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童話『3にんのヨメ』  2008年09月28日(日)
ある村に、ヨメが3人いました。透けるように色の白いヨメ、ヒョウのように鮮やかな肌色のヨメ、力強く黒光りする褐色のヨメでした。3人ともとてもべっぴんでしたが、ざんねんなことに、自分がどこのダンナのヨメかということを知らないので、3人とも誰のものでもありませんでした。そこに、隣国からへらへらしながら渡り歩いてきたひとりのヤモメがあらわれました。彼は6ヶ月前に元・ヨメに「あんたは、かいしょうなしだ」と逃げられてしまったので、酒をのむ、菓子を食う、ギターをつまびく、自慰にふける等のむなしい毎日を過ごしてきました。ここにきて「カウンターカルチャーだ」と言い始め、何かと形のまあまあ似ているモミジの葉っぱをタバコにして吸うなどの、さもしい放浪をしておりました。そこで、この村にたどり着き、3人のヨメを見ました。皆、美しく、すばらしいヨメでしたが、ダンナとおぼしき男がいませんでしたので、これはもうしてやったりだと、いわゆる一夫多妻制だと叫びながら3人にその制度の説明をしたりして、気を引こうとしました。しかし、このヤモメは身分を保証できるものを「反体制だから」とかいうわけのわからない理由で焼き捨てており、住民票も地元の役所で燃やしたり、小便をかけたりし、むちゃくちゃをしておりました。なので、オノをもった屈強な自警団に取り囲まれてしまい、「これ、吸う?」と差し出したブツも、そこいらのモミジを巻いただけのパチモンだったので余計に怒りを買い、オノでバラバラにされてしまいました。3人のヨメはダンナが誰かわかりませんが今も平和に相互扶助しながら暮らしているということです。めでたしめでたし。




百鬼夜行  2008年09月02日(火)
蘇るもの。滅びゆくもの。冷やかなもの。胸を焦がすもの。
そんなものが過去というやつの姿ならば、いったいどんな刀だったら斬れるのだろうねえ。妖しい太刀筋を誇る剣豪すらも手を焼くという。
ましてや、有象無象の馬鹿どもが振るうなまくら刀は尚更のこと。一生かかって、どうだろうね、見覚えのある女を二、三人、夢の中で斬ったり抱いたりまた斬ったりしてるうちに、まあぐるぐると同じところを廻るんだろうよ。
粋じゃねえよなあ。

埋めたのに這い出てくるもの。絡みつく樹木の根のようなもの。生きていると呼ぶには儚すぎる、死んだというにはしぶとすぎる。前を向く瞳とうらはらにこの後ろ髪を掴みに来る。振り返りざまにはっと消える。それが過去というやつの姿だとよ。いつも忘れた頃に誰かが言いだす。切ないよなあ。お前を斬ってもなんだか腕に自信がなくなっていくばかりだよ。カコという奴よ。

「お前、忘れられない過去ってあるか」と、何気ない会話の一言が、魔界と現世を繋ぐ扉をぐっと押し開けてしまう。そこからは胸を黒い炎で焼くような、胸中思慕百鬼夜行の始まりだ。さあ、お立会い、お立会い。どんな些細な眼差しも、どんな刹那のすれ違いも、まるでたった今そこで起きている出来事であるかのように、まざまざと現われてくる。ここが過去のすさまじいところ。斬っても埋めても消えはしない。滅びてもまた残った部分同士で補強しあってこの世の「今」へ向かって押し寄せてくるのだ。

まるで定刻通りに現れた刑の執行人とか、運命の花嫁のように。カコという奴の横顔とか身なりはぞっとするぐらいきちんとしていて、美しく端正なのだ。きっとさまざまな像とか形態とかが組み合わさって成り立っているせいだ。過去そのものが本当に美しかったことはなく、現在進行形で生きている渦中にはもっといびつで生々しいはずだ。

それでカコという奴が百鬼夜行で押し寄せてくるから、と言っても、ここが個人のエゴとかプライドの所業だと思うが、なかなか「百鬼」にならないのです。ウシとかウマとか、まあ良くてヒツジなど、せいぜい七、八鬼ぐらいで数え止まる。カエル、ヘビ、エビ、カニ、ゾウリムシ、神、仏、強盗、鬼嫁、マルチ商法、癌細胞、大阪府警、美輪明宏、こういったさまざまな現世の「鬼」的なものになぜ転化されずにワンパターンな現れ方なのか、というところに、私自身の限界を感じるので、今日はこのあたりで歯を磨いて寝ます。

粋じゃねえよなあ。野暮ですらない。




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