今日もガサゴソ
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2003年06月04日(水) ダンスは踊れない

昭和元年生まれなの、というのが自慢の伯母は
話し好きの一族の中でも目立って
話し上手です。
正しくは聞き上手なのかも知れません。

頭脳明晰な人と会話する喜びを
初めて教えてくれたのはこの伯母でした。
父の実家に泊まりに行くと
私はこの伯母にくっついて歩くのが
楽しくて仕方ありませんでした。


オラはね、おっかさんに可愛い可愛いといわれて育ったの。
すぐ上に小さいうちに亡くなった姉があって
その子もめごがったが、おめさんはもっと可愛いってね。
このオラのほがより可愛かったって
どんなだべ、アッハッハ


伯母はとてもチャーミングで、世に言う
美醜を超越した風貌をしています。
無理して似ている女優を捜すとすると
そうですね、アメリカ映画に出ていました。
猿の惑星の知的な女性科学者。
色白の点では伯母の方が遙かに七難を隠してはいるのですが。

上品で頭も良く、会話をすれば人を惹きつけてやまない
彼女が、自分の美貌をどう感じていたでしょう。
姉と母はうり二つで、
この二人は誰がみても明らかに美女なのでしたし。


女学校を出てからオラ、銀行に就職したの。
それがね、ぜんぜん、才能がないの。
毎日なんぼ気を付けても勘定があわないの。
一生懸命やってんのに。
それは銀行では大変なことで
みなして居残りしてお金を数えたり計算しなおすの。
困り果ててひょっと見ると
オラの足許に小銭が落ちているの、いっつも。
誰も怒らない怒らないの。
あんまりにも間抜けなので気の毒で怒れないの。

同じ銀行にね、眉目秀麗ってわかるっか?おめさん。
へへっ、ハンサムね。
銀行にハンサムな男性がいてね、みんなときめくのよ。
この方、どんなお嫁さんをもらうんだろうって。
そしたらある時、その人が
「僕は丈夫で大根や馬鈴薯のような女性が大好きです」っていうのよ。
こ、これは望みがある!ってみんなマスマスときめいてね。
その人、あっという間に、本当に、丈夫そうな女の人と結婚したの。
銀行の人たちみんなでハイキングに行ったときに
奥さんも一緒に来て。
それがむつまじいの。
本当にどうして?っていうくれ〜に大根か馬鈴薯みたいなの。
みんな大失恋だったんだけど、
美男と美女が必ず結婚するとは限らないし、
好きな人同士が結婚するのが一番だよね〜。

そのうち足にね、虫に刺された痕が化膿して大変になって
病院に通い出したの。せっかく病院に通っているんだからって
鼻の治療も受けようと思って耳鼻科にいったのよ。
そしたら、おめさん、先生がハンサムなの。
鼻の穴ぐいって広げて診察して頂いているんだけれど
オラ、ぽ〜っとなちゃって。
え?先生?
「きれいな鼻です」って褒めてくれたさ〜。

それで、決心したの。オラも医者になるって。
お医者様になれば、その、耳鼻科の先生とも
釣り合いがとれて、もしかしたら結婚してもらえるかもしれないでしょ!
銀行ではどうしても計算があわなくて
毎日係長にがっかりされるし。
おっかさんに「オラ医者になりたい」って云ったら
喜んでくれて、銀行やめて大学の試験を受けたのよ。

そしたら、面接で
「あなた、大変優秀だけど、
通知表にひとつ不可っていうのがありますけど」っていうのぉ。
これさえなければ医学部に合格ですがって。

その不可ってね、体育なの。
だって、おめさん、創作ダンスなんて踊れるか?
体育は苦手だよ。でも、それなりに頑張れば不可ってことはないよね。
でも、あの女学校のときの体育の時間に
いきなり創作ダンスだもの〜。
いやさ、先生の創作さ〜。云われたとおりに踊ればいいのよ。
オラ、一生懸命やったんだけれど先生はダメというし。
後で呼ばれて、ふざけないでまじめにやりなさいって云われて。
そこまでいわれるともう絶対、
こんなコッパズカシイ踊りはイヤだと思って
あっよい、あっよい、あよいやさって
盆踊りみたいに踊ったの。
そうしたら先生が怒って、不可、だって。
将来医学部に入ろうなんて思ってなかったしね〜。
大学のほうはね、医学部は不合格だけれど
理学部は入れますよっていうの。
数学どうですか?って。
小銭勘定できなくて銀行やめたオラに、どう思う?
困ってだらさ、二年間、勉強して結果次第では医学部に編入することも
できますよって、それなら、やってみようと思ったのよ。

二年たったら、学校から「医学部に移りましょうか?」って
いわれたんだけれど、その時には
数学の勉強が面白くなっていて、医学部はどうでも良くなったの。
おめさんもそのうち学校で習うよ。
微分積分。
素晴らしいよ〜。




伯母のユーモア、
いつも何かを発見して面白がっている姿。
何でも熱心に探求する姿。
それらを
おもしろ可笑しく話してくれる才能。


伯母は数学を修めたためか、あこがれの青年医師と巡り会うことなく
そろそろ80歳になろうとしています。
時々発作的に
自分は不治の病ではないかと疑い、
病院に頼らず克服しようと
いろいろな健康法を試したりしているようです。

伯母が
研究や統計や特許出願の合間に
乙女心の日記を残していてくれないかなと
密かに願うのであります。


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