主人からハンカチを借りて涙を拭いた。
電車の中で、村上春樹の本を読んでいた。
ある駅で、向かいに座っていた男性が降りると、主人が、 「そっちに座ったら?」と言った。 「えっ?」と聞き返す。 「進行方向を向いたほうが気持ち悪くならないでしょう」と言われたので、私は向かい側の席に移り、主人と向かい合った。
その瞬間、す〜っと昔の記憶が蘇った。 結婚する前の主人はとても細かなところに優しさを表す人だった。私には初めての経験で、「優しすぎて怖い」と友達に言ったら、 「それって、ノロケにしか聞えないよ」と笑われた。
でも、私にとって、うれしいという感覚よりも、不安の方が強かった。
その優しさは、とてもさりげなく不器用な日本人男性ではなく、外国の紳士のように思われた。当時、今時の若者のように器用な人間は少なかったように思う。
今の若者は軟弱な優しさを持っているような気がするが、それとは違った。
村上春樹の本を閉じて膝の上に乗せ、昔のことを思い出していた。
主人が私にプレゼントしてくれるものは、ブランド品のバッグでも指輪でもない。 それに私はブランド品には興味が無い。
主人がくれるものは、ロマンチックなものが多かった。 初めてくれたのは、シンプルな塗りの「かんざし」 誕生日にもらったのは、木製のオルゴール。
そして、小さな猫のお人形。
結婚する前は、繊細だけど暖かい優しさだった。
だけど結婚してから主人は変った。
おおらかで、大きく包み込むような感じ。
大きな船に乗って、ゆらゆらと揺れているような感じが心地よかった。
結婚する前はかなり無理をしていたのかな(笑)
電車に揺られながら、左手に巻かれた包帯を見て、心が痛くなった。
泣けてきた。バッグを探してもハンカチが見つからない。 主人のハンカチを借りて、涙をぬぐった。
「お願いだから、痩せて長生きして欲しい」と言うと、 「わかった。だからもうしないで」と言われた。
「うん」と答えたものの、「絶対にしない」という確信が持てない自分が情ない。
私には今、ひとつ気になることがある。
その話を後日書けたら、書きたいと思っている。
電車に乗ってどこへ出かけたのか・・・・それはまた明日ということで。
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