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鈴木君たちのシュールな一日
信井柚木
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2002年09月07日(土)
二年五組

「なぁ、さっき教生が泣いて逃げてったけど、お前今度はなにやらかしたんだ?」

 廊下ですれ違った教育実習生の様子に、佐藤は顔をしかめて教室に戻ってきた。
「・・・開口一番、俺に尋ねるか?」
「お前以外に、誰が何やるってんだ」
 冷静な反応に、周囲の級友たちが揃ってコックリと頷く。
「鈴木クンいわれちゃったねアハハハハハ」
「お前が言うなお前が」
「えーっなんでだよーっ!」
 ぶーたれる山本をサクサク無視して、
「で?」
 佐藤は改めて問を重ねた。
「ああああ、あの・・・」
「なんだ小林」
「と、特に悪いことしたってわけじゃないと、僕は思うんだけど・・・」
「何言ってるのよ」
 とりなそうとした小林に、高橋女史が呆れて口を挟む。
「あんなのに遭遇したら、免疫ない普通のヒトって逃げるものよ?」
「そ、そうかなぁ・・・」

「普通はね、標本の課題として提出された植物って閲覧者を攻撃したりしないものなの」

 柳眉を逆立て委員長が指し示した方向には――標本とされながらもなお、威嚇のためか、近くの指にかぶりつこうとする意気盛んな謎の植物があった。
「・・・なるほど。課題が近くの植物、ということだったからな。アレは下校途中に発見して・・・先生にみてもらえれば、元がどういう植物だったかわかるかと思ったんだが」

「んな無茶な要求、教生にするんじゃねぇ」

 佐藤から飛んだ鋭い指摘に、周囲も再びコックリと大きく頷いた。
「特にあのセンセ市外のヒトみたいだもんねー仕方ないかもしれないけどさー」
「やめてよ、それ! なんだか、田中安田市の市民って皆揃って変人みたいじゃないの!」
 なかなかに切実さのこもったセリフである。
 高橋女史の絶望的な叫びが響くそんな時、ガラッと扉が開いて新たな人物が姿を見せた。
「鈴木ぃ〜、お前また面白いもの拾ってきたんだって〜?♪」
「・・・げ。また出た」
 マッドと噂の生物部顧問である。
 生物部そのものはまともなのだが、この顧問と一部の部員が『裏生物部』を組織しているなどと、校内でまことしやかな噂が囁かれていた。
 ・・・いや、事実ではなかろうか。
「お、小林いたのかぁ! オレが熱烈に生物部に誘ってるのに、お前ちっとも来てくれないんだもんなぁ。センセーは悲しいぞ!」
「ああああ、あの、いえ僕は・・・」
「ちょっと先生?! 小林君が怯えてるじゃないですか!」
 教室の向こうで、委員長と生物部顧問のバトルが始まる。
 こちら側では、件の標本をしげしげと眺めながら、
「よく見たら愛嬌あると思わないか?」
 自分に同意を求める幼馴染みがいる。
「俺に訊くんじゃねぇ」
 一言で返しておいて、佐藤は遠い目で窓の外を眺めた。
 視線の先では、校庭で化学の教師が生徒を借り出してロケット打ち上げの実験に勤しんでいる。
「・・・なんでこの学校、変人ばっかなんだ」
 佐藤の呟きが、窓の表面を空しく滑った。
「あっれー佐藤君なんだかアンニュイだね」
「違う」
「わかったー!フトコロが寂しいんだーでも僕は今貸してあげる余裕ないからね」
「違うっつってるだろーが! お前も人の話を聞け!」