吐き出せない言葉を、いつから考えないようになっていたのでしょうか。
もう少しであたしは26歳になる。
17歳のころには考えもしなかった。 26歳のあたしが、どこで、誰と生活しているのかなんて。
今お付き合いをしている彼は、8歳年上。 離婚歴が2回あって、小学生の息子が一人いる。
会社の同僚で、誘われるまま付き合うようになって5か月。 同棲し始めて4カ月。
学生時代に付き合っていた彼のことを、 母親は良く思っていなかった。 今の彼も同じ。
離婚歴が2回もあって、子供の居る彼のことを、 母親は良く思っていない。
実家から遠く離れたところで仕事をしている私を、 心配してくれているのだろう。 そして、私が彼と同棲していることを知らない。
年上の彼は、寛大な心で私のミスを許す。 そして、考えすぎるあまり、一人で傷つく。 針ねずみみたい。 淋しくて不安になるうさぎではなく、 傷つくことを恐れて針を立てる。
時々声を荒げる彼は「俺」と言う。 不機嫌な時にしか言わない言葉を使う。 どこで地雷を踏んだのか私にはわからない。 ただ謝り、嵐が過ぎるのを待つ。
同棲を始めてから、帰る家が無くなった。 社宅はあるものの、生活のほとんどが彼の家にある。 自分の家では日常生活すら送れない。
日曜の午後、彼の機嫌を損ねた。 家に居られず、まだ静かな歓楽街を彷徨った。
結局2時間後には自宅に戻るしかなかった。
財布と携帯と煙草を持って彼の家を飛び出して、 行く宛てなんて無いのだ。 この街には友達だって居ない。 仕事上の付き合いでしか、人と関わってこなかったから。
久しぶりに実家に帰った時、両親が言った。 「こっちに戻っておいで。仕事も頼んでおくから。」
親のコネで入社したわけではない。 それでも、まだコネはある。 異動させてもらえるよう、私の知らないところで話は進んでいた。
彼と離したい両親。 不安になる彼。 どうして良いのか、自分がどうしたいのか分からない私。
彼と過ごした5か月。 引っ越してきたばかりで不安だった私を、 外の世界に連れ出してくれた彼。 年末年始に体調を崩した時も、 ずっとそばに居てくれた彼。 妊娠したかもしれない、と打ち明けた時に、 戸惑いながらも「ずっと一緒に居れる」と喜んでくれた彼。 寛大な心で私を許しながら、 一人で傷ついている彼。
訳が分からないと泣けるほど子供ではなくなって、 自分の道を決められるほど大人にもなれていない私。
両親の勧めるまま地元に戻れば、 きっと彼のことを忘れて新しい生活をするだろう。
彼が言う「愛してる」は不安の表れでしょうか。
私が言う「愛してる」は罪悪感の表れでしょうか。
今夜も帰る家を探して、謝罪の言葉を探して、 機嫌を損ねないよう吐き出せない言葉は、なかったことにする。
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