たそがれまで
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2003年06月18日(水) 友のこと 6






  子供の一周忌を済ませたら、何も変わってはないのだけれど
  なんだかすっきりしました。

そう書かれた手紙は、今までとあきらかに違っていた。
お兄さんに勧められたパソコンで、初めて書いたという手紙。
彼女の「生」に対する意気込みが、こちらにまで伝わってきた。


  すべてを受け入れて愛そうと決めたのです。ちょっとカッコつけすぎ?
  でもね、怨んだり憎んだりしていると、自分が幸せじゃないのよ。きついの。
  怨んで怨んで、そして自分の身体を駄目にしていくみたいなの。
  そして関係ない周りの人まで傷つけてしまって・・・でもね、
  愛そうと思ったら心が軽くなって、幸せな気持ちになれたよ。
  本当に愛せるかどうかわからないけど、心では愛そうと決めたのよ。
  すべてを。向こうの両親も夫も。生きているものすべて。

  努力して愛するものではないんだろうけど、愛するって決めて、
  愛せますようにって願ってる。

  だけど、頭ではわかっていても行動が伴わなくてね(笑)
  なんかあればすぐ不満になる。不平を言いたくなる。
  昨日なんて、なんか暑いというだけで幸せじゃなくなる自分を発見して
  がっかりしたよ。
  強い心が欲しいなぁ。
  
  とにかく、今日起きて寝るまで楽しく過ごそう。
  明日のことは考えまいと思って過ごしています。




それからの彼女は、こちらがビックリすることを次々とやってくれた。
突然大型免許を取得して、マイクロバスの運転手になった時には
大笑いしたっけ。 偶然彼女の運転するバスの隣を走った時は、
思わず車線変更しやすいように、前や後や横でチョロチョロしてしまった。
スキューバダイビングを始めると沖縄へ行ってみたり、イルカと戯れるんだと
天草へ行ってみたり。それもすべて一人で行ってしまうのだからすごい行動力だ。
時折現地から届く絵はがきを見ては、目を丸くさせられた。 

この頃には彼女はもう旧姓に戻っていた。
とても拘り続けた姓を捨てた。
最後の最後までご主人が迎えに来てくれるのを待っていたけれど
とうとう彼は来なかった。

自分の母親が並べたてる言葉を鵜呑みにして、何一つ自分で確かめようと
しなかったご主人は、離婚届でさえ郵送で送ってよこした。
彼女が何をした?
子を亡くして悲しいのは同じ。いや、心の痛みは陣痛の何百倍だったはず。
彼女の痛みを察することもなく、なんて自分勝手なヤツだと思った。
私がそう言うと彼女は庇う。
そんな男でも彼女にとっては、かけがえのない家族だったんだよね。
だけど親しんできた姓に戻ってからの彼女の顔には、一段と笑顔が増えたよね。


時々私の家に遊びに来ては、娘のほっぺたを撫でていたっけ。
「このプニョブニョが気持ちいいのよねぇ〜」と娘を膝にのせてくれた。
辛かっただろうに。そう思いつつも、腫れ物に触るように接することはしなかった。
世の中に出れば、嫌でも子供の姿を目にする。
彼女もそれを承知で我が家へ来てくれているんだ。
私がいれたコーヒーを飲みながら、取り留めのない世間話に花を咲かせる。
待ち続けていたそんな時間を、私達は充分楽しんだ。

そして、マニュアル本を片手に彼女がHPを作り出したのもこの頃。
私も随分パソコン購入を勧められたけど、まだ二の足を踏んでいた。

さあ今からだとおもった矢先、神様がいるのなら怨みたくなった。
彼女に宣告された「結核」という診断結果は、彼女を打ちのめすのに充分だった。
結局、彼女のHPは完成することはなかった。
何を書き、何を伝えたかったんだろう。
彼女のHPこそが、一番読んでみたいサイトであることは今でも変わりない。



私のリクエストで、年賀状もイラストで送ってくれていた。
文字は表に書いてねって言ったのに、忘れて裏に書いてきた彼女。
そんなおとぼけも彼女らしくて、今ではもう笑い話。




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