帰っていった。呆れた。就職する意志がないということを馬鹿正直に受付嬢に申告してどうする。そんな就職する「意志」だなんて目に見えないものなんだからいくらでも嘘はつけるであろう。そんな僕だって就職する意志など微塵も持ち合わせていない。ただこの国は国民は働かなければいけないという義務があるから仕方なく働くのであって、そういうのは意志とは無関係なんだ。受付嬢も受付嬢で、そんな役所的な体質が染み込んだ態度で冷たくあしらわなくてもいいじゃないか。
 
肩を落としてハローワークを出て行く青年の背中を見ながら、失業者が増加するのは国や企業だけの責任ではないと思った。
2003年05月25日(日)  懸命の捜索。
昼食にインスタントカレーを食す。フローリングにあぐらをかいてカレーを食いながらテレビに見入っていた。テレビに見入っていたのではなく、磯野貴理子に見入っていた。僕は磯野貴理子が好きなのだ。あまり人には言えないけれど、磯野貴理子が好きなのだ。なんかウザったくて好き。ああいうタイプの女性は彼氏の前では塩らしく女らしくなるということが世の中の定説だけど、磯野貴理子に限っては彼氏の前でもウザったそうだから好き。大好き。あまり人には言えないけど。化粧も濃いけど。グルメ番組なのにすごい剣幕で喋るからご飯粒とか飛んでたりするけど。
 
と、その時、あぐらをかいたジャージの上にスプーンからカレーの具が落ちたような感触があった。ヤバ。人参だかジャガイモだか落としてしまったよ。ジャージにカレーつくとウンコこびりついてるみたいで嫌なんだよなぁ。と、ジャージの上を詮索するもカレーの具の欠片は見つからず。確かに落ちたはずなのになぁ。と、立ち上がる。ジャンプとかもする。ない。ないよ。気の所為かしら。と、ここで諦めてはいけない。もし気の所為ではなく、実際にカレールーにまみれた豆粒大の人参が落ちていたとしたら、おそらく俗にいう神様の悪戯で人参は暫くの間、身を潜めているだけで、ある日ひょっこり、朝起きて、ベッドから降りてトイレに行こうとしたその時、ブニ。と。ブニ。と。カレールーにまみれたあの日の人参を踏んでしまうかもしれない。朝とかに踏んだら最悪。1日中不愉快な気分になることは保証されたようなもので、僕は不愉快な思いはできるだけ避けて生きていきたいと思う性分なのでここはどうしても人参の欠片を発見したいCMの間に。
 
CMの間。時間にして2分。全力で人参を捜索する。人参(一瞬気を抜いたことにより現に行方不明の状態にあるもので、かつ周囲の状況から既に踏んでいると推測されるものも含む)の捜索は、災害規模等の状況を勘案して、消防対策部、各警察署、海上保安部、自衛隊等の関係機関及び地域住民の協力を得て行うことも考慮したが、馬鹿馬鹿しいのでよした。
 
結局、人参は発見できず、夜更けを迎え捜索は打ち切られ、悶々とした気分でベッドに入るに至れり。嗚呼この部屋のどこかに人参が落ちている。どこかに落ちている。いつか踏んでしまう。と、こんなに悶々とするのなら、いっそのことブニと踏んでしまったほうが、どんなに救われることだろうか。
2003年05月24日(土)  クリスピー。
ピザを注文するたび彼女とちょっとした口論をする。「生地はクリスピーとパン生地、どちらがよろしいでしょうか」そんなのどっちだっていいよ。とあらゆる選択肢を無責任且つ無関心に片付ける僕もピザだけはそういうわけにはいかない。東京都庁が新宿にあってホワイトハウスがワシントンにあるようにピザの生地はクリスピーと決まっているのだ。
 
そもそもピザの生地の選択肢を与えるという不毛なサービスをする近所のピザ屋がいけないんだ。なんだよパン生地って。意味わからんよ。それだから彼女みたいに、他とはちょっと違ったモノを選びたいお年頃の彼女みたいに、パン生地などと。パン生地が絶対美味しいなどと。カフェ行ってエスプレッソと。パスタ食ってペペロンティーノと。お洒落かぶれが。パン屋に行けよ。餅は餅屋でパンはパン屋。クリスピーはピザ屋。
 
「そんなことばっかり言うんだったらケンタッキー行けばいいじゃない」
 
たしかにケンタッキーにもクリスピーはあるかもしれないけど、あれはピザ屋じゃない。鶏肉屋じゃないか。ほら、回転寿司でなぜかプリンが回ってくるでしょ。あれと同じ。どこか間が抜けている。鶏肉屋にクリスピーなんて邪道だよ。絶対ピザ生地はクリスピー。僕は譲らないよ。トッピング云々はキミの勝手にしなさい。ダイスポテトでもグリーンアスパラでもペパロニサラミでも何でも乗せなさい。乗せこましなさい。
 
結局のところ、食感とボリュームのどちらを重視するかということなんだ。パリパリ感のたまらない食感か、焼きたての香りのするフワフワとしたボリューム。言葉を言い換えると、質か量。キミはいつだって量を重視する。やだ。嫌らしい。汚らわしい。せこい。僕はいつでもQOLを重視してるんだ。クオリティー オブ ライフ。量より質。気品が感じられる食生活。それに引き換えキミの食生活はなんなんだ。「Q」食えない「O」お腹いっぱい「L」ランチ。キミのQOLは甚だ動物的じゃないか。欲求丸出しじゃないか。アメリカ人かっつの。
 
ちなみにクリスピーはピザの本場のイタリア生まれで、パン生地は米国生まれ。ホットドックかっつの。マクドナルドかっつの。キミがピザ屋へ抱いてる概念はファーストフード感覚なんだ。イタリア人に叱られるぜ。ね。だから、クリスピーに。一緒に上品な食感を味わおうじゃないか。美味しいね。うん美味しいね。とテーブルをはさんで馬鹿みたいな会話をしようじゃないか。何? 怒ってんの? ほら、すぐそうやって怒る。世の中怒って済まされると思ったら石原慎太郎は今頃アメリカ大統領だよ。全く。怒んな。宅配ピザ如きで怒んなよ。
 
「あ、すいません。それじゃあバジルイタリアーノを1つ、はい、Mサイズで。それ1つと、焼きたてポテトの皮付きのやつ1つ。あ、はい。ピザはパン生地でお願いします」
 
と、ほら、矛盾。また矛盾を抱えてしまった。ピザの本場イタリアの名を誇らしく掲げたバジルイタリアーノをパン生地で頼んでしまった。ポテトもあまり食べたくもないのに、なんかその矛盾を解消する自己弁護のような気持ちで頼んでしまった。キミには負けたよ。イタリア男とアメリカ女。恋のカルチャーショックだよ。
2003年05月23日(金)  こんにちは労働!
今夜はきっと何かが起きるんですよ。ね。マンションの外。一人の青年。年齢20歳前半。身長170cm。お洒落なサングラスをかけて、ナイキのリュックを背負ってます。頭ボサボサ。挙動不審。昼前にタバコ買いに行ったときがファーストコンタクト。昼過ぎにポストの手紙を確認するために階下に降りたときがセカンドコンタクト。3度目は自転車に乗って近所の肉屋にコロッケ買いに行ったときがサードコンタクト。で、午後10時半。歩いてコンビニに行こうとしたときが4度目のコンタクト。ね。ずっとうちのマンションの前をうろついているんです。こわ。何時間ウロウロしてんだよ。と気になって問い掛けたいが、こわ。今外に出てもきっとウロウロしてるような気がする。今夜何かが起きるぜ。こわ。早よ寝よ。
 
とカーテンを開け、ベランダを見ると、だ、誰かがよじ登ってきてる! ってこれは嘘。多分彼女にもらった指輪を落としてしまって探し続けている憐れな青年だと思う。思わないけど、そう思いたい。
 
書くことないので2年前の5月の日記を読んでいたら、ちょうど彼女と別れた頃で、行間がなんだか痛々しい。
 
明日はハローワークに行って、失業の申請などをしたいのだが、土曜日。ハローワークは土曜日も開いてるのかしら。どうしよう。わからないので月曜日に行こう。今日できることは、明日も明後日も3日後もできるんだから。今の僕には。時間という概念があまり重要でない。腕時計などなくとも生活できる。もっと時間を有効に使おうと思ったら早く寝ること! ね。あぁ! もう11時! 明日仕事なのに! 早く寝なきゃ! というあのときの気持ちを忘れずに早く寝ること。しかし目覚めても格段することがない。隣の部屋のコが時々僕の堕落振りを心配しておやつとか持ってきてくれるので、大丈夫。僕は生きていける。
 
ハローワーク。こんにちは労働! と和訳してみる。こんにちは労働!
2003年05月22日(木)  (独唱)
本日より我が家にADSLが開通するということで、昨夜からヤル気満々の僕はつい夜更かしをして午後起床。寝惚けた頭でモデムなどの設置に取り掛かるが挫折。僕の部屋のパソコンは窓際の方に置いてあり、昼間は結構暑い。暑いとアイスクリームが食べたくなるので近所のスーパーにアイスクリームと牛乳石鹸3個入りが100円で売っていたのでついでに買ったはいいけど、今日び石鹸など特に使い道もなく、とりあえず洗面所に置いたはいいが、なんか格好がつかず、再び箱に直し、なぜか本棚に並べた。
 
アイスクリームを食べてから今日が返却日のDVDを泣く泣く見た。『メメント』という名の映画。リカちゃんも紗江ちゃんも裕美ちゃんも「絶対面白いから見てみな!」って言っていたけど、森山直太郎の『さくら(独唱)』の(独唱)の部分並みに意味がわからなかった。前出の3名の女性のうちの一人、名古屋在住の紗江ちゃんに「全然意味わかんないよ」と電話すると「1回じゃわかんないから2回見てみて!」って言われたので「うん、そうする」と言って電話を切って、今日が返却日なのでそのままツタヤへ返しに行った。
 
そしてADSL。面倒臭い。僕のパソコンはデスクトップなので、あらゆるコードの接続の為に、パソコンデスクを少し移動させて、あのコードと差込口だらけの裏側を見るのは結構な作業で、こうも暑いとアイスクリームが食べたくなるけど、さっき食べたので頑張ってモデムの説明書通りに然る場所にコードを差し込んでいって、「青いコードをLANポートに差し込んでください」という作業でやっと終わると思いきや、LANポート差込口というものがどこを探してもない。ムカつく。アイス食いたい。怒りを込めてパソコンメーカーに電話。
 
「ちょっと聞きたいことあるんスけど! 僕のパソコン、LANポート差込口ってのがないんスけど!」
「それでは購入して下さい」
「わかりました」
 
他所行きの洋服に着替えて駅へ向かう。池袋まで行くのは面倒臭いし暑くてアイス食いたくなるので、近場の川越市街地のパソコンショップへ。
 
「あのー。LANポートってやつ探してるんですけど、どれがいちばんいいですか?」
「あ、はい、えっと、うーん、そうですねぇー、これなんかが、いいと思います」
 
と店員が手に取って僕に渡したLANポートを店員が見えなくなってから陳列棚に戻し、その隣のLANポートを手に取る。店員の決断力が悉く欠如した優柔不断な態度と、サラサラヘアと、パソコンに詳しい人独特の鼻の頭にかいた汗と「これなんかが」と接客に適さない言葉を使ったため、アイスが食いたくなった。
 
部屋に戻り、LANポート接続に取り掛かりたいところだが、もうLANポートを買った時点で今日の使命は終わったような気がして、明日明日。今日できることは明日もできるしそう思ってるからいつまで経ってもしない。夏休みの宿題かっつの。
2003年05月21日(水)  小癪な業。
午後起床。久々池袋へ。どうやら社会は僕を求めていないようなので、自ら動き出すことにしました。
 
「これってデートじゃないの?」
 
と彼女は言うけれど、大丈夫。僕たちはそういう関係じゃないし、実際問題関係を持つということは不可能なんだから。だから大丈夫。断言します。これはデートです。
 
「やっぱりデートだよね」
 
女性はその行動に理由などないが、男性は理由を求めて恋を失う。と。この場面では関係のない話だが、地下街を歩きながらそんなことを考えていた。この中にSARS感染者がいたら、多分僕も感染するだろうから、来月の家賃どうしよう。と。やはりこの場面では関係のない話だが、そんなことも考えていた。久々の晴天で、僕たちの出会いは霹靂だった。
 
様々な雑貨屋が軒を連ねる池袋パルコ5階。彼女のピアスを選ぶ僕。選ばれる彼女。女性のピアスを選ぶのは、えっと、3年振りかしら。あれからもう3年経っているのかしら。あのクリスマスから3年も経ったのかしら。いや、4年前かな。
 
渋滞をすり抜けるように自転車で彼女のアパートへ走ったクリスマス。ワインと手作りの料理とケーキ。あんなに急いでいたのは仕事が遅く終わってしまったということと、どうしてもこのピアスと一緒にあの絵本を贈りたかったということ。その他諸々の理由は忘れてしまった。忘れてしまった理由は僕が歳を取ったということと、その数ヶ月後に別れたときにそのピアスも絵本も僕の手元に戻ってきたということ。『羊男のクリスマス』という絵本は今も僕の部屋の本棚に、2冊。自分用とプレゼント用の2冊。静かに佇んでいます。
 
というわけで数年振りのピアス選び。もう腕まくり。真剣です。自分ではなく、他人が身に付けるものだからいい加減な選出などできないのです。この店ではこれがいちばんいいな。よし次の店に行こう。この店ではこれがいちばん可愛い。よし次の店行こう。この店ではこれがいちばんキミに合いそうだね。あれ? 前の前の前の店で見たピアスはどんな形か忘れてしまったよ。はは。駄目だね僕は。と、案外駄目じゃない。
 
「トイレ行ってくるからこの店で待ってて」
 
と彼女をその店に固定させといて、僕はトイレに行く振り。前の前の前の店に一人で行き、素早い手つきでお目当てのピアスを手に取り購入。「プレゼント用で」と一言告げて、店員がラッピングしている間にトイレに行き小便。再びそこへ戻りラッピングが施されたピアスをポケットに入れ、何食わぬ顔で彼女の元へ。「なんか、トイレの場所、すげぇ、あれだね、わかんなかった」と今思い返すと馬鹿のようなセリフを吐いて再び彼女と一緒にピアスの選出。
 
「これ、これいいよ。僕の直感が、そうおっしゃってます」
 
とピアスを購入。事前に彼女のピアスホールの数を確認していた僕は、今購入したピアスと並んで装着した場合に遜色ない、というかその2種類のピアスに共通のテーマというかイメージが存在するようなピアスを購入したという小癪な業。
 
そして別れ際。いつこれを出そうか散々迷っていたくせに「あっ! そうだった。これ。もう一つ買ってたの。ピアス」と、自然に思い出したような臭い演技をして彼女にプレゼント用にラッピングされたピアスを渡す。小癪だね。これはデートであってデートじゃない。しかしデートらしい演出。今日はとても楽しい一日を過ごしました。
2003年05月20日(火)  「賞」
午後、隣の部屋の女性が来る。今回のレポートのテーマは「現代の子供の教育について」
 
「こういうのは生んでみないとわかんないよねぇ」
「私もそうだと思います」
「まぁ大学ってとこは机上で空論してナンボのところだからね」
「キジョウデクウロン?」
「いろんなことを想像して、組み立てて、自分のルールを作って、その中で遊ぶの」
「ふぅん」
 
彼女はソファーに座り、目の前の本棚の3段目辺りに足を乗せて頭を傾かせてしきりに何かを考えている。僕はその間「現代の子供の教育について」おおまかなあらすじをメモに書き留める。
 
「これを繋げていけばレポートあがると思う。そもそも現代も古代も子供の教育自体は基本は同じなんだというようなことを書けばいいと思うよ」
「ありがとうございます」
 
そう言って彼女はテーブルにレポートとメモを置き、再び思案に耽る。僕はその間、たいして何もすることがなく、実際朝から何もすることがなく、DVDを見たり、プレステしたり、ベランダに降りて空を眺めるなど廃人同様の生活をしていて、近隣住民のおば様たちは、あのマンションの男性は一日中何もせずに部屋に閉じ篭って、爆弾でも拵えてるのかしら。きっとテロリストなのよ。わぁ怖い。ガーデニングに水やってワイドショーでも見ましょう。とでも思っているのだろう。「あなたもっと外に出たほうがいいわよ」とある女性に今日の昼に言われたばかりで「あなたは本当に『面倒臭い』で構成されている人間ね」と厳しい指摘を受けて、さぁ、何か始めようと思っても、働き始めると失業保険はもらえないらしく、それじゃあ何をすればいいんだといえば、たいして大金も持たず、仕事といえば1階に降りてポストに手紙でも入ってないかしらと確かめに行くことくらいで、まさに廃人。彼女がそんなこと言うのも無理はない。だけど、こうやって隣人のレポート作成を手伝うなど、全く世の中の役に立っていないということはない。
 
彼女は本棚から足を下ろして、パソコンチェアに座っている僕の方を向いて
 
「あなたの賞はなんですか?」
 
と言った。
 
「ショウ?」
「うん。賞。賞状の賞。うーん。日本語で何て言ったらいいのかな。賞。あなたが最終的に求めているもの……うーん。うまく表現できないけど」
「地位とか名誉とか?」
「そうそう、そういうものです」
「賞か……。地位でも名誉でもないな……」
「私はね」
「ん?」
「私の賞は、努力していろんな人に認めてもらうということです」
「そうなんだ。だけどキミは本当に努力してるよね。今のままだときっと大丈夫だよ」
「ありがとう。ヨシミさんの賞も教えて下さい」
「ふむ。賞ねぇ。努力、認知、地位、名誉、金。うーん。違うなぁ」
「宿題です」
「え?」
「これ宿題。アナタはアナタの賞を考えてください。そして今度来たときに教えて下さい」
「うん。わかった考えとくよ」
「それじゃまた来ます」
「レポート頑張ってね」
 
そうして再び1人になった部屋で自分の「賞」について考えた。きっと中国の「賞」という言葉は日本語で表せない微妙なニュアンスがこもっていると思うけど、全てを失った今、自分の「賞」について考えるいちばん適切な時期だと思い、今にも雨が降り出しそうな空を眺めながら大きく息を吸って、思案に耽る。
2003年05月19日(月)  残り香連載に関して。
本日より「残り香」というオンラインノベルの連載がスタートしました。「冷静と情熱の間」形式の男女の心情を相互の物語と並行して描いていく作品ですが「冷静と情熱の間」のパクリにならないようにならないようにと思いながら書いてますが、書きながらエンヤのアルバム聞いてたりします。これは一人で物語を書くよりかなり難しい作業です。二人の文章の間にズレが、心情的なズレは物語では重要なんだけど、それ以外のズレ。「広人は20時に公園の前に立っていた」とaiさんが書いてるのに僕の文章では20時に一人でメリーゴーランドに乗って絶叫して頭を振っていた。と、こんな場面ありませんが、わかりやすくいうとこういう事態も生じてしまうわけで、それを避ける為に綿密な意見交換をしなければ成り立たないのです。
 
サイトデザインに関しては、実は僕はあまりHTMLのこととかわかんなくてHPビルダー一辺倒なのですが、これがどうも。「800×600のディスプレイだと本文が見辛くなっちゃうよ」というaiさんのありがたい意見にも、僕はどうしていいのかわからず、受話器を握りながら洗濯物をたたんでます。「ピクセルを計算して、横の幅が800になればいいのよ」という具体的な説明にも「ちょっと待って、すごいお腹痛い。トイレ行ってくる」なんてできないならできない。わからないならわからないと言えばいいのに、トイレに座って、うーん。どうしようとなぜか漢字検定2級の参考書を見ながら考えているのです。
 
という紆余曲折を得て、800×600のことは雲散霧消にして、どうにか本日完成しました。サイトデザインはどうもアレですが、文章は何度も訂正して、お互いを添削して丁寧に、真剣に書いてます。書いてますが、僕の文章で旅行用トランクがなぜか2回倒れているのです。
 
しかし同じ素材を与えられて、ここまでお互いの想いが違うと、なかなか、やけに主人公に感情移入してしまって悲しくなります。これからも文章の中の「アイ」に恋をして追い続けていく所存でございますので、応援宜しくお願いします。あとaiさん。急がなくてもいいので、今の調子で、自分の言葉で時々男心にグサリとくるような文章を書いて下さい。
 
今回の物語は、タイトルの如く「香り」がポイントとなっています。想像力と嗅覚を駆使しながら楽しんで下さい。
2003年05月18日(日)  日記概略。
今日も今日とて新宿です。浮世の人間はいったい新宿に何の目的があって来ているんだ。僕は用事があるのです。歌舞伎町とは逆の方向です。あの人込みはなんなんだ。と毎回毎回驚くのです。
 
さて埼玉。夜遅く帰宅。すごい静か。窓開けっ放しで出掛けてて吃驚。泥棒さえ気付かないくらい人が少ない。近所のドラッグストアは9時に閉まっててすごく心細いけど、ドラッグストアなんてコンドーム買いに行くときくらいしか行かないよ。あるよ。使ってないやつが1箱あるよ。
 
数日振りに洗濯物が干せました。これちゃんと乾いてんの? 半乾きなの? という微妙なラインをいく乾き具合でしたが、Tシャツもタオルもパンツも全部クルクル丸めて衣装ケースに仕舞うのです。僕は洗濯物をたたむのは嫌いだけど、衣装ケースに整理するのは大好きです。大好きとか! このパソコン! 何度やっても1度目に「大隙」って変換される! 大隙って言葉ねぇよ! いい加減学習しろよ!
 
と怒ってもしょうがない。往々にして世の中は怒ってもしょうがないことばかり。だから実生活の僕はほとんど怒らない。文章の中で、しょうがないなぁって思うことを怒った振りして書いてます。実は全然怒っていない。怒りという感情を利用して文章にメリハリをつけようとする魂胆なんだけど、どうやらその目的は達成されてないっぽい。
 
毎日毎日吉野屋ばっかりじゃ体を壊すことは火を見るより明らかなので今日は天丼を食べました。最近もう何食べても美味しくない。無機質な味がする。無機質な人間になってしまうよあの新宿駅のホームの黄色い線の内側に立っている人達のように。渋谷駅も新宿駅もホームがすごく汚くて気が滅入る。あそこに立つとすぐうちに帰りたくなる。うちに帰ると渋谷駅より汚いというジレンマ。
 
以前勤めていた職場より電話。
「あの書類、どこに直しましたっけ?」
わぁ。どこにやったかなぁ。外来の白い3段ボックスがあったでしょ。あの2番目の棚に直したような気がする。つーかもう辞めてるから覚えてないよ。しかし少し嬉し。辞めてもなお当てにされてるから嬉し。こんなに堕落してしまったけど、後輩の中ではいつまでも先輩なんだな。僕はもう駄目だよ。ほら、また夜が明けてきたよ。
2003年05月17日(土)  自由という絶望。
5月17日の日記を5月18日の午前3時30分に書いています。最近は午前5時くらいに寝て、午後2時くらいに起きる生活をしています。まさに昼夜逆転。宅急便が部屋のベルを鳴らすと頗る不機嫌。うっせーんだよありがとうございます。と、人間崩壊。そろそろ働かなければ本当に壊れそう。
 
僕が引越ししてからいつまでも働かずに堕落した生活をしているのは理由がありまして、いや、理由ってほどじゃないけど、失業保険? なんかそれの支給があるんです。退職してから3ヶ月後に支給されるらしいので、まだ2ヶ月先の話ですが、じゃあ今はどうやって生活してるんだと言われたら、雀の涙ほどの貯蓄および退職金。人生の夏休み。神様がくれた黄金月間。自由について話します。
 
自由。それは誰もが望む欲望。願わくば自由になりたい。こんな仕事辞めて人間関係のしがらみなんて考えずに自分の時間だけを満喫したい。などと、こういうのは理想。ね。自由と理想は実は違った。と、気付いたわけであります。今僕は客観的にみると自由な立場に置かれているのであります。朝眠って昼起きる。ダラダラしてたら日が暮れて、レンタルしたビデオは見ないままいつまでもテレビの前に置いてあって、ポストの中は郵便物が溜まっていて、もう3日も髭を剃っていない。こんなの僕が望んだ自由じゃない。もっと、有意義に時間を使いたい。実りある生活をしたい。
 
しかし、自由を手に入れると、そんなこと全然できなくなる。ただ堕落していくばかり。足とか腐っちゃう。歩けない。太陽が眩しい。願わくば毎日曇っててほしい。雨はヤだ。傘さして歩くくらいなら、外になんか出ない。なんか今日肌寒いけど、クローゼットの奥のトレーナー取るのも面倒臭い。ただ堕落していくばかり。足とか腐っちゃう。
 
僕は今まで仕事に全てを捧げてきました。未来の医療と将来の精神保健のことばかり考えていきてきました。ややあって、頭の線が一本切れて、自分自身が追い込まれてることに気付いて、辞表提出して、逃げるように鹿児島を飛び出して、埼玉に来て、クロネコヤマトに騙されるはコンビニ遠いは電車賃が足りないはで、今のところ、夕方のニュースの最後の方でやってる上野動物園で生まれた珍しい動物の話題ですみたいなちょっと明るいニュースなんてものがない。毎日が絶望で、毎時間命が縮まっているような気がする。
 
思うに、仕事をして、週に2日休日があって、その2日間の休日の為に自由への思いを馳せる。そんなものではないかと。仕事という束縛があって休日という自由がある。そのバランスではないかと。キミがいて、僕がいる。キミだけいてもなんにもならないし、僕だけいても足が腐っていくだけ。キミがいて、僕がいて、ようやく唇と唇を寄せ合うことができる。キミがいない僕の唇なんて牛乳を飲んだあと白い線がつくくらいしかその存在感を表現できないんだ。キミがいて、僕カエル。ゲロゲロ。
 
もう30分経ってしまった。現在午前4時。おもろ。みんな寝ちまった。誰も電話に出ない。あのコももう寝ちゃっただろうか。外がうっすらと明るくなってきた。今ゴミを出しにいっても誰からも責められない。早起きの好青年だ。ゴミ捨てた後にラジオ体操、もしくはジョギングでもするのかしら。関心ね。と、近所のオバちゃんは思うかもしれないが、関心じゃないよ。今から寝るんだよ。お昼まで寝るんだよ。誰からも起こされずに、世間に取り残されたまま足が腐っていく。
2003年05月16日(金)  ハッピーエンド。
事実は小説よりも奇なりとよく言ったもので、世の中何がきっかけで誰と出逢うかわからない。それが運命と呼ぶのならそれで結構。偶然と呼んでも構わない。必然といわれたら、それはちょっと違うけど、まさか僕と彼女が。ね。その「まさか」が世の中では曲者なんだよ。
 
とある女性と恋に落ちて、しこたま腰を打ちつけた。まさか。ね。そういうものなのです。人生って多分。恋多き人生を送ってきて、必ずともハッピーエンドを迎えるわけではなく、器が小さいだの恋に恋をしてるだの他に好きな人ができただので、むしろバッドエンドの方が多いのだが、ん? 恋愛のハッピーエンドとは何だろう? と自問した場合、結婚? 否。二人の関係のプロローグが終わった時がハッピーエンドだと定義付けることができる。
 
「好きだよ」
「私も好き」
 
とりあえずここでハッピーエンド。ね。男らしい意見です。後のことはよくわかんなーいと煙に巻く。かのグールモンはこう述べてます。
 
『男は恋を恋することからはじめて、女を恋することで終わる。女は男を恋することからはじめて、恋を恋することで終わる』
 
読めば読むほど味わい深いスルメのような言葉ですが、然り! まさしくその通りであります! と思う反面、僕の中の屈託していない純粋な部分では、この言葉を否定することもできるのです。
 
「好きだよ」
「私も好き」
 
僕は彼女に「好きだよ」と言い続けることにより、その言葉が鈍磨され、色褪せていくような恋はしたくない。「好きだよ」と言い続けることにより、その言葉が洗練され、より濃密になっていくような恋をしたい。
 
と格好をつけてみたはいいけれど、やはり恥ずかしい。
 
とある女性と恋に落ちて、しこたま腰を打ちつけた。まさか。ね。そういうものなのです。人生って多分。
 
2003年05月15日(木)  メモ帳機能。
毎日日記を書くということは結構大変なもので、3年近く書いていても慣れることはなく、重みになるばかりで、昨日よりも良い文章を書こう。明日はもっと良い文章を書こうと自分自身を追い込んで、追い込まれて、袋小路。壁を這い上がって、墜落して、打撲。引越して失職して怠惰な生活。今日は雨が降っているので、ただそれだけの理由で外に出ていない。雨降ってたら、濡れちゃうじゃない。とそんなノリ。駄目だ全然駄目。人間の屑です。今後の予定は日曜日、新宿。それだけ。
 
というわけで毎日日記を書くことに限界を感じているので、このように窮地に追い込まれても困らないように僕は携帯電話のメモ帳機能を利用して、日常生活を送るにあたり、あ、これは日記のネタに使えるぞ。ということを、コツコツとメモしてきたのであります。携帯のメモ帳の利口な使い方です。
 
「若いの? という自爆」
 
とメモに記してあります。意味わからんよ。メモしてるときは、これだけ書いてたら思い出すだろうという安易な思考のスイッチ効果を利用しようとする魂胆でしょうが、全然思い出せない。マジ頼むよオレ。とキムタクのように困った顔になってしまいます。若いの? という自爆。ふむ。さ、次。
 
「普通ってなによ」
 
これは昨日の日記に使ってしまいました。女性と口喧嘩になったとき「普通ってなによ!」と叫ばれてしまったので、普通とは何かということには答えず、携帯のメモ帳に「普通って、なによ……っと」と小声でメモしたのであります。
 
「サブウェイ 有無をイワサズ 嫌いなら食うなという心意気」
 
これはファーストフード店のサブウェイのランチセットにまつわる話です。サブウェイのランチセット500円。「ランチセット1つ」と頼むと即座に「お待たせしました!」と紙袋を渡されるのです。中身はサンドイッチと、サラダと、お茶と、クッキー。それぞれの中身は袋を開けてみなければわからないという代物。サンドイッチの中身が嫌いな食べ物でもしょうがない。嫌いなら食うなという心意気。と、こういうことを感じたのです。それだけ。次。
 
「吉野家 大喜び 紅しょうが丼」
 
知るか。次。
 
「回線 黒 オレンジもあるよ」
 
いや、わかんない。これ本当に僕が書いたのであろうか。そうか、回線にオレンジもあるのか。知らなかった。何の回線なんだろう。僕はこれを書くとき何処で何をしながら誰と話しながら回線、黒、オレンジという単語を記したのであろう。
 
「コンドームがない」
 
気を付けろよ。次。
 
「8時過ぎると半額」
 
これは近所のスーパーが午後8時を過ぎると惣菜が半額になるからチャンスですということを未来の僕に伝えているのです。現在、午後8時10分。雨は降り続いている。
2003年05月14日(水)  女は強し。
「普通そんなことしないよ」
「普通って何よ!」
 
とすぐ女性は怒ります。普通って何よ! 誰が決めたのよ! って。そうやって不毛な口喧嘩の幕が上がるのです。で、喧嘩の内容は、普通って何よ! 誰が決めたのよ! とずっとそればかり。僕がついうっかり「普通はしない」ということを言ってしまったばかりに、すごい剣幕で責められるのです。その喧嘩をするに至った物事よりも「普通っていったい何?」に対して焦点が当てられるのです。
 
「普通って、ほら、一般的なものとか、常識とか」
「じゃあ一般的って何よ!」
「一般的って、ほら、10人いたら9人くらいは……」
「じゃあ何? そういうのって多数決なの!」
「いや、そういうわけじゃないよ。だいたいにおいて普通に感じるってことだよ」
「だから普通って何よ!」
 
ともう らちがあかない。らちがあかないので謝ろうと思う。ごめんなさい。
 
「ほらまたそうやってすぐ謝る!」
 
とにかくこういうことは彼女の納得のいくようにしなければいけない。単純に謝っては駄目だ。彼女の感情の波に上手く乗らなければいけない。はて。どうしたものか。よし。話の矛先を変えよう。
 
「ねぇ、この前読んでた本にとってもいいことが書いてあったんだ。えとね『三つのマッチを一つ一つ擦る夜のなか はじめは君の顔を一度きり見るため 次は君の目を見るため 最後のは君の唇を見るため 残りの暗闇は今の全てを思い出すため 君を抱きしめながら』ね、いい文章でしょ。だからもう帰れよ」
「なーーーんでよ!」
「ほら、キミが帰ってから、キミの顔とか目とか唇とか腹とか思い出すんだよ」
「腹は思い出さなくていいわよ!」
「ああそうかい」
 
僕の長所は安易に女性を怒らせることができるということです。逆に考えると怒られやすいという意味にも取れる。どっちだっていい。そんな気持ちのいいもんじゃないし。彼女は昨夜僕の部屋に泊まって、朝起きて、僕がいつまでも歯を磨かないで、ぼっさーっとテレビばかり見ているのが気に入らない様子で、次第にイライラが増していたようで、今日の不毛な口喧嘩が始まったというわけです。
 
「あぁ、腹減ったなぁ」
「その前に顔洗ってよ!」
「うん。洗う洗う。しかし腹が減ったね。何食べる?」
「何でもいいわよ!」
「じゃあカレーライス」
「普通朝からカレーなんて食べないわよ」
「ハハッ。普通って何よってさっきキミが言ったじゃないか」
「普通って朝からカレーなんて食べないってことよ!」
 
成る程。女は強し。
2003年05月13日(火)  玉子ごはん160Kcal。
「えぇ〜。マジックス?」
 
説明しますけど、彼女は「えぇ〜。マジ?」と言いたいのですが、巷で流行っているのかどうなのか、おそらく流行っていないと思いますが「えぇ〜。マジックス?」と。可愛い。マジックス可愛い。知らんけど。
 
煙草の自動販売機がすごい近くにあった。ビックリした。これで煙草吸い放題。肺の中タール16mg。僕の健康を損なう恐れがある。吸い過ぎに注意します。喫煙マナーを守ります。
 
向かいの建物から、毎日のようにJ-POPが聞こえる。有線なのか。TMRとか歌ってて気が滅入る。余裕でうるさい。しかし向かいの建物のJ-POPマニアな人物はまだ素性が知れないので、怒鳴り込まない。素性が知れても怒鳴り込まない。僕だって時にはJ-POPを聴くのだから。
 
夕食は自分で作りました。玉子をね、茶碗に入れて、でね、でね、醤油入れんの! で、ご飯と混ぜたらすげぇ美味いの! 推定160Kcal。このままじゃ死ぬぜこれは。
 
一日中小説ばかり読んでいる。小説ばかり読んでいると、何が現実で、何が幻想の世界なのか、わからなくなるわけないじゃん。わかるよ。またダンボールいっぱいにカロリーメイトが送られてきた。チョコ味以外はちゃんと食べてる。
 
「宅急便来たら荷物預かってて下さい」
 
と隣のコから電話。隣の部屋の住人の荷物を果たして預かることができるのかと思い、ドキドキしながら宅急便の到着を待つと、ピンポーンピンポーン。ピンピンピンポーンとヒステリックなベルの音。わ。チョー怖い。ヤクザかしら。と恐る恐るドアを開けると隣の彼女。学校終わりましたー。と陽気な声。しばらくお話をして帰っていきました。結局宅急便の荷物は、来たのか来ないのか。その後に布団のセールスが来て、いつ引越していましたかとか、どんな布団使ってましたかとか、いつ干しましたかなどとプライバシーに関わることをズバズバ聞いてくるのでこいつは怪傑ズバットかよ。と。少し不機嫌を装って、相手に聞こえるか聞こえないかの微妙な音量で舌打ち、そのあと溜息をついたら、相手の額に汗が滲み出るのが容易に確認できたので、ちょっと悪いことをしたかなと反省。セールスの人だって、きっと好きでやってんじゃないんだから。
2003年05月12日(月)  何もない日をどうやって文章にするか。
さぁ日記を書くぜ。だいたいね、毎日笑っていいともが終わった時間に起きて、歯磨いて2時ごろ腹が減って、葛藤して、結局3時頃着替えて近所のスーパー行って、昼飯でもない夕食でもない、何を買って何を食っていいのかわからず、ベルギーワッフル4個入りなどわけのわからないものを買って、部屋に戻って、なんかもう、ソファーの下に埃とかたまってるとすごいムカついて、クイックルワイパーでキレイキレイしてると、ベッドの下とか本棚の下も気になりだして、ついでにキレイキレイしてるんだけど翌日にはキタナクキタナクなっている。なんでだろ。で、午後4時。僕はベルギーワッフルを食するという目的があったんだ。と、パクパク。ベルギーワッフルだけじゃ口がファッサンファッサンすることに気が付いて、自動販売機で缶コーヒーを買ってきて、さぁベルギーワッフルと缶コーヒーのハーモニーを楽しもうと思いきや、なんか便所汚い。で、トイレ掃除。もうトイレ掃除までしちゃったんだからお風呂まで掃除しましょう。と風呂掃除。キレイキレイになったのはいいが、買ってきたばかりの缶コーヒーをテーブルの上に乗せたままで、微妙な温度になっている。クールならクール! ホットならホット! 水はウォーター、お湯は沸いたー。ひねるとジャー。おもろ。
 
午後4時。そろそろ隣のコが大学から帰ってくるね。僕は昨夜新宿に行っていて、帰りが遅くて、電車の中で隣のコから電話が掛かってきて
 
「いつ帰ってきますか?」
「いま電車乗ってるからあと20分くらい」
「私明日早いから寝ます」
「あ、あぁ、そう。じゃ、おやすみ」
「入口見て下さいね」
「は?」
「入口見て下さいね」
 
と、マンションの3階、僕の部屋のドアの前に、おつまみがいっぱい置いてました。で、そのおつまみ食べながらビールを飲んで、一緒に添えてあった手紙を読むと「このテーマについて、概略して教えてください」と書いてあったので、概略とは、いったいどう説明すればよいのだろう。と、ベルギーワッフルと微妙な温度のコーヒーを食べ終えてから、いざパソコンの前に座り、手紙に添えられてあった参考書を斜め読みし、レポート用紙1枚に概略して、隣の部屋のドアポストの中に入れて、お菓子ありがとう。と手紙を添えて、いつの間にか眠っていた。
 
午後8時。寝てばかり。嫌になる。昨夜未明の地震。ビックリしました。たしか鼻糞をほじっていて、手元にティッシュがなくて、あぁどうしよう。ティッシュ見えることは見えるけど、ちょっと遠い。どうしよう鼻糞。また鼻の穴に戻そうかしらなどと考えていたら地震。すぐテレビをつけたらダイエーホークスの城島のインタビューがあって、見入っていたら地震速報を見るのを忘れて、はて。寝ようかしらと思っていた午前3時。ある女性から怖い夢を見たとの電話があって、切実感を感じさせないために、地震の所為だよとおどけて見せて、再び眠りの世界へいざなえるように、心持ち安らかに話して、おやすみなさいと言って、あのコ、果たして眠れたかしら。眠れたかしら。と心配して天井を見上げていたら、僕の方が普通に眠ってしまい、怖い夢を見ることもなく、笑っていいともが終わった時間に目覚めた。
2003年05月11日(日)  苺。
1パック498円。近所のスーパーに少し季節外れの苺が並んでいた。僕はそれを手に取り、また棚に戻して、しばらく思案に耽ってからもう一度、苺を手に取った。5月の苺。それは僕にとって特別な思いを抱かせるものだった。
 
――――
 
「ねぇ、イチゴ買って来て」
「え、何?」
「イチゴ買って来て」
「今?」
「うん。今」
 
彼女が入院して、もう4週間経っていた。
4週間前のいつもの休日。2人で旅行の計画を立てながら旅行雑誌を読んでいると、彼女が突然「イチゴ食べたい」と言い出した。
 
「イチゴ食べたい」
「え、何?」
「イチゴ食べたいの」
「今?」
「うん。今」
 
たぶんあの時も僕は今日と同じような素っ頓狂な返事をしたかもしれない。彼女は付き合った当時から少し物事に対して衝動的なところがあって、駅の改札の前で突然キスをしたり、擦れ違うカップルへのあてつけのように突然腕を強く組んだり、旅行雑誌を読んでいる途中に突然苺が食べたいと言い出したりした。
 
「ねぇ、買ってきてよ」
「嫌だよ。雨降ってるし。それに今イチゴって高いんだよ」
「お金払うから」
「嫌だよ。自分で行けよ」
「いいわよ。自分で行くわよ。帰ってくる保障はないけどね」
「わかったよ行って来るよ。お金よこせよ」
 
と僕はいつものように彼女の策略にはまり、スーパーに行くことになった。1パック498円の苺と牛乳を買い物カゴに入れ、バラの模様がしつこいくらいに密集した彼女の小さな傘を広げて早足でアパートに戻った。アパートのドアを開けると、彼女は小さなソファーからずれ落ちて、白目を剥いて全身が小刻みに痙攣していた。大声で名前を呼んでも返事はなく、口からはおびただしい量のよだれが流れていた。僕は生まれて初めて119番をダイヤルし、彼女の全身が痙攣していて意識がないと震える声で説明し、電話を切ったあと、助けてくれ! と大声で叫んだ。
 
そして4週間後、僕はまた彼女の衝動的な欲望によって、スーパーへ苺を買いに病院近くのスーパーに来ていた。あれから彼女はすっかり元気になったけど、未だに病名がわからず、様々な検査の為に入院が長引いている。1パック498円。あれから4週間経ったけど、苺の値段はやはり変わらないままだ。僕は小さく溜息をついて苺を買い物カゴに入れる。
 
「買ってきたよ」
「ありがとう! 好き!」
「軽々しくそういう言葉を使うもんじゃないよ」
「イチゴ好き!」
「イチゴかよ」
「マー君も好き!」
「も、かよ」
 
彼女は無邪気な笑顔を浮かべながら奪い取るように僕が持っていた買い物袋を取り、プレゼントを開けるような仕草で苺のパッケージを開けた。
 
「ねぇ、つまようじある?」
「つまようじ? たぶんないよ。あ、あるかも、コンビニの割り箸がそこにあったでしょ。あれに入ってるよ。ていうか何に使うの?」
「へへ」
「へへ、じゃないよ。何に使うの?」
「へへ。えとね、こうすんの」
 
と彼女は苺を取り出し、爪楊枝を使い、イチゴの表面の黒いゴマのようなものを一つ一つ取り除きだした。
 
「……。何してんの?」
「私このイチゴのぶつぶつ嫌いなの。美味しくないじゃん」
「味なんてないよ。たぶん」
「えとね、大昔はね、イチゴの表面はツルツルだったんだって。1年中実ってて、とっても甘くて、可愛くて、誰からも愛されてたの」
「ふぅん」
「でね、そういうのって駄目なんだって」
「どういうの?」
「完璧なもの。1年中実っててツルツルで甘くて可愛くて誰からも愛されるってやつ。駄目なんだって。神様が、許さなかったの」
「ありがちだね」
「でしょー。でね、ある日、神様がイチゴの木の上に、この黒いぶつぶつを蒔いたんだって。それからイチゴの表面にこのぶつぶつができて、それがショックで1年に1回しか実らなくなったの」
「どうりで1パック498円もするわけだ」
「だから、嫌いなの。このぶつぶつ。完璧なものへの嫉妬みたいなの感じちゃうの」
 
そう言って彼女は熱心に一つ一つのぶつぶつを取り除いて、「完璧」なイチゴを美味しそうに丁寧に頬張った。僕は「完璧」じゃないイチゴばかりを食べた。入院して4週間経った午後だった。
 
――――
 
スーパーのレジに並びながら買い物カゴの苺を見つめる。黒いぶつぶつが施された真っ赤な果物。完璧すぎた為に神様の嫉妬を買った憐れな果実。
 
「でね、そういうのって駄目なんだって」
 
狭い病室の彼女が浮かべた寂しげな表情を思い出す。僕にとって大切な彼女。心だけで通じ合える彼女。何もかもがわかりあえる彼女。その笑顔も仕草も言葉も、全て、僕にとって「完璧」な彼女。
 
入院してちょうど2ヶ月経った朝。朝もやがかかる空から突然神様が黒いぶつぶつを蒔いた。僕にとって「完璧」な存在に神様が嫉妬した。我を失いパニックになって彼女の手を強く握ることしかできなかった僕に、彼女は息をひきとる間際に、「わがままばっかり言ってゴメンね」と、全身を細かく痙攣させながら、おびただしいよだれを流しながら、白目になりがちな瞳を精一杯僕に視線を合わせながら呟いた。
 
1パック498円。一人になったアパートに戻って、爪楊枝を心持ち強く刺して黒いぶつぶつを取り除きながら、僕は永遠に完璧にならない苺を一人で頬張った。
2003年05月10日(土)  ポケットの中身。
電話。
 
「ポーケットーの中にはビスケットーがヒトツ。……。ビスケットーの中にはポーケットーががヒトツ。……。ねぇ、どっちがいいかしら」
「今お昼休み?」
「ねぇ、どっちがいいかしら」
「ビスケットの中にポケット」
「そうよねー」
「だけどちょっと音程違う」
「えー、あってるよー。コホン。歌ってみるね。ポーケットーの中にはー」
「違うよ。ポーケットーの中にはー だよ」
「もっと歌って」
「ポーケットーの中にはビスケットーがヒトツ。叩いてみるたびビスケットがフタツ。ん? なんかおかしいぞ」
「イチゴがいいな」
「イチゴいいねぇ。ポーケットーの中にはイチゴがヒトツ」
「ビスケットーの中にはイチゴがフタツ」
「美味そうだね」
「でしょー」
「今昼お休み?」
「イチゴーの中にはー」
「何?」
「ビスケットがフタツ」
「だから音程違うよ」
「じゃあ歌って」
「そーんなー不思議なポケットがホシイ」
 
という会話を30分。獅子座と水瓶座は相性がいいらしいが、後々駄目らしい。だけど後々だから今は大丈夫。たぶんずっと大丈夫。恋愛じゃないから大丈夫。ゆったりとした彼女の言葉に耳を澄ましていれば大丈夫。何かを得て、何かを与えることができるかもしれない。
 
「平井堅のね、あ゛あ゛あ゛っってのはスゴイと思う」
「うん。あれは真似できないよね」
「あとね、ミスチルの、ヒーローになりたぁいーーっっ。ってのもスゴイよね」
「うん。あれも真似できない」
 
会話の中での重要な説明とか意味とか、そういうのを省いても、理解できるということが、会話することの心地良さに繋がってるのかもしれない。彼女は僕の近年稀に見ない恥ずかしい出来事を知っているので、そこを突かれると、どうにもこうにも、為す術もなく平身低頭してしまうのだけど、僕より年下だけど彼女も大人なので、どうか、この気持ち、察して下さい。と、いつまでも恥ずかしい恥ずかしい言ってるのは僕だけなんだけど。
 
僕は世の中に妥協し続けて生きているんだけど、彼女はいつも自分の意志で、それに忠実に反することなく生きている。というイメージ。実際どうなのかわかんないけど、たぶん当たってる。真実に直面しやすい道を歩んでいるので、しばし困ってしまう。僕は脇道寄り道逸れた道。急がば回れの遠回り。一向に真実に到達せずに、逃げて逃げこまして、気が付けば埼玉県。おそらく埼玉にも真実など埋まっているはずはなく、かといって、池袋に行けば何かあると? そうでもなく、明日は新宿に行くので、新宿南口におそらく真実が? と、何? 真実って何? とわかっていてもワケのわからない振りをしてこます。
 
今夜は電話はこないような気がするので、ヘッドホンをつけてDVDを見る。パソコンのメールボックスには「未開封186通」という表示。1通1通返信すると夜が更けてやがて明けて、お昼になって夜になって腹が減る。雑誌の仕事のメールには、しっかり返信します。ギャラは安いけど、贅沢なんて言ってられないから。無職だし。いい加減なことならいくらでも書けます。
 
彼女のように理路整然とした、意志を持ちたい。ビールを飲みながらそう思った。
2003年05月09日(金)  壁一枚。
「あのー。困ってるんです」
 
携帯から、そして隣の部屋から同じ声。部屋に暖かい日が差し込む午後4時。僕はベランダに腰掛けて携帯片手に煙草を吸っている。隣のベランダでも、壁に隔たれてわからないけれど、彼女も同じように座っていて、携帯片手に困っている。
 
「どうしたの?」
「えっと、あのー。今からそっち行ってもいいですか」
「え? あ、あぁ。いいよ。ちょっと散らかってるけど」
 
僕は即座に振り返り部屋を点検する。テーブルの上のいろんな書類と、ベッドの上の雑誌類。これを片付ければ、まぁ、整理された部屋に見えなくもない。こっちに引越してきて初めて女性が部屋に来る。しかもそれが隣の部屋の中国からの留学生の女性だなんて、誰が予想できるだろうか。
 
書類と雑誌を片付けて、洗面所に行き寝癖直しスプレーを頭に吹きかける。午後になるというのに僕は今日まだ一度も外に出ていない。いや、一度だけ外に出た。午後11時に目覚めて今日が可燃ゴミの日だということを思い出し、ゴミ袋を2つ下げ収集所まで行ったが、とっくにゴミ収集は終わっていて、仕方なくまたゴミ袋を2つ下げながら3階の部屋に戻ったのだった。
 
「こんにちは」
 
恥ずかしそうに彼女はドアを開けて、顔だけ出して僕の表情を窺うように挨拶する。僕は柄にもなく、少しドキドキしていたけど、何でもない態を装い、「どうぞ。ゴメンね散らかってるけど」と部屋に招き、1人掛けの赤いソファーを勧め、コーヒーでも出そうかと思ったけど、僕の部屋にはまだコップが1つもないということを思い出し、困ってしまった。
 
「わぁ」
 
と彼女は部屋に入るなり歓喜の声を挙げて狭い部屋を見渡す。赤いソファー、赤いベッド、赤いテーブル、クリーム色のカーテン、パソコンと、床から天井までの高さのある9段の本棚。統一感のない小説と参考書。一貫性のないCD。小さな冷蔵庫と、まだ使ったことのないコーヒーメーカー。彼女は動物園にでも来たかのように好奇の目を輝かせ、それからやっと、僕の存在を確認する。彼女は今日もパジャマ姿で、その姿がこの部屋に自然な空気を充満させた。
 
「こんにちは」
「こんにちは」
「どうしましたか」
「大学から帰ってきて今まで寝てました」
「そう。で、どうしたの?」
「えっと、これ、手伝って下さい」
 
と彼女が出したA4サイズの用紙には、『自然科学概論 レポート課題』と書かれてあった。
 
「難しくて、わかんないんです」
 
彼女は本当に困った顔をして僕に課題が書かれた用紙を差し出した。僕はそのレポートの課題を眺めながら、1200字程度にまとめなさいと書かれたテーマについて考えていた。
 
「うん。なんとか大丈夫。これだった1時間あればできるよ」
「ホントですか! CD貸してください」
「あ、あぁ、うん」
 
ともうCDの詮索に取り掛かっている。その仕草はとても自然で、夕陽が差し込むこの部屋を優しく演出している。一昨日、ベランダで会話したときに、僕は通信大学に通っていて、月末はレポートの作成に追われていて、文章を書くことに多少慣れているということを言ったことを彼女は覚えていたのだ。彼女は日本語はスムーズに話すことはできるけど、まだ難しい言葉があるらしく、読むのは少し苦手だと言った。確かにこのレポートの課題は、少し難しいような気がする。しかし僕が通っている通信大学では自然科学概論なんて科目はないけれど、毎日何かしらの文章を書いているという小さなプライドを持っている。この程度の課題、1時間で終わらなければ僕の名が廃る。と根拠のない自信の元で有言実行。
 
「じゃあ終わったら電話するよ」
「私このケミストリーって好きなんです」
「あ、あぁ、うん」
「私も手伝います」
「いや、いいよ。とりあえず仕上げてみるから、それ読んでから修正していこう」
「わかりました。だけど私今から出掛けるから、帰ってきたら電話します」
「うん。わかった」
「それじゃあ、行ってきます」
「うん。いってらっしゃい」
 
そして彼女は部屋を出て行った。僕は今日目覚めてすぐ通信大学の今月提出分のレポート作成に取り掛かって、2科目分、16枚ものレポートを仕上げたばかりで正直パソコンの前に座るのも苦痛だったけれど、たった1枚、1200字。これくらいの文字数、いつも日記で書いてるじゃないか。と自分に鞭打って、吉野家に行って牛丼と半熟玉子を食べて、レポート作成に取り掛かった。
 
1時間後、約束通りレポートを仕上げて彼女の帰りを待っている。マンションの壁一枚と国境を隔てた不思議な関係。午後10時。誇らしげな顔を練習しながら僕は彼女の帰りを待っている。
2003年05月08日(木)  待ち時間。
朝起きて、1階のコインランドリーへ。洗濯が終わるまでの30分部屋で待つ。
自転車にまたがり駅へ向かう。駅まで信号が2つ。交通量が多いこの道路で横断歩道が青に変わるのを待つ。
改札を抜け、電車が来るのを待つ。電車に乗り、目的地へ到着するのを待つ。
 
市役所に行き、住所変更。「午前の受け付けは終了しました」午後1時になるのを待つ。
午後1時。「それでは、こちらをご記入下さい」記入して提出して「それではしばらくお待ち下さい」
午後1時40分。免許証の住所変更のためタクシーで警察署へ向かう。渋滞。「この辺りはいつも混んでて、いけねぇや」
午後2時30分。警察署。「それでは、こちらをご記入下さい」記入して提出して「それではしばらくお待ち下さい」
警察署を出てタクシーを呼ぶ。「この辺りはいつも混んでて、いけねぇや」タクシーが来るまで20分間待つ。
 
駅前のスーパーで夕食の買い物。僕の前でレジが故障。列を並び変えて、また最終尾から待つ。
 
人は人生のほとんどを待つことによって費やす。
夜が明けるのを待ち、更けるのを待ち、眠りが訪れるのを待つ。
彼女を待ち、食事が運ばれてくるのを待ち、別れるのを待つ。
雨がやむのを待ち、次の休日を待ち、お湯を入れて3分待つ。
 
待ち時間を短縮しましょう!
 
どこかの上司がそう叫んでも、僕たちは他の機会で他の何かを待つことになる。
待つ時間とその代価がつり合わないとしても、僕たちの不毛な消耗は一生続く。
 
新曲の発売を待ち、メールの返信を待ち、トイレの順番を待つ。
 
待つことによって、自らを振り返り、生きている実感を確かめる。
今日も明日も明後日も、2年後だって、10年後だって、僕たちは何かを待ち続ける。
 
夜が明けるのを待ち、更けるのを待ち、やがて、本当の眠りが訪れるのを待つ。
2003年05月07日(水)  暮れなずむベランダで。
夕方、ベランダで洗濯物を取り入れていたら「こんにちはぁ」と声がした。最初どこから聞こえたのかわからず、ベランダから身を乗り出して下の階を覗いてみたり屋上の方を見上げたりしていたら「ふふふ。ここですよ」と僕の真横で声がする。僕の真横は、隣の部屋のベランダを隔てるアルミ製の薄い壁。火事で避難するときはこれを突き破って下さいなどと書かれているあの壁。壁ガ喋ッタヨ。と、そんなことはなく、その壁の横に、やはりベランダから身を乗り出している隣の部屋の女性。やぁ、こんにちは。
 
隣の部屋の女性は、僕と同じ日に引越してきて、一度だけ顔を合わせたことがある。近所のドラッグストアに買い物に行ったとき、洗剤が安かったので2個買ってその1個を挨拶代わりに彼女に渡したのだ。
 
「こんにちは。今日引越してきた隣の部屋のヨシミです。はい、これ、使って下さい」
「わぁ、ありがとうございます。私も今日引越してきました。中国から来ました」
 
と、一度会話を交わしただけだった。そして月日は流れ、月日とかいってもまだ2週間も経っていないんだけど、それから彼女と顔を合わせることはなかった。そして二度目は、ベランダで、偶然出会った。
 
「昨日まで前住んでたアパートにいました。今日からこっちに住むんです」
 
僕たちはアルミの壁を避けるようにベランダから身をのりだしたまま会話を始めた。ベランダからは夕陽が見えて、向かいの部屋からは大音量のユーロビートが流れていた。彼女はパジャマのままで小さなネックレスをつけてベランダに吹き付ける風に何度も髪をかきあげながら、無邪気な笑顔で話し始めた。中国から日本の大学に留学している。日本に来て数年経つ。近所のスーパーの物価が高くて困っている。コンビニが遠い。ゴミを出す日がわからない。
 
「ちょっと待っててね」
 
僕は部屋へ戻り『川越市 家庭ごみの分け方・出し方』という住所変更のとき市役所でもらったパンフレットを取り出しベランダの壁越しの彼女に見せる。
 
「えっと、可燃ゴミ、ね、わかる? 燃えちゃうゴミ。火・金って書いてるでしょ。火曜日と、金曜日。月火水木金土日の火曜と、金曜。ね、週に2回。ペットボトルと空き缶は、月に2回。ほら、これに書いてあるから、はい、あげる。僕はこれもう1個持ってるから、大丈夫」
 
と、彼女にパンフレットを渡す。そして夕陽が沈みかけても会話は続く。外国人というだけで住むところ働くところ、どれだけ差別されているか。辛い思いをしたけれど楽しいこともいっぱいあるとか、前のアパートの大家のオバちゃんがゴミの分別についてすごく厳しかったとか、彼女は豊かな感情と表現を駆使して、それを一生懸命伝えようとしている。僕は相槌を打ちながら、へぇ、とか、わぁ、とか、そりゃ大変だ、などと共感を表す返事を繰り返す。マンションのベランダで、日が暮れても構うことなく僕たちは話し続ける。もう話し始めて1時間が過ぎていた。時々階下に面した道路を通る人たちが珍しそうにこの光景を眺める。
 
僕は外国人が日本に住む辛さなんてあまり考えたことなかったけど、現状は切実で、切実なんだけど、こうやって芯が強くて常に世の中と向き合ってる人がいて、無職で昼過ぎに起きて今日の予定も明日の予定も立っていない僕が、なんだか恥ずかしくなって、頑張ってという言葉も説得力がなく、夕陽に照らされた彼女の強い笑顔を眺めながら、なんか、わかんないけど、
 
「うん。僕も頑張る」
「え? 何を?」
「ん? よくわかんないけど」
 
前を向いて頑張ろうと思った。マンションのベランダで暮れていく夕陽にそう誓った。
2003年05月06日(火)  本当のコメディとは。
千乃さんが面白いね。白装束の人たち。本当のコメディは当の本人たちがいかに真剣なのかということにかかっている。その点では白装束は合格。非の付け所がありません。精神医学を少しかじったことのある人は、千乃さんの言ってること、あの行動、あの車のシールの位置や数などで、あぁ、あれだね。と思うのかもしれません。あれは病院の実習生などが見たら勉強になりますよ。教科書通りの展開です。
 
というわけで悲しいことにもうすぐ地球が滅亡するらしいです。僕なんて引越してきたばかりで、まだマンションの周りに何があるのか禄に理解していないというのに滅亡するらしいです。地域住民や機動隊などが白装束の山梨入りを阻止するらしいですが、村の平和と、地球の存続。どっちが大切なんでしょう。滅亡するのですよ。なんか、なんとか星が攻めてくるとか、侵略されるとか、滅亡するのも地球に核施設が多すぎるから、タマちゃんにエサをやらなければならない。タマちゃんを殺さないで! って叫んでましたね。今日のニュースで。車の中で。学生さん、聞いてますか。これは精神医学用語で思考奔逸といいます。支離滅裂且つ荒唐無稽。被害妄想、関係妄想、誇大妄想。頑張って山梨入りを達成して、地球の滅亡を是非とも阻止してもらいたい。
 
と、珍しくニュースの話題など語っていますが、これも僕が無職だから為し得る業であって、夕方4時から2時間くらいずっと白装束ばかり見てたから、頭の中は白装束のことと、今夜の晩飯と、昨夜の約5時間にわたる長電話のこと。さて、どれを日記に書こうかしら。と案ずるに。案ずるに然り。昼前に起きて、役所と警察署に住所変更に行って、川越市街地をブラブラと探索すると、程なく疲れてしまい、うちに帰ろうと一念発起。そういえば、どこにでも馬鹿はいる。少なくとも白装束は馬鹿じゃない。自転車を盗む奴。あれは馬鹿だね。あーあーあー。おそらく高校生であろう少年が、僕の折り畳み自転車を今まさに持ち上げんとしたその時、僕は傍観に徹していて、さて、あれをどこまで運ぶのだろうと思いきや、駅の階段の下のスペースに持っていくではないか。僕は少年にはすごく厳しい。自転車を持ち上げたままの姿勢で、尻を蹴り上げる。キャンと自動車に轢かれた犬のような声をして少年前のめりに。ホント怪我がなくてよかったよゴメンね。と優しく威嚇。自然に脅迫。青少年にはこれからも厳しく接する所存です。
 
で、盗まれそうになった折り畳み自転車にまたがって、キコキコ我が家へ戻ります。キコキコ我が家へ戻ります。宅急便が届いて、ダンボールいっぱいにカロリーメイトが入っていて、それに手紙が添えられていました。なんかもう、暗くなりそうな内容とか、いやだな。と思い、手紙をベッドに置いて、テレビをつけたら白装束をやっていたので、これだ。と思い、これだ。タマちゃんと、白装束。すごい平和だ。阿呆だ。特集組んでいるテレビ局は阿呆だ。千乃さんは末期癌なんだそうで、心中察するに余りますが、僕だって自転車盗まれそうになっても、こうやって頑張って生きてるんだから、千乃さんも是非、地球の滅亡を、ほら、今日住所変更したばっかりだから、ね、滅亡したら、別に住所変えなくてもよかったじゃん。ってなるでしょ。だから頑張って!
2003年05月05日(月)  200円。
今日も池袋。切符を買って、昨夜、部屋を物色して見つけ出した40円と、手元の80円。コーヒーが買えます。電車が来る前にサントリー・ボスを飲んで、準急池袋行き発車しました。ないとわかっていながらもう一度財布を覗く。あるではないか。8円。5円玉1枚、1円玉3枚。実に細いじゃないか。ふん。駅降りたらすぐATMに走ってやる。先月の給料いっぱい残ってるし。いっぱい引き出して、それから、何も買わない。いっぱいお金が入ってる財布をお尻のポケットに入れて経済的余裕の笑みを浮かべながら大学の講義を受ける。これが粋ってものです。
 
最近はコンビニにもATMが設置されていて、すごく便利。手数料取られちゃうけど経済的余裕の笑みさえ浮かべることができる僕にとっては、あってないようなもの。手数料250円? え? たったこれだけでいいの? もっと取りなよみたいな。って、えー。駄目じゃん。僕のカード。取り扱いできませんて。武蔵野銀行。ファミリーマートと、喧嘩でもしてるのかしら。でも大丈夫。何食わぬ顔でサンシャインビルへ向かい講義を受ける。今日は地域福祉論。地域の、福祉を、学びます。地域の、福祉を、学んでいたら、休み時間になりました。武蔵野銀行へゴー。って、えー。駄目じゃん。どこにもないじゃん。他の銀行のATMにカード入れてもすぐ吐き出されるじゃん。ん? この汗は、今日は小春日和だから? それとも冷や汗ってやつ? ん? 財布に8円?
 
昼休み。池袋サンシャインビル。ATMをくまなく探す。こういうときは予想に反することはなく、ないものはない。げ。昼飯。食えないじゃん。昨日牛丼食ってから何も食ってないじゃん。腹が鳴る午後1時。午後の講義が始まる。
 
「今日は外で食べてきたんだね」
「あ、あぁ、うん」
 
隣のコが無邪気な笑顔で話し掛ける。昨日は一緒に並んでご飯食べたのに、今日は8円しかないので、銀行を血眼になって探してて、結局見つからなかった。なんてことは言えない。
 
「あ、アメ食べる? チェルシー」
「あ、あぁ、ありがとう」
 
チョー嬉しい。えっと、チェルシー1個で約20Kcal。えっと、1時間は持つかしら。もっと頂戴とか、言ってみようかしら。わぁ美味い。チェルシー。ママの味がします。
 
さて、こんなこと呑気に考えている暇はない。僕は返りの切符さえ買えないんだ。こういう状況をマジ困ったとか東京の人は言うのだろう。マジコマ。苦肉の策です。祈る気持ちである女性にメール。
 
>400円貸してください。おうちに帰れない。
 
講義など頭に入らず、携帯を握り締めて返信を待つ。冷や汗じゃないっつの。今日は小春日和だから自然に汗が出るっつの。冷や汗じゃないっつの。
 
>いいよ。受け付けのお姉さんに預けとくから。
 
と、女神からのメール。お金の工面をするなんて、僕のプライドは著しく傷付けられました。人からお金を借りたことがないということだけが、ただ1つの寂しいプライドだったのに、武蔵野銀行のお陰で自尊心を傷付けられました。講義を抜け出してサンシャインビルの1階まで降りて受け付けのお姉さんの元へ向かうがお姉さんいない。お姉さんはお姉さんのくせに子供の日になんて休みを取るな! 取るな! 400円くれたら、許してやる! あ。防災センターってあります。あそこに行きます。防災センターのお兄さんに預けるよう話をします。
 
「あー。そうなんですかー。ここで物を預かるってのはホントはできないんですけどねぇ。しょうがないです。え? 武蔵野銀行? ありますよ。ここ出て横断歩道渡って右に真っ直ぐ進めばありますよ」
 
なんだあるんじゃん。横断歩道渡ればあるんじゃん。次の休み時間に行こう。やはりお金を工面するなんて、気が引ける。たかが400円されど400円。100円玉4枚のプライド。と、講義に戻り、休み時間を待つ。休み時間になるとすぐ立ち上がり武蔵野銀行へ。って、えー。駄目じゃん。閉まってんじゃん。汗ダクダクじゃん。冷や汗じゃないっつの!
 
講義に戻り、肩を落とす。
 
「今日、なんだか忙しそうね」
「あ、あぁ、うん」
 
隣のコが無邪気な笑顔で話し掛ける。今8円しかないので、相変わらず銀行を血眼になって探してるけど、結局見つからない。なんてことは言えない。
 
「あ、アメ食べる? チェルシー」
「あ、あぁ、ありがとう」
 
チョー嬉しい。えっと、チェルシー1個で約20Kcal。えっと、また1時間は持つかしら。もっと頂戴とか、言ってみようかしら。わぁ美味い。チェルシー。ママの味は、もうしなくなった。
 
「あーーー!」
 
と叫んだ。心の中で。僕は財布の他に、バッグの中に小銭入れを入れているではないか。もしもの為に小銭入れとか持っといた方がいいよ。と妹がプレゼントしてくれたアジアンな柄の小銭入れを持っているではないか。もしもの為に、がついに今やってきた。使うなら今だ。と、200円。駄目じゃん。帰れないじゃん。うちまで片道400円。8円に、200円足して、あと192円足りない。メールする。
 
>200円見つかった。あと192円足りない。ありがとう。隣のコを説得します。迷惑掛けてゴメンなさい。
>借りれなかったら貸すからね。
 
とありがたい返信。人は192円で涙を流せます。そして襟を正す。コホンと上品な咳をして、紳士を装い、隣のコの横顔をしばし凝視し、
 
「あのー」
「なにー? アメ? はい」
「いやアメじゃなくて。あのー。お金、貸してくんない?」
「えー。なにいきなり。いくら?」
「200円」
「は? タバコ切れたの」
「いや、タバコはこの通りまだいっぱい残ってるし、まだバッグの中に予備の1箱があるんだ」
「じゃあ何に使うの?」
「電車賃」
「は?」
「帰れない」
「は?」
「ぶっちゃけ今208円しか持ってない」
「マジで!」
「冗談言いながらこんな泣きそうな顔はしないよ」
 
と、女性は大笑いした後、貸す貸さないの明言は避け、僕もそれっきり言い辛くなって鬱々としながら講義の続きを受けて、おまけに試験まで終わらせた。こんな鬱々とした気分でいても、試験が終わるのは誰よりも早い。誰よりも早いのに家に帰り着くのは多分誰よりも遅い。いつまで思案に更けていてもしょうがないので教室を立とうとしたとき、
 
「ちょっと待ってて」
 
と隣のコが僕の袖を引っ張り、僕はまた席へ着く。チェルシーでもくれるのかしらと思いながら待っていたけど、いつまで経ってもチェルシーをくれる気配はなく、真剣に試験に取り組んでいる。仕方ないので僕は試験の見直しをして、少々書き直して、それから試験の裏側に講師の先生の似顔絵を書いて、先生が近付いてきたのでそれを消して、小学生かよ! と自分自身に突っ込みを入れていたら隣のコがようやく試験を終えて
 
「ご飯食べにいきましょ」
 
と呟いたではないか! 呟いたではないか! 僕は208円しか持っていないので、今日びマクドナルドにも行けないし、スタバでコーヒーも飲めないけれど、ご飯食べにいきましょってことは、おごってもらえるのかしら! と、また少し自尊心が傷付けられたような気がしたけど、自尊心とか言ってる場合じゃない。旅の恥は掻き捨てだい。と自分自身をどうにかして励ますけれど、これは旅ではなくて、もう僕は関東に住んでるんだから、旅の恥じゃなくて、これはただの恥だ。晩飯を食いたいが為に女の尻を追いかけるだなんて、ヨシミ家の恥だ。こんな不甲斐ない長男になってしまいました。お母さんゴメンなさい。母の日は、宅急便で花と洋服を送ります。
 
「なんで208円しか持ってないの?」
「いや、えっと、缶コーヒーとか武蔵野銀行とか、子供の日で、あと小銭入れ、ね。200円入ってたの。あ、チェルシー。ありがとう。すごく美味しかった」
 
などととにかく恥ずかしくて何を言っているのかわからない。エレベーターの中で彼女は笑っているけど、僕はちっとも笑えない。
 
「なんでも食べていいわよ。おごってあげる」
 
と、マクドナルド。僕はお昼も食べていないということまで打ち明けてしまった。あと、ドイツ産の発泡酒は不味くて飲めたものじゃないとか、しばらく仕事をしないのでこのままでは太ってしまうとか、どうでもいいことまで打ち明けてしまった。彼女は僕のそれにいちいち相槌を打って、ニコニコしながらアイスコーヒーを飲んでいた。僕だけダブルチーズバーガーセットを注文してむさぼっていた。なんか、北の国から命からがら亡命してきたみたいだった。
 
「はい。今度から気をつけるのよ」
 
と池袋駅で200円。最初1000円渡されたけれど、1000円も渡された日には僕のプライドはズタズタになって二度と立ち上がれなくなってしまう。
 
「ありがとう」
 
僕は100円玉2枚を強く握りしめて、小銭入れの200円を取り出し、切符売り場で夢の400円を支払い、夢の帰宅切符を手に入れた。
 
「またね。今度ごちそうするよ」
「あてにしないで待ってるね」
「チェルシー、ありがとう」
「え? マックは?」
「あ、マックもありがとう」
「またね」
「うん、またね」
 
たった1日で、たった200円のために生まれた、僕にとって大きな大きな物語。
2003年05月04日(日)  目的のない人たち。
友人から「元気?」「生きてる?」などの電話が掛かってくるけど、全然元気じゃないし生きてない。財布を見たら700円しか入ってなくて、晩飯は吉野家に言って280円の牛丼並盛を食べたら残り420円。明日の電車賃を差し引くと残り80円。全然元気じゃないし生きてない。明日はうまい棒8本食べたらそれでおしまい。朝食は抜いて、昼食と夕食に4本ずつ。1本当たり60Kcalだとして、4本で240Kcal。全然足りない。引越し1週間にして餓死が決定的になってきた。なんという悲しき孤独死。なんて。銀行行けば済む話なんだけどね。
 
あぁ腹減った。いつもは晩ご飯食べた後はあまり空腹を感じないんだけど、今日は80円しか使えないという実状があり、それを考えるとなぜか腹が減る。実際問題、今からコンビニに行って80円で何が買えるかと考えれば、おそらく何も買えまい。うまい棒などの駄菓子を下手に食べてしまったら、余計腹が減る恐れがある。冷蔵庫にはキムチとビール。ビールなんて誇大表現してしまったけど、実は発泡酒。東武ストアで売っていた1本100円のドイツ産発泡酒。誰か飲んだことあるひとー。誰かいなーい? なんかすごい味がします。あまり飲もうとは思わない。だけどそれしかないのでそれを飲みます。キムチがせめてもの救いです。
 
今日の池袋も、目的がない人たちでいっぱいでした。いや、何らかの目的はあるんだろうけど、ちっとも合理的じゃない。道の歩き方とか階段の降り方とかティッシュ配りの配置とか、休日なのに制服姿の女子高生とか、それに群がる病的に肌が黒い男たちとか、ビックカメラの店内に延々こだまするビックカメラの歌、ならびにその音量。迷子の子供と、誰も相手にしない大人たち。また講義を遅刻した僕と、隣の女の子のメールアドレスと電話番号。メールの返信と、Re>Re:>Re:>Re:>Re:という件名。
 
腹が減った。「タコわさびのカルパッチョ食べてるの。食べる?」なんていう不毛な電話。「馬鹿」というと「馬鹿だって〜」と受話器の向こうの複数人と騒いでいる。
 
「来る? こっち楽しいよー」
「飛行機の時間がないし、あったとしても80円しか使えない」
「ダメじゃん」
「銀行はとてもシビアだ。全部潰れてしまえばいい」
「意味わかんない。じゃあねー」
 
頬がこけてきたような気がする。気がするだけであってほしい。明日は銀行に行こうと思う。女房を質に入れてでも銀行に行こうと思う。
2003年05月03日(土)  モグラと人間。
講義の昼休み、女性4人とサンシャインビルのショッピングモールへ食事に行ったら、どこも並んでいる。どこの飲食店も入口に人が溢れている。みんなもっと工夫したらどうなんだい。ほら、こうやって混むことはあるていど予想されてるんだからさ、11時に腹が減るとか、14時にお腹がなるとか、こう、自分を上手い具合に騙し騙ししてさ。僕たちはしょうがないんだ。講義の昼休みは12時から13時までって決められてるんだ。今日も朝から実験実験。前の人の肩にタッチして、前の人はその前の人の肩にタッチする。神経伝達速度だって。知ってどうすんだっつの。仔細に記録して標準偏差を求めなさい。って求めてどうすんだっつの。ねぇキミたち。ってあれ。いない。どこ行った。また迷子かよ。4人とも、見失ってしまった。サンシャインビルの地下で独りぼっち。連休の家族連れの波に揉まれて独りぼっち。あ、いたいた。ゴメンなさい。考え事を、していました。
 
それにしてもなんなんだこの人波は。世間は、どうも祝日らしい。ねぇねぇ、地下街を道行く人たち。ねぇねぇ、今日の天気、何か知ってる? 当たり。晴れ。日本晴れ。最高気温28度だってさ。暖かいね。東京は春を通り過ぎて夏が来ました。ってね。そう思うでしょ道行く人たち。ね。馬鹿なのですか。連休で、日本晴れ、お出掛け日和。そして地下街。馬鹿なのですか。外行けよ外。地上を歩け。空を見上げ大地を踏みしめろ。魂の光合成をして下さい。どうか地上へ出てください。エレベーターはあちらです。
 
僕の思い虚しく、人は溢れるばかり。モグラかっつの。ちなみに処女膜が存在する生物は人間とモグラだけなんだってね。ホントだよ。どうでもいいけど。さてマック。マクドナルドに行きました。やはり、人が溢れている。レジまですごい並んでいる。5列並んでいる。マックに5つもレジがあることさえ脅威なのに、その5つのレジでも裁ききれないほど客がいるっていうのも脅威だ。並んでいると、店員が、前もって注文するやつ考えててください。という意味のことを言いながらメニューを配っていた。もう、異常な風景である。まるで配給である。
 
「どうしたの口 ボンヤリ開けて」
「ありゃあ家畜じゃないか」
「どれ?」
「この列に並んでる人たち」
「ん?」
「エサを待つ牛か羊みたいじゃないか」
「ふふ。そう見えなくもないわね」
「家畜が家畜を食ってるぜ」
「うん。なんとなく意味わかる」
「家畜が家畜を食ってるぜ」
「うん。さっきも言ったね」
「家畜が家畜を、あ、ビッグマックセット1つ、アイスコーヒーで」
 
大都会は、人間らしさというものが、なかなか機能しないと思った。
2003年05月02日(金)  ジンクス。
毎朝池袋まで通って人の多さにうんざりするのです。皆どこから沸いてきたんだろう。現在、心理学基礎実験という講義を受けていて、朝から夕方まで実に下らない実験ばかりしていて、本当ならば気が滅入るのだが、隣と前と後ろのコがお話好きなので助かります。喋る実験する寝るをひたすら繰り返して1日が終ります。明日も実験、明後日は、えっと、明後日は社会保障について学ぶのです。結構気楽な毎日ですが、将来への一欠片の不安を忘れず、そろそろヒモになる準備を始めます。大都会の寄生虫となるのです。うへへ。うへへへへ。
 
はぁ。今日はビッグカメラに寄ったので疲れているのです。ビッグカメラに寄ったから疲れているのではなく、疲れているのにビッグカメラなどに行ったから余計疲れているのです。今日は、文章が書けない日です。何も思いつかない。あ、僕の部屋はまだテレビが見れないので、最近の世の中の動向が全くわからない。完全に世間から取り残されている。北朝鮮と韓国が戦争を始めているのかもしれないし、フセインの息子の名前がクサイだなんてあんまりだと思う。妻 カオリ。夫 クサイ。クサイだって。髭が濃いうえにクサイだって。本当に臭そうじゃないか。憐れ。中東の話題なんてもう時代遅れなのかしら。プロ野球もどうなっているのかわからない。メジャーも然り。僕の中で松井は満塁ホームランを打った時点ですでに止まっているのです。
 
おそらく今夜からネットが繋げるようになるはずなんだけど、どうかしら。ホントかしら。クロネコの件から、やけに猜疑深くなって、世の中を芯から信用できなくなってしまった。高得点の自信がある試験でも、90点は取ったかもしれないと思うより、もしかして50点かもしれないと思って生きたほうが後々楽だということ。あぁ。40点かもしれない。
 
昔の彼女から電話がきて、今埼玉に住んでいるといったらひどく驚いて、私、旦那と別れちゃったのということを聞いて僕はそれ以上に驚いた。じゃあ僕と結婚しよう。なんてことを言うと、ひどくリアルに感じられるので、明言を避けた。僕埼玉だし。彼女九州だし。
 
面白いジンクスを教えてあげます。僕と付き合って別れた彼女は次の彼氏と結婚する。という確立約80%
 
すごい高確率です。これはきっと、僕があまりにも不甲斐ない恋愛をしてしまうがために、次の男がものすごく素晴らしいという錯覚を起こしてしまうのでしょう。錯覚だよ錯覚。男が素晴らしいのではなくて、その男は多分、普通の男だよ。僕がだらしないだけなんだ。缶コーヒー不味いからー、私今度からコーヒー自分で作ることにしたのー。ネスカフェ。そのくらいの差だよ。缶コーヒーとインスタントコーヒー。そのくらいの差だよ。虚しいのでもう書かない。
2003年05月01日(木)  備長炭入りなのに。
そろそろ自炊しよう。毎日吉野屋と松屋の繰り返しでは、僕の筋肉が牛肉になっちまう。僕の唾液がつゆだくになっちまう。などと意味のわからぬ危機感を感じ、自炊しようと固く誓い、本日は吉野屋に寄らず、まんが喫茶に寄って、しばらくインターネットしてからそそくさと電車に乗り、近所のスーパーで米5キロ 980円とキムチを購入する。あと茶碗1個。箸を買い物カゴに入れ、惣菜を購入。自炊するのではなかったか。はい。しかしお言葉ですが、自ら米を炊くということも自炊への大きな1歩なのであります。そうか、よろしい。と僕の頭の中で一人おしゃべりしながら現在の行動を合理化しつつレジへ並ぶ。ところで気がついた!
 
危ないぜ! 危ういぜ! 米が炊けたら何が必要なのかてっきり忘れていたぜ! 箸でも茶碗でもない、その前に必要不可欠な物があるだろう! 危ないぜ危ういぜシャモジだぜ。シャモジをうっかり買い忘れることだったぜ。てっきりうっかりしっかり買うぜ。シャモジはどこだ。と、100円コーナーに悲しく鎮座するシャモジを手に取り、シャモジのくせに100円かよ。だらしねぇなぁ。キミはどこの家庭でも必ず必要とされる物なんだから、100円などという値段に甘んずることなく、もっと、こう、自信を持ったらどうだい。僕は昨日、糞詰まりを改善するために1000円以上支払っているんだ。だからさ、オレがいなけりゃお前らメシも食えないんだぜ! みたいな心意気をさ。こんな100円コーナーで1回切ったら使えなくなるような包丁の横に並ばないでさ、シャモジ専門店みたいなところで、人生をやり直してみないかい。いや、買うけど。安いから買うんだけど。
 
そして『備長炭入り健康シャモジ』を購入。どうだ。備長炭入りだぜ。効果がいまいちわかんねぇぜ。しかし自炊への大きな1歩。早く帰ってご飯炊こ。と意気揚揚と我が家へ戻り、丹念に手を洗い、その後小便に行ったので、また汚くなったぜ。と、もう1度丹念に手を洗い、準備万端。『栃木厳選コシヒカリ 穂の香』を買い物袋から取り出し、米袋にプリントされたホノカちゃんというマスコットらしき者が、ひどく可愛くなく、顔色も悪く、むしろ憎たらしい面をしていたがホノカちゃんのお陰で今日も米にありつけました。ホノカちゃんブサイクだけどありがとう。と寛大な気持ちでもって袋を開封する。そして愕然。ヘナヘナとへたりこむ。
 
とまぁ、オチを書くのも馬鹿らしいほど、愕然としてしまったので、ヘナヘナとへたりこんでしまった経緯は省略するが、僕はいつも「詰め」が甘い。戦争に行ってくるぜ! ヘルメットもかぶったし、食糧も万全、帰ってくるぞと勇ましく。待ってろ鬼畜米英! おっと敵の来襲だ。かかってきやがれ、いや待ってくれ。銃を、銃を忘れちまった! と、まぁ、そんな具合に、今回は計量カップを購入するのを忘れました。

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