穴。 - 2002年10月19日(土) 「Aさんが仕事に穴をあけたらしいよ〜。」 「Bのスケジュールは穴だらけさ。」 「おまえの営業プランは穴だらけだ!」等々・・・。 一般に、人が人を語る時、そこに”穴をあける”という言葉が入ると、 どうしてもその人がマヌケで無能な印象になってしてしまいがちだ。 だが、私は今日、”穴が塞がる”ということもまた、人にとってはマヌケな印象を与えて しまうのだと痛感した。 それは、昼下がりの午後2時半、電車に乗っていた時の事であった。 本を読んでいた私がふと、顔を上げると、 誰も座っていなかった向かいのシートに、いつの間にかオヤジが一人。 年の頃は50才ぐらい、グレーのスーツでパリっと決め、 「お茶は女子社員が入れるモノだ!」というポリシーを持っていそうな、 見るからに厳つい頑固そうな中年日本男児である。 オヤジは新聞を読んでいた。 スポーツ新聞ではない。 朝日である。 朝刊か。 その風貌にして、その読み物。 さぞや切れ者に違いない!と思ったのもつかの間、 次の瞬間私の目はオヤジの鼻に釘付けになった。 それは、白い脱脂綿がオヤジの右鼻の穴にすっぽりと収まっていたからであった。 一見したところ、鼻血が急に出た為に慌てて、というのではなく、 丁寧に丸めて収めたようでもある。 そう、まるで仕度の流れでそうしましたと言わんばかり。 Yシャツを着、ネクタイを締め、靴下を掃き、スーツを着て・・ で、鼻に詰めるみたいな・・、。 如何にも仕事ができそうな切れ者のオヤジの鼻に詰め物。 穴が空いているか、ふさがれているかの差だけなのに、それだけで かなりのイメージダウン。 電車は目的地に向かってオヤジと私をガタゴト運ぶ。 オヤジは相変わらず、眉間にシワをよせながら、活字を追っている。 例え、その新聞が朝日ではなくて英字新聞だろうと、 穴が塞がってしまっている以上、 もう私の心を「切れ者!」という当初の印象には戻せない。 もしかして、外側は朝日で覆っておいて、実はこっそりスポーツ新聞 のエッチ欄を見ているのでは?と疑わずにはいられないのだ。 現在日付が変わって深夜の3時半。 ふっ・・鼻の穴が塞がっているだけで・・・と秋の夜、 オヤジの姿を思いだしては、「穴」の持つ底なしの奥深さを考える私であった。 おしまい。 ...
|
|