遠藤さん。 - 2002年10月15日(火) 私が小学校5年生の時、クラスメートに遠藤さんという 女の子がいた。 ある日のホームルームの時間、校庭で草むしりをしていた 時のことであった。 草むしりをしながら、ペチャクチャとみんなでお喋りをしていると、 話がなんとなく「このクラスで誰が一番可愛いと思うか?」 という話になった。 私○○ちゃん! 私は△△子ちゃん! エ〜〜!私は□□ちゃんだと思うな〜〜!等と、それぞれが 自分を覗いた他人の名前を挙げていく中で、突然、遠藤さんが、 「私は自分が一番このクラスで可愛いと思う!」と、 目をきらりんと輝かせながら、キッパリと言い切った。 ・・・・・・・・。 その凛とした態度に、一瞬そこにいた誰もが言葉を失ったのであった。 で、5秒ぐらいして、その中の勇気のある一人が遠藤さんに 「どうして、そんなふうに思えるの?」とやっと一言。 すると、遠藤さんは「皆のもの控えおろ〜〜〜」ぐらいの勢いで、 花壇のブロックにピョンと飛び乗り、一段高い位置から 私達下々の者を見下ろし、手に腰を当てながら堂々とした態度で、 「女の子はね、いつもそう思ってなきゃいけないの!自分が可愛いってね。 じゃないと、ブスになっちゃう。」 と女の心得を小学生にして一席ぶつのだった。 遠藤さんは確かにほっぺが丸くて、目がくりんとしていて可愛い。 今なら、そんなこまっしゃくれたガキと遭遇した日にゃ〜 チョンと、どついてやりたくもなるが、当時の私は「なるほど〜、女というのは そのぐらいの心意気で生きねばならないのだな。」と子供心に 深く感心させられた。 それからの私は遠藤さんの教え通り、 「可愛いのだ!私は可愛いのだ!」と自分自身に 思い言い聞かせることを常とした。 そして、思春期に向かうとともに次第に男性の目も気になり始めると、 いっそう「私は可愛い!」と巫女さんのように念じるのであった。 ところが、何年たってもちっとも成果が出ない。 可愛くもきれいにもならない。 持って生まれた親から与えられた造形が、 ただ大人に向かって老けて行くだけである。 挙げ句の果てには 「おまえは顔は大したことがないのだから、せめて勉強で頑張りなさい」 と親にノックアウトまで食らわせられる始末。 こうして可愛くなることを、待ちに待って早30も半ばを過ぎ、 私の今までの人生は「美しい」「綺麗」又はその種の言葉とは 無縁な人生なのであった。 遠藤さんが今どうしてるかは知らない。 小学校の同窓会なんてないし。 だが、万が一、今二十数年ぶりに会うことができたら、 私はきっと彼女に教えてあげるだろう。 「人間、思いこみだけではクリアーできないハードルがあります。」と。 おしまい。 ...
|
|