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斜めうえ行く「オクノ総研 WEBLOG」

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2005年04月28日(木) 旧オフィス最終日

ゴールデンウィーク明けに会社がビルを引っ越す。
今のオフィスは、大地震が起こったら倒壊の恐れがある、と香ばしい理由。
移転先のオフィスは、高層タワー。
オフィスエリアの最高層階。
テロリストが飛行機で特攻するには、最高のロケーションにある。

ゴールデンウィーク明けからは、新しいオフィス。
新しいオフィスの自分の座席は最も眺望が良いであろう、と思われる最高の場所を確保。
自分のプロジェクトチーム用にプロクジェクトルームも確保。

コンサルティングファームには固定席はない。
座席は予約制である。
僕は長期的に座席を予約しているので、事実上は固定席ではあるけれど、システム上は、専用の場所はない。

引越し前の最後の夜のオフィスには、社員はもう誰もいない。
ゴールデンウィーク前の夜に、残業しているバカは僕一人。

引越し業者さんは既にオフィスの解体作業に入っている。
僕のブースを残して、どんどんと解体されていく。
工事現場だ。
「あと10分でLANに接続できなくなります」
「構いません。AirH"で繋ぎます」

僕の仕事道具一式は既に運送業者さんに渡ってしまっているので、カバンに入っている機材が僕に残された仕事道具。
2台のPCと200GBのHDD。
2台のPCと200GBのHDDを持ち歩いている時点でバカだ。
加えて僕は、有線、無線LAN、AirH"、FOMA、PDC、衛星チューナーといった通信手段も持ち歩いている。
オフィスが工事現場と化していようと、公園だろうと仕事にほとんど影響はない。

ゴールデンウィークは、しっかりと休みたいので、休暇前にできる仕事は全て完了させておくための残業。
と、いいつつ僕は完全モバイラーなので、どこにいても仕事は通常どおり。
ネットに接続できる場所にいる限り、僕の身体は地球上のどこにいても影響は少ない。
ネット接続環境よりも電源確保のほうが問題だ。
徹底的に機材を軽量化しているにもかかわらず、僕はバッテリーの予備をいくつも持ち歩いている。
燃料電池が欲しい。

オフィスは既に工事現場と化しているので、iPodで耳を塞ぐ。
ドリルの音に負けないようにボリュームを上げる。

冷静に考えると、LANに接続できないオフィスでAirH"でつないで仕事をするよりも、ブロードバンド接続が可能な自宅のほうが効率が良いことに気づいた。
ネット環境や機材に関しては、オフィスよりも自宅のほうが充実している。
ペーパーレスな僕にとっては、オフィスには紙の資料はほとんどない。
本も自宅のほうが多い。

僕はネットを使って、やりとりをしているスタッフに「メシでも食わね?」とメッセージを送った。
「すいません、今、バルセロナにいます・・・」
何だ、日本国内にいなかったのか。
携帯が留守電だったのは、そのせいか。
仕事はできても、物理的身体がなければ一緒にメシは食えない。

物理的身体がどこにあってもコラボレーションして仕事ができてしまう。
とんでもない仕事スタイルだ。

オフィスの引越し作業の工事を見ながら、オフィスって何なのだろう、とフト思った。
名刺に書かれた都内の一等地の住所表示、高層タワーの最上階という記号性。
ささやかな会社に対する帰属意識の象徴。
物理的身体を使ったコミュニケーションの場。
物置。
ネット化された仕事スタイルの僕にとって、オフィスの持つ意味あいは、大きく変わりつつある。

でも、本音ではオフィスは、ダサい場所にあろうと狭かろうとボロかろうと、何だっていい。
いるべき場所にいつもいるべき人がいる。
自分にもナワバリとしての居場所がある。
そういう人の本能に近いことが大切だ。
僕はゴールデンウィーク明けに、超効率化された最先端オフィスてはあるものの、人の動物的本能を省みないオフィスに引っ越す。
新オフィスでは、コンサルタントの固定席は完全に排除される。
ナワバリは消える。
僕は例外だけど。

プロジェクト単位でメンバーが構成され、数ヶ月単位で召集、解散を繰り返す僕たちは、帰属意識を消失しがちだ。
仕事場所に加えて、人間関係においても上司や部下の関係はプロジェクト単位だ。
プロジェクトの終了とともに上司、部下の関係も消滅する。

動物である人間はナワバリや居場所、ある程度固定化された主従関係がないと、精神的に安定しないんじゃないのか?と思う。
僕は、所属するファームに対する帰属意識や忠誠心が薄い。
クライアントやプロジェクトに対しては絶対的な忠誠心を示すが、自分が所属するファームに対する忠誠心は小さい。
それは、人間の、動物の本能に根ざしている問題だと思う。
僕は、動物としての人間だ。
だけど僕は「値札のついた商品」だ。
でも、僕は、商品であったとしても、動物的本能を持った人間だ。
ささやかではあるものの動物としての本能を残しているで僕たちにとって、ナワバリや居場所、ある程度固定化された主従関係は必要だと思う。

僕たちは会社のP/L上も人件費ではなく、原価である。
クライアントとの契約書上も時間単位での切り売り。
脳の時間単位の切り売り。
僕たちは、お前たちに要求されているものは脳だけだ、身体など無駄でしかない、と宣言されている事と同義だ。

僕は、自分にとってはほとんど思い入れのない引越し作業中のオフィスから、最終退出者として外に出た。




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孤独に歩め 悪をなさず 求めるところは少なく 林の中の象のように

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