今日もガサゴソ
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母は五人姉妹なので 子供の頃、家には素敵なお人形やおひなさまがあったと いつも聞かされていました。
長兄一家が住んでいる家の開かずの押入れには 空襲を逃れたおひなさまが、まだあるはずだ もしかしたらネズミにでもかじられて 見る影もないかも、でも、もしかしたらと 呪文のように続く切々たる思い。
そのくせ、私にはおひなさまを用意してはくれませんでした。
私は本物のおひなさまが欲しかった。 いまでもそう。 江戸時代のお姫様たちのために誂えたような。 あるいはてのひらに乗るような 小さな小さな豆雛、とか。 ある時、コレなら欲しいなと思った五段飾りのおひなさまは 二百万円でした。三十年以上前の200万円です。 家が建ったかも。
だから、別におねだりもしなかったのだけれど そのせいで、母はおひなさまを買う理由を捏造できず 苦しんでいたそうです。 そんなに欲しかったら、自分のために買えばいいのに。
ある時、ふと思いついて、折り紙や千代紙を重ねて 十二単にしたら綺麗かもと思って 小さなお内裏様を作ってみました。 なかなか可愛かったので、テレビの上に飾ったら 母がむしって丸めてゴミ箱に捨ててしまいました。
「お父さんにあてつけるつもりか!」と わめいていました。 そんな母を見たことがなかったので 私はベッドに潜りこんでバスタオルを噛んでいました。
ひな祭りのたびに 嫌な思い出が重なっていきます。 友達の家のひな祭りにお呼ばれしても 母は理不尽なほど機嫌が悪くなるし。
しかたがないのでおひなさまに 関心のないふりをすることにしました。 ひねくれた子ですが 欲しくもない安っぽいおひなさまを与えられるよりは よほどまし、です。
父方の祖母にそっくりな思考回路だそうです。 やれやれ。
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