はさみ上手な女。 - 2003年02月18日(火) 大学を卒業した後、私はテキスタイル、いわゆる生地屋にデザイナーとして 入社した。 小学校、中学と家庭科が大の苦手だった私が、まさか服飾関係の 仕事に従事するとは、自分でも信じられないことであったが、 取り敢えず「入れてあげます」と言ってくれたのが、そこだけであり、 親からの仕送りストップの期限もすぐそこまで迫っていたので、 この際、生きるために!と思って就職したのであった。 面接の時、「やりがいを感じます!」なんて言い放ったものの、 廊下やフロアーにゴロゴロ置いてある生地の反物を見ると、 宿題のパジャマを徹夜で泣きながら縫ったのに、まち針まで縫い込んだことが 提出時に発覚して、「いや〜〜、、これくらい見逃してください」と開き直って こっぴどく怒られたことや、型紙の裁断で間違ってはさみを入れてしまい、 慌てて不足分の生地を買いに行ったら、同じ柄がなくて結局全ての裁断 をやり直した、などの過去の「家庭科顛末記」が頭をよぎり、 実際ゾっとする想いであった。 しかし、「生きるため!金のためなら頑張ります!」という 執念が、いつしか一人前の生地屋に私を育てていった。 生地そのものにいつの間にか嫌悪感を持たなくなり、生地を切るはさみ使いも、 江戸の紙切職人か?というまでになった。 そんな絶好調のある日のこと、私はいつものように、 2枚に重ねた生地に軽快にはさみをいれていた。 鼻歌なんか歌いつつ、もう目を瞑っていても手が勝手に動いてくれる、 というほどの順調さで。 サクサクサクサクと生地を切り進め得意になっていた矢先、 何故か音は濁音になり、サクサクはザクザクに変わった。 しかもはさみを一回一回入れるたび、持ち手にズシンと手応え さえも感じる。 「どうしてこんなに切りにくいのか?」と思い、エイ!っと力を入れた。 すると、ザックリ!という音がして。ふっと手元が軽くなった。 何かひと山超えたような感触さえあったので、どれどれと見てみると、 なんと、自分がその時していたマフラーまで裁断。 生地を2枚に重ねる時、マフラーが間に挟まっていたことに 気がつかなかったのだ。 マフラーは買ったばかりであった。気に入ってもいた。 油断していた自分が悪いとはいえ、 「三つ子の魂百までも」ということわざを、私は思い出さざるおえなかった。 そして、時を経て昨日の夜、洗濯物を畳んでいた時のこと。 お気に入りのボルドー色のパンティーのゴムの部分に、 ポチポチと縫い糸がほどけて絡まった毛玉のようなものを発見。 そのまま見逃しても良かったが、 「毛玉付きパンツはオバサンへの第一歩・・」と、はさみでカットすることに。 で、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・ハイハイ、そうそう、そうですよ。 パンツも切ってしまいましたよ。 プチプチと毛玉をつまんで切ってるうちに、パンツの生地までつまんで しまっていたのであった。 切り込みは約1センチ。が、ストレッチが入っているので、 身につけた場合、穴はかなり伸びて目立つ。 夜、パンティー1枚の姿を旦那に見せる機会もめっきり減ったとは言え、 いくらなんでも、妻が穴あきをはいてる、というのはマズイ。 誰からも頼まれてないのに、自ら女をリタイヤすることはない。 泣く泣く捨てた。 お気に入りがゴミと化した瞬間。 そう、あの時と同じ。 それでも私は信じている。 自分が”はさみ上手”であることを。 おしまい。 ...
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