Kozの日記
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2002年08月15日(木) バイエルから…

15才年下の先生は今24才。

僕が本職で開講するスクールの生徒だ。

仕事柄、音楽とは全く関係ないがキーボードに
電子ドラム、エレキ、アコギ、ベースとそれぞ
れのアンプ関係やミキサーなどが教室内に置か
れてある。

ある日キーボードをみて生徒が

「あっ!ピアノ弾きたい」とボソッと?言った
その言葉に僕はスグに反応した。


「ピアノ弾けるんだ?」

「うっ、うん少しだけ…」

ピアノはいずれ何才になっても習おうと心に決め
てたこともあり、いいタイミングでキッカケがで
きた。


20才の時、バロック音楽が自分のブームになりバ
ッハの音源を少し買ってみたりたりした。

理由は1台であれだけの音域を持つ楽器が存在する
すごさを感じたから。

まるで雷鳴なみ。

今でも雷鳴に勝る音域の広い楽器はないんじゃな
いかと思うくらいだ。

人間の耳に聞こえる周波数のレンジで判断してい
るからかも知れないけど。



2年前ニューヨークの教会に何気なく入ってみた。
礼拝が行われる前だったようで、人が集まりつつ
あった。

日本ではみられないような宗教建築、蝋燭の灯に
驚き、唖然としていた。するとパイプオルガンが
なり出した。

立ちすくんだ僕は身動きがとれずに、数分後には
涙が止まらなくなっていた。
横に座る信者の女性が温かく僕を見つめ頷いた。
そしてハッとして周りを見るとたくさんの人。

あわてて外に飛び出してしまった。
5th アヴェニューまで歩く間涙が止まらない。
日常の人通りを見て、涙が引いた。

なんで泣いたんやろ…?

今にして思えば、初めて体で感じた聖なる空間と
体にまとわり付くような空気の流れ、そしてパイ
プオルガンからの重圧、空気振動。

どんな曲かどんなリズムかも何も覚えていない。
涙で滲んだ祭壇と信者の女性の顔しか思い出せな
い。いい意味のショックだった。

以前いずみホールで聞いたパイプオルガンの演奏
とは類が違う。

この頃から感動はテクニックもそうだが、心に伝
えるための「空気」が必要だと知った。そしてそ
れを構成する「条件」も必要だと。

日本と欧米の音楽感、音楽性の違いの原点を目の
当たりにした、そんな経験だった。

その経験を仕事でも役立てたいと発展して、今の
楽器くんたちが集まった。

自分にできることはお客様の為になんとかしてあ
げたい。奇しくもこのポリシーが足下を見られる
そんな大人の世界。でもこのスタンスは持ち続け
たい。



約2年前、仕事でどうしてもキーボードが必要だっ
たので、弾けもしない鍵盤楽器を購入した。

ギターにはスケール(ブルーノート・ドミナント他)
がある。あるポジションを押さえるとリードらしい
ことができてしまうことをほんの少しだけ知ってい
たので、同じ楽器だからできるはず!とタカをくく
ってた。

曲のキーさえわかればと…。
譜面なんてなくってもと…。


そして、仕事で使用するSEは何とかできた。

ただ一回弾けたつもりになってしまうと、その先を
目指すのが人間。右手だけでできていた一回きりの
SE制作も音域を広げたいという欲求にかられる。

なんか、こんなフレーズいいなと思って両手を鍵盤
の上に乗せ、よしオクターブで挑戦だ!とチャレン
ジしてみるものの、指が動かない…………。

その時ピアノの偉大さに気付いた!←遅いっ。

そこからWEB上でピアノ教室を調べたが、譜面が分か
らない自分にとって、30分のレッスンが普通のレッス
ンの30分になるまで、どれくらいかかるのかを考えた
だけで、あきらめもーど。


そんな時の先生?生徒?との出会い。

授業終了後に、2時間ピアノ教えてください。

生徒に先生というのは、何だか妙な気もするが、そん
なことはいってられない。

先生は教室内にキーボードがあるから、僕が譜面読め
ないんでと言っても、初めは謙遜だと思っていたらし
い。しかーし、ホントに読めないことを知った先生は、

何か弾けるものは?何か弾きたい曲は?

と子供に話すように僕に問いかけた。

「ハノンの最初の…」

きょとんとした先生は、

「じゃ弾いてみて…」とやさしく声をかけた。

「では、緊張するなー」


今迄の卒業生に「ピアノしたいっ」と言うと、バイエ
ルもいいけど「ハノン」の最初からした方がいいかも
しれないですね。
と言われ、にわかにドミフソラソフミ レフ…と教え
られた通りに密かに練習はしていた。

「ドミフソ…」

「ハイ!そこまで」

先生の声はもう先生の声になっていた。


「お母さん指とお兄さん指が仲良すぎますねー」

「???????」

「音が重なってますね」

「音が重なる??んっ?」

「ハノンはお預けですね」

まるで僕は子供に戻ったような気分になった。

「来週からバイエルしましょーねー」
「今日はおしまいっ!」
「今後の予定を立てましょうねー」

まだ、10分も経ってないのに…。


その瞬間、先生と生徒は生徒と先生になっていた。



例年より桜の開花が早いと報じられていた、穏やかな
日の締めくくりの出来事だった。





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