斜めうえ行く「オクノ総研 WEBLOG」
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2005年01月22日(土) |
IBMウォッチング 〜PC事業のレノボへのまるごと売り飛ばし編 |
僕は、IBMウォッチャーである。 「日経IBMウォッチャー」は既に存在しないが、僕は個人的にIBMウォッチャーである。 IBMの戦略は、常に時代の先を行くものであり、観察していると大変勉強になる。 IBMの取る戦略は「外部から覗う限りにおいて」、常に正しい。 IBM社員にとっては、つらい事が続いているようだけれど(直接間接に愚痴を耳にする)、純粋に殺伐と戦略を外部から観察していると、頷かされ、感心させられる。
最近のIBMに関する二大ニュースと言えば、「PC事業のレノボへのまるごと売り飛ばし」であり、「500件の特許公開」である。
まずは、「PC事業のレノボへのまるごと売り飛ばし」について。 こちらの戦略は、比較的単純で、理解しやすい。 誰もが頷く、当然の戦略。
もともとIBMのPC事業のベースは既に企業向けが中心であり、個人ユーザーは相手にしていなかった。 ThinkPadは一般消費者が店頭でも手に入れることは可能だが、事実上、IBMのPCは企業ユーザー向けである。
現在のPCには付加価値も利益もない。 逆に言えば、PCには余計な付加価値(機能)があってはならない。 PCに不慣れな初心者は付加価値(機能)満載のPCを欲するが、ユーザーのPCに対するリテラシーが向上すればするほど、ユーザーが求めるのは、付加価値のない「素のPC」である。 特に機能面での付加価値は求めなくなる。 PCに求められる付加価値は、「バッテリーの持ち」、「重量」、「頑丈さ」、「キーボード」であり、それ以外の余計な「付加機能」が搭載されたPCは、ユーザーのPCリテラシーの向上とともに意味を失う。 ThinkPadユーザーは、もともとヘビーユーザーが多いため、ユーザーは余計な付加機能を受け付けない。 そして、ThinkPadの持つ、基本性能重視、付加機能無視、はヘビーユーザーからは、一定の支持を得てきた。
僕はThinkPadユーザーではない。 僕が現在ThinkPadユーザーでない理由は、特殊用途に応じて、複数の特殊仕様のPCを使い分けているからである。 でも仮に、PCは一台だけしか使ってはならない、という状況になれば、間違いなくThinkPadを選択する。
IBMやAppleのようなグローバル企業は、「日本専用モデル」を作らない。 グローバル単位で製品の開発、展開を行う。 携帯電話は、日本独自の進化を辿り、欧米と日本では全く異なる端末、ビジネスモデルとなった(SIMカードの導入の有無が発端。日本は独自の垂直統合モデル。でも今後の方向性はアンバンドル化)。 だが、現状の携帯電話事業のような特定地域のみで通用する独自仕様は、グローバルに展開する企業にとっては、大変非効率な事である。
結果として、ThinkPadはヘビーユーザー専用モデルとなっていったが、もともとIBMとしては、収益性が低く、かつローカル展開しかできないコンシューマーマーケットは想定外だった。 改めて説明する事でもないけれど、PC事業で収益を上げられるのは、インテルとマイクロソフトのみである。 それ以外の部品メーカー、最終製品ブランドの誰もPC事業で利益を上げることはできない。
DELLがいまだにPC事業で収益を上げていられるのは、製品の付加価値ではなく、「サプライチェーンの徹底的な合理化」のおかげである。 更に、DELLにおいても本来のビジネスターゲットは企業向けであり、コンシューマーマーケットではない。 コンシューマーマーケットだけで勝負をしているPCブランドはほとんどない。 コンシューマーマーケットだけでビジネスを展開しているPCブランドはあえてそうしているのではなく、企業向け市場の展開を失敗しているからに過ぎない。
PCメーカーにとって、コンシューマーマーケットは、かねてより無意味な市場である。 そして、現状では、ビジネスマーケットも、市場としての意味を失いつつある。 少なくともビジネスマーケットも、もはや魅力的なマーケットとは言えない。 「箱」としてのPCはクライアントは言うに及ばず、サーバー事業においても、消耗戦に陥っている。
それでもあえてPCメーカーがPCにこだわるのは、エンドユーザーとの接点はPCだからである。 PCメーカーにとってPCはある意味、「(広告)マーケティング事業」である。 エンドユーザーが毎日、ロゴを見てくれることにのみ、意味がある。 コンピュータメーカーはこぞって、サービス事業への転換を急いでいるが、システムの裏側を気にするエンドユーザーはいない。 エンドユーザーは、どこのベンダーが自社のシステム開発をしているか、どこの企業が保守しているか、サーバーのOSが何か、DBが何か、ミドルウエアが何か、そんなことには興味がない。
IBMにとっては、「(広告)マーケティング事業」としてのPC事業をどう評価するか、という問題だったのだろうと僕は推察する。 IBMは、「(広告)マーケティング事業」としてのPC事業に見切りをつけた、という事だと思う。
日本のPCメーカーは、いまだに日本独自のコンシューマーモデルを開発し、初心者向けの機能てんこ盛り戦略を取り続けている。 マーケットとしてある程度の規模を持つ、日本を無視するわけにはいかないけれどグローバル企業は、あまりにも極端な独自路線を走り続ける日本マーケットにつきあっている余裕はない。
PC事業はコンシューマー、ビジネスの両面において既に何の魅力もないマーケットである。 そして、このPC事業と同じ道をデジタル家電が辿っている。 勝ちなし、の全員負け。 誰も生き残れない。
撤退の決断は、いつだって難しい。 参入よりも撤退のほうが、ずっとずっと難しい。 PC事業の撤退をいち早く決断したIBMはやっぱり偉大だな、と思う。
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