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華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2003年01月20日(月)

年下の男の子。 〜決意〜



<前号より続く>





年が明けたあとも、数週間おき位の感覚で何度か電話で真知子と話をした。

会ってからの話題は近況報告が主で、今までを考えると穏やかな内容だった。
彼女も努めて暗い話題を出さなかったのかもしれない。

当然、あれだけ互いが盛り上がったテレフォンSexもしていない。
生々しすぎて照れてしまうからだった。

それに、そんな事をしないでも通じ合う関係だと思っていた。



3月下旬に電話で話した時。


「元気そうだね・・・何かうれしい事でもあったの?」
 「そんな、何でもないけど、ね」

「さては何か隠しているな?」
 「隠してないって・・・何にもありません(笑)」


そんな会話の中で、真知子が言った。


 「今度、手紙を書いていい?」
「いいよ、別にそんな断らなくても(笑)」

 「そこにね・・・全てを書くよ」


考えてみれば、それが真知子からの最後の電話だった。



その数日後。
つまり今日。

これが真知子から届いた三通目の手紙となった。

中身など読まなくても、予想できた。


しかし厚めの手紙に何をしたためてきたのか、確かめない訳にはいかない。

俺はペーパーナイフで慎重に封を開き、中身を取り出した。


中身は見覚えのある丁寧な文字の手紙。
そして見覚えのある写真だった。

その写真は、俺の写真。
2年程前の大学際の頃に撮った、バイクに跨ってポーズを決めた写真。
迷いながら真知子に送った、あの写真を送り返してきたのだ。


俺は便箋3枚にまたがる手紙を読んだ。


『 前略  平 良 様 


  色々とお世話になった平良君に報告したい事があります。

  この度、私は泰之と結婚する事に致しました。

  平良君には私達の事で本当に心配をかけました。
  きっと今でも反対される事でしょうね。
  私も何度も泰之と真剣に将来の事を話し合いを重ねて、
  今回の結論に至りました。

  頼りないし、まだ大人になりきれていない泰之だけど、
  大学を中退して、私と娘のために働く決意をしてくれました。

  実は彼の実家とはまだ話し合いが出来ていません。
  彼も実家を捨て私と暮らす、もう広島には帰らないと言ってくれます。

  彼の人生計画を大きく狂わせた事を、私は今でもすごく不安だし、
  彼のご両親には申し訳ない気持ちでいます。

  でも彼は私を妻に、みらいを娘にしてくれる決意をしてくれました。
  そして産んであげる事の出来なかった赤ちゃんに報いるためにも
  絶対に幸せになろうって。

  今、本当に恐いけど・・・すごく幸せです。
  いや、幸せ過ぎて恐い、というべきかな。


  でも本当の事を言うと、平良君の事も大好きです。

  どんなに苦しんでいても、平良君は決して私から逃げなかった。
  本当に嬉しかったよ。
  泰之と違って、本当に頼れる素敵な人だと思います。

  泰之がいなければ、きっと私も平良君に真剣になっていたと思う。
  でも彼が今後の事を決意してくれたので、私も決意しました。

  もう平良君とは会わないし、電話もしません。

  本当は会った時や電話でも何度も伝えようと思ったけど、
  どうしてもうまく言えませんでした。
  なので手紙で気持ちを伝えようと思いました。

  私が持っているべきものでないので、戴いた写真もお返しします。

  辛い事、悲しい事・・・思い起こせば、いっぱい経験しました。
  でもこれからは泰之と私、みらいの三人での新しい生活が始まります。

  今度こそ幸せで暖かい家庭を築きたいと思います。
  
  平良君も身体に気を付けて、いつか私に電話で話してくれた
  夢を叶える為に頑張ってね。
  陰ながら応援しています。

  尚、お返事は結構です。
  この手紙も処分してください。

  こんなに優しくて頼れる平良君なら、きっと素敵な彼女ができるよ。

  今まで本当にありがとう。
  お元気で。  


   草 々
                       真 知 子   』










↑エンピツ投票ボタンです。宜しくお願いします。






読み終わった後、俺は小さな安堵と大きな喪失感を感じていた。


両親共に教師という環境で育った一人っ子の泰之。

反抗、脱落、非行・・・そんな選択肢を持てなかった彼は、
偏差値や名声と見比べて進学した大学に馴染めなかった。
自分の生き方をそこに考え合わせることをしなかったのだろう。


 「それが何よりの強いストレスになっているみたいなの・・・」


いつか真知子は泰之について、そんな事を言っていた。


親の希望を優先して進学の材料にした、心優しき息子。

しかしその選択から強いられるストレスが彼を変えてしまう。

孤独な学生生活の中で知り合ったバツイチ子持ちの真知子に惚れ、
一見無軌道で破滅的な生き様を晒していた。

それも親の地位などの『しがらみ』から抜け出すための、
幼稚な男なりの必死の抵抗だったのだ。

真知子はそんな彼の真意を見抜き、辛さを理解していたからこそ、
どんなに苦しくとも彼の成長を信じ、模索を支え続けたのだろう。
そして尽くす事で、自分の支えとしても彼を必要としていた。

そんな彼女も一度は彼の人生のために・・・と自分から別れる決意をした。
苦しい生活を強いられていた彼女自身の、最大の支えを自ら突き放すのだ。

しかしそれは決して楽をしたいがための選択ではない。


 『相手のためなら死ねる事』

それが究極の愛というならば、彼女は逆の選択をしたことになろう。


 『相手と自分のために困難を覚悟して、万障を排して一緒に生き抜く事』

どちらが究極の愛なのだと聞かれたら、今の俺なら後者を答えるだろう。
どんなに辛くとも、生きているからこそ挽回できるのだから。


 『接吻する恋人の足元に広がる断崖絶壁は、関係の終焉を表す象徴』

ならばその崖から落ちるその瞬間まで抱き合う腕を信じ、愛を貫くだろう。

その愛が過ちでない事を互いが信じ抜くために。
そして残った思い出の数々が自分の人生の糧となるように。



   出逢いとは 偶然である
   始まりは 運命

   別れとは 必然である
   終わりも 運命

   始まったものは 必ず終わる
   重なり合う偶然と必然の繰り返しが人生を構築していく

   必ず終わるものならば
   終焉のその瞬間まで悔いを残さぬように
   全力で愛し続ければよい


   仏教が千年以上の時空を越えて伝える 精神
   一枚のカンバスに込められた 光と影の象徴

   愛に悩み 愛のあり方に苦しむ人々への 先人からの眩い伝言


   人間なんて千年経っても 機械文明に時代が変わっても
   愛に苦しむ事に関して 何も変わっちゃいないのだ

  

出逢いから『自分』という生き方を模索するきっかけを得た泰之。
それも、共に人生を歩む真知子というパートナーがいるのだ。


泰之よ・・・お前は幸せ者だ。



先日の絵葉書を手にとって、文面を読み直す。

 『 ドーナツおいしかったね、また食べに行こうね! まちこ 』

今はもう叶わないそのメッセージの裏には『接吻』。
クリムトの恋人・エミーリエを模した女性の表情が、真知子の面影と重なり合う。


娘と泰之とで幸せな生活を営んでいくのなら、それでいいのだ。



てっきりこの手紙は近況報告なのだ、と信じ込もうとしていた俺。
その甘い予想を大きく外した、決別の言葉と結婚への決意表明の手紙だった。

その悔しさは、俺に無意識に溜息をつかせる。

今までは、何だかんだ言っても向こうから俺のもとへ連絡があった。
簡単でいい、何か連絡があればいいのだ。
それで俺と真知子は繋がっていられる・・・
そう考えて、俺は電話が鳴る事を待っていた。


暦が進み、街中の桜が一斉に咲き、散る。
梅雨に入り、蒸し暑い中で雨が降り続く。
真夏の針を刺すような厳しい日差しが、街中を焼いていく。

真知子との出逢いから一年が経った。

そして、北風がつむじを巻いて枯葉を踊らせる。
雪がちらつき、人々が寒さに身を屈めて街を歩く。


しかしあの手紙以来、真知子からは一切の連絡はなかった。
あの決意は本物だった。


彼女の依頼通り、手紙を処分しようかと思っていたが未だ出来ていない。
彼女と娘の写真、そしてあの絵葉書と一緒に封筒に入れ、今も保管してある。

断っておくが、決して真知子への未練ではない。

人の心がこもった手紙や写真を、今でも捨てられないでいるだけだ。



※ 毎度のご訪問&ご高覧、ありがとうございます。
  今回は12話構成で、大変長いエレヂィになってしまいました。

  それだけ関わりの深かった女性だからこそ、教えられた事がありました。

  今でも平針駅辺りに行くと、当時の思い出を噛み締めています。

  真知子との出逢いからすでに7〜8年が経ちます。
  小学生高学年になるだろう娘と、三十路に手が届く年齢の泰之と共に、
  幸せに暮らしていると良いのですが・・・

  投票&My登録もどうぞよろしくお願いします。

  次回の「華のエレヂィ。」もどうぞお楽しみに。

2003年01月18日(土)

年下の男の子。 【番外編】


 【お願い】

 この回をお読みになる際は、検索エンジン等でクリムトの『the KISS〜抱擁』を
 別窓で読み込まれて、見比べながら読み進めていただけると、より楽しめます。



真知子から貰った絵葉書、クリムトの『the KISS〜接吻』を部屋に帰ってからも
ずっと眺めていた。
確かにこの女性のうっとりとした表情は素晴らしい。


絵画というのは、その書き手の人生や感情、思想が綿密に織り込まれている。

子どもに絵を書かせてみると、描かれたその対象の配置や大きさ、配色などで
心理状況が分析できるという。


実は絵の中でふと気になっていた部分があった。

金箔の衣装に身を包む二人が、幸せそうに抱き合う絵柄。
女性は膝を折り、男性の優しい抱擁を受けている。
その足元に咲く花。
その花が女性の爪先のあたり・・・絵の右下端で途切れているのだ。

以前、何らかの雑誌か何かで読んだ事があったが、
なぜこうなっているのか、という肝心の部分を俺は覚えていなった。

この絵は写実的に描かれた絵ではない。
ならば何らかの意味があるはずだ、と思った。

俺はこの絵について、色々調べてみようと思い立った。
思いついたら、行動せずにはいられない。



栄に買い物に出かけたついでに、俺は地下鉄を乗り継いである場所へ向かった。
地下鉄鶴舞線・丸の内駅から北に5分程歩いた所にある愛知県図書館だ。

そこで絵画関係の書物を抜き出し、クリムトについて書かれた部分を読む。


やはり有名な絵である『the KISS〜接吻』(以下『接吻』と略)の解説は
どの解説書にもそれなりに載っていた。

俺は書物を読んでいくうちに時代背景や彼の生涯と相まって、
『接吻』に描き込まれた深い世界を堪能できた。



19世紀末当時、人の心を惹き付けて止まなかったのが「金」だった。
ウィーンの駅、アパートメントなどの建物には金の装飾が流行していた。
金の輝きは、当時のヨーロッパの人々の心を掴んでいたようだ。


『接吻』が描かれた(1907〜1908)、20世紀初頭のウィーン。

その頃から始まった機械文明の台頭。
新しい時代の到来に、活気溢れる街。

その一方で古い体質を捨てられなかった貴族やブルジョワ階級の人間は、
自分達の時代の終わりにおびえ、精神的な世界へと閉じこもるようになった。
彼らが求めたのは刹那的な喜び、そして快楽・・・

新旧の勢力が交じり合うウィーンの街は退廃的な空気が支配していた。


そんな混迷の時代で注目されたのが、
新しく誕生した芸術派閥・分離派の芸術運動だという。

そのリーダーが若き頃から注目され、王様と呼ばれたグスタフ・クリムトだった。

彼らが目指したのは『総合芸術』と呼ばれる分野だった。
建築や室内装飾から絵画・彫刻まで全てを芸術活動の舞台として捉えていた。
装飾的表現、そして新たに求められていた機能性を結びつけようと模索していた。


・・・・・・・・・


流行とはいえ、芸術の分野でもその金箔を使うことは面倒だった。
高価で、少しの空気の流れで貼り付けに失敗してしまう程扱い辛い代物。

完全に閉め切った部屋で糊を塗り、息を殺して慎重に一つずつ貼り付けていく。
息も詰まる程繊細な作業を、指先の狂い一つ許されない中で進めるのだ。

しかしクリムトは敢えて金箔を新作『接吻』に多用した。
何も過去の作品にありがちな権威や富の象徴としているのではない。

彼は抱き合った男女の愛情をより象徴的に演出したかったのだ。


実用的でない金の衣装に身を包む男女の抱き合う姿を通じて、
現実や日常を超えた究極の恋愛・・・つまり『永遠の愛』を表したかった。

クリムトは究極の愛を『永遠の愛』と捉えていたのだろう。


貧しい彫金師の家に生まれたクリムトは、その類い稀なる実力と才能で
室内装飾の分野で若くして大成し、富と名声を手にした。

彼が芸術家として求めたのは『描きたいものを描く』姿勢だった。
制約のある古い画法を捨て、斬新な手法での作品を次々と発表していった。


『接吻』する男性と女性の衣装に描き込まれた模様。
男性は黒と白の長方形。
女性は色とりどりの楕円模様。
これもよりはっきりと性別を表現しようとした手法だという。


男性の顔と手、女性の表情と手足は敢えて写実的に描かれている。
接吻されて恍惚の表情を浮かべる女性の面影は、
どこかクリムトの実在の恋人・エミーリエに似ていた。

彼はこの絵を通じて、エミーリエとの永遠の愛を表現したのだろうか。

絵画に疎い俺は短絡的にそう思ってしまった。


そしてついに、愛し合うその二人の足元にある花の切れ目の解説を読んだ。
俺は思わず目を奪われた。

この切れ目は「崖」だという。


彼はなぜ愛し合う二人を、それも恋人を模した女性を崖の端に
立たせたのだろうか?

そこにクリムトの愛に対する複雑な捉え方が如実に表れていた。


クリムトは毎年夏になると、エミーリエを連れて避暑と休息を兼ね、
アルプスのアッター湖畔へ出かけた。
交通機関の発達していないその当時、恋人だった二人の旅路は
その心の絆の深さを表している。

それだけではない。
手紙嫌いのクリムトがエミーリエには500通近い手紙をしたためている。
内容は簡単な仕事の報告などだが、手紙を出すことに意味があるのだ。

「エミーリエ・フレーゲの肖像」(1902年)では、藍色のドレスを着こなす
彼女の可憐な姿を描いていた。


永遠の愛を象徴する二人の足元に広がる断崖・・・
それは「二人の関係の終焉」を示す闇の象徴だった。

仕事で成功し、恋人とも順調だった彼が抱えていた心の闇。

エミーリエの心が私から離れることはないだろうか?
そして自分自身がエミーリエを裏切ることはないだろうか?

幸せであればあるほど、実は同じくらいの不安が広がっていく。

いつか来るであろう「終わり」への不安。
幸せのすぐ隣りに確実に存在する絶望。

それが人間・クリムトの人生観でもあった。


若くして成功したクリムト。
その陰で大成する事無く消えていった仲間。

若者の熱い希望が儚い迷走で終わってしまう、
そんな人生の無情さを幾つも見てきたであろう。

その経験が人生に表裏一体である光と影を見出したのかも知れない。

彼はその闇を表現するために、男女を断崖絶壁に立たせたのだ。
幸せと希望に満ちた瞬間を描き、そのすぐ隣りに存在する不安と絶望を示す。

彼は人生の起伏を一枚の絵に凝縮して表現してみせた。


クリムトは、こんな言葉を遺している。

 『 私の自画像は無い。
   私について何かを知りたいと思うのなら、私の絵をじっくりと観察して、
   そこに私の人となりと、私の意図を探し出してもらいたい。』



図書館から出る時、もう外は暗かった。
そして冷たい時雨が降り出していた。

一枚の絵に込められていた彼の人生には、決して成功者のおごりや虚栄は無かった。

幸せのすぐ足元で大きく口を開けて待っている、闇の恐さ。



真知子はこの絵の意味を理解していたのだろうか。



<以下次号>


 ※ 次回は最終話です。



2003年01月17日(金)

年下の男の子。 〜面会〜




<前号より続く>



その電話からしばらく経ったある日。
もう電話をしない、と言っていた真知子から電話があった。
やはり本意ではなかったようだ。

先日の騒動から立ち直ったのか、話し声は元気で体温がこもっているようだった。


 「だって私、独りじゃないし・・・ほら、娘も親もいるからね」


何時までも落ち込んでいる暇なんてないわよ、と笑っている。
母となった女は強いものだ。


そこで俺は、会話が進むうちに今までの真知子からは考えられない言葉を聞く。


 「平良君、一度逢ってみようか?」
「え?俺は嬉しいけど・・・いいの?」

 「うん、ここまで色々と関わってもらったし・・・」
「そんな、別に構わないのに」

 「今度、泰之が友達と一泊で旅行に行くって言うから時間が取れるの」
「そうかぁ。そりゃチャンスだね〜(笑)」

 「一度ね、娘の事見て欲しいし・・・すごく可愛いんだからぁ」
「(笑)よし、じゃ会おうよ。どこにする?」



12月23日。
天皇誕生日の夕方4時過ぎ。
夕日も傾きかける、肌寒くなる時間だ。


俺は地下鉄鶴舞(つるまい)線・平針(ひらばり)駅前にあるミスタードーナツの店頭で待っていた。

平針は名古屋市でも片隅の住宅街だが、愛知県の運転免許更新センターがあり
駅前は何かと人通りや車の通行量が多い。

バイクを駐輪場に停めて、店の前に立つ。

冷たく乾いた風が遠慮なく吹き付けてくる。
バイク用の防寒具を身に付けていても、寒い程だ。

待ち合わせ時間を5分ほど過ぎた時、
平針駅からベビーカーを押してやってくる一組の親子連れを見つけた。


俺は手を振る。
向こうも小さく手を上げて、こちらに近付いてきた。

間違いない、真知子だ。



 「お待たせ・・・寒かったでしょ?」


俺は自分の目を疑った。
声や話し方は電話で話した通りだったが、容姿はまるで別人だった。

真知子はあの写真よりも明らかに痩せこけている。
頬や額、目尻にも深い皺が何重にも入っていた。


ドーナツやドリンクをトレーに置き、俺たちはテーブルについた。
俺はホットコーヒーをミルクだけを入れてすする。
紅茶で喉を潤す真知子は微笑みながら、俺の戸惑いの確信を突いた。


 「平良君、私を見てびっくりしてたね」
「あ?ああ・・・」

 「私、あの写真と大分違うでしょ?・・・12〜3�疏蕕擦燭�な」


決して昔の写真を送りつけてきた訳ではないはずだ。
幼い娘の容姿は大差なかったから。

真知子は短い期間でやつれ果てていたのだ。
泰之に翻弄されつづけていたのが良く分かる。


「まあね・・・色々聞いてると苦労しているみたいだし」
 「平良君も写真とは違っているよね」


真知子は悪戯っぽく微笑んでみせた。


「どこが?」
 「写真の頃よりだいぶ太ったでしょ?」


俺の送った写真は相当以前のものだったので、体型は変わっていた。
俺も自堕落な生活を送っていたので、太ってしまった。


「それを言われると・・・ねぇ(苦笑)」
 「いいよ、健康な証拠だもん・・・私みたいに痩せちゃう方が心配よ」

「ところでさ・・・なぜ足を引き摺っていたの?」


真知子は左足を引き摺っていた。


 「実はね・・・」


泰之とケンカした際、逆上した彼が膝の上に娘のオモチャ箱を投げ落とした。
それ以来、膝の痛みがとれずに足を引き摺っていると言う。

膝は細かい軟骨や筋肉が入り組む複雑な関節だ。
シップを貼っているとはいえ、痛みが取れないのは危険だ。


「ダメじゃん、病院に行かなきゃ!」
 「でも、これでまた医者通いが増えるのも大変なのよ(笑)」

「でも、膝でしょ?場所が場所じゃん・・・」
 「国民保険は3割負担だから、家計への負担が大きいの」

「結局彼とは付き合っているんだ・・・大丈夫なの?」
 「うん、向こうのご両親にはまだ挨拶してないけど」

「挨拶?」


うふふっ・・・と真知子は微笑む。

そんな会話の中、口中いっぱいにドーナツの粉砂糖をつけた娘もコロコロ笑う。
いかにも嬉しそうに、そして美味しそうにかじりつく。

やつれ果てた母とは違い、肉つきの良いピンクの頬が可愛らしい。
真知子はバッグから取り出したハンドタオルで、娘の口の周りを拭いてやる。
痛いのか、むずかりながら顔を反らす。


 「とにかく、みらいをしっかり育てないとね・・・」
「そうだな。お母さんだもんね」

 「うち、子どもが二人居るみたいなものだよね(笑)」
「二人?」

 「ヤスも出来の悪い息子みたいなものよ(笑)」
「その出来の悪い息子みたいな男と付き合っているんでしょ?」

 「うん、だって・・・」
「私が付いてなきゃ彼はダメになる、でしょ?(笑)」


小一時間程雑談し、店を出る際に俺は真知子に言われた。


 「平良君、電話と違って紳士だね(笑)」
「そんな事ないって・・・何なら今からホテル行く?」

 「もうっ(笑)・・・痩せちゃったからもう身体には自信ないよ・・・」
「そんな事ないって、その気になったら口説くからさ(笑)」

 「ホテルじゃないんだけど・・・付き合って欲しい場所があるの」


真知子は近所の雑貨屋へと向かい、店の外で待つように言われた。
北風が吹き付ける中、待つ時間がやけに長く感じた。

およそ15分後。
店から出てきた真知子は小さな紙袋を俺に差し出す。


 「何?これ」
「明日はイブでしょ?クリスマスプレゼント!」

 「あれ?いいの・・・ありがとう」
「でも、家に帰ってから開いてね」


俺は真知子と娘を平針駅まで送り、俺はバイクで帰途に付いた。


部屋に帰った俺は、早速真知子のくれたプレゼントの袋を開いた。
中身は3足の靴下と2枚のハンカチ。

そして一枚の絵葉書。
一組の男女が抱き合っている金が映える肖像画。

以前、真知子が大好きな絵だと話してくれた、クリムトの『the KISS〜接吻』だった。


そのカードを返して、裏面を見た。


『 今まで、本当に心配ばかりかけちゃったね。ごめんね。
  思ったより汗かきだからハンカチも一緒にプレゼントします。
  ドーナツおいしかったね、また一緒に食べに行こうね! まちこ 』


暖房が効いていたミスドの店内で、俺は確かに額に汗を浮かべていた。


このカードを俺に渡すために、わざわざ準備してくれていたのだろうか。
メッセージをしたためるのに時間が掛かったのだろうか。

彼女の一番好きな絵に込められた、短くて温かいメッセージ。


真知子の小憎い演出に、なぜか嬉しさで胸が詰まった。




<以下次号>









↑エンピツ投票ボタンです。次回は真知子とのエレヂィ番外編です。


2003年01月16日(木)

年下の男の子。 〜対峙〜



<前号より続く>


受話器を介していても、気配で分かった。
真知子の部屋に、泰之が入ってきたのだ。
ヤバイ・・・俺は一瞬の激しい動揺を抑えようと息を飲んだ。


 「ヤス君・・・見て・・・こんなにHになってる私を見た事がある?」


受話器の向こうで真知子は信じられない台詞を口にした。
さすがの俺も自分の耳を疑った。


 「平良君、大丈夫だよ・・・ヤスが見てるけど・・・続けて」
「大丈夫って、正気か?」

 「うん・・・ヤスが悪いんだからね、私を欲求不満にしちゃうんだから」
「・・・」

 「平良君、今ね、指を二本出し入れしているよ・・・ヤスも見てる」
「・・・見られると、どう?」

 「すごく感じるよ・・・だってヤスはこんな事してくれないんだもん」
「・・・じゃ、そこに居るヤスを挑発してみせなよ」

 「もうやってる・・・腿を開いて、見せ付けちゃってるから」


口では煽っているものの、俺はにわかに信じられない状況にいた。
真知子は泰之の見ている前でテレフォンSexをしているというのだ。

彼女の利かせた機転か、それとも完全な自棄か。

俺の戸惑いとは無関係に、真知子は受話器を手に持って喘いでいる。


 「ヤス、女はね・・・時には無性に理不尽なSexをしたくなるのよ・・・」


その悩ましくも自信に満ちた口調は、もはや俺の知る真知子ではない。
妖艶極まりない、悪女のさえずり。


 「キャッ・・・」


その直後、真知子の短い悲鳴を共に受話器を叩き切られた。


泰之が暴走したのか?

俺は真知子の家へ、初めて自ら電話した。
彼女の家の番号は知っていたが、自分から掛ける事は控えていたのだが。

しかし何度呼び出し音を鳴らしても電話には出なかった。


それから一時間ほど経って、電話が鳴る。
真知子か?

俺は受話器に飛びついて電話を取った。


「もしもし・・・真知子?」
 「もしもし・・・平良、さん・・・ですね」


予想に反して、若い男の声だ。
か細い感じの男の声は、緊張からか震えていた様だ。


 「もう金輪際、真知子とは電話で話さないで下さい」
「・・・あなたは、誰ですか?」
 
 「・・・真知子の、男です」


泰之だ。
泰之が俺の所に電話をかけてきたのだ。


「俺は真知子の話を聞いていたんだよ。だから彼女を責めないでくれ」
 「もう、真知子とは一切関わらないで下さい・・・」

「お前にそんな事言われる筋合いは無い。居るんだろ?真知子を出して」
 「だから・・・もう電話するなって言ってるんだよ・・・」

「お前に用は無い。真知子を今すぐ電話に出せ!」
 「・・・だから、もう・・・」

「おい、分からないのか?今すぐ真知子を出・・・」


真知子の身の危険を案じた俺は、まず彼女の無事を確認したかった。
しかし、無情にも電話は泰之側から切られた。

その後、俺は真知子の自宅へ何度も電話したが、結局繋がらなかった。



次の日。
真知子から留守番電話が入っていた。


 「真知子です・・・昨日はごめんなさい。
  もう、電話しません。彼と約束したから・・・ありがとう」


小さな声で、短い伝言を残してくれた。
公衆電話からなのだろう。
ビーッと電子音が最初に入っていた。

 
しかし、その宣言から一週間経たずに真知子から電話が鳴った。


「平良君・・・どうしよう、どうしよう・・・」
 「真知子か?無事か・・・大丈夫だったか?何があった?」

「ヤスが・・・ヤスが・・・ヤスが・・・」


ガタガタと震える声。
寒さが理由ではない。
話を聞き出した俺は愕然とした。


真知子の実家の台所で、泰之が彼女の目の前で、
自らの左手首を切ったという。

先ほど救急車を呼んで病院へ搬送し、今は処置も済んで落ち着いたという。


「そうか・・・大変だったね」
 「・・・私ね、先日ヤスのご両親に会ったの・・・」


泰之の両親が名古屋に来たついでに、彼が真知子を紹介したという。


真知子は「君に合わせたい人がいるから」と泰之に呼び出されて、
栄にあるホテルのレストランに向かった。
そこに居たのは泰之と品の良さそうな初老の夫婦。

泰之の両親だった。


彼女を見遣った瞬間、彼の両親の表情は曇った。
そして嬉々とする泰之から説明を受け、その表情はさらに曇った。


泰之の初めての恋人は、離婚したばかりのバツイチ子持ちの三十路女。

その事実は彼の両親を怒らせるのに充分な理由だった。


怒り心頭の両親は他の客がいる前ながら泰之を激しく叱責する。
そして真知子には手切れ金を渡すから息子とすぐ別れろ、と言った。

その言葉に、泰之がキレたのだ。


激昂した泰之は自分の両親を怒鳴りあげ、椅子を蹴倒した。
周囲の客など構わずに、調味料などを手当たり次第に投げつけた。
父親のスーツや母親のコートが醤油やソースで汚れる。

頭に小瓶が当たり、血を滴らせた父親が泰之を組み伏せて押さえつけ、
鬼の表情で何度も横っ面を引っ叩く。

泰之も負けじと父親の胸倉を掴み、後ろへと突き倒した。
ホテルの従業員らが一斉に取り押さえる。
それでも収まらない泰之が力任せに従業員らを振り解き、
なお父親に突進しようとした。

真知子と母親は呆然とその様子をただ眺めていた。

怒りの収まらない泰之は真知子の腕を掴み、レストランを飛び出した。


自分は出戻り。相手は名家の一人息子。

真知子も自分のような女では釣り合わない事くらい、分かっていたのだ。

泰之に機会がある度にこう話し掛けた。

・・・もっと自分に相応しい女性を探すべきだ、もう別れよう、と。

真知子だって苦しい決断だった。
自分の心の支えを自ら切り離そうとする事など簡単に出来ない。
身を切られる程辛い決断を、自分自身で下した。


それは『相手のために死ねる』、究極の愛でもあった。


重い話し合いを嫌がる彼の機嫌を見ながら、我慢強く続けていたのだ。

騒動から数日経ったその日も、真知子は泰之に語りかけた。


 「そうしたらね・・・突然自分で包丁を持ち出して・・・」


真知子に突きつけたという。


 「君と娘、そしてあの男・・・あなたを殺して、俺も死ぬ・・・って」


真知子は粗暴な手段でしか意志を示せない彼を初めて厳しく叱った。
泰之はその場で泣き崩れ、そのまま包丁を左手首に圧し当て、引いた。

絶叫しながら数回自らを傷つけて、服やパンツが血染めになる。

真知子も必死になってしがみ付き阻止しようとするも男の力には敵わない。

泰之は静脈血が止め処なく流れ出す中で、失神した。


「とりあえず、大丈夫なんでしょ?」
 「傷が深くて筋が傷付いているって、それに雑菌が入ってるかも・・・」

「まあ、命が助かったのならそれだけでも良かったよ」
 「平良君・・・どうすればいいの?私・・・もう嫌だ・・・疲れちゃったよ」

「・・・・・・」


真知子から初めて聞く泣き言。
俺にはどうする事も出来ない。


幼稚な泰之は自分の気に入らない事は、力づくでしか発散できない。
今までは他人に向けられていた刃が、自分側に向いてしまった。


心の刃には、二種類ある。


一つは外に向くもの。
もう一つは内に向くもの。

外に向くものは、他人を傷つける。
内に向くものは、自分自身を傷つける。

結局は他人に迷惑を掛けるのか、自分が傷付いて他人に迷惑を掛けるのか。
表面上はその違いだけだ。

しかし内面に向く刃は、自分自身の存在すら否定し、生命さえ消そうとする。
標的は自分自身だから抵抗も反撃も無いし、誰にも遠慮なく傷つけられるのだ。

ある種、最も卑劣な行為でもある。


「俺からは・・・泰之と別れろとしか言えない・・・同じ事しか言えない」


真知子からは返事が無かった。

返事する意思が無いのか、返事できる勇気が無いのか・・・
俺なりには分かっていたつもりだ。



<以下次号>









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2003年01月15日(水)

年下の男の子。 〜激昂〜




<前号より続く>


クリムトの接吻にまつわる話で元気が出てきた真知子。


タイミングを見計らって、俺は言った。


 「どうだろう・・・まず彼だけでも追い返せばどうだ?」
「実は・・・私もそう言おうと思ったんだけど、強く言えない」

 「どうして?」
「下手に言うと何するか分からないから・・・」

 「奴は今、何しているの?」
「隣りの部屋で寝ているわ・・・だから今電話しているの」

 「俺から出て行くように言ってやろうか?」
「もういいじゃない、平良君と電話しているのに・・・」


やはり泰之の話題には触れたくない・・・真知子の疲れと苛立ちを感じた。

しかし真知子はこれをきっかけに、もう抑え切れないとばかりに、
泰之の先日の行動について次々と話し出した。



彼女の両親が、彼の居候について良い気持ちで居るはずが無い。

未来ある国立大学生の若者と、コブ付き出戻りの三十路過ぎの娘。

冷静に考えても、親なら釣り合わないと思うだろう。
真知子との将来についても、心配もしたのだろう。

彼女の両親がダイニングでお茶を飲みながら彼に話を切り出した所、
泰之は激昂して突如暴れ出したという。


感情に任せて何やら聞き取れない事を喚き散らす。
食器棚の扉を素手で殴り、板ガラスを打ち破る。
その中身をひっくり返し、辺りに投げつける。
ついに椅子を振り上げてテーブルに力一杯振り下ろした。

周辺に飛び散る破片や飛沫。
右手を血まみれにして仁王立ちする泰之。

おびえる真知子の両親を睨みつけ、次の行動を起こそうと動いた。

異変を察知した真知子が身を呈して止め、その場は済んだ。
その事件以来、彼女の両親は泰之に何ら意見を出来ないでいた。



泰之はどうしようもない幼児性の中に粗暴な面を持ち合わせている。

気に入らない事や自分の拙い我慢の限界を超えてしまうと、
自分でも制御が出来ず、力一杯に暴れて発散する。

今で言う「キレる」状態である。
当時はまだあまり使われる言葉ではなかった。


おそらく幼児期から厳しい家庭環境で抑え付けられていた反動なのだろう。
そんな泰之に、真知子も内心悩んでいた。

しかし彼に対しての愛情には何ら変化が無いという。

私がついていなければ、この人は本当にダメになる・・・
その一心で彼を支えていきたい気持ちを持っている。

それが例え自分の両親を危険な目に遭わせた男であっても。


女の持つ愛情とは、男から見れば本当に理解出来ない一面がある。


「やっぱり別れた方が良いよ・・・彼のためにもならないよ」
 「・・・嫌だ、出来ないよ・・・彼には私が・・・」

「それって彼じゃなくて、真知子自身のためじゃないの?」
 「どういう事よ?」


彼女の反発覚悟で、俺は今まで思っていた事を思い切って言った。


「本当は彼じゃなくて自分自身が寂しいだけじゃないの?」
 「・・・・・・」

「彼に全身で尽くしている、本当はそんな自分に酔っているんだろ?」
 「・・・あなたに、何も知らないあなたに何が分かるのよ?」


真知子の逆鱗に触れたのか、怒った口調で俺に食いついてくる。


「何も分からないよ、でも真知子は苦しんでるじゃん!」
 「・・・苦しんでなんかいないわ」

「絶対嘘だよ・・・俺も言い方が悪かったけど、真知子草臥れてるよ」
 「・・・分かったような事言わないで」

「ちょっと聞いて・・・そのままだとあなたのご両親も可哀想だよ」
 「・・・分かってるわよ、だから悩んでる」

「まずさ、両親のためにも彼に戻ってもらおうよ、それからでも・・・」
 「・・・・・・」


彼への忠実な愛情に隠れていた、真知子自身の甘え。


結婚の失敗。
まだ手のかかる娘。
これから手のかかる親の介護。
おまけに先日の中絶による心身のダメージ。


彼女だって心細く、寂しかったに違いない。
人生の試練の連続に、本当にいつも明るくて朗らかにいられる訳が無い。

孤独の中で自分自身に自問自答し、出口の無い迷路に苦しんでいた。


心の柱となっている泰之に入れ込んでしまう気持ちも理解できる。
しかし泰之も彼女自身に甘え過ぎる。
結果的に間違いなく真知子の過剰な負担になっているのだ。

支えることが愛情表現だった真知子。
しかし彼女もそんなに強くは無いのだ。


彼と距離を置いて、休息を入れなければならない時期だと思う。
しかし心も弱っている今の彼女に、冷静な判断は望めないだろう。



「ところで、最近は忙しすぎてやってないでしょ?」
 「え、何を?」

「Hだよ、H!」


煮詰まった時間を壊すべく、俺は昼間ながら話題を転換した。

真知子はこういう話題は嫌いじゃなかったはず。
一種の賭けだ。


 「もう、いきなりなんだから(笑)・・・彼が居ますからね」
「しているんだ?」



重苦しい話題が続いた中、真知子の声色がふと緩んだ。
何とか風穴を開けることが出来たようだ。


 「だって、求めてくるから・・・」
「そりゃご苦労様(笑)・・・無視してゆっくり寝れば良いのに」

 「彼、若いから・・・体力は有り余っているんだよね」
「いいなぁ、羨ましいなぁ、発散できるんだから(笑)」

 「でもね、平良君には敵わないよ・・・」
「何?どういう事よ」

 「もう、言わせないでよ(笑)・・・いっぱい感じさせてくれるから」
「感じる?いいねぇ・・・今からやっちゃおうか(笑)」

 「ダメよ、隣りで寝ているんだから」
「ご両親は?」

 「今は病院に行ってて、娘も保育所・・・」
「じゃ、できるね(笑)・・・彼の目の前でやっちゃおうか?」

 「・・・ダメだったらぁ(笑)・・・思い出しちゃうでしょ」
「いいよ、思い出してご覧よ・・・俺も真知子を抱き締めたいから」


不思議な事に、真知子はすんなりとテレフォンSexに乗って来た。
条件反射的に、脳裏に快楽が呼び起こされている。
すでに真知子の心に刻み込まれたようだ。

熱い吐息、滲み出す喘ぎ声・・・芝居とは思えない熱を帯びている。


「下着の中に指を入れてみるよ・・・なぜ濡れているんだろうね」
 「だって、平良君がHな事いっぱい言ってくるからだよ・・・」

「真知子が感じるから言ってみたんだよ。もう、まだ昼間なのに」
 「・・・感じちゃう・・・何故なんだろう・・・」

「真知子の中に指を差し入れちゃうよ・・・ほら」
 「あ、ダメェ・・・見えちゃうからぁ・・・」

「その指を、真知子の感じる所に当てるようにピストンして」
 「・・・・ダメェ、声が漏れちゃうから・・・・恥ずかしい」

「俺の指が真知子の濡れてる部分をもっと強く突くからね・・・」
 「あ、ああ、あ・・・欲しくなっちゃうからダメエェェ!」



受話器の向こうでガタンと音がした。
扉を開ける音だ。

一瞬の間の後、真知子が信じられない言葉を口にした。


 「あ、ヤス君・・・」



<以下次号>








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2003年01月14日(火)

年下の男の子。 〜接吻〜



<前号より続く>



堕胎手術とは、女性の心を最も大きく傷つけるものの一つだ。
真知子が受けた心のダメージは計り知れない。


「これを機に、その男と別れたらどうだ?」
 「・・・出来ない。私が付いていなきゃ、あの子はダメになるから」

「前から言おうと思ってたけど、それって本当に彼への愛情なのか?」
 「・・・・・・」

「真知子、奴に甘い態度を取り過ぎなんだって。相手は大人の男だろ?」
 「・・・でも彼は私を愛してくれている。私も彼を愛しているよ」

「だからそれって、本当に愛情なのか?自分だけ我慢して抱え込んで・・・」
 「わかんない・・・でも、彼には私が必要なの・・・」

「考えてみろよ!おかしいよ、自分自身をもっと大事にしなよ!」
 「あなたにそんな事まで言われる筋合いは無いわ」


頑ななまでの、真知子からの言葉。
俺は次の言葉が続かなかった。



 『愛とは、究極的には・・・相手のために死ねる事である』


とある仏教研究家が遺した言葉だ。
自己犠牲こそが究極の愛情表現・・・仏教上ではそういう意味だ、と解釈している。


俺はこの言葉が頭にこびり付いている。


確かに愛情には様々な形があっていいと思う。
時には自己犠牲の上に成り立つ愛情だってあろう。

泰之に対する真知子の姿勢。
どんな状況にあっても「私が付いていてあげなきゃいけない」と信じている。

真知子は決して楽な生活を送っている訳ない。
正しく自己犠牲上に成り立つ愛情だ。



真知子は今にして思えば、とても母性の強い女性だった。
その強い母性を発揮させていたのは、年下でヤンチャな泰之である。

自分の力でまだ立てない軟弱な若造に対しての情愛は、母親の様に限りない。

相手の要望に出来る限り答える事で、自分の愛情の深さを伝えようとする。
それが例え自分の身を削るほどの負担を強いられても。

決して余裕のある状況ではない。
まともに眠れないほどの状況で、なお自らに鞭を入れて奮闘し続けているのだ。


どんな状況になっても、自分が泰之の恋人として存在している。

例えどんな理不尽な、幼稚な要求でも・・・
その要望の“裏の真意”を自分なりに汲み取って、相手に尽くす。

離婚した後、いや離婚前から追い込まれていた。
娘として父の介護、母として娘の子育て、収入源としてパート務め。
限界を超えるほどの心身の疲労とストレス。

尽きない苦労と試練、それでも何とか持ちこたえている。


頑張っていた。
先の見えない、見返りのない、真っ暗闇での全力疾走。

しかし体力が残り少ない中での疾走は、あまりに負担が大きすぎる。
その証拠に、彼女は草臥れていた。

そんな苦しい中で出来た心の隙間。


その隙間を埋めさせてくれる存在が恋人の泰之だとしたら・・・

相手に尽くす事が真知子なりの究極の愛情表現であった。
そうして相手に愛を表現する事で、泰之を支えているだけではなく、
彼女にとっても『心の柱』となって支えられていた。

そこで自分自身の居場所を、存在価値を見出し、隙間を埋めていく。
彼女が自分の価値を再確認できる、数少ない機会だった。


もし泰之の存在が消えたら・・・
彼女は一気にバランスを失って、全て崩れ落ちてしまうだろう。

彼が頼りない男であればあるほど、例え自分の負担が増え続けても・・・
男の大成を信じて支えていくだろう。
真知子はそういう女だと思う。

俺には、泰之の代わりは出来ない。
敗北感に似た空しさが、何時の間にか俺の心に漂っていた。



中絶騒動からまたしばらく経った、ある日曜日。
昼過ぎに真知子から電話があった。


 「平良君?真知子です」
「おお、久しぶり。体調はどうだい?」

 「ありがとう・・・大分良くなったよ」
「そうか・・・だったら良かったよ」

 「心配かけたみたいだね」
「ああ、でも元気ならいいよ」


この頃、真知子は次の仕事も辞めて自宅にいた。
年老いた父親の体調が思わしくなく、自宅で介護にあたっていた。

さらに両親には内緒で受けた中絶手術から休みを取らず、
すぐに生活に戻った真知子の身体は微熱が続き、疲弊し尽くしていた。

収入も両親の年金に頼り、貯金も目減りしていた。


 「だからね、ダイヤルQのサクラのバイトを始めたの・・・」


朝早くから娘を保育園へ送り出し、家事と介護をこなす。
しかし時間が無さ過ぎて、外へ働きにいけない。

昼前、昼過ぎ、そして深夜なら時間が比較的取れる。
彼女はその時間を活用すべく、サクラのバイトをネジ込んだ。


当時はダイヤルQのアダルト系ツーショットの全盛期だった。
放っておいても電話が鳴り続け、切っても切っても鳴り止まない。

電話の仕事は生活のためだから、と親にも泰之にも言い切った。

朝から夜遅くまで、連日連夜受話器に向かって奮闘する。
アダルト系なので、テレフォンSexの依頼も多かったという。

演技とはいえ、生活のためとはいえ、娘の喘ぎ声が部屋から漏れる。
生活がかかっているとはいえ、親の気持ちは複雑だったろう。


そこに泰之が相変わらず転がり込んでいる。

あくまで彼は真知子を手伝いに居るのではない。
真知子を監視し、求めるために居るようなものだ。

その喘ぎ声にヤキモチを妬き、泰之は有り余る体力を真知子に向けてくる。
疲れた心身を省みず、彼の我が侭に答える彼女。



娘の子育て、親の介護、サクラのバイト、そこに泰之が求めて来る。


一日中、誰かの面倒を見ているのだ。


睡眠時間は一日で3時間を切るという。
それも細切れで、熟睡できない日々が続く。

重い偏頭痛に悩まされていた。
サクラのバイト中に話しながら途中で寝ていたこともあったそうだ。


しわがれた、圧力の弱い声で分かる。
真知子は本当に疲れていた。


 「でもね、今日はいいこともあったよ・・・」

新聞の休日特集で、真知子が好きな画家の絵がカラー印刷で特集されていたという。


 「平良君、知ってるかな?クリムトの『接吻』って」
「え〜っと、あのぅ・・・金箔か何かの豪華そうな絵だったっけ?」

 「そう、その特集だったの・・・早速切り抜いて部屋に貼ってるの」


俺は同じ新聞を取っていたので、早速開いて眺めてみる。
中央に織り込まれたカラー印刷の休日特集で特集されていた。
絵画に疎い俺は、この絵を中学校の美術の資料集くらいでしか見たことが無かった。


オーストリアの画家、グスタフ・クリムト(1862〜1918)が遺した、
『人生の三時期』『抱擁』と並ぶ代表作が『the KISS〜接吻』である。

今や世界で最も有名なkissの絵、といっても過言ではない。


19世紀末当時の流行だった金箔を多用した豪華で鮮烈な画調。

抱き締め合い、覆い被さるように女性の頬に接吻する男性の力強さ。
逆に身体の力を抜き男性を受け入れる女性の柔らかく恍惚の表情。

真知子はこの名画に心癒されるのだという。


 「この女の子の表情がね・・・すごく可愛くて癒されるの」


真知子の声に、少し温もりが戻ってきた気がした。

俺はほんの少しだけ安心した。




<以下次号>









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2003年01月13日(月)

年下の男の子。 〜涙声〜


<前号より続く>



なにやら真知子の周囲からの雑音がひどい。
車のクラクションなどから、屋外で電話を掛けてきているのが分かった。


 「今ね、公園の公衆電話からなの」
「こんな寒いのに・・・家から掛けられないの?」

 「今、うちに彼がいるから・・・」
「彼がいるって、もう同棲しているの?」

 「違うの、実は彼が転がり込んできちゃって・・・」


真知子は当時まだ実家住まいだった。

泰之がその実家にまで転がり込んできた、という。
まるですでに婚約者気取りで。


「そんなの、追い出せばいいじゃん」
 「出来ないの・・・何しでかすか分からないし・・・」

「何しでかすかって?」
 「・・・・・・」


真知子は黙り込む。
俺は話題を変えた。


「ねぇ、泰之ってどういう男なの?」
 「・・・凄くヤキモチ妬きで、怒ると何しだすか分からないの」

「でも真知子は実家住まいでしょ?そこにまで来ているの?」
 「だって、泰之は私と結婚する気なんだもの・・・」

「真知子の気持ちは?」
 「・・・・・・分からない」

「真知子の両親は何も言わないの?」
 「・・・うちの親が何を言っても、彼は聞かないみたい」

「ちょっとひどいな、別れた方がいいんじゃないか?」
 「でも・・・でもね、彼には私が付いてなきゃいけないの!」


彼に関するヒントを求めて俺のところへ電話を掛けてきているはずなのに、
俺が彼を責める発言を始めた途端に彼を擁護する。

女心とは複雑なものだ。


 「でね、聞いてくれる?実はね・・・」


真知子の話題が本題に入る。


 「来ないの・・・生理が」
「もしかして、彼との子かい?」

 「彼としかそういう関係はないから・・・妊娠したかは、まだ・・・」
「もし出来てたら、どうするの?」

 「・・・だってまだ学生だから、もし産んでも生活できる状態じゃないと思うの」
「じゃ堕ろすの?」

 「・・・・・・」


感情的になっていたとは言え、思わず配慮の無い事を口にしてしまった。
俺は押し黙ってしまう真知子に謝った。


「まだ分からないんだよね、ゴメンよ」
 「それを彼にまだ話せないの・・・どうしよう・・・」

「どうして?相手が泰之なら話さなきゃ」
 「あの子、傷付いちゃうよ・・・そんな事言ったら」

「傷付くって、相手はもう大人の男でしょ?しっかりしなよ!」


なぜか事有ることに泰之を必要以上に庇っている真知子。

妊娠したかという瀬戸際、自分自身の一大事なのに、
彼女はなぜ泰之という大人の男に対して擁護しようとするのだろうか。



 「今ね、コンビニに買い物に行く事になっているから・・・もう切るね」
「ああ、何かあったら遠慮なく俺に言って・・・」


そう言い切る前に、俺の受話器から真知子の存在は消えていた。
ツー、ツー、ツー、・・・と無機質な音だけが、鳴り続けていた。


・・・真知子、また自分一人で何か抱え込んでしまうのかな。


俺は寝転び、天井を見つめながらぼんやりと嫌な予感を感じていた。
真知子とはそういう女だ。



しばらく音沙汰が無かったが、その電話から一ヶ月ほど経った時、
真知子から電話があった。


 「もしもし・・・平良君?」
「真知子?元気か?」

 「うん・・・あのね」


改まって、真知子は前回の話の続きを切り出した。


 「やっぱり出来てたの、赤ちゃん・・・」
「そうか・・・」

 「でね、思い切って・・・泰之に話したよ」
「そうか、どうなったの?」

 「彼、泣きながら大学辞めて働くからって言ってくれた」
「・・・なら良かったね、だったら問題は無いよね・・・」


真知子の胎内にいる生命は自分の子どもだと泰之が理解し、
大学を辞めて生活をしていこうとするのなら、それで何ら問題は無い。

男として決して立派とは言えないが、責任ある大人としての門出であろう。


 「そうじゃないの、聞いて・・・」

俺の言葉を遮るように真知子が話を続ける。


 「でもね、泰之は次の日にまた泣きながら・・・」
「泣きながら?」

 「私の目の前で土下座して・・・そのお腹の子を堕ろしてくれって」


涙声になり、嗚咽交じりになりながらも語る彼女。
俺は憤りで次の言葉が出なかった。


 「だから・・・その後、病院で処置してきたよ」


病院で妊娠が確認された後、機会を見計らって泰之に事実を報告した。

泰之は真知子の妊娠を知り、相当動揺した様子だったという。
一度は前向きに考えた様子だったが、結果的に堕胎を懇願してきた。

真知子もこのまま子どもを産み育てる自信がなかった。
経済的にも、精神的にも。
彼女もすでに一児の母、それもまだまだ手のかかる歳の子だ。
子ども一人を育てる事の大変さも経験している。

しかし自ら堕胎を決めることなど出来ない。
願わくは泰之の気持ちが再び変わる事だ。

その後、泰之の思いは再び覆える事は無かった。


友達と旅行に行って来るから・・・と嘘のアリバイを親に通す。
自宅から離れた、顔見知りのいない病院に向かう。
泰之の付き添いのもと、同意書にサインする。
そして彼女は独りで手術室に入った。


全身麻酔の注射。
開脚台での屈辱的な体勢。
そこに無機質な金具を次々と差し込まれた。
医師の指先だけの感覚で、意識の無い彼女の子宮内で進む処置。


そうして真知子の胎内で一つの生命が消された。

麻酔からの目覚めは、どんな気持ちだったのだろう。
男には、まず分からない心境だろう。



<以下次号>









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2003年01月12日(日)

年下の男の子。 〜沈黙〜



手紙を投函した、その二日後の夜。
俺は退屈な時間を、テレビのバラエティ番組を眺めて潰していた。

不意に電話が鳴る。
この時間に掛って来るのは、真知子くらいだ。

受話器から聞こえてくる声は案の定、彼女だった。


 「もしもし、真知子です・・・ありがとぉ、写真届いたよ〜っ!」
「おおそうか、予想より相当不細工だったでしょ?(笑)」

 「そんなぁ・・・充分いい男だよ〜っ(笑)」
「そう?惚れた?(笑)」

 「うう〜ん、難しい質問だなぁ〜っ。でも平良君好きだなぁ」


いつになく甘い声で絡みつく口調の真知子。
どちらかというと折り目正しい印象だったが、こんな彼女は初めてだった。


「なんだかいつもの真知子じゃないなぁ・・・飲んでるの?」


俺は、いつもと違う真知子の様子が酒に酔っているからだと思った。
たしかアルコールは弱いから滅多に口にしない、と言っていた。


 「うふふ、分かるぅ?だって、もう夜だものぉ・・・」
「ふぅん、いいお酒飲んでるんだね(笑)」

 「・・・・・・」


ふと黙り込む。
突然途切れた会話。
意味ありげな沈黙が続く。


「何かあったの?あったでしょ?」
 「・・・ううん、何でもないよ」

「そうか、だったらいいんだけど」
 「・・・・・・な〜んでもな〜いよっ♪」


歌うように否定し、わざと明るく振舞っていた真知子。
その明るさが繕ったものだと、残念ながら俺には分かってしまった。

その直後、彼女のその明るさがやはり偽りなものだと自ら明かした。


 「平良君、聞いて・・・ヤスって凄く甘えっ子で、疲れちゃうの」
「彼って元々甘えん坊なんでしょ?いつもの事じゃないの〜?(笑)」

 「それがね、ちょっと度を越してるっていうか・・・」


受話器の向こうで溜息をつく。


最近、真知子の娘にまでヤキモチを妬き出したという泰之。

その娘を彼女の実家に預けて、二人だけで同棲しようと言って聞かない・・・
彼女はそうこぼした。


確かに娘がいると、どうしても泰之が真知子と接する時間が減る。

あの娘は前の夫との子どもで、俺には関係ない子どもだ。
俺の事が好きなんだろ?
俺の事が大事だろ?
だからあの娘は実家の祖父母に預けて、俺達で新しい生活を始めよう。
君は子どもが好きなんだろ?
じゃ結婚して俺と真知子との子どもを作って、俺たちで幸せに暮らそう・・・

泰之は真知子にそう言い出したという。


最初、真知子は馬鹿な冗談だと受け取って聞き流していたが、
泰之の真剣な態度やその後の発言を聞く限り、あながちそうでもなさそうだと言う。


そんなもの、愛情ではない。
泰之はただ真知子を独占したいのだ。

泰之の発想の幼稚さに、同じ男として耐え難い嫌悪感を感じた。

思わず悪寒が走る。


「・・・何だそんな事か・・・別段たいした事ないじゃん(笑)」


重い雰囲気の中、俺はわざと明るく言ってみた。


 「・・・どういう事?」
「だったら私は娘と住むから、あんたが出て行って!って言えばいいよ」

 「もう、馬鹿ね・・・」


やっと真知子も笑ってくれた。


しかし泰之という男の考え方は自己中心的過ぎる。
自分の欲求を叶える為なら、母と娘を引き剥がしても平気なのか。
俺なら愛する女と幼い娘を自分の我が侭で引き離す事など考えないが。

真知子は好まない酒をわざわざ飲んでいる。
愛する男からの理不尽な要求に振り回されている事へのストレスからか。
どちらにせよ、美味しい酒ではない。

愛娘を捨てる事など、母親の真知子に出来る訳がない。
それをさせてまで自分のものにしようとする恋人の泰之。
彼女の愛情を試しているのか、それとも本当に独占しようと考えているのか。


心地良い時間を真知子と過ごしつつ、俺は心の片隅で実は心配していた。

真知子がまた「くだらない男」によって傷付かなければ良いだが・・・と。



酒に酔った人間というのは、日頃抑制している心情を吐き出すものだ。
真知子が最も強く抑制している事・・・それは、話の内容で分かった。

次第に真知子のリードで艶っぽい話題へと向かっていく。


話は先日のテレフォンSexの話題になる。

それは彼女にとって相当衝撃的だったらしく、あれから何度も思い出し、
人知れず身体が芯から熱くなることもあったという。


 「平良君、酔ったからかな・・・今ね、すごく人肌恋しいの・・・」
「どうしたの?彼にせがめば良いじゃん(笑)」

 「馬鹿ね・・・こうしてわざわざ電話しているのに・・・」
「真知子・・・もしかして、俺としたいのぉ(笑)?」

 「もう、女にそんな台詞を言わせないで、恥ずかしいじゃない・・・」


酔っているとはいえ、大胆で思わせぶりな事を言うものだ。
俺も柄に無く照れてしまう。


「俺、今から本当にそこまで真知子を抱きに行きたいくらいだよ」
 「ダ、ダメよぉ・・・そんな事言われたら、我慢出来なくなっちゃう・・・」

「我慢?し切れなくて、こうやって電話しているんじゃないの?」
 「・・・・・・意地悪ぅ」

「傍にいたら、絶対に誰にも俺達の抱擁を邪魔させないよ・・・」
 「・・・ねぇ、もう熱いの・・・私を、私を真っ白にして・・・」


俺と真知子は電話越しに熱い言葉と吐息を交し合う。
彼女の妄想を掻き立てる言葉を次々と掛ける。

俺達はもう何度も肌を合わせているようなものだ。
真知子がどういう言葉や指示に燃えるのかは理解している。

真知子は俺の思い通りに熱く悶え、卑猥な声をあげる。


その喘ぎ声は、今までのテレフォンSexよりも過激で熱を帯びていた。

今はもう仕事ではない。
全ては自らの快楽のためだ。
アルコールで導き出された、抑制を超えた欲望。


 「ねぇ、こんな私嫌いになった?」
「全然。なぜ?」

 「だって・・・こんなに淫らなんだよぉ・・・もう今も指が止まらないのぉ」
「すごく好きだよ・・・淫らになればなるほど、真知子が恋しい」

 「本当?本当に淫らな私が好きぃ?・・・こんなにHなんだよぉ?」
「それが本当の真知子なら、本気で好きだよ・・・」

 「嬉しい・・・もっと、もっと平良君に壊されたい・・・」
「だったら壊れちまえ、もっと激しく動かして!」

 「ダメ、ま、また真っ白になっちゃうぅぅぅ・・・!」


声にならないうめき声をあげて、真知子が果てた。


一体、どれだけの時間をかけて、何度求めただろう。

もう何度も頭が真っ白になったよ・・・と、真知子は全てを終えた後で言った。


 「とても自分でしているとは思えないの・・・」
「それだけ真知子は普段から満足していないからじゃないの?」

 「・・・・・・」


茶化し気味にそう言ってみると、また押し黙る。


「彼とは?もう関係はあるんでしょ?」
 「泰之とは・・・うん、無い事はないよ・・・」


真知子の絶頂までの途中で、泰之が果ててしまう。
彼女の身体を満足させる域にまで達していないのだ。

真知子も気を遣って感じる振り、イク振りをしてみたりするのだが、
泰之にとってはコンプレックスなのだという。


 「だって余裕も無いし、まだ自分だけで手一杯だから・・・」
「男としては、ま〜だまだだなっ(笑)Sexが下手だと浮気されるぞ(笑)」

 「関係ないと思うんだけどなぁ・・・」
「でも男にとっては大事な事だよ。年上の女性が教えてあげたら?」

 「私が?う〜ん・・・・恥ずかしいよ(笑)」


快楽の果てにすっかり酔いの覚めた真知子は、本当に恥ずかしそうだった。


それからしばらくの間、真知子からの連絡はなかった。

せいぜい彼と幸せにしているのだろう・・・そう信じていた。
自分の嫌いなタイプの男に敵わない悔しさや侘しさを抑えながら。



12月初め、ある夜遅くに電話が鳴った。
真知子だった。


 「もしもし・・・私、分かる?」
「真知子?久しぶり・・・あれ、家じゃないの?」

 「うん・・・外から。ちょっと事情があってね・・・」




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2003年01月11日(土)

年下の男の子。 〜手紙〜


<前号より続く>



秋から冬へと季節が移ろう頃の、ある夜。

いつものように朗らかに話す真知子は、もう店を辞めると俺に言った。
お店にはまだ言わないでね、という注釈をつけて。


「えぇっ?頑張ってこの店で稼ぐんじゃなかったの?」
 「うん、でも・・・もういいの」

「どうしたの?急に・・・」
 「私ね・・・泰之と付き合っていくことにしたから・・・」

「もう決めたんだ・・・?」
 「この仕事も彼に話したの。でもすごく嫌がって、すぐ辞めてって」


真知子は泰之にテレコミの仕事を話したところ、相当嫌がったという。
彼と付き合う決心を固めた彼女は、テレコミを辞める選択をした。


「生活は大丈夫なの?」
 「・・・また別の仕事を見つけるわ」

「じゃ、俺とも・・・もう終わりだな」
 「・・・うん」


俺は相談したい事があったらいつでも電話しておいで、と言った。

そして受話器を置き、最後の会話を終えた。


たった一人に戻った、俺。


電話だけとは言え、どこかで思いを寄せていた真知子との突然の別れ。
会った事も無い女に深入りするほど、俺もつまらない男ではなかったはず。
しかし心の中で、誤魔化しきれない深い思いが俺に圧し掛かる。

布団に潜り、明かりを消し、一人ぼっちの部屋で続く溜め息。
暗闇の中で考える事は、会った事も無い一人の女の姿。

失恋にも数えたくない程の、浅はかな儚さ。
しかし充分に心に重く圧し掛かる、切なさ。


俺も何時の間にか・・・つまらない男に成り下がろうとしていた。



それから1ヶ月半ほど経ったある日。
不意に真知子から電話があった。


「久しぶりだね!彼とは順調かい?」
 「・・・・・・うん、お陰さまでね(笑)」


順調だと言いながらも、俺のところへ電話をかけてくる。
すこし躊躇した返事も何か引っかかる。


真知子はどちらかと言うと、甘え下手なタイプな女だ。

責任感が強く、自分が頑張れば全てが丸く収まる、と思いがちだ。
自分の至らないせいで他人に心配や迷惑を掛けたくないと思い、
その余りつい自らの許容量以上に頑張ってしまう。

結果、人知れず疲れ果ててしまうのだ。

彼女にそういう傾向があるのは今までの話でも聞いていた。


真知子は本題とは言えない程度の他愛もない話を続ける。
俺も糸口を見つけようと、何かと大袈裟気味に相槌を打ち、話題をふる。


 「実は私ね、一度平良君を見てみたいなぁって思ったの」
「じゃ、デートしよっか(笑)」

 「ダメよ(笑)、彼に怒られるもの・・・だから見るだけでいい」


彼・・・泰之は相当なヤキモチ妬きなのだという。

例えば、友達の話題でも真知子が男に関わる話をしようものなら、
その途端に拗ねて不機嫌になるそうだ。

例えば、彼女が近所に住む如何なる男性に出会って挨拶しようものなら、
その途端に彼女を引っ捕まえ、その場で関係を問い正すそうだ。
人ごみでも、大声で恫喝された事もあったという。

どんな人であっても、俺以外の男には絶対に色目を使うな、と。
そして俺と一緒に居る時は俺以外の男を見遣るな、と。


テレコミの仕事を嫌がったのは、自分以外の男と知り合う接点が出来るから。

それが何よりも泰之を苛立たせた要因である。


テレコミでのバイトとはいえ、強いて言えば風俗嬢や水商売に就く女性でも、
職業意識の高い人は決して浮付いていない。
どんな客と話をしようと、欲望を満たそうと・・・それが仕事なのだから。

真知子はそのバイトを自分と家族を支える収入の足しにしていた。
外部の、それも学生の泰之が何も働きもしないで拗ねるのは、筋違いも甚だしい。

それに相手を信頼出来ていないのなら、愛情など成立するはずも無い。

自分の我が侭や妄想で彼女の人間関係や生活まで抑えつけてしまう男。
自己中心的で幼児性の抜けない、大人になりきれない男。

そんなものは若さでも、幼さでもない。
稚拙で我が侭、他人の事情を思い遣れない「器」の小さな男。


俺が最も忌み嫌うタイプの男だ。


しかし女という生き物は時として、
男の理不尽なヤキモチでさえも可愛いと受け取るようだ。

当時の真知子も泰之の度を越えた嫉妬や干渉を「可愛い」と感じていたようだ。
女心とは、本当に男の頭脳では理解出来ない。


「そんな男と付き合ってもこの先、ろくな事にならないよっ(笑)」
 「何?拗ねてるの?(笑)・・・彼にはね、私が付いてなきゃいけないの」

「何それ?君は母親か姉貴かね?」
 「・・・そうでもあるのかな。だって私が居るとすごく嬉しそうなんだもの」

「そんな男より、絶対俺のほうが大人だと思うけどなっ」
 「ダメったらダメよ(笑)・・・でも平良君の写真、送って欲しいな」

「いいけど・・・じゃ真知子の写真も送ってよ!」
 「そりゃいいよ、でも・・・ほとんどが娘と写ってるよ(笑)」

「いいねぇ、それ!是非送ってよ。でも・・・」
 「でも?」

「彼と写っている写真は要らないからね(笑)」


俺は彼女に、まず自分の家の住所を教えた。
私の住所は手紙に書くからそれを見て・・・と言われた。

こうして手紙を貰う約束をして、その日は電話を置いた。


俺は仰向けに寝転がり、真知子のとある言葉を思い返していた。


 「彼には私が付いてなきゃいけない・・・」


真知子と泰之の関係について、俺はこの言葉を何度も聞いた。

過剰な嫉妬に焦げ付いている泰之に対する過保護気味の愛情なのか?
俺は当時、そう感じていた。



そして数日後、真知子からの最初の手紙が届いた。

そこには丁寧な文字の手紙と、一枚の写真が入っていた。


朗らかで優しい笑顔で写真に収まる真知子。
大きくて聡明な瞳が印象的だった。

そしてベビーカーに乗る女の子が娘。
手紙によると名前は「みらい」というそうだ。
キョトンとした顔の目元や表情が、やはり母の真知子に似ている。


差出人の住所は天白区最大の公団住宅だった。
その団地内で撮ったのだろう、コンクリート壁の前で写っていた。

同封された手紙には、丁寧な字で彼女の思いが綴られていた。


『 前略  平 良 様 

  先日の突然の電話、大変失礼しました。
  その時の約束通り、私と娘の写真を送ります。

  娘の名前は『みらい』といいます。  
  私に似てるかな?
  私の最も大切な宝物です。


  平良君には電話で本当に色々な話をしましたね。
  私にとってはとても素敵な時間でした。
  たくさんの思い出をありがとう。

  これからはあまり電話も出来ないだろうけど、
  今後ともどうぞよろしくお願いします。

  草 々 
                真 知 子   

  追伸・・・泰之が手紙を見つけるかも知れないので、
      差出名は女性の名前でお願いします。  』



嬉しかった半面、俺は困った。
実は最近、自分の写真を撮っていなかったからだ。
アルバムを引っ張り出し、古い写真から写りの良い物を選んだ。

2年程前の大学祭の頃に撮った、バイクに跨ってポーズを決めた写真。


俺は類い稀なる悪筆だが、履歴書を書く以上に丁寧な字で返事を書いた。
短い文章ながらも何枚も便箋を丸めて捨てる。
そしてようやく書き上げた。


『 拝復  真知子 様 

  先日は写真と手紙をありがとう。
  想像以上に可愛かったので、ちょっとショックです。
  だって、俺と付き合えなかったから・・・なんてね。
  
  電話でも楽しい話が出来て楽しかったよ。
  こちらこそ、楽しい思い出がたくさん出来ました。

  彼とも幸せにして欲しいけど、たまには電話下さいね。

  これからも、いい付き合いが出来ればいいですね!
  こちらこそ、今後とも宜しくお願いします。

                       平 良   』


俺はその手紙と写真を封筒に入れて送った。

その際、差出人のところは俺の名前を一文字変えて女性名にして。
その点が俺には複雑だったのだが。




<以下次号>







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2003年01月10日(金)

年下の男の子。 〜空白〜


<前号より続く>


初めての経験に我を忘れて燃え上がる真知子。

俺はさらに羞恥心とさらなる快感を引き出すべく、受話器の向こうへ囁いた。


「本当にいっぱい濡れてるね・・・真知子の愛液、糸引くくらい濃いね」
 「言っちゃだめぇ、なぜ・・・なぜ判るの?」

「だって、真知子は俺の前で腿を広げて見せつけてるじゃん」
 「ああんもう、我慢できないよぉっ・・・」

「我慢できない?じゃあどうして欲しいの?」
 「・・・入れ・・・てっ・・・言わせないで・・・」


息も絶え絶えに、真知子はいきなり俺に挿入を懇願する。
前戯はまだ中盤だと思っている俺。


真知子は完熟した女の淫乱な素顔を垣間見せる。

どうも先程から挿入を我慢し続けていたようだ。
でも俺自身の挿入をせがむのを、本気で恥ずかしがっていた。

そのジレンマが彼女への絶好の焦らしになっていた。


しかし俺はさらに徹底的に焦らす。
真知子のボルテージをさらに高めるために。

予想外の焦らしに本気度がさらに増す彼女。
喘ぎ声のトーンが数段階高まる。


「好きな体位は?」
 「・・・バック、バック」

「じゃ、バックになって。お尻を俺に向けて」


受話器越しの彼女はゴソゴソと動いている。
いくら想像の世界でも、自分でも実際に体勢を変えると臨場感も増す。
テレフォンSexとはいえど、大切なものだ。


 「・・・なったよ」
「じゃ、後ろから真知子の全部の穴を見ちゃおう」

 「ダメェッ!絶対ダメ!」
「じゃ電話切るから。続きは一人でしろよ」

 「・・・ァァッ、アッ、だめぇ・・・」
「真知子、どっちのダメ?・・・見ちゃダメ?切っちゃダメ?」

 「・・・切っちゃ、ヤダ」


真知子は俺の突き放す一言に対して、それ以上何も言えなくなる。
こうなると、可愛いもんだ。


「凄くいやらしい格好だし・・・奥まで丸見えだよ」
「真ん中の穴はグチャグチャに濡れてる・・・お尻まで濡れているね」
「クリトリスも皮が剥けているよ・・・粘膜の綺麗な色だよ」
「見られているだけで感じているんだね・・・お汁が垂れ出したよ」
「ヒクヒクしてるね・・・滲み出てきた真知子の愛液、舐め取ってあげる」


じらされる事に馴れていないのか、真知子は受話器に向かって叫んだ。


 「もう入れてっ、ねぇっ・・・入れてぇ!イかせてぇ!」
「誰の何を?どこに?言えたら入れてあげるよ」

 「・・・もう意地悪しないで・・・こんな事、女に言わせないでよぉっ」
「だから言えたら入れてあげる・・・もう入り口まで来てるよ」

 「あ、ああ・・・た、平良君の・・・大きくなった・・・を入れて・・・」
「誰の?・・・どこに?・・・どうなってる?・・・どこに?・・・」


俺は徹底的に焦らした。
真知子が焦らされる事でさらに燃え上がる女だったからだ。

きっと彼女もここまで熱く焦らされる事は無かっただろう。


「さあ、奥まで入れるよ・・・グイッと」


悲鳴とも喘ぎ声とも取れる、声にならない声を上げる。


真知子は俺の指示と共に、指を二本挿入したようだ。
自分の中にある、感じる所を突くようにピストンして、と俺は指示した。

受話器からの声が割れてしまう程、我を忘れて燃えていた。

そして、真知子は間もなく果てた。



会話もない空白の時間。
無理に交わそうとする気持ちも、交わす言葉もない。
真知子が鼻をすする音が聞こえるだけだった。

その無言の長さが彼女の受けた衝撃の大きさに比例しているようだった。


少し時間を置き、俺は問い掛けた。


「真知子?・・・初めて電話でやってみて、どうだった?」
 「・・・・・・」

「嫌だったか?だったらもうしないし、謝るよ」
 「・・・違うの」


弱くかすれた声だったが、明確に否定した。


「違うのかい?」
 「・・・あのね、凄く感じた・・・ビックリするくらい」


今までの誰よりも感じちゃった・・・
イッちゃった後なのに、まだ身体の芯が疼くの・・・
本当に、私一人でしてたんだよね・・・
傍で誰かに触れられて、していたみたい・・・


真知子はうわ言のような口調で次々と呟く。


「傍に俺がいたら、またすぐにねだられるんだな」
 「そんな・・・恥ずかしい事言わないで・・・」

「でも、もう一度俺のが真知子の中に入ったら、どうなる?」
 「え、いや・・・ダメだよ・・・」

「でも俺、まだ勃ってるんだ・・・真知子が欲しくて」
 「嘘・・・」

「もう一度入れるよ、奥まで・・・」
 「・・・ああああ、も、っと・・・来て・・・」


その直後から、真知子の言葉にならない喘ぎ声が再び流れる。

俺は真知子と何度も果て、存分に満足できる時間を過ごした。


それからも真知子とは何度も話した。
その度に俺達はお互いの事を色々と話した。
その度に俺達は電話で互いを求め合い、心と肉体の隙間を埋め合った。



しかし真知子との会話の中で、気掛かりな話題が増えていく。
彼女に言い寄る男・泰之の事だ。

話を聞くたびに、真知子の気持ちが泰之に偏っていくのが判った。


別段、俺がどうこう言う立場ではない。
でも少しずつ発展していく二人の話題は、はっきり言って面白くない。

面白くなかったのは、俺が真知子に惹かれていたからでもある。


泰之は実際に真知子と接しているが、俺はまだ電話だけの関係。
この劣等感が、俺の嫉妬心を煽り立てていた。


「俺、真知子みたいな女だったら付き合っても良いなって思うんだ」
 「ありがとう、冗談でも嬉しいよ(笑)」

「ひどいなぁ(笑)、本気で言ってるのに」
 「でもね、嬉しいけど私には先約がいるもの」

「よ〜し、その男から真知子を奪ってやる!」
 「本気なの?(笑)まぁ楽しみにしているわね」


暖簾に腕押し、糠に釘・・・とはこういう事なのか。
ジャブを繰り出せば、しっかりと見極められて避けられる。


泰之は広島で教師をする両親を持つ一人っ子。
昨年から名古屋の国立大学へ進学するためにこちらへ来た。
学歴的にも、将来非常に有望な若者と言えよう。

高校時代は陸上部に在籍し、短距離走と走り幅跳びを得意とした。
ただ異性には奥手で、まだ誰とも付き合った事がなかったらしい。
言わば、彼の本気での初恋の相手が真知子となる。

外見的にも『しっかりした現代の若者』という印象だそうだ。
しかし真知子に対しては、全てをかなぐり捨てて甘えっ子になるという。

そんな彼の表裏のギャップが可愛くて仕方が無い様子だった。



<以下次号>








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2003年01月09日(木)

年下の男の子。 〜指名〜



<前号より続く>



数日後。

指名での三度目の電話の時、俺はこんな相談を受けた。


 「私ね・・・ここの店でもっと何とか稼ぎたいの」
「稼ぐ?指名を取りたいの?」

 「平良君、遊び慣れてそうだから教えてもらおうかなって思って(笑)」


どういう会話をすれば客の心を掴めるのか、という相談だ。
彼女の内に秘めた向上心は、今までの会話からも感じていた。
何事にも前向きだった。


こういうテレコミ業界の利用者は、俺も含めて大多数が「寂しい男」だ。

電話ででも女性の声を聞いて和み、癒されたい孤独な客。
自分では抱えきれない悩みや相談を聞いて欲しい客。
家族がいても関わる事を拒み、部屋に閉じこもる客。
テレクラと同様に「見知らぬ女性との出逢い」を求めている客。
ただ単にテレフォンSexがしたいだけの客だっている。


客の心を掴み、次回からも指名させるには・・・
単に綺麗な話ばかりでは不可能だ。

男は自身の自尊心を擽られると、心を許すものだ。
話の聞き方でもそういう部分での配慮も必要だ。

さらに男の欲望を掻き立てる部分が必要だし、時には騙しと紙一重の演技も。


「真知子さんはさ、どんな話をお客とするの?」
 「あのねぇ・・・やっぱりHな話が多いかな・・・」

「こういう店だからね。なら大抵の話は大丈夫かな(笑)」
 「だって、やっぱり私もそういう話、嫌いじゃないもの」

「ならテレフォンSexは?」
 「それはした事ない・・・どうやればいいか分からないし」

「Hな話がしたい客は結構やりたがるから、リードできるといいね」
 「そんなの出来ない・・・じゃ、どうやるか教えてよ(笑)」 


真知子は普段の会話から、どこか色気のある声をしている。

男の耳の奥をくすぐるような声色は、その深奥の性欲にも及ぶ代物だ。

欲望を剥き出しにして、テレフォンSexを求めて来る客も結構多かった。
しかし真知子はリードする術が判らずに断っていたそうだ。


「稼ぐためには、実際にしなくていいから、演技であの声が出せないと」
 「でも、演技で出せる声じゃないし・・・」

「そこは割り切りだって。なん生活のためなら頑張らないと」
 「うん、じゃ頑張る・・・でも・・・」

「何?」
 「実はね、興味もあるの。だから平良君に教えて欲しいなぁって・・・」


真知子からの大胆な告白。
予想だにしなかった展開だ。

俺も心臓が高鳴った。


「何・・・・最近、実際にはしてないの?」
 「うん、一人で?・・・やだ、言わせないでよ(笑)」

「オナニーは判るんだ、じゃテレHも出来るよ」
 「でも、やっぱり恥ずかしい・・・」


女とは触覚と妄想で性欲に火がつく生き物。


ただ電話では相手の身体に実際に触れる訳にはいかないので、
彼女の妄想を掻き立てる言葉や質問を繰り出す。

俺は声色を変え、テレフォンSex向けの低く響く声色に切り替えた。


「真知子って・・・男にどういう所を攻められると感じるの?」
 「・・・・・・恥ずかしいけど、身体中どこも弱いの」

「例えば?胸とかどうされると弱い?」
 「・・・先っぽを優しく触られたり、舐められたり・・・」

「・・・今、想像してるでしょ・・・声がすごく色っぽいよ・・・他には?」
 「やっぱり・・・」

「やっぱり?」
 「・・・言えないよぉ、恥ずかし過ぎるから・・・」

「下なんだ・・・」
 「うん」

「中が弱い?それとも外?」
 「どっちも弱いよ・・・ダメだよ」

「クリトリスは指先で弄られるのが好き?それとも口で?」
 「・・・・」

「思い出してみなよ、その通りにしてあげるから」
 「最初は指でぇ、それから優しく舐められてぇ・・・」

「どっちも好きなんだ・・・真知子って結構Hなんだね」
 「言わないでぇ・・・」

「俺がもし傍にいたら・・・抱き締めて真知子を溶かしてみたいな」
 「・・・・・・」

「そして誰も見た事がない程、乱してみたい」
 「・・・・・・やっ」


真知子から不意に話し声が消える。
変わって、深くて切なげな呼吸の音が聞こえる。
時折、短い喘ぎ声も。

高ぶる性感を抑えているようだった。
やはり自分の高まりを男に悟られるのは恥ずかしいのだろう。

俺は具体的な指示を出す。


「俺の掌で、真知子の胸を大きく揉んでいくよ・・・」
「それから乳首を服の上から摘んで、軽く転がすからね」
「強く摘んで、引っ張っちゃうよ」
「すごく感じやすいんだね・・・乳首を優しく舐めるから想像してご覧・・・」


俺は真知子の声の反応を確かめながら、妄想を掻き立てるように指示を出す。

真知子の吐息は熱を帯び、漏れ出す声も徐々に艶やかに変わっていく。


「次にどうされたい?言ってみな」
 「ダ、ダメ・・・・いじめないで、恥ずかしいから」

「言わないの?じゃ、もう電話切るから」
 「いやぁ、意地悪・・・お願いだから・・・触って欲しいの」

「じゃ、どこを?」
 「下の方・・・お願い」

「電話だから、下じゃわかんないよ。はっきり言ってご覧」
 「・・・・・・クリ・・・ちゃん」

「クリ?真知子のクリトリス、そこをどうされたい?」
 「・・・舐めて欲しいのぉ」

「最初は指で触って欲しいんじゃなかったんだ?いきなり舐めるの?」
 「だって、もう我慢できないのぉ・・・自分が自分じゃないのぉ」

「じゃ、下着を実際に脱いで、俺にしっかりと腿を開いて見せて」


真知子はすでに想像だけの世界から大きく逸脱していた。
いやだぁ、と抵抗してみせるが、俺は窘める。

その途端に、彼女は自分の殻をもう一枚脱いだようだ。


 「ねぇ、自分の指なのに止まらないの・・・」
 「すごい・・・痺れてるの、ああん・・・私の、すごい事になってよぉ・・・」
 「平良君の声だけでこんなに痺れてきちゃうなんてぇ」
 「お願い、お願いだから・・・もっと・・・来てっ・・・感じるぅ・・・」


うわ言のように淫靡極まりない台詞を繰り返す。
性感に酔った真知子の姿は、普段の彼女からは考えられない痴態だろう。
それが受話器の向こうで展開されているかと思うと、俺も抑え切れない。


「真知子・・・最高だよ、俺もすごく感じるよ・・・」


彼女の甘い汗の匂いが、糸を引くような愛液の感触が・・・
受話器越しに伝わってきそうな程の臨場感だ。



<以下次号>








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2003年01月08日(水)

年下の男の子。 〜早春〜

随分と暖かくなった春の日差しに、街全体がふんわりと照らされる。


早春のある遅い朝。
俺が大学を卒業した直後の頃だった。


生意気にも夜遊びを覚え、不健康な日々を過ごしていた当時の俺。
その朝も夜遊び帰りで帰宅した。

2階の自室に上がる前に、階段の下に設置された集合ポストを覗いてみる。
そこにはダイレクトメールや電気やガスの請求書に紛れて、
丁寧な字で宛先が書かれた私信らしき封筒が投函されていた。

その手紙だけを取り出してみる。
明らかに女性の筆跡。

テレコミで知り合った主婦・真知子(仮名)からだった。


彼女からはこれで三通目の手紙である。


最初の手紙はほぼ半年前の秋に届いた。
二通目の手紙はプレゼントと共に手渡されたクリスマスカード。

最初の手紙には丁寧な文字で綴られた手紙と写真が同封されてあった。
柔らかく微笑む彼女、そしてベビーカーに座りきょとんとした表情の娘。
微笑ましいかぎりの母子のツーショットだった。


真知子は当時32歳。
バツイチになったばかりだった。

一緒に写っていた娘は前夫との子で、離婚後に真知子が引き取っていた。

離婚後、彼女は実家に身を寄せていた。
母親と共に病気で弱った父親の介護をしながら、自身もパート務め。
そして愛娘の子育て。

寝る間も取れないほどの苦しい状況、それでも頑張る彼女。
誰もが逃げ出したい程の辛い境遇でも、彼女は朗らかだった。
母となった女性が持つ『芯の強さ』を垣間見る。


その真知子と俺との出逢いはテレコミだった。
彼女がその店を辞めた後も、俺達は友人としてプライベートで話していた。
そして逢った事もあった。

男と女、互いの立場を超えた関係と言ってもいい。

そう思うと、俺と真知子は随分と関わりの深い関係だった。



飲み続けたアルコール、そして踊り明かしたクラブでの疲れを残した身体を
引きずるようにして階段を上がる。

鍵をあけて部屋に入り、カバンを置き、上着を脱いで投げ捨てる。
芯に鈍痛を感じる頭。
台所で蛇口を捻り、コップ一杯の水を一気に飲み干した。
口から胃へ、冷たい一筋の塊が降りていく。

狭くて冷え切った六畳一間の部屋。

手に持つ封筒を開けるべく、おぼろげな記憶を頼りに、
散らかった机の上をさらにかき分けてペーパーナイフを探す。


見つけたナイフを手に取るが、俺は封を開けるのを躊躇ってしまった。

中に何が書いてあるか、今までの彼女との会話の流れで想像出来たからだ。
読んでしまうと、まだ切ない妄想で済んでいる事が現実になってしまう・・・

はっきりしない頭脳で考える事は、そんな事ばかりだった。




俺が初めて真知子とテレコミで話したのは、まだ昨年の夏だった。

クーラーや扇風機、冷たい麦茶が不可欠な部屋。
Tシャツに短パンで寝転がりながら談笑していた。


 「やっぱり娘の成長は待ってくれないから・・・今から稼がないとね」
「女一人で頑張ってるんだねぇ・・・母は強いね(笑)」

 「私が結婚生活を耐えられれば良かったんだけど・・・ダメだったな」


養育費を稼ぐためにテレコミのバイトに入って間もない真知子。
その数ヶ月前に離婚していた。


 「ま、私はせいせいしているんだけどねーっ(笑)」


真知子の離婚の直接原因は、3歳年下だった夫の暴力だという。

元来、金にだらしなかった夫。

苦しい家計を支えるために真知子がパートなどで稼いでいた金を度々無心し、
遠慮なくパチンコや風俗へとつぎ込む。

そしてその放蕩を咎める真知子を、夫は腕力で黙らせた。
理不尽な暴力も、円満な家庭を守るために黙って耐えるしかなかった。

本人曰く、貧しくても温かい家庭に憧れていた。
そして、信じて一緒になった夫を支えてあげたかった、と。


 「私だけなら良かったんだけど・・・娘にも手を上げだしたの」


夫婦の騒動の傍ら、夫は夜泣きする娘にもまた苛立ち折檻しようとした。
彼女は身体を張って彼の暴力を受け止めるしか、娘を守る術は無かった。


 「典型的な内弁慶で、外での苛立ちを家庭に持ち込む人だったな・・・」


縁を切った夫をそう振り返る。
それにしても情けない男だ。


 「付き合っているときはまだ良かった。でも結婚してから変わったわ」
「しかしそこまで情けない男もいるもんだねぇ・・・」


夫からの度重なる暴力で生傷が絶えなかった真知子。
それでも自分だけが耐えれば、いつかは報われると信じていた。

しかし娘に夫の矛先が及んだ事で、彼女は最後の決断をした。
彼女は身の回りの荷物をまとめ、娘の手を引いて家を出たのだ。


夫は夜逃げ同然に家を出た嫁を追いかけ、今も実家に押しかけるという。
一度は離婚を認めたものの、寂しさからか復縁を迫ってくるらしい。


 「反省したから帰って来い、俺と一緒にやり直そう・・・って言うの」


しかし男はどうにも反省した様子は微塵もない。
定職にも就かず、自分の親から金を無心し続ける生活を続けているという。

男が押しかける度に彼女の年老いた両親が、娘は居ないと追い返す。
当然の結論だ。


親の世話、娘の子育て、そしてパート。
そんな真知子は、新しい男性との出会いを考える余裕は無いと言い切る。


「このバイトも、生活費を稼ぐためなんだ(笑)」
 「うん・・・だから出会いを求めているわけじゃないよ」

「そっかぁ、残念(笑)」
 「(笑)ゴメンね」

「でもそんな男がいたら、誰でも男性不審になるわな」


しかし二回目の電話の時、実はもう一つ理由がある事を明かしてくれた。
そんな彼女を慕って、付き合ってくれと言い寄ってくる男がいるという。


その彼の名は、泰之。

パート先でバイトとして働く彼は、広島から名古屋の大学に来た学生。
現在は市内の学生専用マンションで独り暮らししているそうだ。


 「優しくておっとりとした感じの男の子なの。私の過去も理解してくれてるし」
「へぇ、男の子って・・・何歳なの?」

 「大学生で私より一回りは年下だから・・・すごい若いよね(笑)」
「一回りって・・・うわっ、俺よりも年下じゃん!」


真知子はその泰之との交際について迷っていた。

一回り以上に及ぶ大きい年齢差。
そして自分がバツイチになったばかりの後ろめたさ。

若さと情熱で体当たりに交際を迫ってくる若者に、人知れず戸惑っていた。


「実は俺もね、初体験の相手は一回り年上だったよ(笑)」
 「え、本当?どんな感じだった?嫌だった?」

「嫌な訳が無いじゃん。裸になって抱き合えば一人の女性だよ」
 「えぇ、でも・・・子どもも産んでるし、若くないから」

「大丈夫。男は年上の女性には、そんな見た目ばかりを求めていないよ」
 「だって・・・彼は若いし、こんな年増を相手にする事無いよね」

「だからぁ、男から見れば小さい事なんだって(笑)」


そういえば・・・俺が初めて女を知った、俺より一回り年上の女だった美紀子も
きっとこの人と同じような気持ちだったのかな・・・

ふとそんな事を思い出しつつ、真知子を励まし続けた。


  『 美紀子とのエレヂィ。〜一生に一度の夜 』


俺の経験談を聞いた彼女はどこか安心したのか、
それからはあまり余計な心配をしなくなった様子だった。

男にとって、年上の女との年齢差や彼女の過去は大して関係ない。
そこから生まれるおかしな憶測や女性の劣等感などの方が問題なのだ。



<以下次号>








↑エンピツ投票ボタンです。今回は11話構成の予定です。



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