雪さんすきすき日記
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2003年02月14日(金) 本のこと

 今日は同僚への贈り物を購入するために名古屋の丸善書店に行ったのだが、そこで生涯忘れることが無いであろう本と出合った。

「東海村臨界事故 被爆治療83日間の記録(NHK取材班著、岩波書店)」

 2001年5月13日に放映された同名のNHKスペシャルをまとめた本である。しかし、人々には最早過去の出来事の1つとしか記憶に留められていないであろう。事実、私もそうであった。そして、この本を手にとったのも、あの事故が人体に及ぼした影響を詳しく知りたかった、ただそれだけの軽い気持ちによるものであった。
 しかし、その軽い気持ちは直ぐに打ち砕かれた。その内容は壮絶という言葉すら生ぬるく、当事者としては正に生き地獄以外の何物でも無いものであった。地獄の刑の中に生きたまま皮を剥がれるというものがあるが、それをこの世で受けたのが大内氏であった。
 最初の衝撃は被爆7日目の、千々に寸断された染色体の写真である。あまりにも無残な壊れ方を見て、事の重大さを片鱗ではあるが感じ取ることができた。しかし、それ以上の衝撃が待っているとは、この時点では夢にも思っていなかった。
 次の衝撃は本中ほどの、被爆直後と日数が経ってからの右腕の変化を写した写真である。これが、私が知りたかったことであり、本を購入した目的は達成された。しかし、事実は私の想像の範疇を遥かに超えたものであり、自分の浅慮さを恥じ入るばかりであった。

 私はこの本を当初献血ルームの待合室で読んでいた。しかし、大内氏の様態が急変する被爆59日目にて一旦本を閉じた。この先は平静を保ったまま読む自信が無かったのである。そして、その判断は正しかった。寮に帰ってから続きを読んだのだが、あまりの無残さ、惨めさに涙が止まらなかったのである。惨めなのは、最早人としての機能を失った大内氏だけでなく医者達もである。自分の仕事の意義を毎日問い詰め、それでも治療は施さなければならず、患者に死を選ばせることができない過酷な環境において、勝つ見込みの無い戦いに身を投じなければならない絶望的な状況は、ただただ哀れとしか言いようが無い。治療に当たった医者達の強靭な精神力には敬服するばかりである。
 大内氏の治療の中心であった前川医師が、大内氏が死亡した記者会見の最後に言った台詞の意味が漸く理解できた。恐らく、悔しさを滲ませての心の底から搾り出すような発言だったに違いない。

 これが、効率重視の行き着いた果てである。そう考えると、技術者としてこの事例から学ぶことは多く、そして重い。そういう意味から、この本と出合えたことは生涯忘れないであろう。

 本当は今日も楽しいことがあったのだが、この本を読んだ後では到底書く気になることはできない。今はただ、壮絶な治療の果てに亡くなった大内氏の冥福を祈り、負け戦とも言われた治療に果敢に立ち向かった医者達に敬意を示すばかりである。


氷室 万寿 |MAIL
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