き　ら　き　ら　　ひ　か　る　。

2007年03月24日(土)
再　会②

妹は、昔から我儘を言わない子だった。
その妹が、最初で最後となる我儘を言った。

妹が入院している病院に夜遅く
妹の幼馴染とワタシの腐れ縁の友人が訪れた。

もう、面会時間外の時間。
外来受付のロビーにあるソファーには、
眠れない入院患者が数人　点滴台を引っ張ってきて
時間を過ごしている。

静かな空間だった。

妹の状況を知って、幼馴染ののりちゃんは泣いていた。
そして腐れ縁の友人は
『妹ちゃん、やっと我儘が言えたんだね。』
そういった。

ワタシは。

妹の子どものような願いを
受け入れることにした。
妹の願いを　快く　受け入れた。

仕事を辞めて妹のそばにいること。決心したのはこの時だったと想う。

妹が個室に移動になったのはいくつかの理由があった。

ひとつはDrとナースサイドの計らいだった。
同じ職業だからわかることがあった。
医療、とかく看護の領域には“生だけではなく死にも尊厳がある。”という思考過程を持っている。
いかに、その人が人間として今日をその人らしく生きるか。
そして、言い方はおかしいが、その人らしく死を迎えるということがどんなことなのか。
そしてその家族にとって、家族の死にどんな想いがあるのか。

それらを含めて患者に向かい合う。

きっと、この病院の主、とさえいえるくらい病院で過ごした妹のことを
ナースはナースで、DrはDrで、カンファレンスを設けたに違いない。

ワタシはそう感じている。

そして、他の理由として。
妹にとって、精神的にかなりダメージを受けるような身体変化があった。
妹は動揺した。Drも予測していたことではなかった。
そのことがあって、妹は個室で精神的な安静を保つという療法を受けることにもなった。

丁度、夏が始まろうとしていた頃のことだった。

2007年03月20日(火)
再　会　①

まだ　夢の中で　妹と　逢えた日はない。

あれから　１年と半年が経ち　また　桜の季節がやってきた。

２年前の４月。
ワタシはもう歩けなくなろうかという妹と　家を出た。
母が『疲れるから、寒い中行かなくても・・・』と遮る言葉を出したが
妹は『だって、今年の桜を見たい。』

ワタシも『じゃあ、ちょっとだけ行こうよ。』

こうして徒歩で数十分だったが
近所の桜の木まで一緒に歩いた。

桜は　花びらをそんなに残してはいなかった。
それでも私達は、何も言葉を発せずに
ゆっくりとその木の下を歩いた。

外泊許可が下りた日のことだ。

そしてまたワタシは　桜の季節を迎えている。

もう　妹は　ここには　いない。

その夏は、とても雷が鳴る夏だった。
そしてよく夕立が起きた。
それを妹と眺めていたことを覚えている。

妹が個室に移動となり　Drの計らいで　私達家族は　妹と昼夜関係なく
病院にいても良いという許可が下りた。
私達家族は、病院のとある一室を借りて泊り込んだ。
昼も夜も　妹のベッドサイドに誰かが寄り添えるように。

実はこの夏が始まろうとしていた頃
Drに『もしも』のときの話を切り出された。

本来であれば、妹がその決断をするべきだったのかもしれない。
そう想う人もいるだろう。
しかし　妹は　まだ　戦っていた。

生きる希望。それだけを見つめて。

『もうだめなんですね。。こんなに頑張っているのに…』
母がそう言葉にして涙した。

違う。違う。お母さん。あの子は今生きている。頑張って生きている。

そう言葉にした私にDrはこういった。

『そうですよ。お母さん。妹さんは今生きています。今も頑張っています。
正直なところ
夏前に一度危篤状態になったとき　
私達は覚悟をしてご家族をお呼びしました。
でも、持ち直しましたね。それは妹さんが頑張っているからです。
そしてご家族がそばにいらっしゃるからだと想っています。』

妹ちゃんの『もしものとき』が近いことを
Drも看護師も　そしてワタシも　泣いている母も
気がついている。

けれど　妹ちゃんが　今もこうして頑張っている
それを　誰もが　尊重し　敬意の気持ちで見守っている。

だから。
私たちは決断した。

生きるために戦う妹を決して見捨てず
私達は彼女のために決断をすることにした。

生きているだけで　ただそれだけで　倖せなこと。
そこに他の理屈などいらない。

生まれてきた。
そして今生きている。

そのことに充分価値があること。
頑張っている今日　この瞬間が　既に　
妹ちゃんにとっても　私たちにとっても価値がある一日。

だから　最後まで　その価値ある一日に。

そして　妹の　カルテには　“ナチュラル”と書かれた。

ワタシは話の最後　Drにお願いをした。

妹をひとりで逝かせたくない事。

Drは『お姉ちゃんの気持ちはよくわかりました。私達も全力で頑張ります。でも…もしも
…間に合わなかったら…そのときは　ごめんね・・・でも全力で私達も頑張りますから。』

そんなやり取りのあった夏前。

そのことがあったからだろう。

私達は最後の一ヶ月を　妹と一緒に　病院で過ごすことが出来た。
『誰かが病院にいるようにしていてください。』と
面会時間や看護の垣根を取りはずしてくれたのだった。

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